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22. 入学に向けて
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「見学楽しかったねぇ~。入学が楽しみ!」
僕の部屋のベッドに腰掛けて、脚をブラブラさせながらフィルが言った。
今日はお父様とお母様、フィルと僕の四人で、入学予定の『セントルクレティウス学院』の見学会に行ってきた。
僕とフィルはもうすぐ十二歳になる。九月からは初めて学校に通い、同じ年頃の子たちと一緒に学ぶことになる。
セントルクレティウス学院は、オメガの権利を守るために設立された学校であり、創設者のルクレティウス卿は、自身もオメガでありながら、社会の偏見と戦い続けた人物だと聞いた。
両親は、これからのハイネル家を背負う僕たちに、様々な人たちと触れ合い、柔軟な考えを持てるようにと、代々ハイネル家が進学していた学校ではなく、身分やバースに関係なく平等に学べるこの学院への入学を決めた。
「そうだね。僕も楽しみ」
フィルの言葉に同意しながら、僕は今日のことを思い出していた。
学院での授業風景など見学したけど、皆とてもイキイキしていて、あのキラキラとした笑顔がとても印象的だった。
僕も、あの中に入って同じように輝けるのかと思うと、胸が熱くなった。
「……でも、家を出て寮生活をするのは、ちょっと淋しいな」
小さい頃は、お父様やお母様、そのあとは、家庭教師のゲオルクさんがいろいろと教えてくれた。家にいる安心感で、のびのびと学べたけど、これからは寮生活を送りながら学院に通うことになる。
中身は十八歳の記憶を持つ僕とは違って、フィルはまだ十一歳だ。それに双子とはいえ弟だからだろうか、甘えん坊なところがある。家を出て家族と離れて暮らすのは不安も大きいだろう。
「大丈夫。僕がいるよ」
瞳の色だけ違う全く同じ顔のフィルの前で、安心させるようにニッコリと微笑んだ。
◇
学院見学から二ヶ月ほど過ぎた六月の初旬、入学試験と面接が行われた。
平等を掲げる方針に感銘を受けた僕たちは、ぜひ学院で学びたいと思い、試験に向けてしっかりと準備をしてきた。あらゆる試験に対応できるように、学力面だけではなく、身体能力試験対策などもした。
そして今日は使者が結果を伝えに来る日だ。朝から家中がなんとなくソワソワしている。
試験を受けた僕たちよりも、お父様やお母様の方が落ち着かないようだ。まだ来ないのかと、家の外に出て様子を見てはまた戻ってくるのを繰り返している。
「旦那様、奥様、温かいハーブティーをお持ちしました」
落ち着きのない二人を見ていたフレッドは、気を利かせて温かいハーブティーを持ってきてくれた。
お父様とお母様の前に置いたあと、僕とフィルの前にもそっと差し出した。
「ああ、そうだな。……ありがとう、フレドリック」
「フレッド、ありがとう」
僕たちの言葉にフレッドは軽く会釈をし、静かにその場を離れ、トレイを持って厨房へと戻っていった。
「使いの者が、やって参りました」
程なくして、再びフレッドが戻ってきた。その後ろには、使者が静かに待機している。
そしてそっと差し出された巻物には、セントルクレティウス学院の紋章が刻印されていて、その場の緊張がさらに高まった。
お父様は丁寧に受け取ると、一呼吸を置いて、ゆっくりと巻物を広げた。目を細めながら文字を追い、やがてその視線がひとつの言葉に止まった。同様にもうひとつの巻物も広げ目で追っていき、ゆっくりと顔を上げた。
「見事だ、ミッチェル、フィラット。お前たちは合格だ」
お父様の顔には、誇らしげな笑みが浮かんだ。
僕の部屋のベッドに腰掛けて、脚をブラブラさせながらフィルが言った。
今日はお父様とお母様、フィルと僕の四人で、入学予定の『セントルクレティウス学院』の見学会に行ってきた。
僕とフィルはもうすぐ十二歳になる。九月からは初めて学校に通い、同じ年頃の子たちと一緒に学ぶことになる。
セントルクレティウス学院は、オメガの権利を守るために設立された学校であり、創設者のルクレティウス卿は、自身もオメガでありながら、社会の偏見と戦い続けた人物だと聞いた。
両親は、これからのハイネル家を背負う僕たちに、様々な人たちと触れ合い、柔軟な考えを持てるようにと、代々ハイネル家が進学していた学校ではなく、身分やバースに関係なく平等に学べるこの学院への入学を決めた。
「そうだね。僕も楽しみ」
フィルの言葉に同意しながら、僕は今日のことを思い出していた。
学院での授業風景など見学したけど、皆とてもイキイキしていて、あのキラキラとした笑顔がとても印象的だった。
僕も、あの中に入って同じように輝けるのかと思うと、胸が熱くなった。
「……でも、家を出て寮生活をするのは、ちょっと淋しいな」
小さい頃は、お父様やお母様、そのあとは、家庭教師のゲオルクさんがいろいろと教えてくれた。家にいる安心感で、のびのびと学べたけど、これからは寮生活を送りながら学院に通うことになる。
中身は十八歳の記憶を持つ僕とは違って、フィルはまだ十一歳だ。それに双子とはいえ弟だからだろうか、甘えん坊なところがある。家を出て家族と離れて暮らすのは不安も大きいだろう。
「大丈夫。僕がいるよ」
瞳の色だけ違う全く同じ顔のフィルの前で、安心させるようにニッコリと微笑んだ。
◇
学院見学から二ヶ月ほど過ぎた六月の初旬、入学試験と面接が行われた。
平等を掲げる方針に感銘を受けた僕たちは、ぜひ学院で学びたいと思い、試験に向けてしっかりと準備をしてきた。あらゆる試験に対応できるように、学力面だけではなく、身体能力試験対策などもした。
そして今日は使者が結果を伝えに来る日だ。朝から家中がなんとなくソワソワしている。
試験を受けた僕たちよりも、お父様やお母様の方が落ち着かないようだ。まだ来ないのかと、家の外に出て様子を見てはまた戻ってくるのを繰り返している。
「旦那様、奥様、温かいハーブティーをお持ちしました」
落ち着きのない二人を見ていたフレッドは、気を利かせて温かいハーブティーを持ってきてくれた。
お父様とお母様の前に置いたあと、僕とフィルの前にもそっと差し出した。
「ああ、そうだな。……ありがとう、フレドリック」
「フレッド、ありがとう」
僕たちの言葉にフレッドは軽く会釈をし、静かにその場を離れ、トレイを持って厨房へと戻っていった。
「使いの者が、やって参りました」
程なくして、再びフレッドが戻ってきた。その後ろには、使者が静かに待機している。
そしてそっと差し出された巻物には、セントルクレティウス学院の紋章が刻印されていて、その場の緊張がさらに高まった。
お父様は丁寧に受け取ると、一呼吸を置いて、ゆっくりと巻物を広げた。目を細めながら文字を追い、やがてその視線がひとつの言葉に止まった。同様にもうひとつの巻物も広げ目で追っていき、ゆっくりと顔を上げた。
「見事だ、ミッチェル、フィラット。お前たちは合格だ」
お父様の顔には、誇らしげな笑みが浮かんだ。
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