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「本来だったらバカにされそうだし、全く華やかしさがないと笑われるのかもしれないが……お前のセンスはザイツ様の期待にマッチしているな……」
お父様はそう言って感心した。やはり、衣装も全部、素っ気ないものだった。そこら中の草花に似た色の地味なドレスに身を包み(所々痛んでいる)、私はお父様と一緒に馬車へ乗り込んだ。
「だがな、その方がザイツ様にとっても都合がいい。いくら容姿が悪いとは言っても……あんまり派手なドレスを着たら、それはそれで目移りする可能性もあるからな……」
なんでも否定するお父様の姿勢が、私は正直気に入らなかった。でも、全て事実だったから、なにも反論することができなかった。
********************************************************
王宮につくと、私はお父様と一緒に馬車を降りた。最近降った雨のせいか、足元が随分とぬかるんでいた。それに気づかなかった私は、思わず水たまりに足を付けてしまった。おかげで泥水が跳ね上がり、私のドレスにかかってしまった。普通だったら、お父様はこの時点で、
「何をやっているんだ!!!」
と怒ると思った。でも、今回は違った。
「ああ、お前がドジになるほど、ザイツ様はお前のことを気に入るだろう……」
お父様はこんな感じで、私に言い聞かせるのだった。ああ、このままザイツ様の元に嫁ぐのって、それは私にとって何か意味があるのか……なんて考えてみた。もちろん、そこに私の自由意志は存在しないのだけど、どうせ婚約するんだったら、楽しい方がいいに決まっている……無理か。
私はすぐさま悟ってしまった。無理なものはやっぱり無理なんだ。
王宮に入ると、私はその雰囲気に圧倒された。
「そうか、お前がここに来るのは初めてか……」
お父様は仕事の関係でいつも出入りしているのだろう。私は当然初めてだった。まあ、王家にゆかりのある貴族とかはパーティーに呼ばれたりすることもあるのだが、少なくとも私が呼ばれることはなかった。私は社交界からある意味遠ざけられていた。私を見せびらかすのが恥ずかしかったのだろう。当然のことだ。
********************************************************
「公爵アナトールとその娘マリアでございます!!!」
お父様の先導に従って、私もとうとう、皇帝陛下やザイツ様の前に姿を現わした。
「おお、あなたが噂のマリア殿ですか!!!」
皇帝陛下は随分と興奮していた。そして、ザイツ様も一度私の方を向いたと思ったら、すぐさま目を反らしお父様の方を見た。
「アナトール殿。どうやら、ザイツの婚約者にはぴったりなようですな!!!」
褒められているのか、ただ貶されているのか、正直分からなかった。でもまあ、どんな形にしても王子の妃になるのはすごいことか、とすぐさま開き直った。
「お褒めの言葉を頂き、誠に光栄でございます……」
お父様は丁重に挨拶をし、今度はザイツ様の方を向いた。
「ザイツ様……私の娘を……末永くよろしくお願いいたします……」
そう告げると、ザイツ様は立ち上がり、お父様の方まで出向いた。
「アナトール殿。あなたの協力に感謝します……」
そう言って、今度は私に声をかけた。
「マリア殿。これからよろしくお願いします……」
一緒になって私のことをバカにするかと思ったけど、そんなことはなかった。それにしても……噂通り、私には全く不釣り合いなほど容姿の整った男性だった。
「こちらこそ……よろしくお願いします!!!!」
私は大部恐縮したが、ザイツ様は思ったほど強面ではなく、むしろフレンドリーな印象で少し落ち着いた。
お父様はそう言って感心した。やはり、衣装も全部、素っ気ないものだった。そこら中の草花に似た色の地味なドレスに身を包み(所々痛んでいる)、私はお父様と一緒に馬車へ乗り込んだ。
「だがな、その方がザイツ様にとっても都合がいい。いくら容姿が悪いとは言っても……あんまり派手なドレスを着たら、それはそれで目移りする可能性もあるからな……」
なんでも否定するお父様の姿勢が、私は正直気に入らなかった。でも、全て事実だったから、なにも反論することができなかった。
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王宮につくと、私はお父様と一緒に馬車を降りた。最近降った雨のせいか、足元が随分とぬかるんでいた。それに気づかなかった私は、思わず水たまりに足を付けてしまった。おかげで泥水が跳ね上がり、私のドレスにかかってしまった。普通だったら、お父様はこの時点で、
「何をやっているんだ!!!」
と怒ると思った。でも、今回は違った。
「ああ、お前がドジになるほど、ザイツ様はお前のことを気に入るだろう……」
お父様はこんな感じで、私に言い聞かせるのだった。ああ、このままザイツ様の元に嫁ぐのって、それは私にとって何か意味があるのか……なんて考えてみた。もちろん、そこに私の自由意志は存在しないのだけど、どうせ婚約するんだったら、楽しい方がいいに決まっている……無理か。
私はすぐさま悟ってしまった。無理なものはやっぱり無理なんだ。
王宮に入ると、私はその雰囲気に圧倒された。
「そうか、お前がここに来るのは初めてか……」
お父様は仕事の関係でいつも出入りしているのだろう。私は当然初めてだった。まあ、王家にゆかりのある貴族とかはパーティーに呼ばれたりすることもあるのだが、少なくとも私が呼ばれることはなかった。私は社交界からある意味遠ざけられていた。私を見せびらかすのが恥ずかしかったのだろう。当然のことだ。
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「公爵アナトールとその娘マリアでございます!!!」
お父様の先導に従って、私もとうとう、皇帝陛下やザイツ様の前に姿を現わした。
「おお、あなたが噂のマリア殿ですか!!!」
皇帝陛下は随分と興奮していた。そして、ザイツ様も一度私の方を向いたと思ったら、すぐさま目を反らしお父様の方を見た。
「アナトール殿。どうやら、ザイツの婚約者にはぴったりなようですな!!!」
褒められているのか、ただ貶されているのか、正直分からなかった。でもまあ、どんな形にしても王子の妃になるのはすごいことか、とすぐさま開き直った。
「お褒めの言葉を頂き、誠に光栄でございます……」
お父様は丁重に挨拶をし、今度はザイツ様の方を向いた。
「ザイツ様……私の娘を……末永くよろしくお願いいたします……」
そう告げると、ザイツ様は立ち上がり、お父様の方まで出向いた。
「アナトール殿。あなたの協力に感謝します……」
そう言って、今度は私に声をかけた。
「マリア殿。これからよろしくお願いします……」
一緒になって私のことをバカにするかと思ったけど、そんなことはなかった。それにしても……噂通り、私には全く不釣り合いなほど容姿の整った男性だった。
「こちらこそ……よろしくお願いします!!!!」
私は大部恐縮したが、ザイツ様は思ったほど強面ではなく、むしろフレンドリーな印象で少し落ち着いた。
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