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5. 迷子
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僕がこの世界に転生してきてから、一年が過ぎようとしていた。
相変わらず、僕の『記憶喪失』は治っていないと、周りの人たちは皆そう思っている。
けれど、僕は本物のミッチェルじゃないから、今まで過ごした記憶が戻るはずはない。
僕たち双子は、長い間子供を望んでいた両親にとって、やっと授かった待望の子供で、非常に大切に育てられたらしい。
素直で真っ直ぐに育ったのは良いけど、何でも思い通りになってきたから、少し我慢が足りないところもあった。よく言えば無邪気で純粋だけど、反面、子供っぽくて軽率な行動を取ることもあった。
本物のミッチェルも、弟のフィラットも、双子だからなのか性格もそっくり。素直すぎるがゆえに、思ったことをすぐ口に出してしまうような性格で、一番身近にいる二人はよく喧嘩をしていたらしい。
それがあの日を境に、ミッチェルの性格が激変した。
あれだけ自由奔放だったミッチェルは、まるで別人のように大人しくて優しくて謙虚になった。初めは記憶喪失が原因かと思われていたけど、どうも何かが違うらしいと周りは密かに思っていた。
それでも『転生』なんて結論に至るわけもなく、理由はわからないけど、落ち着いてくれてよかったということで話はまとまった。
まるでライバルのように接していた双子の弟のフィラットも、兄である僕に習うように、すっかりと大人しくなっていた。そしてそれは、必要以上に兄に執着しているようにも思えた。気が付いたら、以前には考えられないほど、兄が大好き過ぎる弟になっていた。
◇
そんなある日のこと。
僕は家族四人と護衛の者とで街の中を歩いていた。
数日前まで、僕は体調を崩して家で安静にしていた。やっとお抱えの医師から外出許可が降りたから、みんなで外出することになった。
いくら家族水入らずの外出とはいえ、護衛を付けないわけにはいかない。それでも、なるべく最小限に抑えようと、後方に男性の護衛二人と、僕たちのすぐそばに荷物持ちと見守りのためのメイドが付いてきていた。
両親の話によると、赤ちゃんの頃から、弟より僕のほうが体調を崩しやすかったらしい。
僕は、前世で『オメガ』だったから、体があまり強くなかった。そのことを思い出し、まさかね……と思ったけれど、頭の中に浮かんだその可能性を、気づかないふりをして心の中にしまい込んだ。
「あ! あれなに?!」
両親がちょうど知り合いの店の軒先で立ち話をしていると、フィルが何かを見つけて突然走り出した。
「待ってよ、フィル! 勝手に行っちゃだめだよ!」
僕はびっくりして声を掛けたけど、フィルには全く届かなかったようで、どんどん遠く離れていってしまった。
「どうしよう!」
後ろから付いてきていると思っているのか、両親は気付かず店内へと入っていってしまった。
フィルを一人にするわけにもいかないので、僕は仕方がなくそのまま走って追いかけようとしたら、後ろからぐっと腕を掴まれた。
「ミッチェル様。私が探して参りますので、店内にて旦那様と奥様とご一緒にお待ちください」
僕たちのすぐ横に控えていたメイドはそう言うと、そのままフィルの行った方向へ走って行った。
時間にしてそんなには経っていないと思う。けれど、なかなか戻ってこないメイドに不安が募り、駄目だと分かっているのに、言われたことも守らず僕は走り出していた。
ふと気が付くと、いつもの知っている風景とは違う場所に迷い込んでしまっていた。少し薄暗さを感じるような、どうも落ち着かない場所だ。
「どうしよう……」
前世で僕は十八歳だったから、その頃の記憶が残っている。それでも転生後の今は八歳だ。年相応の感情を持ち合わせているようだ。
フィルはきっと、もっと不安になっているに違いない。弟のことを思い、今にも泣き出しそうな気持ちを抑えながら、ゆっくりと奥へと進んでいった。
相変わらず、僕の『記憶喪失』は治っていないと、周りの人たちは皆そう思っている。
けれど、僕は本物のミッチェルじゃないから、今まで過ごした記憶が戻るはずはない。
僕たち双子は、長い間子供を望んでいた両親にとって、やっと授かった待望の子供で、非常に大切に育てられたらしい。
素直で真っ直ぐに育ったのは良いけど、何でも思い通りになってきたから、少し我慢が足りないところもあった。よく言えば無邪気で純粋だけど、反面、子供っぽくて軽率な行動を取ることもあった。
本物のミッチェルも、弟のフィラットも、双子だからなのか性格もそっくり。素直すぎるがゆえに、思ったことをすぐ口に出してしまうような性格で、一番身近にいる二人はよく喧嘩をしていたらしい。
それがあの日を境に、ミッチェルの性格が激変した。
あれだけ自由奔放だったミッチェルは、まるで別人のように大人しくて優しくて謙虚になった。初めは記憶喪失が原因かと思われていたけど、どうも何かが違うらしいと周りは密かに思っていた。
それでも『転生』なんて結論に至るわけもなく、理由はわからないけど、落ち着いてくれてよかったということで話はまとまった。
まるでライバルのように接していた双子の弟のフィラットも、兄である僕に習うように、すっかりと大人しくなっていた。そしてそれは、必要以上に兄に執着しているようにも思えた。気が付いたら、以前には考えられないほど、兄が大好き過ぎる弟になっていた。
◇
そんなある日のこと。
僕は家族四人と護衛の者とで街の中を歩いていた。
数日前まで、僕は体調を崩して家で安静にしていた。やっとお抱えの医師から外出許可が降りたから、みんなで外出することになった。
いくら家族水入らずの外出とはいえ、護衛を付けないわけにはいかない。それでも、なるべく最小限に抑えようと、後方に男性の護衛二人と、僕たちのすぐそばに荷物持ちと見守りのためのメイドが付いてきていた。
両親の話によると、赤ちゃんの頃から、弟より僕のほうが体調を崩しやすかったらしい。
僕は、前世で『オメガ』だったから、体があまり強くなかった。そのことを思い出し、まさかね……と思ったけれど、頭の中に浮かんだその可能性を、気づかないふりをして心の中にしまい込んだ。
「あ! あれなに?!」
両親がちょうど知り合いの店の軒先で立ち話をしていると、フィルが何かを見つけて突然走り出した。
「待ってよ、フィル! 勝手に行っちゃだめだよ!」
僕はびっくりして声を掛けたけど、フィルには全く届かなかったようで、どんどん遠く離れていってしまった。
「どうしよう!」
後ろから付いてきていると思っているのか、両親は気付かず店内へと入っていってしまった。
フィルを一人にするわけにもいかないので、僕は仕方がなくそのまま走って追いかけようとしたら、後ろからぐっと腕を掴まれた。
「ミッチェル様。私が探して参りますので、店内にて旦那様と奥様とご一緒にお待ちください」
僕たちのすぐ横に控えていたメイドはそう言うと、そのままフィルの行った方向へ走って行った。
時間にしてそんなには経っていないと思う。けれど、なかなか戻ってこないメイドに不安が募り、駄目だと分かっているのに、言われたことも守らず僕は走り出していた。
ふと気が付くと、いつもの知っている風景とは違う場所に迷い込んでしまっていた。少し薄暗さを感じるような、どうも落ち着かない場所だ。
「どうしよう……」
前世で僕は十八歳だったから、その頃の記憶が残っている。それでも転生後の今は八歳だ。年相応の感情を持ち合わせているようだ。
フィルはきっと、もっと不安になっているに違いない。弟のことを思い、今にも泣き出しそうな気持ちを抑えながら、ゆっくりと奥へと進んでいった。
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