13 / 18
13.侯爵令嬢のお茶
しおりを挟む注がれる度に香り立つ芳醇な茶の香りに、苛立っていた心が落ち着いていく。
ほう、と息を吐いて淹れ立てのお茶を一口飲もうと、カップに手を付けたところで、第一王子妃が話しかけてきた。
「ああ、そうそう、そのお茶は侯爵令嬢様が愛用しているお茶を淹れさせてもらいました。」
そう言った途端、隣から何かを吹き出すような音が聞こえてきた。
見ると、侯爵令嬢が盛大に咽ている。
突然の事に、第一王子が驚いていると、侯爵令嬢が真っ青な顔で言ってきた。
「な、なんで私のお茶を!?」
「あら、滋養強壮に良いと聞きましたので、是非皆さんにも飲んでもらおうと思っただけですわよ?何をそんなに慌てているのですか?」
第一王子妃はそう言って、お茶を一口飲んだ。
その途端、侯爵令嬢は「ひいっ」と悲鳴を上げる。
何故かおろおろしだし、落ち着きなく第一王子妃と、カップを交互に見ていた。
「ふふ、おいしい。本当に美味しいお茶ですね。」
「ああ、そなたのお茶は本当に美味いのう、第一王子妃殿。」
「へ?」
そう言って、もう一口とお茶を飲む国王と第一王子妃に、侯爵令嬢は間抜けな声を上げた。
「ああ、すみません。侯爵令嬢様のお茶は、貴女と第一王子様の分だけ淹れさせて頂きました。国王様には、私が厳選したお茶を飲んで頂いておりますわ。」
もちろんわたくしも、と第一王子妃が何食わぬ顔で言ってきた。
その言葉に、侯爵令嬢は第一王子の方を勢いよく振り向くと、既に王子はお茶を飲んでいるところだった。
「あ、ああ……。」
「どうしました、侯爵令嬢様。」
「な、なん……。」
侯爵令嬢が口をパクパクしていると、第一王子妃が「そうそう」と言って呑気な声を上げてきた。
「第一王子様、それを飲んだらすぐ、これをお飲みください。」
「……何故だ?」
「それには、毒が入っているからです。」
「ぶふうっ!!」
第一王子妃がしれっと言うと、第一王子は思わず盛大に咽てきた。
「き、貴様ぁ!よくも!!」
第一王子は、げほげほと咽ながら第一王子妃を睨む。
「毒と言っても、効果は弱いものなのですぐに死ぬことはありません。ですが、念のため解毒薬をどうぞ。」
そう言って差し出されたのは、緑色の液体だった。
「王子様用に、濃いめに煎じておきました。」
「嫌がらせか!!」
文句を言いながらも、第一王子は苦い薬湯をごくごくと飲み干す。
あまりの苦さに咽ていると、第一王子妃がこう付け加えてきた。
「わたくしの見立てでは、第一王子様は随分前から飲まされていたようなので、間に合って良かったですわ。」
「は?」
「おや、お気づきになりませんでした?」
「どういうことだ?」
第一王子妃の言葉に怪訝そうな顔を向ける。
すると隣から、ガタッと音が聞こえてきた。
見ると、またしても侯爵令嬢が真っ青になりながらぶるぶる震えていた。
「どうしたんだ、フリージア?」
王子は慌てて侯爵令嬢を抱き寄せようとすると、彼女は何故か拒んできた。
「フリージア?」
「あ、あの……わたくし気分が優れませんので、失礼させて頂きますわ。」
そう言って勢いよく立ち上がると、扉の方へと向かおうとした。
しかし――
「どこへ行こうとしてるのじゃ?座れ侯爵令嬢。」
国王から威圧的な声がかけられた。
その声に、侯爵令嬢はびくりと立ち止まる。
恐る恐る振り返ると、射貫くような視線で睨み付けられていた。
228
あなたにおすすめの小説
婚約破棄でみんな幸せ!~嫌われ令嬢の円満婚約解消術~
春野こもも
恋愛
わたくしの名前はエルザ=フォーゲル、16才でございます。
6才の時に初めて顔をあわせた婚約者のレオンハルト殿下に「こんな醜女と結婚するなんて嫌だ! 僕は大きくなったら好きな人と結婚したい!」と言われてしまいました。そんな殿下に憤慨する家族と使用人。
14歳の春、学園に転入してきた男爵令嬢と2人で、人目もはばからず仲良く歩くレオンハルト殿下。再び憤慨するわたくしの愛する家族や使用人の心の安寧のために、エルザは円満な婚約解消を目指します。そのために作成したのは「婚約破棄承諾書」。殿下と男爵令嬢、お二人に愛を育んでいただくためにも、後はレオンハルト殿下の署名さえいただければみんな幸せ婚約破棄が成立します!
前編・後編の全2話です。残酷描写は保険です。
【小説家になろうデイリーランキング1位いただきました――2019/6/17】
毒味役の私がうっかり皇帝陛下の『呪い』を解いてしまった結果、異常な執着(物理)で迫られています
白桃
恋愛
「触れるな」――それが冷酷と噂される皇帝レオルの絶対の掟。
呪いにより誰にも触れられない孤独な彼に仕える毒味役のアリアは、ある日うっかりその呪いを解いてしまう。
初めて人の温もりを知った皇帝は、アリアに異常な執着を見せ始める。
「私のそばから離れるな」――物理的な距離感ゼロの溺愛(?)に戸惑うアリア。しかし、孤独な皇帝の心に触れるうち、二人の関係は思わぬ方向へ…? 呪いが繋いだ、凸凹主従(?)ラブファンタジー!
真実の愛を見つけた婚約者(殿下)を尊敬申し上げます、婚約破棄致しましょう
さこの
恋愛
「真実の愛を見つけた」
殿下にそう告げられる
「応援いたします」
だって真実の愛ですのよ?
見つける方が奇跡です!
婚約破棄の書類ご用意いたします。
わたくしはお先にサインをしました、殿下こちらにフルネームでお書き下さいね。
さぁ早く!わたくしは真実の愛の前では霞んでしまうような存在…身を引きます!
なぜ婚約破棄後の元婚約者殿が、こんなに美しく写るのか…
私の真実の愛とは誠の愛であったのか…
気の迷いであったのでは…
葛藤するが、すでに時遅し…
【完】貴方達が出ていかないと言うのなら、私が出て行きます!その後の事は知りませんからね
さこの
恋愛
私には婚約者がいる。
婚約者は伯爵家の次男、ジェラール様。
私の家は侯爵家で男児がいないから家を継ぐのは私です。お婿さんに来てもらい、侯爵家を未来へ繋いでいく、そう思っていました。
全17話です。
執筆済みなので完結保証( ̇ᵕ ̇ )
ホットランキングに入りました。ありがとうございますペコリ(⋆ᵕᴗᵕ⋆).+*
2021/10/04
「君との婚約は時間の無駄だった」とエリート魔術師に捨てられた凡人令嬢ですが、彼が必死で探している『古代魔法の唯一の使い手』って、どうやら私
白桃
恋愛
魔力も才能もない「凡人令嬢」フィリア。婚約者の天才魔術師アルトは彼女を見下し、ついに「君は無駄だ」と婚約破棄。失意の中、フィリアは自分に古代魔法の力が宿っていることを知る。時を同じくして、アルトは国を救う鍵となる古代魔法の使い手が、自分が捨てたフィリアだったと気づき後悔に苛まれる。「彼女を見つけ出さねば…!」必死でフィリアを探す元婚約者。果たして彼は、彼女に許されるのか?
【完結】私を裏切った最愛の婚約者の幸せを願って身を引く事にしました。
Rohdea
恋愛
和平の為に、長年争いを繰り返していた国の王子と愛のない政略結婚する事になった王女シャロン。
休戦中とはいえ、かつて敵国同士だった王子と王女。
てっきり酷い扱いを受けるとばかり思っていたのに婚約者となった王子、エミリオは予想とは違いシャロンを温かく迎えてくれた。
互いを大切に想いどんどん仲を深めていく二人。
仲睦まじい二人の様子に誰もがこのまま、平和が訪れると信じていた。
しかし、そんなシャロンに待っていたのは祖国の裏切りと、愛する婚約者、エミリオの裏切りだった───
※初投稿作『私を裏切った前世の婚約者と再会しました。』
の、主人公達の前世の物語となります。
こちらの話の中で語られていた二人の前世を掘り下げた話となります。
❋注意❋ 二人の迎える結末に変更はありません。ご了承ください。
殿下が恋をしたいと言うのでさせてみる事にしました。婚約者候補からは外れますね
さこの
恋愛
恋がしたい。
ウィルフレッド殿下が言った…
それではどうぞ、美しい恋をしてください。
婚約者候補から外れるようにと同じく婚約者候補のマドレーヌ様が話をつけてくださりました!
話の視点が回毎に変わることがあります。
緩い設定です。二十話程です。
本編+番外編の別視点
気まぐれな婚約者に振り回されるのはいやなので、もう終わりにしませんか
岡暁舟
恋愛
公爵令嬢ナターシャの婚約者は自由奔放な公爵ボリスだった。頭はいいけど人格は破綻。でも、両親が決めた婚約だから仕方がなかった。
「ナターシャ!!!お前はいつも不細工だな!!!」
ボリスはナターシャに会うと、いつもそう言っていた。そして、男前なボリスには他にも婚約者がいるとの噂が広まっていき……。
本編終了しました。続きは「気まぐれな婚約者に振り回されるのはいやなので、もう終わりにします」となります。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる