婚約破棄が成立しない悪役令嬢~ヒロインの勘違い~

鷲原ほの

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本編

2. 悪事を暴きたいのだ!

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 フランメール大陸の中央地域、戦乱から離れた平穏な国家に、由緒正しき国立リルフレア魔法学院はある。
 騎士、侍従、経営、医薬、芸術などの分野ごとに設けられた専門学院と一線を画すその魔法学院は、学術都市にて唯一国家の名を冠する学び舎だ。
 世界から集められる最先端の知識を求めて、各地の王侯貴族から跡継ぎ候補の令息令嬢が通う。そして、優秀な後継者として、貴族の一員として認められるためには、卒業証書が必須であると言われるまでになっている。

 入学式で宣誓する表向きの共通認識では、国威や家格で競い合うことをとしないこと、一学院生として切磋琢磨せっさたくますることが望まれている。
 しかし、個人に関わりのある事柄、その全てを取り払うことは難しい。
 国同士の関係、家同士の関係、ありとあらゆる場面に滲み出るそれらは、卒業して大人の仲間入りをする前に経験する貴族社会の縮図に違いない。魔法学院時代の関係すら、未来に大きく影響を及ぼすことは事実なのだから。

 そんな高貴なリルフレア魔法学院にあって、しかも門出を祝うべき神聖な卒業記念式典にて前代未聞の事件は起こってしまう。
 後世まで語られることになった此度の顛末は、世界の一般常識すら学ぶことを疎かにして、大失態を演じた転生者が関わった出来事である。


   ☆   ☆   ☆


 三年間の厳しい研鑽けんさんを終えて、卒業生が祖国へ凱旋がいせんする季節。
 涙する父母、家長や親類に見守られて、国立リルフレア魔法学院の卒業証書授与式は滞りなく終わった。
 茜色に包まれていくリルフレアの宮殿にて、程なく卒業を祝う式典の最後を飾る、華やかな舞踏会が開演する。
 最上級に盛装せいそうする卒業生が、大人の一歩を踏み出す瞬間を待ち侘びる静寂。
 そんな優美な控え室を凍り付かせる、歴史に名を残す暴挙が動き出す。

「こうして我々が集える最後の瞬間に、皆に聞かせたいことがある!」

 控えの広間に集まった同級生を見渡して、舞踏会場と指定された大広間『紺碧こんぺき』へ繋がる両開きを背にして、アルフォンス・ロンドベルトが声を張り上げた。
 ロンドベルト家はリグレット王国の王家であり、彼は国王の息子、三番目の王子にあたる。

「ふふん」

 このタイミングで騒ぎを起こすかと呆れるような視線を集めておきながら、期待する視線が集まったと勘違いするアルフォンス王子が、成功を疑わない勝ち誇った笑みでゆっくりと歩を進める。
 彼に付き従うのは、桃色ゆるふわ髪の女子学院生一名と、五名の男子学院生。身に付けるネクタイや手袋に縫われた紋章から、リグレット王国の出身者だと瞬時に把握される。

「私はこの場で、侯爵令嬢という立場を悪用した悪女、エリザベート・リルフレアの悪事を暴きたいのだ!」

 アルフォンス王子が勢い良く指を突き付けた場所では、輝くブロンドヘアを優雅に流して、青紫色のドレスの裾を広げて、一人の女子学院生が驚くような顔をして振り返る。

「あら? わたくしをご指名ですか……」

 王子から話し掛けられたことすら不思議と言わんばかりに、エメラルドのようだと称えられる瞳を困惑に揺らす。

「とぼけたところで無駄である! 聖女の資質を備える、愛おしきメアリー・プリア男爵令嬢をお前がずっとしいたげていたことは分かっているのだっ!!」

 王子の左腕が二人の親密度をアピールするように、顔を伏せて並んでいた桃色髪の女子学院生を抱き寄せた。

「アルフォンス様に助けていただけなければ……、どうなっていたか……」

 もたれ掛かるように身を寄せて、彼女は悪女の恐ろしさを、ずっと我慢させられてきたことを包み隠さず聞いてほしいと、小さく震えるように言葉を絞り出した。
 リグレット王国の北限、未開地にほど近い田舎に生まれた彼女、メアリー・プリアは転生者である。
 三歳の頃、前世の記憶が戻り、今世のあまりの貧しさに涙を流した。
 五歳の頃、アルフォンス王子の名前を聞いて、乙女ゲームの世界、しかもその主役だと歓喜した。
 七歳の頃、教会の祝福の儀にて、神託を受けられるほどの聖女の資質ありと認定された。そこから簡単な読み書きを習い、王都の教会へ招かれて生活が一変した。
 プリア男爵家の跡継ぎにはならないはずの彼女が、魔法学院にその才能開花だけを見込まれて入学していることは有名な話だ。男爵家だけでは到底用意できない諸経費を、国庫から補填されていることも当然知られている。

「此度は、その愚かな行いを皆の前で罰してやると言っているのだ!」

 乙女ゲームの舞台となっていた国立リルフレア魔法学院でさらに仲を深め、彼女の中ではフィナーレを迎えようとしているのだろう。
 青色の目を見開き怒鳴り付けた王子の横で、同時に顔を上げたメアリーは、正対する相手にニヤニヤと小馬鹿にするような笑みを向けている。
 呼び出されたエリザベートの後ろへ寄り添う令嬢達はもちろん、控えの広間で談笑していた無関係な学院生まで、虐げられて怯えていた男爵令嬢と受け取る者はいそうにない。

(ハァ、ヤレヤレねぇ……、演技がなっていないわねぇ)

 周囲から聞こえてくる不評の囁きに、エリザベートはお粗末すぎることを心の中で嘆いた。
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