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数週間後、すっかり元気になったヴィヴィアーナは久しぶりに夜会に参加していた。
結局あの後、ジュリアスと仲直りできたのだった。
「楽しんでるか?」
ヴィヴィアーナが、いつもの様に貴族達の挨拶を終えて壁の花に徹していると、グラスを二つ持ったジュリアスが声をかけてきた。
「ええ、誰も話しかけて来ないから楽しめてるわ。」
ヴィヴィアーナは、ジュリアスからグラスを受け取りながらそう答えてきた。
「普通、話しかけられないと詰まらないんじゃないか?」
ヴィヴィアーナの返答に、ジュリアスが呆れた顔をして突っ込みを入れてきた。
そんな彼に、ヴィヴィアーナは「私の場合は楽しいわ」とすました顔で返す。
そんな変わった婚約者にジュリアスが苦笑を零していると、ヴィヴィアーナが「そういえば」と話を振ってきた。
「あの時、聞きそびれてしまったのだけど。その……彼は、その後どうなったの?」
ヴィヴィアーナの質問に、ジュリアスは眉間に皺を寄せてきた。
「ああ、あいつエバンスの事か……あいつは……。」
ジュリアスは思い出すのも嫌なのか、鼻の頭に皺を寄せて不機嫌な顔になりながら説明してきたのであった。
ヴィヴィアーナを襲おうとしていたエバンスと共犯者たちは、彼女の父である侯爵と兄が国王に掛け合って秘密裏に処罰してくれたらしい。
ジュリアスから聞いた話では、首謀者であるエバンスは特に罪が重く見られ、その家族にも爵位剥奪という重い罰が与えられそうになった。
しかし、爵位を失いたくなかったエバンスの父が彼と親子の縁を切ってしまったのだとか。
エバンスは伯爵家から追い出され、市井に落とされたとか?遠い地へ追放になったとか?詳しい話はジュリアスが伏せてしまったので、それ以上の事は分からなかった。
「そう……あの時と同じというわけね……。」
ヴィヴィアーナは、ジュリアスの話が終わると溜息を吐いてきた。
ヴィヴィアーナの幼少期に起きた事件も、実は秘密裏に処理されていたらしい。
成人すらしていない侯爵家の令嬢の未来を考え、事件は表沙汰にはされなかったのであった。
そのお陰で、貴族達の間でヴィヴィアーナが噂される事も無く、今まで平穏無事に過ごしてこれたのだ。
しかし、その代わりに幼いヴィヴィアーナは襲われた恐怖を忘れるために、無意識にジュリアスとの記憶を改変してしまい、男性恐怖症という傷跡が残ってしまったのであった。
「あなたには、本当に悪い事をしたと思ているわ。」
「ヴィー……。」
ヴィヴィアーナは溜息を吐きながら、今までの冷遇を謝罪してきた。
そんなヴィヴィアーナに、ジュリアスは気にするなと優しく話しかける。
「でも今回のお陰で、発作も起こらなくなったから良かったじゃないか。」
ジュリアスがそう言うと、ヴィヴィアーナは「そうね」と笑顔で頷いてきたのであった。
そうなのである。
実は、あの事件の後、全ての記憶を取り戻したヴィヴィアーナは、なんと男性恐怖症の発作が出なくなったのであった。
今では、貴族達の挨拶も苦痛を感じる事なく熟せるようになり、少しずつではあるが同じ年頃の異性とも話が出来るようになってきた。
その事については、ジュリアスは少しだけ不安や不満はあったのだが、何よりも前より随分明るくなった婚約者の姿が素直に嬉しかった。
そんな婚約者を愛おしそうに見下ろしていたジュリアスは、ヴィヴィアーナの前に回り込むと手を差し出してきたのであった。
「それでは男性恐怖症が治ったお祝いに、私と一曲踊ってくださいませんか?婚約者殿。」
「ええ、喜んで!」
突然ジュリアスから、ダンスの申し込みをされて驚いていたヴィヴィアーナだったが、すぐに笑顔になると彼の手に手を添えようとして――
「か、痒!!」
「え?」
突然、ヴィヴィアーナが叫んできた聞き覚えのある単語にジュリアスは固まってしまった。
そして恐る恐る婚約者を見ると、彼女の隠れていない肌に見覚えのある発疹を見つけてしまったのであった。
「な、治ったんじゃなかったのか!?」
「そ、そう思ってたんだけど……。」
目を見張りながら聞いてくるジュリアスに、ヴィヴィアーナは答えながら更に強まる痒みに顔を歪めてきた。
「な、なんで?どうしてまた?」
「し、知らないわよ!それよりジュリアス、その言葉遣い止めて貰える?」
「は?」
ヴィヴィアーナの言葉に、ジュリアスは目を見開いた。
「貴方の男言葉・・・を聞いていると、痒くなるみたいなの。」
「はあ!?」
ヴィヴィアーナの言葉に、どういう事だと素っ頓狂な声を上げる。
驚愕するジュリアスは、更にヴィヴィアーナから衝撃の事実を聞かされたのであった。
「ジュリアスが、その言葉遣いだと何故か体がムズムズしてくるのよ……気持ち悪いというか……。」
「な、なんなんだよそれ……。」
「いや……痒!元に戻して……お願い……。」
「なっ、こっちが普通なんだぞ!?」
「いや~~~痒い~~~お願いジュリアス!!」
ヴィヴィアーナは、痒みで苦しそうに目に涙を浮かべながら懇願してくる。
そんな婚約者にジュリアスは、泣きそうな顔をしながら絶叫するのであった。
「もう、なんなのよ一体いぃぃぃぃぃぃ!!」
治ったと思っていたヴィヴィアーナの発作は結局治っておらずジュリアスは、また女言葉を話さなければならなくなってしまったのであった。
そしてヴィヴィアーナの発作は、彼等が結婚するまで治らなかったそうな。
おわり
結局あの後、ジュリアスと仲直りできたのだった。
「楽しんでるか?」
ヴィヴィアーナが、いつもの様に貴族達の挨拶を終えて壁の花に徹していると、グラスを二つ持ったジュリアスが声をかけてきた。
「ええ、誰も話しかけて来ないから楽しめてるわ。」
ヴィヴィアーナは、ジュリアスからグラスを受け取りながらそう答えてきた。
「普通、話しかけられないと詰まらないんじゃないか?」
ヴィヴィアーナの返答に、ジュリアスが呆れた顔をして突っ込みを入れてきた。
そんな彼に、ヴィヴィアーナは「私の場合は楽しいわ」とすました顔で返す。
そんな変わった婚約者にジュリアスが苦笑を零していると、ヴィヴィアーナが「そういえば」と話を振ってきた。
「あの時、聞きそびれてしまったのだけど。その……彼は、その後どうなったの?」
ヴィヴィアーナの質問に、ジュリアスは眉間に皺を寄せてきた。
「ああ、あいつエバンスの事か……あいつは……。」
ジュリアスは思い出すのも嫌なのか、鼻の頭に皺を寄せて不機嫌な顔になりながら説明してきたのであった。
ヴィヴィアーナを襲おうとしていたエバンスと共犯者たちは、彼女の父である侯爵と兄が国王に掛け合って秘密裏に処罰してくれたらしい。
ジュリアスから聞いた話では、首謀者であるエバンスは特に罪が重く見られ、その家族にも爵位剥奪という重い罰が与えられそうになった。
しかし、爵位を失いたくなかったエバンスの父が彼と親子の縁を切ってしまったのだとか。
エバンスは伯爵家から追い出され、市井に落とされたとか?遠い地へ追放になったとか?詳しい話はジュリアスが伏せてしまったので、それ以上の事は分からなかった。
「そう……あの時と同じというわけね……。」
ヴィヴィアーナは、ジュリアスの話が終わると溜息を吐いてきた。
ヴィヴィアーナの幼少期に起きた事件も、実は秘密裏に処理されていたらしい。
成人すらしていない侯爵家の令嬢の未来を考え、事件は表沙汰にはされなかったのであった。
そのお陰で、貴族達の間でヴィヴィアーナが噂される事も無く、今まで平穏無事に過ごしてこれたのだ。
しかし、その代わりに幼いヴィヴィアーナは襲われた恐怖を忘れるために、無意識にジュリアスとの記憶を改変してしまい、男性恐怖症という傷跡が残ってしまったのであった。
「あなたには、本当に悪い事をしたと思ているわ。」
「ヴィー……。」
ヴィヴィアーナは溜息を吐きながら、今までの冷遇を謝罪してきた。
そんなヴィヴィアーナに、ジュリアスは気にするなと優しく話しかける。
「でも今回のお陰で、発作も起こらなくなったから良かったじゃないか。」
ジュリアスがそう言うと、ヴィヴィアーナは「そうね」と笑顔で頷いてきたのであった。
そうなのである。
実は、あの事件の後、全ての記憶を取り戻したヴィヴィアーナは、なんと男性恐怖症の発作が出なくなったのであった。
今では、貴族達の挨拶も苦痛を感じる事なく熟せるようになり、少しずつではあるが同じ年頃の異性とも話が出来るようになってきた。
その事については、ジュリアスは少しだけ不安や不満はあったのだが、何よりも前より随分明るくなった婚約者の姿が素直に嬉しかった。
そんな婚約者を愛おしそうに見下ろしていたジュリアスは、ヴィヴィアーナの前に回り込むと手を差し出してきたのであった。
「それでは男性恐怖症が治ったお祝いに、私と一曲踊ってくださいませんか?婚約者殿。」
「ええ、喜んで!」
突然ジュリアスから、ダンスの申し込みをされて驚いていたヴィヴィアーナだったが、すぐに笑顔になると彼の手に手を添えようとして――
「か、痒!!」
「え?」
突然、ヴィヴィアーナが叫んできた聞き覚えのある単語にジュリアスは固まってしまった。
そして恐る恐る婚約者を見ると、彼女の隠れていない肌に見覚えのある発疹を見つけてしまったのであった。
「な、治ったんじゃなかったのか!?」
「そ、そう思ってたんだけど……。」
目を見張りながら聞いてくるジュリアスに、ヴィヴィアーナは答えながら更に強まる痒みに顔を歪めてきた。
「な、なんで?どうしてまた?」
「し、知らないわよ!それよりジュリアス、その言葉遣い止めて貰える?」
「は?」
ヴィヴィアーナの言葉に、ジュリアスは目を見開いた。
「貴方の男言葉・・・を聞いていると、痒くなるみたいなの。」
「はあ!?」
ヴィヴィアーナの言葉に、どういう事だと素っ頓狂な声を上げる。
驚愕するジュリアスは、更にヴィヴィアーナから衝撃の事実を聞かされたのであった。
「ジュリアスが、その言葉遣いだと何故か体がムズムズしてくるのよ……気持ち悪いというか……。」
「な、なんなんだよそれ……。」
「いや……痒!元に戻して……お願い……。」
「なっ、こっちが普通なんだぞ!?」
「いや~~~痒い~~~お願いジュリアス!!」
ヴィヴィアーナは、痒みで苦しそうに目に涙を浮かべながら懇願してくる。
そんな婚約者にジュリアスは、泣きそうな顔をしながら絶叫するのであった。
「もう、なんなのよ一体いぃぃぃぃぃぃ!!」
治ったと思っていたヴィヴィアーナの発作は結局治っておらずジュリアスは、また女言葉を話さなければならなくなってしまったのであった。
そしてヴィヴィアーナの発作は、彼等が結婚するまで治らなかったそうな。
おわり
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