【完結】たとえ彼の身代わりだとしても貴方が僕を見てくれるのならば… 〜初恋のαは双子の弟の婚約者でした〜

葉月

文字の大きさ
80 / 105

呼ぶ声

しおりを挟む
ーレオ!レオ!ー

 遠くで僕の名前を呼ぶ声がする。

ーレオ!レオ!ー

 その声はとても懐かしくて、愛しい声。

「ミカ?」
 そう言いながら、うっすらと目を開けると倒れている僕を抱きしめ、泣きながら僕の顔を上から見つめるミカの姿があった。

ーレオ!良かった、気がついてー

 泣き顔に安堵の表情が浮かび、僕を抱きしめる力が強くなる。

ーレオ、よく聞いて。今開いている、あの白く光っている扉は、もうすぐ閉まってしまう。だからレオはあの扉が開いている間に、扉の向こうへ行かないとダメなんだ。わかる?ー

 ミカが話す本当の意味はわからなかったけれど、言葉単体の意味はわかったので頷く。

ー僕がレオが手をかざすと、レオの中に僕の力が入っていく。その力を使って、あの扉の向こうに行くんだよ ー

 そういいミカが僕に手をかざすと、暖かな光が全身を包み込み、さっきまで指一本動かせなかったのが嘘のようだ。
「本当だ、ミカの力が僕の中に入ってきたのがわかったよ」
 ミカとこうして話ができるのは、ミカがお別れを言いに来てくれた時。

 ミカと会えるのは、あの時が最後だと思っていてたけれど、またこうして会えている。
 もしかすると、ミカが流行病になって死んでしまったのは嘘で、今ここでミカと話、これからもミカと生活していくのが本当なんじゃないか?

ーレオは輝く世界に戻るんだ。レオのことをずっと待っている人のところに、戻るんだー

 ミカは僕の手を引き二人で扉の前までくると、扉の上に天使が一人、飛んでいた。

ーいい?レオ。決して振り返ってはいけないよ。さぁ行ってー 

 ミカは繋いでいた手を離す。
「ミカも一緒に行こう」
 僕が手を繋ぎ直そうとすると、

ー僕は行けないー

 首を横に振る。
「どうして?」

ー僕がいていい世界はこっちで、向こうじゃないんだー

 僕にだってミカが言いたい『こっちの世界』の意味はわかった。
 でもやっとミカに逢えた。
 ミカにはたくさん話したことも、たくさん一緒にしたいこともある。
 だからこれからはミカと一緒に、したいことをしていくんだ。
 だから僕は……。

「僕は帰らない」
 そう言った時、分厚い扉は閉まり始めた。

ー!レオ、なんてことを!!ー

 ミカは慌てて僕の腕を強く掴むが、僕はミカの手を振り払う。
「僕はもう帰らない。僕が一緒にいたいのはミカだけなんだ!あんなところ、もう帰りたくない!帰らない!」
 僕は初めてミカに怒鳴った。

ーレオ!そんなことを言ってはいけない。そんなことを言えば……ー

 扉が閉まるスピードが上がる。
 ああ。あの扉が閉まれば、僕なずっとミカと一緒にいられる。
「僕は絶対に……」
 そこまで言った時、

ーうん、一緒にいようー

 とミカは僕を力一杯抱きしめてくれた。
「本当に?」

ーああ、本当にー

「ずっと一緒?」

ーうん、ずっと一緒ー

 ミカは微笑んだ。
 とても優しい微笑みに、
「ありがとう、ミカ」
 そう言いながら僕が目を瞑ると、ミカがトンっと僕の体を後に押し、僕の体は扉の向こう側へと倒れていく。

ーでもここでは一緒にいられない。向こうには、レオを待っているたくさんの人がいる。ねぇレオ。僕は言ったよ。『目には見えなくても、僕はずっとレオのそばにいる。ずっと一緒にいるよ』ってー

「そんなの嫌だ!僕はここでミカと一緒にいたい!」
 扉の向こう側に吸い込まれながら僕はミカに手を伸ばすが、ミカは手を伸ばしてはくれない。

ー大好きな僕のレオ……。命を無駄にしないで。僕達の分までたくさん生きて……ー

「ミカ!!」
 限界まで手を伸ばしたが、その手はミカには届かず、ギギギと音を立てながらミカと僕の間を隔てた扉は閉まっていった。
しおりを挟む
感想 158

あなたにおすすめの小説

やっと退場できるはずだったβの悪役令息。ワンナイトしたらΩになりました。

毒島醜女
BL
目が覚めると、妻であるヒロインを虐げた挙句に彼女の運命の番である皇帝に断罪される最低最低なモラハラDV常習犯の悪役夫、イライ・ロザリンドに転生した。 そんな最期は絶対に避けたいイライはヒーローとヒロインの仲を結ばせつつ、ヒロインと円満に別れる為に策を練った。 彼の努力は実り、主人公たちは結ばれ、イライはお役御免となった。 「これでやっと安心して退場できる」 これまでの自分の努力を労うように酒場で飲んでいたイライは、いい薫りを漂わせる男と意気投合し、彼と一夜を共にしてしまう。 目が覚めると罪悪感に襲われ、すぐさま宿を去っていく。 「これじゃあ原作のイライと変わらないじゃん!」 その後体調不良を訴え、医師に診てもらうととんでもない事を言われたのだった。 「あなた……Ωになっていますよ」 「へ?」 そしてワンナイトをした男がまさかの国の英雄で、まさかまさか求愛し公開プロポーズまでして来て―― オメガバースの世界で運命に導かれる、強引な俺様α×頑張り屋な元悪役令息の元βのΩのラブストーリー。

欠陥Ωは孤独なα令息に愛を捧ぐ あなたと過ごした五年間

華抹茶
BL
旧題:あなたと過ごした五年間~欠陥オメガと強すぎるアルファが出会ったら~ 子供の時の流行り病の高熱でオメガ性を失ったエリオット。だがその時に前世の記憶が蘇り、自分が異性愛者だったことを思い出す。オメガ性を失ったことを喜び、ベータとして生きていくことに。 もうすぐ学園を卒業するという時に、とある公爵家の嫡男の家庭教師を探しているという話を耳にする。その仕事が出来たらいいと面接に行くと、とんでもなく美しいアルファの子供がいた。 だがそのアルファの子供は、質素な別館で一人でひっそりと生活する孤独なアルファだった。その理由がこの子供のアルファ性が強すぎて誰も近寄れないからというのだ。 だがエリオットだけはそのフェロモンの影響を受けなかった。家庭教師の仕事も決まり、アルファの子供と接するうちに心に抱えた傷を知る。 子供はエリオットに心を開き、懐き、甘えてくれるようになった。だが子供が成長するにつれ少しずつ二人の関係に変化が訪れる。 アルファ性が強すぎて愛情を与えられなかった孤独なアルファ×オメガ性を失いベータと偽っていた欠陥オメガ ●オメガバースの話になります。かなり独自の設定を盛り込んでいます。 ●最終話まで執筆済み(全47話)。完結保障。毎日更新。 ●Rシーンには※つけてます。

〈完結〉【書籍化・取り下げ予定】「他に愛するひとがいる」と言った旦那様が溺愛してくるのですが、そういうのは不要です

ごろごろみかん。
恋愛
「私には、他に愛するひとがいます」 「では、契約結婚といたしましょう」 そうして今の夫と結婚したシドローネ。 夫は、シドローネより四つも年下の若き騎士だ。 彼には愛するひとがいる。 それを理解した上で政略結婚を結んだはずだったのだが、だんだん夫の様子が変わり始めて……?

【完結】愛されたかった僕の人生

Kanade
BL
✯オメガバース 〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜 お見合いから一年半の交際を経て、結婚(番婚)をして3年。 今日も《夫》は帰らない。 《夫》には僕以外の『番』がいる。 ねぇ、どうしてなの? 一目惚れだって言ったじゃない。 愛してるって言ってくれたじゃないか。 ねぇ、僕はもう要らないの…? 独りで過ごす『発情期』は辛いよ…。

あなたは僕の運命なのだと、

BL
将来を誓いあっているアルファの煌とオメガの唯。仲睦まじく、二人の未来は強固で揺るぎないと思っていた。 ──あの時までは。 すれ違い(?)オメガバース話。

知らないだけで。

どんころ
BL
名家育ちのαとΩが政略結婚した話。 最初は切ない展開が続きますが、ハッピーエンドです。 10話程で完結の短編です。

【完結】それ以上近づかないでください。

ぽぽ
BL
「誰がお前のことなんか好きになると思うの?」 地味で冴えない小鳥遊凪は、ずっと憧れていた蓮見馨に勢いで告白してしまう。 するとまさかのOK。夢みたいな日々が始まった……はずだった。 だけど、ある出来事をきっかけに二人の関係はあっけなく終わる。 過去を忘れるために転校した凪は、もう二度と馨と会うことはないと思っていた。 ところが、ひょんなことから再会してしまう。 しかも、久しぶりに会った馨はどこか様子が違っていた。 「今度は、もう離さないから」 「お願いだから、僕にもう近づかないで…」

βな俺は王太子に愛されてΩとなる

ふき
BL
王太子ユリウスの“運命”として幼い時から共にいるルカ。 けれど彼は、Ωではなくβだった。 それを知るのは、ユリウスただ一人。 真実を知りながら二人は、穏やかで、誰にも触れられない日々を過ごす。 だが、王太子としての責務が二人の運命を軋ませていく。 偽りとも言える関係の中で、それでも手を離さなかったのは―― 愛か、執着か。 ※性描写あり ※独自オメガバース設定あり ※ビッチングあり

処理中です...