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8. 再会の約束
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無事にお父様とお母様のもとへ戻った僕たちは、まず一番初めに勝手な行動をしてしまったことを謝った。まだ小さい息子たちが迷子になってしまったので、お父様もお母様もとても心配したと思う。
お父様は僕たちの無事を確認したあと、遠慮がちに後ろに待機している少年に気付き、怪訝そうな顔をした。
人を見た目で判断してはいけないと思うけれど、どう見ても育ちが良いとは思えないフレッドに対して、警戒するのも当然だろう。けれどそこでメイドがそっと耳打ちをすると、お父様はうんと小さくうなずきメイドに何やら指示をしていた。
「息子たちが世話になったようだな。ありがとう」
お父様の言葉に、フレッドは黙ったまま遠慮がちに会釈をした。
その様子を確認してから、お父様は隣りにいるお母様へ何やら合図をすると、お母様が小さく畳んだハンカチを差し出した。
「これを受け取ってちょうだい」
「……え?」
周りに気づかれないようにそっと渡そうとしたものは、おそらくお礼の金貨か何かだと思う。
何を渡されたのかわからないフレッドは、どうして良いのか困った様子で聞き返した。
「少しだけど、お礼を受け取ってほしいの」
お母様がフレッドの手にそれを握らせると、フレッドは不思議そうに中身を確認し、びっくりして突き返してきた。
「……っ! う、受け取れません!」
フレッドにとってはただの善意での行動なのに、お礼として金貨を渡されたらびっくりするだろう。中身も、フレッドにとってはなかなか目にすることのない珍しい硬貨だったのかもしれない。
フレッドが突き返そうとすると、お母様は困ったように僕を見た。その目は「ミッチェル、どうにかして」と言っていたので、お母様から包んだものを受け取ると、僕はフレッドの前に進み出た。
「助けてもらったことにお礼をするのは、マナーだと思うんです。だからどうかこれを受け取ってくれませんか?」
僕の言葉に、フレッドは大きく首を横に振った。
「僕たちの気持ちだと思って、受け取れませんか?」
それでもフレッドは首を縦に振らない。
頑なな態度に、僕は困ったようにうーんと頭を捻り、ひとつの提案をしてみることにした。
「お父様お母様。彼の気持ちを尊重して、今日はこのまま帰りましょう。そして日を改めて、お礼をするというのはどうでしょうか」
無理やりお礼の金貨を渡したことで、もしかしたら誰かがどこかで見ていて、フレッドを襲うかもしれない。恐ろしいことだけど、フレッドと会ったあの場所の雰囲気を考えると、無いとは言い切れない。
なので僕は、お母様に日を改めることを提案した。そうすれば、また会う約束を取り付けられるかもしれない。なぜかその時の僕は、このまま会えなくなるのは、嫌だと思ったんだ。
「そうね。その方が良いかもしれないわね」
賛同するお母様の言葉に、お父様は無言でうなずいた。
「フレッドくん、なんだか無理やり約束を取り付けてしまって、ごめんなさい」
「いえ、大丈夫です。……あ、フレッドで、いいです」
貴族と平民という身分の差を考えると、敬語を使うのが自然なのかもしれないけど、彼は僕らの恩人だ。それに歳も近いようだし、僕は敬語なしで普通に話してほしかった。
お母様に、「歳も近いようだし、敬語なしでお話してもよいですか?」と聞いたら、「そうね」と微笑んでくれたので、フレッドに向かって言った。
「わかった。フレッドって呼ぶね。それなら、僕たちのことはミッチとフィルって呼んでほしいな」
「はい」
「僕もこうやって、友達のように話したいから、フレッドも敬語なしで話してほしいな」
「あ……。う、うん?」
こういった会話に慣れていないのだろうか。どのような環境で育ったのかはわからないけど、身なりや出会った場所から考えると、もしかしたら生活環境はあまり良くないのかもしれない。
子供らしさをあまり感じないから、大人に囲まれて生活をしていて、なおかつ甘えられないような状況なのか……。
あまり人のことを詮索するのは良くないと思うのに、どうしてもフレッドのことが気になってしまう。
初めて会った瞬間は、フィルに再会できた安堵と喜びが優先されていたから気付かなかったけど、間違いなく初めて会ったはずなのに、初めてじゃないような懐かしさを感じていた。
お父様は僕たちの無事を確認したあと、遠慮がちに後ろに待機している少年に気付き、怪訝そうな顔をした。
人を見た目で判断してはいけないと思うけれど、どう見ても育ちが良いとは思えないフレッドに対して、警戒するのも当然だろう。けれどそこでメイドがそっと耳打ちをすると、お父様はうんと小さくうなずきメイドに何やら指示をしていた。
「息子たちが世話になったようだな。ありがとう」
お父様の言葉に、フレッドは黙ったまま遠慮がちに会釈をした。
その様子を確認してから、お父様は隣りにいるお母様へ何やら合図をすると、お母様が小さく畳んだハンカチを差し出した。
「これを受け取ってちょうだい」
「……え?」
周りに気づかれないようにそっと渡そうとしたものは、おそらくお礼の金貨か何かだと思う。
何を渡されたのかわからないフレッドは、どうして良いのか困った様子で聞き返した。
「少しだけど、お礼を受け取ってほしいの」
お母様がフレッドの手にそれを握らせると、フレッドは不思議そうに中身を確認し、びっくりして突き返してきた。
「……っ! う、受け取れません!」
フレッドにとってはただの善意での行動なのに、お礼として金貨を渡されたらびっくりするだろう。中身も、フレッドにとってはなかなか目にすることのない珍しい硬貨だったのかもしれない。
フレッドが突き返そうとすると、お母様は困ったように僕を見た。その目は「ミッチェル、どうにかして」と言っていたので、お母様から包んだものを受け取ると、僕はフレッドの前に進み出た。
「助けてもらったことにお礼をするのは、マナーだと思うんです。だからどうかこれを受け取ってくれませんか?」
僕の言葉に、フレッドは大きく首を横に振った。
「僕たちの気持ちだと思って、受け取れませんか?」
それでもフレッドは首を縦に振らない。
頑なな態度に、僕は困ったようにうーんと頭を捻り、ひとつの提案をしてみることにした。
「お父様お母様。彼の気持ちを尊重して、今日はこのまま帰りましょう。そして日を改めて、お礼をするというのはどうでしょうか」
無理やりお礼の金貨を渡したことで、もしかしたら誰かがどこかで見ていて、フレッドを襲うかもしれない。恐ろしいことだけど、フレッドと会ったあの場所の雰囲気を考えると、無いとは言い切れない。
なので僕は、お母様に日を改めることを提案した。そうすれば、また会う約束を取り付けられるかもしれない。なぜかその時の僕は、このまま会えなくなるのは、嫌だと思ったんだ。
「そうね。その方が良いかもしれないわね」
賛同するお母様の言葉に、お父様は無言でうなずいた。
「フレッドくん、なんだか無理やり約束を取り付けてしまって、ごめんなさい」
「いえ、大丈夫です。……あ、フレッドで、いいです」
貴族と平民という身分の差を考えると、敬語を使うのが自然なのかもしれないけど、彼は僕らの恩人だ。それに歳も近いようだし、僕は敬語なしで普通に話してほしかった。
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「わかった。フレッドって呼ぶね。それなら、僕たちのことはミッチとフィルって呼んでほしいな」
「はい」
「僕もこうやって、友達のように話したいから、フレッドも敬語なしで話してほしいな」
「あ……。う、うん?」
こういった会話に慣れていないのだろうか。どのような環境で育ったのかはわからないけど、身なりや出会った場所から考えると、もしかしたら生活環境はあまり良くないのかもしれない。
子供らしさをあまり感じないから、大人に囲まれて生活をしていて、なおかつ甘えられないような状況なのか……。
あまり人のことを詮索するのは良くないと思うのに、どうしてもフレッドのことが気になってしまう。
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