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「どうぞ。」
エバンスにエスコートされながらゲストルームに入ると、ヴィヴィアーナはホッと息を吐いた。
促されるままソファに座ると、エバンスは「何か温かい飲み物を貰ってくるよ」と席を外したのだった。
一人になると、途端に先程の光景が脳裏に浮かんでしまい、ヴィヴィアーナは自己嫌悪に陥ってしまった。
――何で気になってるのよ。ジュリアスが他の娘に興味がいって良かったじゃない……。
これで揶揄われる事はなくなるのよ、と己に言い聞かせる。
しかし、そう思えば思う程何故か虚しくなっていってしまった。
「はぁ……。」
何度目かの溜息を吐いていると、エバンスが戻ってきた。
彼は、紅茶のセットの乗ったワゴンを押しながら部屋へと入って来た。
「まあ、わざわざ持ってきてくれたの?」
この屋敷の給仕係が持って来るとばかり思っていたヴィヴィアーナは、ワゴンを押すエバンスに驚いていた。
そんなヴィヴィアーナに、エバンスは肩を竦めながら苦笑する。
「今は誰にも会いたくないかなと思って。お節介が過ぎたかな?」
申し訳なさそうに言う彼に、ヴィヴィアーナはとんでもないと首を振ってきた。
「そんな事無いわ。気を使ってくれてありがとう。」
ヴィヴィアーナは素直に感謝する。
「そうか、なら良かった。」
ヴィヴィアーナの返事に、エバンスはホッとした顔をしながらニコリと微笑んできた。
――彼が相手なら素直になれるのに……。
男の人と一緒だというのに、発作の起こっていない自分に驚きつつ、ヴィヴィアーナは内心溜息を吐いていた。
――ジュリアスが相手だと、私はいつも怒ってばかりだったわ……。
彼が遊びに来ても、いつも目くじらを立ててしまう自分が嫌だった。
でも、この彼なら私は怒らなくて済むのかもしれない。
ヴィヴィアーナは胸中でそう呟きながら目の前のエバンスを見つめた。
彼は、持ってきたティーポットで紅茶を淹れている最中だった。
不慣れた手つきでカップに注ぐと、ヴィヴィアーナの前に差し出してきてくれた。
「一人で淹れた事が無いから、あんまり自信ないけど……。」
そう言っておずおずとヴィヴィアーナの様子を見てくる彼が、何だか可愛く見えてしまった。
ヴィヴィアーナは、差し出されたティーカップを手に取ると一口飲む。
温かい紅茶が喉を潤し、ほぅと安堵の息が零れた。
じんわりと心まで温まっていくようで、知らず微笑んでいた。
「ありがとう。とっても美味しいわ。」
「本当?良かった。」
エバンスも釣られて笑顔になる。
ニコニコとお互い微笑み合っていると、突然持っていたティーカップが床に落ちていった。
「え?」
ヴィヴィアーナから思わず声が漏れた。
震える手を見ながらエバンスを見上げると、彼は先程見せていた笑顔のままヴィヴィアーナを見下ろしていた。
「エ、エバンス?」
「そろそろ、薬が効いてきたみたいだね。」
彼の言葉に目を見張る。
言っている言葉の意味が分からなくて、もう一度彼の名を呼んでみた。
するとエバンスは、ヴィヴィアーナの座っているソファへ近付くと彼女の隣に腰掛けてきた。
そして、傾き始めたヴィヴィアーナの体を、そっと支えてきたのであった。
その優しい手付きに、まだ現実が信じられないと彼の顔を見ると、あの笑顔のままエバンスが言ってきたのであった。
「ああヴィヴィアーナ。この日が来ることを、ずっと夢にまで見ていたよ。」
その台詞を聞いて、ヴィヴィアーナはやっと彼に嵌められたことに気づいたのであった。
エバンスにエスコートされながらゲストルームに入ると、ヴィヴィアーナはホッと息を吐いた。
促されるままソファに座ると、エバンスは「何か温かい飲み物を貰ってくるよ」と席を外したのだった。
一人になると、途端に先程の光景が脳裏に浮かんでしまい、ヴィヴィアーナは自己嫌悪に陥ってしまった。
――何で気になってるのよ。ジュリアスが他の娘に興味がいって良かったじゃない……。
これで揶揄われる事はなくなるのよ、と己に言い聞かせる。
しかし、そう思えば思う程何故か虚しくなっていってしまった。
「はぁ……。」
何度目かの溜息を吐いていると、エバンスが戻ってきた。
彼は、紅茶のセットの乗ったワゴンを押しながら部屋へと入って来た。
「まあ、わざわざ持ってきてくれたの?」
この屋敷の給仕係が持って来るとばかり思っていたヴィヴィアーナは、ワゴンを押すエバンスに驚いていた。
そんなヴィヴィアーナに、エバンスは肩を竦めながら苦笑する。
「今は誰にも会いたくないかなと思って。お節介が過ぎたかな?」
申し訳なさそうに言う彼に、ヴィヴィアーナはとんでもないと首を振ってきた。
「そんな事無いわ。気を使ってくれてありがとう。」
ヴィヴィアーナは素直に感謝する。
「そうか、なら良かった。」
ヴィヴィアーナの返事に、エバンスはホッとした顔をしながらニコリと微笑んできた。
――彼が相手なら素直になれるのに……。
男の人と一緒だというのに、発作の起こっていない自分に驚きつつ、ヴィヴィアーナは内心溜息を吐いていた。
――ジュリアスが相手だと、私はいつも怒ってばかりだったわ……。
彼が遊びに来ても、いつも目くじらを立ててしまう自分が嫌だった。
でも、この彼なら私は怒らなくて済むのかもしれない。
ヴィヴィアーナは胸中でそう呟きながら目の前のエバンスを見つめた。
彼は、持ってきたティーポットで紅茶を淹れている最中だった。
不慣れた手つきでカップに注ぐと、ヴィヴィアーナの前に差し出してきてくれた。
「一人で淹れた事が無いから、あんまり自信ないけど……。」
そう言っておずおずとヴィヴィアーナの様子を見てくる彼が、何だか可愛く見えてしまった。
ヴィヴィアーナは、差し出されたティーカップを手に取ると一口飲む。
温かい紅茶が喉を潤し、ほぅと安堵の息が零れた。
じんわりと心まで温まっていくようで、知らず微笑んでいた。
「ありがとう。とっても美味しいわ。」
「本当?良かった。」
エバンスも釣られて笑顔になる。
ニコニコとお互い微笑み合っていると、突然持っていたティーカップが床に落ちていった。
「え?」
ヴィヴィアーナから思わず声が漏れた。
震える手を見ながらエバンスを見上げると、彼は先程見せていた笑顔のままヴィヴィアーナを見下ろしていた。
「エ、エバンス?」
「そろそろ、薬が効いてきたみたいだね。」
彼の言葉に目を見張る。
言っている言葉の意味が分からなくて、もう一度彼の名を呼んでみた。
するとエバンスは、ヴィヴィアーナの座っているソファへ近付くと彼女の隣に腰掛けてきた。
そして、傾き始めたヴィヴィアーナの体を、そっと支えてきたのであった。
その優しい手付きに、まだ現実が信じられないと彼の顔を見ると、あの笑顔のままエバンスが言ってきたのであった。
「ああヴィヴィアーナ。この日が来ることを、ずっと夢にまで見ていたよ。」
その台詞を聞いて、ヴィヴィアーナはやっと彼に嵌められたことに気づいたのであった。
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