夫の不倫劇・危ぶまれる正妻の地位

岡暁舟

文字の大きさ
3 / 10

3

しおりを挟む
 元娼婦であるカーチャは腹黒い…ずっとそう思っていた。仮にも貴族の血筋を引く私とは違って、それこそ身体だけで男を惑わし誑かす悪女。どんな手段を使っても男を手に入れる…その性根は腹黒いに決まっているから。

 でも、どうしてかは分からないけど、カーチャに抱きしめられていると、母親のような安心感を感じることが出来た。男女を問わず人を抱くことに慣れているのだろうか。

「少しは安らぎましたか?」

 カーチャの声はどこか優しい…それこそ母親のような温もりに溢れていた。

「ありがとう…」

 私はまず短く答えた。

「あなたの方が…旦那様の正妻に相応しいわね…」

 腹黒いとか、そういう次元ではもはやなかった。カーチャが自ら正妻の座を手に入れたのだ。何も努力せず旦那様を待っていた私とは違って…。これは私の本心だった。

「そんなことはないですよ。私は所詮側室に過ぎません。正妻はあくまでもアンナ様の方がお似合いですよ…」

 カーチャは私の考えをそのまま否定した。その真意はよく分からなかった。余裕過ぎて、もはや私のことを相手にしていないのか?彼女の言葉を信じても、あるいは疑っても、どのみち私の人生が今後絶望まっしぐらであることは変わらない。だから…カーチャの温かさを信じてみることにした。


「カーチャ様…旦那様がお呼びです!」

 メイドの一人がカーチャを呼びに来た。カーチャは私に一礼して部屋を去った。誰もいない空虚な空間…本当だったら一人で泣き続けるはずだった。その涙をカーチャが拭ってくれた…。

 私はこの時決意を固めた。待っている必要はない。私の方から離縁を提案しようと。離縁された令嬢の行く先は概ね修道院と決まっている。カーチャに出会えて良かった…カーチャのように少しでも黒ずんだ心を救ってあげる人になろうと考えた。

 カーチャが部屋から消えておおよそ30分程度経過した頃合いに、メイドが私を呼びに来た。

「アンナ様、旦那様がお呼びでございます…」

 旦那様の方から私を呼び出してくれたのは好都合であった。もう迷うことはない。はっきり伝えようと思った。私の心は固く決まった。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

【完結】初恋の彼に 身代わりの妻に選ばれました

ユユ
恋愛
婚姻4年。夫が他界した。 夫は婚約前から病弱だった。 王妃様は、愛する息子である第三王子の婚約者に 私を指名した。 本当は私にはお慕いする人がいた。 だけど平凡な子爵家の令嬢の私にとって 彼は高嶺の花。 しかも王家からの打診を断る自由などなかった。 実家に戻ると、高嶺の花の彼の妻にと縁談が…。 * 作り話です。 * 完結保証つき。 * R18

契約が終わったら静かにお引き取りくださいと言ったのはあなたなのに執着しないでください

紬あおい
恋愛
「あなたとは二年間の契約婚です。満了の際は静かにお引き取りください。」 そう言ったのはあなたです。 お言葉通り、今日私はここを出て行きます。 なのに、どうして離してくれないのですか!?

【完結】体目的でもいいですか?

ユユ
恋愛
王太子殿下の婚約者候補だったルーナは 冤罪をかけられて断罪された。 顔に火傷を負った狂乱の戦士に 嫁がされることになった。 ルーナは内向的な令嬢だった。 冤罪という声も届かず罪人のように嫁ぎ先へ。 だが、護送中に巨大な熊に襲われ 馬車が暴走。 ルーナは瀕死の重症を負った。 というか一度死んだ。 神の悪戯か、日本で死んだ私がルーナとなって蘇った。 * 作り話です * 完結保証付きです * R18

つまらない妃と呼ばれた日

柴田はつみ
恋愛
公爵令嬢リーシャは政略結婚で王妃に迎えられる。だが国王レオニスの隣には、幼馴染のセレスが“当然”のように立っていた。祝宴の夜、リーシャは国王が「つまらない妃だ」と語る声を聞いてしまい、心を閉ざす。 舞踏会で差し出された手を取らず、王弟アドリアンの助けで踊ったことで、噂は一気に燃え上がる――「王妃は王弟と」「国王の本命は幼馴染」と。 さらに宰相は儀礼と世論を操り、王妃を孤立させる策略を進める。監視の影、届かない贈り物、すり替えられた言葉、そして“白薔薇の香”が事件現場に残る冤罪の罠。 リーシャは微笑を鎧に「今日から、王の隣に立たない」と決めるが、距離を取るほど誤解は確定し、王宮は二人を引き裂いていく。 ――つまらない妃とは、いったい誰が作ったのか。真実が露わになった時、失われた“隣”は戻るのか。

束縛婚

水無瀬雨音
恋愛
幼なじみの優しい伯爵子息、ウィルフレッドと婚約している男爵令嬢ベルティーユは、結婚を控え幸せだった。ところが社交界デビューの日、ウィルフレッドをライバル視している辺境伯のオースティンに出会う。翌日ベルティーユの屋敷を訪れたオースティンは、彼女を手に入れようと画策し……。 清白妙様、砂月美乃様の「最愛アンソロ」に参加しています。

届かぬ温もり

HARUKA
恋愛
夫には忘れられない人がいた。それを知りながら、私は彼のそばにいたかった。愛することで自分を捨て、夫の隣にいることを選んだ私。だけど、その恋に答えはなかった。すべてを失いかけた私が選んだのは、彼から離れ、自分自身の人生を取り戻す道だった····· ◆◇◆◇◆◇◆ 読んでくださり感謝いたします。 すべてフィクションです。不快に思われた方は読むのを止めて下さい。 ゆっくり更新していきます。 誤字脱字も見つけ次第直していきます。 よろしくお願いします。

真面目な王子様と私の話

谷絵 ちぐり
恋愛
 婚約者として王子と顔合わせをした時に自分が小説の世界に転生したと気づいたエレーナ。  小説の中での自分の役どころは、婚約解消されてしまう台詞がたった一言の令嬢だった。  真面目で堅物と評される王子に小説通り婚約解消されることを信じて可もなく不可もなくな関係をエレーナは築こうとするが…。 ※Rシーンはあっさりです。 ※別サイトにも掲載しています。

【完結】冷酷伯爵ディートリヒは、去った妻を取り戻せない

くろねこ
恋愛
名門伯爵家に政略結婚で嫁いだ、正妻エレノア・リーヴェルト。夫である伯爵ディートリヒ・フォン・アイゼンヴァルトは、 軍務と義務を最優先し、彼女に関心を向けることはなかった。 言葉も、視線も、愛情も与えられない日々。それでも伯爵夫人として尽くし続けたエレノアは、ある一言をきっかけに、静かに伯爵家を去る決意をする。 ――そして初めて、夫は気づく。 自分がどれほど多くのものを、彼女から与えられていたのかを。 一方、エレノアは新たな地でその才覚と人柄を評価され、 「必要とされる存在」として歩き始めていた。 去った妻を想い、今さら後悔する冷酷伯爵。前を向いて生きる正妻令嬢。 これは、失ってから愛に気づいた男と、 二度と戻らないかもしれない夫婦の物語。 ――今さら、遅いのです。

処理中です...