【本編完結】再び巡り合う時 ~転生オメガバース~

一ノ瀬麻紀

文字の大きさ
29 / 86

28. 一緒に逃げよう

しおりを挟む
 フィルの慌てた声に、僕はびっくりして急いで扉を開けた。

「フィル! どうしたの! 見つかったら……」

 このハイネル家の跡取りで、お父様の期待を一心に背負っているフィルが、この家で存在しないものとされている僕に会いに来たとバレたら、フィルの立場が大変なことになる。早くここから離れるように言わないといけない。
 そう思ってフィルのことを心配して追い返そうとしたのに、僕の言葉を遮って被せるようにフィルは口調を強めて言った。

「一緒に逃げよう!」

 え? と考えるまもなく、フィルは一気に僕の手を引いて、部屋から連れ出そうとした。

「ちょっと待ってよ、フィル! ……一体どういうこと?」

 何がなんだか意味がわからない。
 僕はこの部屋から出られないし、必要最小限の人としか会えない。いわゆる監禁と一緒だ。
 ハイネル家の長男のミッチェルは、療養のために離れた土地で過ごしている。だから、僕はここを出るわけにはいかない。

「……お父様が……ミッチを……」

 僕を引いていた手を少し緩めると、フィルは口をへの字にして、言いたくなさそうにそこで言葉を詰まらせた。
 その表情は、幼い頃の面影を残したままのフィルだったけど、声はいくらか低くなっていて、身長も僕より高く、体つきもしっかりとし、すっかり男らしくなっていた。

「フィル、かっこよくなったねぇ……」

 こんな状況でこのセリフが場違いだってことくらい僕にも分かるけど、思わず口から出てしまった。

「ミッチ!? 今はそれどころじゃないんだよ!?」
「え? なんで……?」

 たしかにさっきからフィルは慌てている様子だ。でも理由を話してくれないから、僕にはわからない。

「お父様が……ミッチを……政略結婚させようとしてるんだ……」

 さっきと同じように口をへの字にして、出し渋るようにして言った。

「お父様が……?」
「政略結婚をすれば家の役に立てるんだ、本望だろうって……。お父様は、オメガをなんだと思ってるんだ……」

 拳を作り、ぎゅっと握りしめる。
 きっと、僕がオメガとわかった途端態度が豹変した両親を見て、相当ショックだったんだろう。

 それでもなお、反発せずに、正攻法で僕をここから助け出そうと頑張ってるさなか、お父様の考えを知ってしまった。
 フィルなりにこの二年半、お父様のそばで一所懸命やってきたんだろう。でも一緒にいる時間が長かったからこそ、アルファ至上主義でオメガへの差別意識が高いということも、嫌と言うほどわかってしまったのだと思う。
 性差別のない世の中へと変わってきているとはいえ、実際にはまだまだ程遠い夢のような話なんだと……。

「オメガだから、仕方がないんだ……」
「……っ!」

 僕の諦めたような声に、フィルは目を見開き何かを言いたげに口を開いたけれど、そのまま言葉を飲み込んで黙り込んでしまった。

 十二歳の時にここに閉じ込められた時より、痩せてみすぼらしくなって、声変わりもまだしていなくて……。オメガの僕は、アルファのフィルとはこんなにも違う。同じように分け隔てなく育てられていた頃とは、違うんだよ……。

 僕は、無言のまま微笑んだ。

「政略結婚でも、僕を必要としてくれる人がいるのなら、喜んで結婚するよ。……一人きりは、もう嫌だ……」

 この部屋で過ごした二年半は、僕の正常な感覚さえも奪ってしまっていた。
 政略結婚だろうが、相手が僕を人として扱わないとしても、それでも良かった。
 薄暗いこの部屋に、この先もずっとひとりでいるのは嫌だった。

 そんな時、勢いよく階段を駆け上がる足音が近づいてきた。

「フィラット! そこにいるのか!?」

 階段の下から聞こえてきたのは、お父様の声だった。
しおりを挟む
感想 42

あなたにおすすめの小説

【本編完結済】神子は二度、姿を現す

江多之折(エタノール)
BL
1/7外伝含め完結 ファンタジー世界で成人し、就職しに王城を訪れたところ異世界に転移した少年が転移先の世界で神子となり、壮絶な日々の末、自ら命を絶った前世を思い出した主人公。 死んでも戻りたかった元の世界には戻ることなく異世界で生まれ変わっていた事に絶望したが 神子が亡くなった後に取り残された王子の苦しみを知り、向き合う事を決めた。 戻れなかった事を恨み、死んだことを後悔し、傷付いた王子を助けたいと願う少年の葛藤。 王子様×元神子が転生した侍従の過去の苦しみに向き合い、悩みながら乗り越えるための物語。 ※小説家になろうに掲載していた作品を改修して投稿しています。 描写はキスまでの全年齢BL

私は〈元〉小石でございます! ~癒し系ゴーレムと魔物使い~

Ss侍
ファンタジー
 "私"はある時目覚めたら身体が小石になっていた。  動けない、何もできない、そもそも身体がない。  自分の運命に嘆きつつ小石として過ごしていたある日、小さな人形のような可愛らしいゴーレムがやってきた。 ひょんなことからそのゴーレムの身体をのっとってしまった"私"。  それが、全ての出会いと冒険の始まりだとは知らずに_____!!

きっと、君は知らない

mahiro
BL
前世、というのだろうか。 俺は前、日本という国で暮らしていて、あの日は中学時代にお世話になった先輩の結婚式に参列していた。 大人になった先輩と綺麗な女性の幸せそうな姿に胸を痛めながら見つめていると二人の間に産まれたという女の子がひとりで車道に向かい歩いている姿が目に入った。 皆が主役の二人に夢中で子供の存在に気付いておらず、俺は慌ててその子供のもとへと向かった。 あと少しで追い付くというタイミングで大型の車がこちらに向かってくるのが見え、慌ててその子供の手を掴み、彼らのいる方へと突き飛ばした。 次の瞬間、俺は驚く先輩の目と合ったような気がするが、俺の意識はそこで途絶えてしまった。 次に目が覚めたのは見知らぬ世界で、聞いたことのない言葉が行き交っていた。 それから暫く様子を見ていたが、どうやら俺は異世界に転生したらしく………?

聖女の兄で、すみません!

たっぷりチョコ
BL
聖女として呼ばれた妹の代わりに異世界に召喚されてしまった、古河大矢(こがだいや)。 三ヶ月経たないと元の場所に還れないと言われ、素直に待つことに。 そんな暇してる大矢に興味を持った次期国王となる第一王子が話しかけてきて・・・。 BL。ラブコメ異世界ファンタジー。

嘘つき王と影の騎士

篠雨
BL
「俺の役割は、貴方を守ることだ。……例え、貴方自身からも」 国の平穏を一身に背負い、十二年間「聖王」という偶像を演じ続けてきたセシル。 酷使し続けた心身はすでに限界を迎え、その命の灯火は今にも消えようとしていた。 そんな折、現れたのは異世界からの「転移者」。 代わりを見つけた国は、用済みとなったセシルからすべてを剥奪し、最果ての地へと追放する。 死を待つためだけに辿り着いた冬の山。 絶望に沈むセシルの前に現れたのは、かつて冷徹に王を監視し続けていた近衛騎士団長、アルヴィスだった。 守るべき王も、守るべき国も失ったはずの二人が過ごす、狭い小屋での夜。 無価値になり、壊れかけた自分を、なぜこの男は、そんな瞳で見つめるのか。 なぜ、そんなにも強く、抱きしめるのか。 これは、すべてを失った「聖王」が、一人の男の熱に暴かれ、再生していくまでの物語。

不遇聖女様(男)は、国を捨てて闇落ちする覚悟を決めました!

ミクリ21
BL
聖女様(男)は、理不尽な不遇を受けていました。 その不遇は、聖女になった7歳から始まり、現在の15歳まで続きました。 しかし、聖女ラウロはとうとう国を捨てるようです。 何故なら、この世界の成人年齢は15歳だから。 聖女ラウロは、これからは闇落ちをして自由に生きるのだ!!(闇落ちは自称)

秘匿された第十王子は悪態をつく

なこ
BL
ユーリアス帝国には十人の王子が存在する。 第一、第二、第三と王子が産まれるたびに国は湧いたが、第五、六と続くにつれ存在感は薄れ、第十までくるとその興味関心を得られることはほとんどなくなっていた。 第十王子の姿を知る者はほとんどいない。 後宮の奥深く、ひっそりと囲われていることを知る者はほんの一握り。 秘匿された第十王子のノア。黒髪、薄紫色の瞳、いわゆる綺麗可愛(きれかわ)。 ノアの護衛ユリウス。黒みかがった茶色の短髪、寡黙で堅物。塩顔。 少しずつユリウスへ想いを募らせるノアと、頑なにそれを否定するユリウス。 ノアが秘匿される理由。 十人の妃。 ユリウスを知る渡り人のマホ。 二人が想いを通じ合わせるまでの、長い話しです。

あと一度だけでもいいから君に会いたい

藤雪たすく
BL
異世界に転生し、冒険者ギルドの雑用係として働き始めてかれこれ10年ほど経つけれど……この世界のご飯は素材を生かしすぎている。 いまだ食事に馴染めず米が恋しすぎてしまった為、とある冒険者さんの事が気になって仕方がなくなってしまった。 もう一度あの人に会いたい。あと一度でもあの人と会いたい。 ※他サイト投稿済み作品を改題、修正したものになります

処理中です...