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35. 新しい日常
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「やっぱりいない……」
「どうしたの?」
僕のつぶやくような声に気付いたお母様が振り返り、不思議そうに尋ねた。
「ここで見張りをしていた彼が、フレッドの無事を教えてくれたのです。だから、次に会った時に直接お礼を言おうと思っていたのですが……」
「ああ、彼ならここを出たわ」
「……え?」
「お父様は、何人かの使用人に暇を出すことにしたの。……フレドリックも家を出たわ」
「フレッドが?!」
扉の外でずっと見張りをしていた使用人の心配をしていたのに、思いがけずにフレッドの名前が出てきて、びっくりして声が裏返ってしまった。
「詳しいことはまだ話せないけど、フレドリックも見張りをしていた彼も、連絡を取れるようになっているから、心配しなくて大丈夫よ」
お母様は、僕を安心させるように微笑んで言った。
けれど、フレッドに会えるかもしれないと浮き立っていた僕の心は、急激にしぼんだ風船のように小さくなってしまった。
お母様が大丈夫と言うのだから信じようと思うのに、僕の気持ちはなかなか晴れなかった。だからそれ以上何も言えなくなり、黙ってお母様の後ろをついていった。
◇
お母様に塔の部屋から出してもらってから、数日が過ぎた。
使用人の仕事をしながら、キョロキョロとフレッドの姿を探してみたけれど、やっぱりお母様の言うようにフレッドの姿を見かけることはなかった。
「……エミ?」
誰かを呼ぶ声がする。使用人の中に、エミさんはいただろうか? 僕はフレッドを探す視線を止めずに、ぼんやりとそう思っていた。
けれど、今度は肩に手を置かれて呼ばれたことで、はっと思い出した。『エミ』とは僕の偽名だということを。
「あ……ご、ごめんなさい。ぼーっとしちゃってました……」
僕は無理やり笑顔を作り出し、声をかけてきた使用人に謝った。
「慣れないことばかりで疲れたのかしら? そろそろ休憩を入れましょうか」
ポンポンと手を叩いて、他の使用人たちに各自休憩を取るように声をかけた。
今ハイネル家で働いている使用人は、お父様を常にお守りしている護衛と、ハイネル家で家を守っている護衛。そして家政業務全般を何でもこなす使用人が四人いる。もともと三十人はいたはずなのに、こんなに減っているとは思わなかったので、とても驚いた。
お母様は、『今までが多すぎたのよ。わたくしたちも、自分でできることは自分でやらないと』と笑いながら言っていたけど、どう考えても異常な光景だった。
今残っている使用人は、僕が塔の部屋に閉じ込められた後に雇われた、若い子たちばかりだ。
だから僕のことを知らないし、どうやらフィルのことさえも知らないらしい。もしフィルのことを知っているのなら、双子だからその時点で気付くだろう。
使用人たちはこの家に『オメガの息子』がいるという事実は知らないし、学業に忙しいフィルの存在も話では聞いているけれど……という程度らしい。
そんな中、僕は偽名を名乗って、新しい使用人見習いということで、仲間に入り仕事をすることになった。
エミール、愛称はエミ。お母様が付けてくれた、僕のもうひとつの名前だ。
些細なことで体調を崩しやすい僕が使用人なんて務まるのかと思ったけど、他の使用人たちは皆優しかった。
お母様が『身寄りのないオメガを引き取り、世話をすることになった』という主旨の説明をしてあるらしい。奥様直々の言葉なので皆それを信じ、可哀想な僕を気にかけてくれた。
使用人たちは、全員で手分けをする家政業務の他に、決められた部屋を管理するように、各々与えられている部屋もあった。
管理というのは大げさだけど、例えば僕が担当している部屋は『奥様の書斎』で、掃除はもちろん、快適に過ごせるように花を飾ったりもした。
「どうしたの?」
僕のつぶやくような声に気付いたお母様が振り返り、不思議そうに尋ねた。
「ここで見張りをしていた彼が、フレッドの無事を教えてくれたのです。だから、次に会った時に直接お礼を言おうと思っていたのですが……」
「ああ、彼ならここを出たわ」
「……え?」
「お父様は、何人かの使用人に暇を出すことにしたの。……フレドリックも家を出たわ」
「フレッドが?!」
扉の外でずっと見張りをしていた使用人の心配をしていたのに、思いがけずにフレッドの名前が出てきて、びっくりして声が裏返ってしまった。
「詳しいことはまだ話せないけど、フレドリックも見張りをしていた彼も、連絡を取れるようになっているから、心配しなくて大丈夫よ」
お母様は、僕を安心させるように微笑んで言った。
けれど、フレッドに会えるかもしれないと浮き立っていた僕の心は、急激にしぼんだ風船のように小さくなってしまった。
お母様が大丈夫と言うのだから信じようと思うのに、僕の気持ちはなかなか晴れなかった。だからそれ以上何も言えなくなり、黙ってお母様の後ろをついていった。
◇
お母様に塔の部屋から出してもらってから、数日が過ぎた。
使用人の仕事をしながら、キョロキョロとフレッドの姿を探してみたけれど、やっぱりお母様の言うようにフレッドの姿を見かけることはなかった。
「……エミ?」
誰かを呼ぶ声がする。使用人の中に、エミさんはいただろうか? 僕はフレッドを探す視線を止めずに、ぼんやりとそう思っていた。
けれど、今度は肩に手を置かれて呼ばれたことで、はっと思い出した。『エミ』とは僕の偽名だということを。
「あ……ご、ごめんなさい。ぼーっとしちゃってました……」
僕は無理やり笑顔を作り出し、声をかけてきた使用人に謝った。
「慣れないことばかりで疲れたのかしら? そろそろ休憩を入れましょうか」
ポンポンと手を叩いて、他の使用人たちに各自休憩を取るように声をかけた。
今ハイネル家で働いている使用人は、お父様を常にお守りしている護衛と、ハイネル家で家を守っている護衛。そして家政業務全般を何でもこなす使用人が四人いる。もともと三十人はいたはずなのに、こんなに減っているとは思わなかったので、とても驚いた。
お母様は、『今までが多すぎたのよ。わたくしたちも、自分でできることは自分でやらないと』と笑いながら言っていたけど、どう考えても異常な光景だった。
今残っている使用人は、僕が塔の部屋に閉じ込められた後に雇われた、若い子たちばかりだ。
だから僕のことを知らないし、どうやらフィルのことさえも知らないらしい。もしフィルのことを知っているのなら、双子だからその時点で気付くだろう。
使用人たちはこの家に『オメガの息子』がいるという事実は知らないし、学業に忙しいフィルの存在も話では聞いているけれど……という程度らしい。
そんな中、僕は偽名を名乗って、新しい使用人見習いということで、仲間に入り仕事をすることになった。
エミール、愛称はエミ。お母様が付けてくれた、僕のもうひとつの名前だ。
些細なことで体調を崩しやすい僕が使用人なんて務まるのかと思ったけど、他の使用人たちは皆優しかった。
お母様が『身寄りのないオメガを引き取り、世話をすることになった』という主旨の説明をしてあるらしい。奥様直々の言葉なので皆それを信じ、可哀想な僕を気にかけてくれた。
使用人たちは、全員で手分けをする家政業務の他に、決められた部屋を管理するように、各々与えられている部屋もあった。
管理というのは大げさだけど、例えば僕が担当している部屋は『奥様の書斎』で、掃除はもちろん、快適に過ごせるように花を飾ったりもした。
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