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26. 思いがけない訪問者
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僕がドアを開けると、そこに立っていたのはやっぱりフレッドだった。
驚きと喜びが一気に胸に押し寄せ、「フレッド!」と思わず声を上げた。
けれど、今は城内が静まり返っている夜更けであることを思い出し、慌てて彼を部屋の中に引き入れた。
「どうやってここに?」
僕は小声で尋ねた。
お父様もお母様も、僕たち双子とフレッドの仲が良いのは知っているから、使用人の誰かを監視役としてつけているのは、容易に想像できる。だからいくら夜更けであっても、簡単に監視の目をかい潜れるとは思わない。
「俺はあれ以来監視されている。でも、ミッチを心配している使用人たちが手助けしてくれた」
「そっか……。まだ僕の味方をしてくれる人がいるんだね……」
ハイネル家の使用人だから、当然雇い主となる当主には逆らえない。だから表立って応援することはできないけど、隠れて見つからないように手助けしてくれたのだろう。
「フィルも心配していた」
不意にフィルの名前を出され、僕の心は再びチクリと痛んだ。
「フィル、寂しがっていない? 一緒だから大丈夫だよって言ったのに、僕は一緒に行けなかった。だめなお兄ちゃんだよね……」
大事な時に、そばにいてあげられなかった。
その悔しさは、僕の中にずっとくすぶり続けている。
オメガじゃなかったらって、何度そう思ったことか。
「フィルは頑張ってる。ミッチを部屋から出すために、学院で良い成績をおさめ、お父様にお願いすると言っていた」
僕は驚いて目を見開いた。
あんなに甘えん坊だったフィルが、僕のために一生懸命前に進もうとしている。
目の前で手のひらを返すように、態度を豹変させたお父様とお母様を見てしまったのに。
「なにか策はないかと、探している。……寂しいかもしれないけど、みんな、ミッチのことを心配してる。……ひとりじゃないから……」
普段はそんなに言葉の多くないフレッドが、言葉を選びながら、懸命に伝えようとしてくれている。僕を励ましてくれているというのが痛いほど伝わってくる。
「フレッド、ありがとう」
僕は、あの日からずっと笑うことなんてなかった。
ずっとここから出られないんだ、もうみんなと会うことはないんだって、絶望しかなかったから。
でもフレッドの言葉で、氷のように固まって動かなくなっていた僕の顔に、ぎこちない笑みが浮かんだ。
「フィルに、手紙を書いてはどうだろうか」
「手紙?」
「屋敷内には、ミッチの味方となる使用人がいるから、その者たちを何人か介して届ければ、気付かれずに届けられると思う」
「でも、そんな貴重な紙を……」
僕の不安そうな声に、フレッドは一枚の薄くて軽い紙を取り出した。
「これは羊皮紙よりも安価で手に入りやすいそうだ。他の使用人が、商人たちの間で広く使われていると持ってきてくれた」
「すごい! そんな紙があるんだね」
僕が感嘆の声を上げると、フレッドは少し視線をそらして、先程よりボソボソと聞き取れないような声で何やらぶつぶつと言っている。
「……どうしたの? フレッド」
近づいて耳に手を当てる仕草をすると、フレッドは少し顔を背けたまま、照れたように言った。
「俺も、書くから……手紙。……ミッチが、淋しくならないように。……だから、頑張ろう……」
励ましたいという気持ちで、自分も手紙を書くと言ってくれたのだろうけど、それはまるで『恋人同士の手紙の交換』のようにも思えた。
もしかしたら、フレッドが照れたように顔を背けたまま話したのは、同じように感じたからかもしれない。そんなフレッドの気持ちが、とても嬉しかった。
『頑張って』じゃなくて、『頑張ろう』と言ってくれた言葉は、僕の大きな支えになった。
「うん、ありがとう、フレッド。……一緒に、頑張ろう!」
灰色の雲に覆われてしまった僕の人生に、少しずつ光が差し込み始めていた。
それと同時に、フレッドへ感じた『特別な思い』が、ますます大きくなるのを感じていた。
驚きと喜びが一気に胸に押し寄せ、「フレッド!」と思わず声を上げた。
けれど、今は城内が静まり返っている夜更けであることを思い出し、慌てて彼を部屋の中に引き入れた。
「どうやってここに?」
僕は小声で尋ねた。
お父様もお母様も、僕たち双子とフレッドの仲が良いのは知っているから、使用人の誰かを監視役としてつけているのは、容易に想像できる。だからいくら夜更けであっても、簡単に監視の目をかい潜れるとは思わない。
「俺はあれ以来監視されている。でも、ミッチを心配している使用人たちが手助けしてくれた」
「そっか……。まだ僕の味方をしてくれる人がいるんだね……」
ハイネル家の使用人だから、当然雇い主となる当主には逆らえない。だから表立って応援することはできないけど、隠れて見つからないように手助けしてくれたのだろう。
「フィルも心配していた」
不意にフィルの名前を出され、僕の心は再びチクリと痛んだ。
「フィル、寂しがっていない? 一緒だから大丈夫だよって言ったのに、僕は一緒に行けなかった。だめなお兄ちゃんだよね……」
大事な時に、そばにいてあげられなかった。
その悔しさは、僕の中にずっとくすぶり続けている。
オメガじゃなかったらって、何度そう思ったことか。
「フィルは頑張ってる。ミッチを部屋から出すために、学院で良い成績をおさめ、お父様にお願いすると言っていた」
僕は驚いて目を見開いた。
あんなに甘えん坊だったフィルが、僕のために一生懸命前に進もうとしている。
目の前で手のひらを返すように、態度を豹変させたお父様とお母様を見てしまったのに。
「なにか策はないかと、探している。……寂しいかもしれないけど、みんな、ミッチのことを心配してる。……ひとりじゃないから……」
普段はそんなに言葉の多くないフレッドが、言葉を選びながら、懸命に伝えようとしてくれている。僕を励ましてくれているというのが痛いほど伝わってくる。
「フレッド、ありがとう」
僕は、あの日からずっと笑うことなんてなかった。
ずっとここから出られないんだ、もうみんなと会うことはないんだって、絶望しかなかったから。
でもフレッドの言葉で、氷のように固まって動かなくなっていた僕の顔に、ぎこちない笑みが浮かんだ。
「フィルに、手紙を書いてはどうだろうか」
「手紙?」
「屋敷内には、ミッチの味方となる使用人がいるから、その者たちを何人か介して届ければ、気付かれずに届けられると思う」
「でも、そんな貴重な紙を……」
僕の不安そうな声に、フレッドは一枚の薄くて軽い紙を取り出した。
「これは羊皮紙よりも安価で手に入りやすいそうだ。他の使用人が、商人たちの間で広く使われていると持ってきてくれた」
「すごい! そんな紙があるんだね」
僕が感嘆の声を上げると、フレッドは少し視線をそらして、先程よりボソボソと聞き取れないような声で何やらぶつぶつと言っている。
「……どうしたの? フレッド」
近づいて耳に手を当てる仕草をすると、フレッドは少し顔を背けたまま、照れたように言った。
「俺も、書くから……手紙。……ミッチが、淋しくならないように。……だから、頑張ろう……」
励ましたいという気持ちで、自分も手紙を書くと言ってくれたのだろうけど、それはまるで『恋人同士の手紙の交換』のようにも思えた。
もしかしたら、フレッドが照れたように顔を背けたまま話したのは、同じように感じたからかもしれない。そんなフレッドの気持ちが、とても嬉しかった。
『頑張って』じゃなくて、『頑張ろう』と言ってくれた言葉は、僕の大きな支えになった。
「うん、ありがとう、フレッド。……一緒に、頑張ろう!」
灰色の雲に覆われてしまった僕の人生に、少しずつ光が差し込み始めていた。
それと同時に、フレッドへ感じた『特別な思い』が、ますます大きくなるのを感じていた。
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