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7. フィルの願い
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フィルがフレッドと呼んだ少年は、肩より少し長めのシルバーの髪を無造作に後ろで束ね、前髪も切りそろえられておらず、ボサボサという印象だった。
長い前髪の隙間から見えるブルーグレイの瞳を見つめると、慌ててペコリと頭を下げた。
「フィラットくんが迷子になっていて……」
「フィルだよ!」
たどたどしいながらも説明をしようとしてくれているのに、横からフィルが口を挟む。
「フィル? 今お話を聞いているから、ちょっと待っていてくれるかな?」
さっき反省したことをもう忘れたのか、フィルは自分も話に加わりたい様子で、ねぇねぇと話しかけてくる。そんなフィルにひとこと注意すると、あっという間にシュンっと小さくなってしまった。
少年……フレッドの話を要約すると、見慣れない小さな子が、木陰で小さくうずくまって泣いていたので声をかけた。どうやら家族とはぐれたらしいということまではわかったけれど、泣きながら断片的に話をするので、状況を把握するのに時間がかかってしまった。どうしたものかと考えあぐねていると、メイドが探しにやってきた。これで安心だと思い引き渡そうとしたら、一緒に行くと言って聞かないので、ここまでやってきた……ということらしい。
「そう言うことだったんですね。弟を追いかけて探しに来たものの、知らない場所に迷い込んでしまって、僕も困っていたところなんです。本当に助かりました。ありがとう」
僕も深くお辞儀をすると、御礼の言葉を伝えた。
もし彼が気にして声をかけてくれなかったら、悪い奴らに連れて行かれたかもしれない。両親と歩いていた場所とはかなり雰囲気が違うから、事件に巻き込まれてしまってもおかしくないと思う。
「ねぇミッチ! おとうさまとおかあさまに、フレッドのこといおうよ!」
嬉しそうにそういうフィルは、危機感を全く持たずに無邪気に笑う。
でも僕は、このまま連れて行って良いものかと決めかねていると、再びメイドがそっと耳打ちをした。その言葉を聞き、僕はフィルに優しく微笑んだ。
「そうだね。助けてもらったからね」
「うんっ」
「……と言うわけなんだけど、フレッドくん、少し時間はありますか?」
このまま帰ろうとしても、フィルが納得することはないと思うので、一緒に連れて行くのが最善ではないかという、メイドの助言を聞いた僕は、一緒に来れませんか? と尋ねた。
「今日は、特にやることはないので……」
初めて言葉を交わした時から感じたのは、彼がやけに遠慮がちだということだった。
ただ控えめ……というのとは、少し違う気がする。言葉もやっと聞こえるかのようなか細い声で、ボソボソと話すし、身なりも僕たちと比べるとどうも様子が違う。先程この街に迷い込んだ時に感じた、僕たちの知らない空間に馴染んでいるように見えた。
「じゃあ、一緒に来てもらっても大丈夫ですか?」
僕の言葉に、「はい、だいじょうぶです」とうなずきながら小さく返事をした。
「やったー! フレッド、いこう!」
フィルは嬉しそうにフレッドと手をつなぐと、大きく腕をブンブンと振りながら、ご機嫌で歩き出した。
前世、僕には五歳年下の弟がいた。年が離れていたのもあって、懐いてくれていた弟が可愛くて仕方がなかった。
生まれ変わってもまた弟が出来た。双子で同じ歳だけど、前世の記憶のある僕にとっては、歳の差を感じる可愛い弟だ。
僕のことが大好きで、ずっとまとわりついているくらい一緒にいたのに、さきほど会ったばかりの少し年上の少年に、自分の役割を奪われたような気がして、少し寂しくなってしまった。
……そんなことはただの思い過ごしだとはわかっているのに、僕は少しやきもちをやいてしまったのだと思う。
いくら恩人とはいえ、身元もわからない少年なので警戒しつつも、楽しそうに手を繋いで歩くフィルを、静かに後ろから見守ることにした。
長い前髪の隙間から見えるブルーグレイの瞳を見つめると、慌ててペコリと頭を下げた。
「フィラットくんが迷子になっていて……」
「フィルだよ!」
たどたどしいながらも説明をしようとしてくれているのに、横からフィルが口を挟む。
「フィル? 今お話を聞いているから、ちょっと待っていてくれるかな?」
さっき反省したことをもう忘れたのか、フィルは自分も話に加わりたい様子で、ねぇねぇと話しかけてくる。そんなフィルにひとこと注意すると、あっという間にシュンっと小さくなってしまった。
少年……フレッドの話を要約すると、見慣れない小さな子が、木陰で小さくうずくまって泣いていたので声をかけた。どうやら家族とはぐれたらしいということまではわかったけれど、泣きながら断片的に話をするので、状況を把握するのに時間がかかってしまった。どうしたものかと考えあぐねていると、メイドが探しにやってきた。これで安心だと思い引き渡そうとしたら、一緒に行くと言って聞かないので、ここまでやってきた……ということらしい。
「そう言うことだったんですね。弟を追いかけて探しに来たものの、知らない場所に迷い込んでしまって、僕も困っていたところなんです。本当に助かりました。ありがとう」
僕も深くお辞儀をすると、御礼の言葉を伝えた。
もし彼が気にして声をかけてくれなかったら、悪い奴らに連れて行かれたかもしれない。両親と歩いていた場所とはかなり雰囲気が違うから、事件に巻き込まれてしまってもおかしくないと思う。
「ねぇミッチ! おとうさまとおかあさまに、フレッドのこといおうよ!」
嬉しそうにそういうフィルは、危機感を全く持たずに無邪気に笑う。
でも僕は、このまま連れて行って良いものかと決めかねていると、再びメイドがそっと耳打ちをした。その言葉を聞き、僕はフィルに優しく微笑んだ。
「そうだね。助けてもらったからね」
「うんっ」
「……と言うわけなんだけど、フレッドくん、少し時間はありますか?」
このまま帰ろうとしても、フィルが納得することはないと思うので、一緒に連れて行くのが最善ではないかという、メイドの助言を聞いた僕は、一緒に来れませんか? と尋ねた。
「今日は、特にやることはないので……」
初めて言葉を交わした時から感じたのは、彼がやけに遠慮がちだということだった。
ただ控えめ……というのとは、少し違う気がする。言葉もやっと聞こえるかのようなか細い声で、ボソボソと話すし、身なりも僕たちと比べるとどうも様子が違う。先程この街に迷い込んだ時に感じた、僕たちの知らない空間に馴染んでいるように見えた。
「じゃあ、一緒に来てもらっても大丈夫ですか?」
僕の言葉に、「はい、だいじょうぶです」とうなずきながら小さく返事をした。
「やったー! フレッド、いこう!」
フィルは嬉しそうにフレッドと手をつなぐと、大きく腕をブンブンと振りながら、ご機嫌で歩き出した。
前世、僕には五歳年下の弟がいた。年が離れていたのもあって、懐いてくれていた弟が可愛くて仕方がなかった。
生まれ変わってもまた弟が出来た。双子で同じ歳だけど、前世の記憶のある僕にとっては、歳の差を感じる可愛い弟だ。
僕のことが大好きで、ずっとまとわりついているくらい一緒にいたのに、さきほど会ったばかりの少し年上の少年に、自分の役割を奪われたような気がして、少し寂しくなってしまった。
……そんなことはただの思い過ごしだとはわかっているのに、僕は少しやきもちをやいてしまったのだと思う。
いくら恩人とはいえ、身元もわからない少年なので警戒しつつも、楽しそうに手を繋いで歩くフィルを、静かに後ろから見守ることにした。
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