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28. 一緒に逃げよう
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フィルの慌てた声に、僕はびっくりして急いで扉を開けた。
「フィル! どうしたの! 見つかったら……」
このハイネル家の跡取りで、お父様の期待を一心に背負っているフィルが、この家で存在しないものとされている僕に会いに来たとバレたら、フィルの立場が大変なことになる。早くここから離れるように言わないといけない。
そう思ってフィルのことを心配して追い返そうとしたのに、僕の言葉を遮って被せるようにフィルは口調を強めて言った。
「一緒に逃げよう!」
え? と考えるまもなく、フィルは一気に僕の手を引いて、部屋から連れ出そうとした。
「ちょっと待ってよ、フィル! ……一体どういうこと?」
何がなんだか意味がわからない。
僕はこの部屋から出られないし、必要最小限の人としか会えない。いわゆる監禁と一緒だ。
ハイネル家の長男のミッチェルは、療養のために離れた土地で過ごしている。だから、僕はここを出るわけにはいかない。
「……お父様が……ミッチを……」
僕を引いていた手を少し緩めると、フィルは口をへの字にして、言いたくなさそうにそこで言葉を詰まらせた。
その表情は、幼い頃の面影を残したままのフィルだったけど、声はいくらか低くなっていて、身長も僕より高く、体つきもしっかりとし、すっかり男らしくなっていた。
「フィル、かっこよくなったねぇ……」
こんな状況でこのセリフが場違いだってことくらい僕にも分かるけど、思わず口から出てしまった。
「ミッチ!? 今はそれどころじゃないんだよ!?」
「え? なんで……?」
たしかにさっきからフィルは慌てている様子だ。でも理由を話してくれないから、僕にはわからない。
「お父様が……ミッチを……政略結婚させようとしてるんだ……」
さっきと同じように口をへの字にして、出し渋るようにして言った。
「お父様が……?」
「政略結婚をすれば家の役に立てるんだ、本望だろうって……。お父様は、オメガをなんだと思ってるんだ……」
拳を作り、ぎゅっと握りしめる。
きっと、僕がオメガとわかった途端態度が豹変した両親を見て、相当ショックだったんだろう。
それでもなお、反発せずに、正攻法で僕をここから助け出そうと頑張ってるさなか、お父様の考えを知ってしまった。
フィルなりにこの二年半、お父様のそばで一所懸命やってきたんだろう。でも一緒にいる時間が長かったからこそ、アルファ至上主義でオメガへの差別意識が高いということも、嫌と言うほどわかってしまったのだと思う。
性差別のない世の中へと変わってきているとはいえ、実際にはまだまだ程遠い夢のような話なんだと……。
「オメガだから、仕方がないんだ……」
「……っ!」
僕の諦めたような声に、フィルは目を見開き何かを言いたげに口を開いたけれど、そのまま言葉を飲み込んで黙り込んでしまった。
十二歳の時にここに閉じ込められた時より、痩せてみすぼらしくなって、声変わりもまだしていなくて……。オメガの僕は、アルファのフィルとはこんなにも違う。同じように分け隔てなく育てられていた頃とは、違うんだよ……。
僕は、無言のまま微笑んだ。
「政略結婚でも、僕を必要としてくれる人がいるのなら、喜んで結婚するよ。……一人きりは、もう嫌だ……」
この部屋で過ごした二年半は、僕の正常な感覚さえも奪ってしまっていた。
政略結婚だろうが、相手が僕を人として扱わないとしても、それでも良かった。
薄暗いこの部屋に、この先もずっとひとりでいるのは嫌だった。
そんな時、勢いよく階段を駆け上がる足音が近づいてきた。
「フィラット! そこにいるのか!?」
階段の下から聞こえてきたのは、お父様の声だった。
「フィル! どうしたの! 見つかったら……」
このハイネル家の跡取りで、お父様の期待を一心に背負っているフィルが、この家で存在しないものとされている僕に会いに来たとバレたら、フィルの立場が大変なことになる。早くここから離れるように言わないといけない。
そう思ってフィルのことを心配して追い返そうとしたのに、僕の言葉を遮って被せるようにフィルは口調を強めて言った。
「一緒に逃げよう!」
え? と考えるまもなく、フィルは一気に僕の手を引いて、部屋から連れ出そうとした。
「ちょっと待ってよ、フィル! ……一体どういうこと?」
何がなんだか意味がわからない。
僕はこの部屋から出られないし、必要最小限の人としか会えない。いわゆる監禁と一緒だ。
ハイネル家の長男のミッチェルは、療養のために離れた土地で過ごしている。だから、僕はここを出るわけにはいかない。
「……お父様が……ミッチを……」
僕を引いていた手を少し緩めると、フィルは口をへの字にして、言いたくなさそうにそこで言葉を詰まらせた。
その表情は、幼い頃の面影を残したままのフィルだったけど、声はいくらか低くなっていて、身長も僕より高く、体つきもしっかりとし、すっかり男らしくなっていた。
「フィル、かっこよくなったねぇ……」
こんな状況でこのセリフが場違いだってことくらい僕にも分かるけど、思わず口から出てしまった。
「ミッチ!? 今はそれどころじゃないんだよ!?」
「え? なんで……?」
たしかにさっきからフィルは慌てている様子だ。でも理由を話してくれないから、僕にはわからない。
「お父様が……ミッチを……政略結婚させようとしてるんだ……」
さっきと同じように口をへの字にして、出し渋るようにして言った。
「お父様が……?」
「政略結婚をすれば家の役に立てるんだ、本望だろうって……。お父様は、オメガをなんだと思ってるんだ……」
拳を作り、ぎゅっと握りしめる。
きっと、僕がオメガとわかった途端態度が豹変した両親を見て、相当ショックだったんだろう。
それでもなお、反発せずに、正攻法で僕をここから助け出そうと頑張ってるさなか、お父様の考えを知ってしまった。
フィルなりにこの二年半、お父様のそばで一所懸命やってきたんだろう。でも一緒にいる時間が長かったからこそ、アルファ至上主義でオメガへの差別意識が高いということも、嫌と言うほどわかってしまったのだと思う。
性差別のない世の中へと変わってきているとはいえ、実際にはまだまだ程遠い夢のような話なんだと……。
「オメガだから、仕方がないんだ……」
「……っ!」
僕の諦めたような声に、フィルは目を見開き何かを言いたげに口を開いたけれど、そのまま言葉を飲み込んで黙り込んでしまった。
十二歳の時にここに閉じ込められた時より、痩せてみすぼらしくなって、声変わりもまだしていなくて……。オメガの僕は、アルファのフィルとはこんなにも違う。同じように分け隔てなく育てられていた頃とは、違うんだよ……。
僕は、無言のまま微笑んだ。
「政略結婚でも、僕を必要としてくれる人がいるのなら、喜んで結婚するよ。……一人きりは、もう嫌だ……」
この部屋で過ごした二年半は、僕の正常な感覚さえも奪ってしまっていた。
政略結婚だろうが、相手が僕を人として扱わないとしても、それでも良かった。
薄暗いこの部屋に、この先もずっとひとりでいるのは嫌だった。
そんな時、勢いよく階段を駆け上がる足音が近づいてきた。
「フィラット! そこにいるのか!?」
階段の下から聞こえてきたのは、お父様の声だった。
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