【本編完結】再び巡り合う時 ~転生オメガバース~

一ノ瀬麻紀

文字の大きさ
34 / 86

33. お母様の温もり

しおりを挟む
「お母様……会いたかったです。今だけ、甘えても良いですか?」

 散々腕の中で泣き続けた後に言うのも変かもしれないけど、僕はお母様に抱きしめられたまま、思いを伝えた。
 お母様の温かい手が僕の背中を優しく撫でるたびに、心の中の緊張が少しずつ解けていくのを感じた。

「もちろんよ。……ミッチェル、お母様にたくさん甘えて」

 転生してきた僕の中身は十八歳なんだから、フィルを守らなきゃってずっと思ってた。お兄ちゃんなんだから、甘えちゃだめだってずっと我慢してた。でもやっぱり、僕はこうやって甘えたかったんだと、自分の本当の気持ちを知った。
 お母様の優しい声と温かい抱擁に包まれて、僕はようやく自分の弱さを認めることができた。

 僕はお母様から離れると、壁沿いに立てかけておいた折りたたみの椅子を持ってきて、お母様に座るように促した。
 お母様は軽くうなずき、そっと椅子に腰掛けた。座ったのを確認してから、僕はギシギシと今にも壊れそうな音を立てるベッドの上に腰掛けた。

「フィルの頑張りを聞きました。僕はお兄ちゃんなのに、何もしてやれないもどかしさに、苛まれていました。ここから出ることができたら、何か手伝えることもあるのかもしれないのにって……」

 悔しさをにじませながら言うと、お母様は僕の顔をしっかりと見つめ、大きくうなずいた。

「フィラットの事なんだけど……。もうすぐ婚約が成立するわ」
「えっ……! 婚約?!」

 お母様の言葉にびっくりして、勢い良く問い返した。
 先日、僕の政略結婚の話を聞いたから、逃げようとフィルに言われたばかりだ。
 その後に、あんな事故が起きてしまったから、その話がどうなったのかわからないままだったけど……。
 でも、それがなんでフィルの婚約話に飛躍するんだ?

 僕の困惑する瞳に、お母様は問いたいことを察して、話を続けてくれた。

「フィルを、ハイネル家の跡取りとすると正式に決定したわ。お父様は益々の繁栄のために、公爵家のアルファを我が家に迎え入れることにしたの」
「公爵家のアルファって……」

 僕は言葉を失った。
 公爵家は、伯爵家であるハイネル家より格上だ。そのアルファを嫁として迎え入れるなんて、無理に決まっている。
 アルファなら先方の世継ぎ問題だってあるだろうし、そもそもプライドの高いアルファが、格下の家に行くなんて素直に受け入れるのだろうか。

「公爵家の三男よ。お互いに条件が合ったらしいの。……お父様が一人で決めてしまったから、わたくしには詳しいことはわからないのだけど……」

 お父様の家もお母様の家もアルファ至上主義で、オメガへの偏見が強いことは知っていた。
 代々当主はアルファで、当主夫人や当主夫もアルファだった。生まれる子供も皆アルファで、アルファしか生まれない家系だと言い伝えられてきた。
 だけど、オメガとわかった時点で隠されたり、遠くへ働き手として出されたり、オメガを欲しがる悪い輩に売り飛ばされたりする者もいると聞いたことがある。
 ……それもあくまで噂なので実際のところは分からないけれど、僕のように隠される者がいるのは事実だった。

 お母様のように、本当に知らなくて、アルファしか生まれないと信じている人もいるのだと思う。
 そんな考えが未だ根強く残る中、アルファの伴侶にこだわるのはわからなくもないけれど、特にお父様の考えは少し異常な気もする。

 しかもお母様も知らないうちに、結婚の話が進められているらしいと聞き、僕の中には大きな不安が湧き上がっていた。
しおりを挟む
感想 42

あなたにおすすめの小説

【本編完結済】神子は二度、姿を現す

江多之折(エタノール)
BL
1/7外伝含め完結 ファンタジー世界で成人し、就職しに王城を訪れたところ異世界に転移した少年が転移先の世界で神子となり、壮絶な日々の末、自ら命を絶った前世を思い出した主人公。 死んでも戻りたかった元の世界には戻ることなく異世界で生まれ変わっていた事に絶望したが 神子が亡くなった後に取り残された王子の苦しみを知り、向き合う事を決めた。 戻れなかった事を恨み、死んだことを後悔し、傷付いた王子を助けたいと願う少年の葛藤。 王子様×元神子が転生した侍従の過去の苦しみに向き合い、悩みながら乗り越えるための物語。 ※小説家になろうに掲載していた作品を改修して投稿しています。 描写はキスまでの全年齢BL

私は〈元〉小石でございます! ~癒し系ゴーレムと魔物使い~

Ss侍
ファンタジー
 "私"はある時目覚めたら身体が小石になっていた。  動けない、何もできない、そもそも身体がない。  自分の運命に嘆きつつ小石として過ごしていたある日、小さな人形のような可愛らしいゴーレムがやってきた。 ひょんなことからそのゴーレムの身体をのっとってしまった"私"。  それが、全ての出会いと冒険の始まりだとは知らずに_____!!

きっと、君は知らない

mahiro
BL
前世、というのだろうか。 俺は前、日本という国で暮らしていて、あの日は中学時代にお世話になった先輩の結婚式に参列していた。 大人になった先輩と綺麗な女性の幸せそうな姿に胸を痛めながら見つめていると二人の間に産まれたという女の子がひとりで車道に向かい歩いている姿が目に入った。 皆が主役の二人に夢中で子供の存在に気付いておらず、俺は慌ててその子供のもとへと向かった。 あと少しで追い付くというタイミングで大型の車がこちらに向かってくるのが見え、慌ててその子供の手を掴み、彼らのいる方へと突き飛ばした。 次の瞬間、俺は驚く先輩の目と合ったような気がするが、俺の意識はそこで途絶えてしまった。 次に目が覚めたのは見知らぬ世界で、聞いたことのない言葉が行き交っていた。 それから暫く様子を見ていたが、どうやら俺は異世界に転生したらしく………?

聖女の兄で、すみません!

たっぷりチョコ
BL
聖女として呼ばれた妹の代わりに異世界に召喚されてしまった、古河大矢(こがだいや)。 三ヶ月経たないと元の場所に還れないと言われ、素直に待つことに。 そんな暇してる大矢に興味を持った次期国王となる第一王子が話しかけてきて・・・。 BL。ラブコメ異世界ファンタジー。

嘘つき王と影の騎士

篠雨
BL
「俺の役割は、貴方を守ることだ。……例え、貴方自身からも」 国の平穏を一身に背負い、十二年間「聖王」という偶像を演じ続けてきたセシル。 酷使し続けた心身はすでに限界を迎え、その命の灯火は今にも消えようとしていた。 そんな折、現れたのは異世界からの「転移者」。 代わりを見つけた国は、用済みとなったセシルからすべてを剥奪し、最果ての地へと追放する。 死を待つためだけに辿り着いた冬の山。 絶望に沈むセシルの前に現れたのは、かつて冷徹に王を監視し続けていた近衛騎士団長、アルヴィスだった。 守るべき王も、守るべき国も失ったはずの二人が過ごす、狭い小屋での夜。 無価値になり、壊れかけた自分を、なぜこの男は、そんな瞳で見つめるのか。 なぜ、そんなにも強く、抱きしめるのか。 これは、すべてを失った「聖王」が、一人の男の熱に暴かれ、再生していくまでの物語。

不遇聖女様(男)は、国を捨てて闇落ちする覚悟を決めました!

ミクリ21
BL
聖女様(男)は、理不尽な不遇を受けていました。 その不遇は、聖女になった7歳から始まり、現在の15歳まで続きました。 しかし、聖女ラウロはとうとう国を捨てるようです。 何故なら、この世界の成人年齢は15歳だから。 聖女ラウロは、これからは闇落ちをして自由に生きるのだ!!(闇落ちは自称)

秘匿された第十王子は悪態をつく

なこ
BL
ユーリアス帝国には十人の王子が存在する。 第一、第二、第三と王子が産まれるたびに国は湧いたが、第五、六と続くにつれ存在感は薄れ、第十までくるとその興味関心を得られることはほとんどなくなっていた。 第十王子の姿を知る者はほとんどいない。 後宮の奥深く、ひっそりと囲われていることを知る者はほんの一握り。 秘匿された第十王子のノア。黒髪、薄紫色の瞳、いわゆる綺麗可愛(きれかわ)。 ノアの護衛ユリウス。黒みかがった茶色の短髪、寡黙で堅物。塩顔。 少しずつユリウスへ想いを募らせるノアと、頑なにそれを否定するユリウス。 ノアが秘匿される理由。 十人の妃。 ユリウスを知る渡り人のマホ。 二人が想いを通じ合わせるまでの、長い話しです。

あと一度だけでもいいから君に会いたい

藤雪たすく
BL
異世界に転生し、冒険者ギルドの雑用係として働き始めてかれこれ10年ほど経つけれど……この世界のご飯は素材を生かしすぎている。 いまだ食事に馴染めず米が恋しすぎてしまった為、とある冒険者さんの事が気になって仕方がなくなってしまった。 もう一度あの人に会いたい。あと一度でもあの人と会いたい。 ※他サイト投稿済み作品を改題、修正したものになります

処理中です...