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10. フレッドの危機
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「フィル!」
少し前にも突然走り出して怒られたばかりなのに、また同じことを繰り返すフィルを、僕は慌てて追いかけた。
性格がだいぶ落ち着いたとはいえ、まだまだ八歳の子供。好奇心旺盛なのは仕方がないし、気持ちもわかる。
けれど、危ないので大人の近くでいてほしいと思うのは、僕の心は十八歳だからだろうか。
「ミッチ! たいへんだよ~~!」
あっという間に庭の奥の方まで走っていってしまったフィルが、今度は慌てて戻ってきた。
「どうしたの?」
口調はのんびりしたままだったけど、いつもと違う様子のフィルについて庭の奥まで行くと、そこには、ひっそり隠れるようにして建っている馬小屋のようなものが見えた。
「ここ! みてみて!」
フィルに手招きをされて行った先の小屋には、あまり手入れがされていないのか、ガラスのない窓枠のみの窓があった。小屋の窓から中を覗くと、部屋の隅の方に誰かうずくまっているように見えた。
「フレッドかもしれないよ!」
フィルの言葉にハッとして、もう一度小屋の中をよーく見る。たしかに、この前会ったフレッドに似ている気もする。だとしたら、なんでこんなところに?
いや、フレッドじゃないとしても、遮るものもなく風が吹き抜ける小屋で寝ていたら、風邪をひいてしまうかもしれない。日中はまだ暖かいけど、夜は結構冷えるようになってきている。
鍵がかかっているかもしれないのに、そのことに気を回す余裕もなく急いで扉に手を掛けたら、抵抗もなくすんなりと開いた。
「ミッチェル様、お待ち下さい。私が様子を見てまいります」
何も考えずに入ろうとした僕を制して、メイドが警戒しながら小屋の中へ入っていった。
ああ、これではフィルのことを注意する資格はないな……と、僕は軽く首をすくめた。
メイドが横たわっている人物の元へと駆け寄ると、そこにいたのはやはりフレッドのようだった。しかも様子がおかしい。
僕は我慢できずに部屋の中へ足を踏み入れ、フレッドの元へと近づいた。
「フレッド?」
近くで見ると、間違いなくフレッドだった。
メイドは僕たちがそれ以上近づかないように無言で手を出し制すると、フレッドの容態を判断するようにあちこち触ったり揺らしたりしていた。
「発熱しています。このままここに寝かせていたら危険だと思います。治療を受けさせるように、この家の主人に伝えるべきです」
小屋の外で待機している、お父様とお母様のもとへ行くと、メイドは顔をわずかにしかめて、そう伝えた。
「わかった。当主と話をしてこよう」
お父様とお母様は、先ほど屋敷の中へ戻っていってしまった当主と思われる男性に、フレッドの容態を伝えようと屋敷の玄関へと向かった。
少し経って、ふたりとも憤慨した様子で戻ってきた。普段はとても温厚で、小さな僕たちがいたずらをしてもきつく怒るようなことはしない両親だ。いつもニコニコしていて、優しい人たちなのに。
「どうも話が通じないらしい。このままフレドリックを放って置くわけにはいかない、家に連れて帰る」
お父様は護衛に声をかけ、フレッドを連れて帰るように指示をした。
いつの間にか門の外には馬車が待機していた。狭い道なので馬車は通れないと思っていたけど、別のルートもあったらしい。
連れて帰る前に、使用人に部屋の中のチェックをさせていた。とりあえず必要そうな身の回りの荷物をまとめさせるつもりだったらしいけど、使用人が困った顔で振り返った。
「これはひどい……。人間の住む環境とは到底思えません」
使用人の言葉に、お父様の眉間のシワがさらに深くなった。
「ここはそのままで良いから、急いで家に帰って医師に見てもらおう」
フレッドは、人の話し声がしても、抱え上げられても、目を開けることなく口を半開きにしたまま、苦しそうな呼吸を繰り返すだけだった。
「フレッド、一緒に帰ろう。もう大丈夫だからね」
僕がフレッドに声をかけると、隣でフィルが唇をぐっと噛み締め、今にも泣き出しそうな顔をして見つめていた。
「大丈夫。うちの先生に診てもらったら、すぐ元気になるよ」
フィルの頭をゆっくりと撫でて、安心させるように手を繋いだ。
少し前にも突然走り出して怒られたばかりなのに、また同じことを繰り返すフィルを、僕は慌てて追いかけた。
性格がだいぶ落ち着いたとはいえ、まだまだ八歳の子供。好奇心旺盛なのは仕方がないし、気持ちもわかる。
けれど、危ないので大人の近くでいてほしいと思うのは、僕の心は十八歳だからだろうか。
「ミッチ! たいへんだよ~~!」
あっという間に庭の奥の方まで走っていってしまったフィルが、今度は慌てて戻ってきた。
「どうしたの?」
口調はのんびりしたままだったけど、いつもと違う様子のフィルについて庭の奥まで行くと、そこには、ひっそり隠れるようにして建っている馬小屋のようなものが見えた。
「ここ! みてみて!」
フィルに手招きをされて行った先の小屋には、あまり手入れがされていないのか、ガラスのない窓枠のみの窓があった。小屋の窓から中を覗くと、部屋の隅の方に誰かうずくまっているように見えた。
「フレッドかもしれないよ!」
フィルの言葉にハッとして、もう一度小屋の中をよーく見る。たしかに、この前会ったフレッドに似ている気もする。だとしたら、なんでこんなところに?
いや、フレッドじゃないとしても、遮るものもなく風が吹き抜ける小屋で寝ていたら、風邪をひいてしまうかもしれない。日中はまだ暖かいけど、夜は結構冷えるようになってきている。
鍵がかかっているかもしれないのに、そのことに気を回す余裕もなく急いで扉に手を掛けたら、抵抗もなくすんなりと開いた。
「ミッチェル様、お待ち下さい。私が様子を見てまいります」
何も考えずに入ろうとした僕を制して、メイドが警戒しながら小屋の中へ入っていった。
ああ、これではフィルのことを注意する資格はないな……と、僕は軽く首をすくめた。
メイドが横たわっている人物の元へと駆け寄ると、そこにいたのはやはりフレッドのようだった。しかも様子がおかしい。
僕は我慢できずに部屋の中へ足を踏み入れ、フレッドの元へと近づいた。
「フレッド?」
近くで見ると、間違いなくフレッドだった。
メイドは僕たちがそれ以上近づかないように無言で手を出し制すると、フレッドの容態を判断するようにあちこち触ったり揺らしたりしていた。
「発熱しています。このままここに寝かせていたら危険だと思います。治療を受けさせるように、この家の主人に伝えるべきです」
小屋の外で待機している、お父様とお母様のもとへ行くと、メイドは顔をわずかにしかめて、そう伝えた。
「わかった。当主と話をしてこよう」
お父様とお母様は、先ほど屋敷の中へ戻っていってしまった当主と思われる男性に、フレッドの容態を伝えようと屋敷の玄関へと向かった。
少し経って、ふたりとも憤慨した様子で戻ってきた。普段はとても温厚で、小さな僕たちがいたずらをしてもきつく怒るようなことはしない両親だ。いつもニコニコしていて、優しい人たちなのに。
「どうも話が通じないらしい。このままフレドリックを放って置くわけにはいかない、家に連れて帰る」
お父様は護衛に声をかけ、フレッドを連れて帰るように指示をした。
いつの間にか門の外には馬車が待機していた。狭い道なので馬車は通れないと思っていたけど、別のルートもあったらしい。
連れて帰る前に、使用人に部屋の中のチェックをさせていた。とりあえず必要そうな身の回りの荷物をまとめさせるつもりだったらしいけど、使用人が困った顔で振り返った。
「これはひどい……。人間の住む環境とは到底思えません」
使用人の言葉に、お父様の眉間のシワがさらに深くなった。
「ここはそのままで良いから、急いで家に帰って医師に見てもらおう」
フレッドは、人の話し声がしても、抱え上げられても、目を開けることなく口を半開きにしたまま、苦しそうな呼吸を繰り返すだけだった。
「フレッド、一緒に帰ろう。もう大丈夫だからね」
僕がフレッドに声をかけると、隣でフィルが唇をぐっと噛み締め、今にも泣き出しそうな顔をして見つめていた。
「大丈夫。うちの先生に診てもらったら、すぐ元気になるよ」
フィルの頭をゆっくりと撫でて、安心させるように手を繋いだ。
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