【本編完結】再び巡り合う時 ~転生オメガバース~

一ノ瀬麻紀

文字の大きさ
57 / 86

56. お父様の出した答え

しおりを挟む
「詳しい内容は……また機会を見て改めて説明することにして、話を続けます」

 フィルは驚いて声を上げた僕をちらりと見て『後で説明するから』と目で伝えてきた。
 確かにそうだ。今この場で詳しい内容を知らないのは僕だけだ。それなら、また後での説明でも十分だろう。……僕はフィルの目を見て、小さくうなずいた。

「お父様は、リヒター公爵家とのつながりを強固にすることに必死になり、その結果、周りが見えなくなってしまいました。そして知らないうちに、その犯罪に加担することになってしまったのです」

 ……!

 驚きの連続で、僕は再び目を大きく見開いた。
 リヒター公爵家が犯罪に手を染めていただけではなく、お父様が加担していたとは……。けれど、知らないうちってどういう意味なんだろう?

「リヒター公爵家の慈善事業そのものに、問題があったのです。それを知らないお父様は、資金援助という形でお金を渡した。……ただ、実際に使われたお金はほんの一部だったそうです。お父様の渡したお金のほとんどは、リヒター公爵家の人々の贅沢のために使われていたそうです」

 フィルはそこまで言うと、お父様の顔を見た。

「お父様。ここまでは問題ないですね?」

 フィルの問いかけに、お父様は少し不満そうな顔でうなずいた。

「他にも、お父様が関わった人々に関しても調べがついています。リヒター公爵家のみではありません。……ですので、このままだとお父様も関わった人物として裁かれてしまう可能性があります」

 ……!

 もう何度目だろうか。フィルの言葉に驚き、お父様とフィルの顔を交互に見た。

「お父様には、事前にすべてをお話ししておきました。そして、今後の対応や、ハイネル家についての提案もさせていただいています。……ではここで、お父様にお答えいただきたいです。……僕たちの提案に、承諾していただけますか?」

 フィルはそこまで一気に言い切ると、息をひそめた。
 先程まで響いていたフィルの声もしなくなり、静寂があたりに広がる。
 なんて重苦しい空気なのだろう。僕は耐えきれなくなり、再び下を向いた。


 時間としては、そんなに長くなかったはずだ。けれど、こういうときの時間の流れは、とてつもなく長く感じた。
 静寂の中に、かすかに聞こえる皆の息遣いだけを、耳が拾う。

 その静寂を破り、かたっと音を立てたのは、お父様だった。
 お父様は静かに立ち上がると、横に座るフィルの方を見た。

「フィラット……。お前の条件を……のもう……」

 唇を少し噛み締め、お父様は短く言った。
 その言葉を聞き、フィルは確認をするように、お父様を真っ直ぐ見た。お父様はその視線に答えるように、うなずきながら小さく息を吐きだした。

「いずれ、ハイネル家はお前に任せるつもりでいた。……ちょうどよい頃合いなのかもしれない」

 お父様の答えに、この場にいる全員が安堵の表情をみせた。
 ただ僕一人だけ、お父様に何があって何を提案したのか、まったくわかっていない。
 けれど、今この時、ハイネル家当主の座を、フィルに託されたのだということだけは理解できた。

「……お父様、ご理解いただき、ありがとうございます。ハイネル伯爵家の当主として、恥じぬよう精進してまいります」

 泣き虫で甘えん坊のフィルの面影は、もうどこにもなかった。
 別々のベッドを与えられても、淋しいからと僕のところに入り込んで来ていたのが嘘のようだった。
 目の前にいるフィルは、家の問題に勇敢に立ち向かい、ひとまわりもふたまわりも成長した姿を見せていた。
 その眼差しには決意が宿り、かつての弱さはもう感じられなかった。

「当面の間は、ハイネル家当主代理という形で、僕が公の場に立つことになります。そして十八歳の誕生日を迎える時に、正式に僕がハイネル伯爵家の当主となることを、皆さんにお知らせする予定でいます」
「わかった……」
「お父様からは、まだまだ学ばなければいけないことがたくさんあります。経験の浅い未熟な僕に、これからも、お力添えをいただけると嬉しいです」

 フィルはそう言うと、お父様に深く頭を下げた。
しおりを挟む
感想 42

あなたにおすすめの小説

【本編完結済】神子は二度、姿を現す

江多之折(エタノール)
BL
1/7外伝含め完結 ファンタジー世界で成人し、就職しに王城を訪れたところ異世界に転移した少年が転移先の世界で神子となり、壮絶な日々の末、自ら命を絶った前世を思い出した主人公。 死んでも戻りたかった元の世界には戻ることなく異世界で生まれ変わっていた事に絶望したが 神子が亡くなった後に取り残された王子の苦しみを知り、向き合う事を決めた。 戻れなかった事を恨み、死んだことを後悔し、傷付いた王子を助けたいと願う少年の葛藤。 王子様×元神子が転生した侍従の過去の苦しみに向き合い、悩みながら乗り越えるための物語。 ※小説家になろうに掲載していた作品を改修して投稿しています。 描写はキスまでの全年齢BL

私は〈元〉小石でございます! ~癒し系ゴーレムと魔物使い~

Ss侍
ファンタジー
 "私"はある時目覚めたら身体が小石になっていた。  動けない、何もできない、そもそも身体がない。  自分の運命に嘆きつつ小石として過ごしていたある日、小さな人形のような可愛らしいゴーレムがやってきた。 ひょんなことからそのゴーレムの身体をのっとってしまった"私"。  それが、全ての出会いと冒険の始まりだとは知らずに_____!!

きっと、君は知らない

mahiro
BL
前世、というのだろうか。 俺は前、日本という国で暮らしていて、あの日は中学時代にお世話になった先輩の結婚式に参列していた。 大人になった先輩と綺麗な女性の幸せそうな姿に胸を痛めながら見つめていると二人の間に産まれたという女の子がひとりで車道に向かい歩いている姿が目に入った。 皆が主役の二人に夢中で子供の存在に気付いておらず、俺は慌ててその子供のもとへと向かった。 あと少しで追い付くというタイミングで大型の車がこちらに向かってくるのが見え、慌ててその子供の手を掴み、彼らのいる方へと突き飛ばした。 次の瞬間、俺は驚く先輩の目と合ったような気がするが、俺の意識はそこで途絶えてしまった。 次に目が覚めたのは見知らぬ世界で、聞いたことのない言葉が行き交っていた。 それから暫く様子を見ていたが、どうやら俺は異世界に転生したらしく………?

聖女の兄で、すみません!

たっぷりチョコ
BL
聖女として呼ばれた妹の代わりに異世界に召喚されてしまった、古河大矢(こがだいや)。 三ヶ月経たないと元の場所に還れないと言われ、素直に待つことに。 そんな暇してる大矢に興味を持った次期国王となる第一王子が話しかけてきて・・・。 BL。ラブコメ異世界ファンタジー。

嘘つき王と影の騎士

篠雨
BL
「俺の役割は、貴方を守ることだ。……例え、貴方自身からも」 国の平穏を一身に背負い、十二年間「聖王」という偶像を演じ続けてきたセシル。 酷使し続けた心身はすでに限界を迎え、その命の灯火は今にも消えようとしていた。 そんな折、現れたのは異世界からの「転移者」。 代わりを見つけた国は、用済みとなったセシルからすべてを剥奪し、最果ての地へと追放する。 死を待つためだけに辿り着いた冬の山。 絶望に沈むセシルの前に現れたのは、かつて冷徹に王を監視し続けていた近衛騎士団長、アルヴィスだった。 守るべき王も、守るべき国も失ったはずの二人が過ごす、狭い小屋での夜。 無価値になり、壊れかけた自分を、なぜこの男は、そんな瞳で見つめるのか。 なぜ、そんなにも強く、抱きしめるのか。 これは、すべてを失った「聖王」が、一人の男の熱に暴かれ、再生していくまでの物語。

不遇聖女様(男)は、国を捨てて闇落ちする覚悟を決めました!

ミクリ21
BL
聖女様(男)は、理不尽な不遇を受けていました。 その不遇は、聖女になった7歳から始まり、現在の15歳まで続きました。 しかし、聖女ラウロはとうとう国を捨てるようです。 何故なら、この世界の成人年齢は15歳だから。 聖女ラウロは、これからは闇落ちをして自由に生きるのだ!!(闇落ちは自称)

秘匿された第十王子は悪態をつく

なこ
BL
ユーリアス帝国には十人の王子が存在する。 第一、第二、第三と王子が産まれるたびに国は湧いたが、第五、六と続くにつれ存在感は薄れ、第十までくるとその興味関心を得られることはほとんどなくなっていた。 第十王子の姿を知る者はほとんどいない。 後宮の奥深く、ひっそりと囲われていることを知る者はほんの一握り。 秘匿された第十王子のノア。黒髪、薄紫色の瞳、いわゆる綺麗可愛(きれかわ)。 ノアの護衛ユリウス。黒みかがった茶色の短髪、寡黙で堅物。塩顔。 少しずつユリウスへ想いを募らせるノアと、頑なにそれを否定するユリウス。 ノアが秘匿される理由。 十人の妃。 ユリウスを知る渡り人のマホ。 二人が想いを通じ合わせるまでの、長い話しです。

あと一度だけでもいいから君に会いたい

藤雪たすく
BL
異世界に転生し、冒険者ギルドの雑用係として働き始めてかれこれ10年ほど経つけれど……この世界のご飯は素材を生かしすぎている。 いまだ食事に馴染めず米が恋しすぎてしまった為、とある冒険者さんの事が気になって仕方がなくなってしまった。 もう一度あの人に会いたい。あと一度でもあの人と会いたい。 ※他サイト投稿済み作品を改題、修正したものになります

処理中です...