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辺境にやって来た王子様
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王子様とお会いしたのは、10年ぶりでした。私に婚約破棄を告げて、辺境に追いやった張本人です。
その理由は、王子様が新しい婚約者を見つけたからです。つまり、後1日すると、私と正式に婚約することになっていました。王子様は名もない少女に一目ぼれして、全てを捨てても、彼女と婚約することを心に決めました。
「フラン!君は私の名誉を陥れるために、様々な謂れのない罪をでっち上げたのだな!」
王子様は、そして、私の浮気相手とか言う、得体の知れないとある諸侯を皆さまの前に見せびらかして、全て私が悪いということにしました。私は幼い時から、王家に嫁ぐことが決まっていました。そして、世界で一番美しいと誉高い第一王子様と婚約すると決まった日には、とても喜びました。
私はそれまで人を本気で愛したことがありませんでした。そして、最初にお会いした日、私は王子様を全く愛おしく思いませんでした。でも、そんなことはどうでもよかったのです。婚約した暁、そして、何十年と続く夫婦生活の中で、私は、いつかきっと、王子様を愛するようになると分かっていたのです。
「久しぶりだな……。フラン」
10年ぶりにお会いした王子様は、ちっとも変っていませんでした。きっと、この間に何人もの女を好きになり、そして、それを全て捨てたのでしょう。私は分かっていました。王子様は私の元へ帰って来たのだと。王子様が次に発した言葉で、想像が確信に変わりました。
「もう一度やり直さないか?」
私はきっと、王子様に恋していました。これほど、王子様の顔を真っすぐ見つめることができないことなんて、今までありませんでした。お日さまのように誰かを見守る優しさで包み込んでくれるようでした。私が、王子様と呼べば、そのまま抱きしめてくれそうでした。
「フラン……まず初めに、私は君にお詫びをしたいと思っているんだ。あの時はまだ若くて……君のことを心から愛していなかった。君よりも容姿の優れた女性を見つけて、私はかりそめの恋に走ってしまった」
「そうですね……」
「私はあの少女と婚約した。でも、彼女は私のことをちっとも愛していなかった。彼女は優しさではなく、人間らしさを求めていた。私が笑うと彼女は泣いた。そして、私が泣くと彼女は笑った。彼女は王家の財産が狙いだったんだ」
「そうですね……」
おおよそ見当がついていました。
「だから、すぐに別れた。私は新しい婚約者を探した。でも、みんな同じだった。おかげで、私の財産はほとんどなくなってしまったんだ……」
私は、王子様が優しくなった理由が分かりました。
「おかげでやっと本当の人間になれた気がするよ。フラン……私は君を迎えに来たんだ」
「そうなんですか?」
「私は爵位を失った。つまり、平民同然だ。君の復権については、私の最後の仕事だと思っている。どんな身分でも与えてやるさ。皇帝陛下の許可は得ている」
「ほんとうですか?」
「私はもう嘘をつかない。そして、10年というブランクが開いてしまったが、必ずやり直せると信じている。だから……どうか、私の手を握ってくれないか?」
王子様はそう言って、右手を差し出しました。
「なるほど。分かりました」
これで全てが元通り、そして、私も元王子様も幸せになる……なんだか泣けてきました。
「さあ、フラン。共に歩もうじゃないか!」
「はい、王子様!!!」
お日さまが、大地が、この場に居合わせた全ての光が、私たちを優しく包み込んでくれたようでした。優しさに満ちた二人の物語が再び始まる……私はそう確信しました。
パシン……私は元王子様の手を叩きました。
「フラン?一体どうしたんだ?」
元王子様は、私に近付こうとしました。
「これ以上来ないでください!!!」
私は答えを知っていました。そして、もう既に幸せを感じていたのです。
「どういうことだ?フラン!」
元王子様はしゃがみこみました。
「私はもう一人で生きていくと決めましたから。この地は本当に優しいんです。人間であることを忘れさせてくれるのです。そして、過去を全て忘れさせてくれるのです」
「フラン!どうして一人で幸せになる必要があるんだ!!!」
「それは……あなた様が一番よく分かっていらっしゃるでしょう!!!私はあなた様をいま、心の底から愛しております。そして、あなた様はいま、心の底から私を愛していらっしゃいます。でも、あの時のように結ばれてしまったら、この恋は終わることになる……私には分かります。ですから、私はもう、あなた様に触れることができません!」
私は最後にこう言い残して、森の奥へ走っていきました。
「どうか、お元気で!」
「フラン………………!!!」
元王子様が私の名前をずっとずっと叫んでいました。私は目を瞑って、心が吸い寄せられる方へずっとずっと走っていきました。
元王子様に出会った数日後、彼は森のどこかで息絶えたそうです。私は少し安心しました。心のコンパスが一度狂っていたのですが、おかげで元に戻りました。最後に両方の手のひらをお日さまにかざして、それは、最初に出会った時の王子様にそっくりでした。
「ありがとうございました。私はこれからもきっと幸せなのです。神様!」
最後にこう挨拶して、静かなる大地に身を横たえました。悠久の時間がこれから過ぎ去っていくのを待つことにしました。
その理由は、王子様が新しい婚約者を見つけたからです。つまり、後1日すると、私と正式に婚約することになっていました。王子様は名もない少女に一目ぼれして、全てを捨てても、彼女と婚約することを心に決めました。
「フラン!君は私の名誉を陥れるために、様々な謂れのない罪をでっち上げたのだな!」
王子様は、そして、私の浮気相手とか言う、得体の知れないとある諸侯を皆さまの前に見せびらかして、全て私が悪いということにしました。私は幼い時から、王家に嫁ぐことが決まっていました。そして、世界で一番美しいと誉高い第一王子様と婚約すると決まった日には、とても喜びました。
私はそれまで人を本気で愛したことがありませんでした。そして、最初にお会いした日、私は王子様を全く愛おしく思いませんでした。でも、そんなことはどうでもよかったのです。婚約した暁、そして、何十年と続く夫婦生活の中で、私は、いつかきっと、王子様を愛するようになると分かっていたのです。
「久しぶりだな……。フラン」
10年ぶりにお会いした王子様は、ちっとも変っていませんでした。きっと、この間に何人もの女を好きになり、そして、それを全て捨てたのでしょう。私は分かっていました。王子様は私の元へ帰って来たのだと。王子様が次に発した言葉で、想像が確信に変わりました。
「もう一度やり直さないか?」
私はきっと、王子様に恋していました。これほど、王子様の顔を真っすぐ見つめることができないことなんて、今までありませんでした。お日さまのように誰かを見守る優しさで包み込んでくれるようでした。私が、王子様と呼べば、そのまま抱きしめてくれそうでした。
「フラン……まず初めに、私は君にお詫びをしたいと思っているんだ。あの時はまだ若くて……君のことを心から愛していなかった。君よりも容姿の優れた女性を見つけて、私はかりそめの恋に走ってしまった」
「そうですね……」
「私はあの少女と婚約した。でも、彼女は私のことをちっとも愛していなかった。彼女は優しさではなく、人間らしさを求めていた。私が笑うと彼女は泣いた。そして、私が泣くと彼女は笑った。彼女は王家の財産が狙いだったんだ」
「そうですね……」
おおよそ見当がついていました。
「だから、すぐに別れた。私は新しい婚約者を探した。でも、みんな同じだった。おかげで、私の財産はほとんどなくなってしまったんだ……」
私は、王子様が優しくなった理由が分かりました。
「おかげでやっと本当の人間になれた気がするよ。フラン……私は君を迎えに来たんだ」
「そうなんですか?」
「私は爵位を失った。つまり、平民同然だ。君の復権については、私の最後の仕事だと思っている。どんな身分でも与えてやるさ。皇帝陛下の許可は得ている」
「ほんとうですか?」
「私はもう嘘をつかない。そして、10年というブランクが開いてしまったが、必ずやり直せると信じている。だから……どうか、私の手を握ってくれないか?」
王子様はそう言って、右手を差し出しました。
「なるほど。分かりました」
これで全てが元通り、そして、私も元王子様も幸せになる……なんだか泣けてきました。
「さあ、フラン。共に歩もうじゃないか!」
「はい、王子様!!!」
お日さまが、大地が、この場に居合わせた全ての光が、私たちを優しく包み込んでくれたようでした。優しさに満ちた二人の物語が再び始まる……私はそう確信しました。
パシン……私は元王子様の手を叩きました。
「フラン?一体どうしたんだ?」
元王子様は、私に近付こうとしました。
「これ以上来ないでください!!!」
私は答えを知っていました。そして、もう既に幸せを感じていたのです。
「どういうことだ?フラン!」
元王子様はしゃがみこみました。
「私はもう一人で生きていくと決めましたから。この地は本当に優しいんです。人間であることを忘れさせてくれるのです。そして、過去を全て忘れさせてくれるのです」
「フラン!どうして一人で幸せになる必要があるんだ!!!」
「それは……あなた様が一番よく分かっていらっしゃるでしょう!!!私はあなた様をいま、心の底から愛しております。そして、あなた様はいま、心の底から私を愛していらっしゃいます。でも、あの時のように結ばれてしまったら、この恋は終わることになる……私には分かります。ですから、私はもう、あなた様に触れることができません!」
私は最後にこう言い残して、森の奥へ走っていきました。
「どうか、お元気で!」
「フラン………………!!!」
元王子様が私の名前をずっとずっと叫んでいました。私は目を瞑って、心が吸い寄せられる方へずっとずっと走っていきました。
元王子様に出会った数日後、彼は森のどこかで息絶えたそうです。私は少し安心しました。心のコンパスが一度狂っていたのですが、おかげで元に戻りました。最後に両方の手のひらをお日さまにかざして、それは、最初に出会った時の王子様にそっくりでした。
「ありがとうございました。私はこれからもきっと幸せなのです。神様!」
最後にこう挨拶して、静かなる大地に身を横たえました。悠久の時間がこれから過ぎ去っていくのを待つことにしました。
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