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34. 新たな役割
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「お母様にもわからないまま、結婚の話が進められてるって、フィルは大丈夫なのかな……」
僕は思わず本音が口から漏れた。
「この結婚は、フィルから言い出したことなの」
「フィルから?!」
「あなたの結婚話が持ち上がっていたのを、あの子は聞いてしまったようなの」
「僕の結婚話……」
フィルが言っていた『政略結婚』の話が出ていたのは、本当だったんだ。
「お父様に、『僕が代わりに結婚するから、ミッチの結婚話は白紙にしてほしい』と、直接お願いしたのよ」
「そんなっ……!」
僕はお母様に向かって、声を荒らげてしまった。お母様が悪いわけじゃないのに、でもお父様に何か言葉を伝えられるとしたら、お母様しかいない。
「……ごめんなさい。今の私には、どうすることもできないの」
お母様は僕の言いたいことを察して、静かに頭を下げた。
「っ! お母様、頭を上げてください!」
僕はびっくりして慌ててお母様に顔を上げるようにお願いした。何も悪くないお母様に向かって頭を下げさせるなんて、最低だ。
「僕が、ここから出られたら、お父様のところに行って話を聞くのに!」
僕が行ったところで、何ができるわけでもない。むしろ何故出てきたのだと一喝され、更に僕への待遇が悪化するだけだろう。その上、フィルやお母様への影響も出るかもしれない。
それでも今のこの状況をなんとかしたいと考えてしまうのは、僕の我儘なのだろうか。
「そのことなんだけど……」
心の中のモヤモヤを抑えきれずにいる僕に、お母様は顔を上げて言った。
「ミッチェル、家のことを手伝ってほしいの」
「家のことを手伝う?」
「フィルの結婚を前に、使用人を減らすことになったの」
「え?」
意味がわからない。なぜフィルの結婚と、使用人の話が結びつくのだろうかと、首を傾げた。
お母様の話によると、結婚の条件のひとつとして、相手の行っている慈善事業の資金援助も含まれていて、結納金と結婚準備金、慈善事業の資金援助をまとめて払うようにとの話になっているらしい。
そのため使用人の数を減らし、支払う資金に当てるつもりなのだろうと。それもお母様は詳しいことがわからないから、憶測でしかないということだった。
そこで、僕を塔の部屋から連れ出す理由にできないかと、お母様は考えたそうだ。お父様に、使用人として働かせるためにミッチェルを連れてくるのはどうだろうかと提案した。
僕はハイネル家にふさわしい人間になるべく、小さな頃から色々と学んできた。お父様は必要がないと言ったけど、僕はこっそり使用人たちにお願いして家政業務も教えてもらっていた。
アルファでもベータでもオメガでも、いずれ役に立つこともあるかもしれないと思ったから。
僕はお母様からの話を聞き、二つ返事で提案をのんだ。
ここにいる間は、何もやることがなくて心が荒む一方だった。使用人と同じ役割だとしても、家政業務を手伝えるということは、家のためになるということ。
それに、ここを出たらフレッドに会えるかもしれない。表立って会うことはもちろん無理だけど、遠巻きでも良いから姿が見られるかもしれない。
そう思ったら、僕の心は一気に浮き立った。
「お母様、僕は幼い頃から家政業務を使用人たちに教えてもらっていました。なのでお役に立てると思います!」
オメガじゃなかったなら、跡取りとして家を継ぐはずだったかもしれない僕が、使用人として家のことを手伝うなんておかしな話なんだと思う。
それでも、僕の存在意義を与えてもらったようで、嬉しかった。
僕は思わず本音が口から漏れた。
「この結婚は、フィルから言い出したことなの」
「フィルから?!」
「あなたの結婚話が持ち上がっていたのを、あの子は聞いてしまったようなの」
「僕の結婚話……」
フィルが言っていた『政略結婚』の話が出ていたのは、本当だったんだ。
「お父様に、『僕が代わりに結婚するから、ミッチの結婚話は白紙にしてほしい』と、直接お願いしたのよ」
「そんなっ……!」
僕はお母様に向かって、声を荒らげてしまった。お母様が悪いわけじゃないのに、でもお父様に何か言葉を伝えられるとしたら、お母様しかいない。
「……ごめんなさい。今の私には、どうすることもできないの」
お母様は僕の言いたいことを察して、静かに頭を下げた。
「っ! お母様、頭を上げてください!」
僕はびっくりして慌ててお母様に顔を上げるようにお願いした。何も悪くないお母様に向かって頭を下げさせるなんて、最低だ。
「僕が、ここから出られたら、お父様のところに行って話を聞くのに!」
僕が行ったところで、何ができるわけでもない。むしろ何故出てきたのだと一喝され、更に僕への待遇が悪化するだけだろう。その上、フィルやお母様への影響も出るかもしれない。
それでも今のこの状況をなんとかしたいと考えてしまうのは、僕の我儘なのだろうか。
「そのことなんだけど……」
心の中のモヤモヤを抑えきれずにいる僕に、お母様は顔を上げて言った。
「ミッチェル、家のことを手伝ってほしいの」
「家のことを手伝う?」
「フィルの結婚を前に、使用人を減らすことになったの」
「え?」
意味がわからない。なぜフィルの結婚と、使用人の話が結びつくのだろうかと、首を傾げた。
お母様の話によると、結婚の条件のひとつとして、相手の行っている慈善事業の資金援助も含まれていて、結納金と結婚準備金、慈善事業の資金援助をまとめて払うようにとの話になっているらしい。
そのため使用人の数を減らし、支払う資金に当てるつもりなのだろうと。それもお母様は詳しいことがわからないから、憶測でしかないということだった。
そこで、僕を塔の部屋から連れ出す理由にできないかと、お母様は考えたそうだ。お父様に、使用人として働かせるためにミッチェルを連れてくるのはどうだろうかと提案した。
僕はハイネル家にふさわしい人間になるべく、小さな頃から色々と学んできた。お父様は必要がないと言ったけど、僕はこっそり使用人たちにお願いして家政業務も教えてもらっていた。
アルファでもベータでもオメガでも、いずれ役に立つこともあるかもしれないと思ったから。
僕はお母様からの話を聞き、二つ返事で提案をのんだ。
ここにいる間は、何もやることがなくて心が荒む一方だった。使用人と同じ役割だとしても、家政業務を手伝えるということは、家のためになるということ。
それに、ここを出たらフレッドに会えるかもしれない。表立って会うことはもちろん無理だけど、遠巻きでも良いから姿が見られるかもしれない。
そう思ったら、僕の心は一気に浮き立った。
「お母様、僕は幼い頃から家政業務を使用人たちに教えてもらっていました。なのでお役に立てると思います!」
オメガじゃなかったなら、跡取りとして家を継ぐはずだったかもしれない僕が、使用人として家のことを手伝うなんておかしな話なんだと思う。
それでも、僕の存在意義を与えてもらったようで、嬉しかった。
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