【本編完結】再び巡り合う時 ~転生オメガバース~

一ノ瀬麻紀

文字の大きさ
59 / 86

58. 順を追って

しおりを挟む
 部屋に戻った僕は「疲れたぁぁ」と言って、ベッドにダイブした。
 まるで自分の部屋かのように言ってるけど、ここはお母様の書斎。でも、僕の部屋のように使っていいとお母様も言ってたし、ちょっとくらい羽根を伸ばしても良いよね。

「旦那様の承諾も得られたし、俺たちの婚約も家族みんなに伝えられてよかった」

 ベッドにダイブするように飛び込んだ僕は、布団に顔を擦り付けた。そんな僕のそばに、寄り添うように立ったままのフレッドは安堵の声をあげた。

「あ、そうだ! さっき名乗ってた、フレドリック・アーホルンって?」

 僕は、ふと聞きたいことを思い出して、がばっと起き上がった。そしてベッドの縁に腰掛けると、フレッドを見上げて言った。

 僕たちの婚約の報告の時に、フレッドが名乗っていた名前。初めて聞く名前だったから、あれ? って思ったけど、あの場で話を止められるわけがない。
 気になるけど、あとで聞こうと思っていたんだ。

「ああ、あれは俺の今の名前」
「今の名前?」
「その事も含めて、順を追って話していくよ」

 フレッドは「隣、良いかな?」そう言って、僕のとなりに静かに腰を下ろした。

「怪我をしてしまったあとのことなんだけど……」

 あの日のことを話し出したのを聞いて、僕は一気に顔を曇らせた。

「フレッド、ごめんね……。僕をかばったから……」
「大丈夫。ミッチは悪くないから」
「でも」
「俺は、ミッチが無傷だったとあとから聞いて、自分が誇らしかったよ。……好きな人を守れたんだから」

 フレッドは、僕を安心させるように頭をポンポンっと撫でて言った。

「あの時、前世の記憶を取り戻したんだ」
「あの時に?」
「そう。でも、俺たちは容姿も違っていたし、ミッチが生まれ変わりとは分からなかった」
「前世の記憶を持って生まれ変わった僕でも、フレッドがまさかリクだとは思わなかったよ」

 生まれ変わってまた出会いたいなんて前世で約束していたけど、同じ容姿なわけがない。
 しかも別人として生まれ変わるのだから、たとえ前世の記憶を持って生まれ変わったとしても、お互いに認識するのは難しいだろう。

「ミッチに初めて会ったときから、何か懐かしいような不思議な感覚に陥ることが何度もあったんだ」
「フレッドも!?」

 僕は驚いて声を上げた。僕もフレッドと同じだったからだ。
 初めて会ったときから、初めてじゃないような、何か特別な気持ちになった。でもそれが何なのかわからないまま、どんどんフレッドに惹かれていった。

「俺はミッチの存在がとても気になるようになった。そして一緒に過ごすうちに、ミッチに抱くいだく感情が特別なものだと気付いたんだ。だから、ミッチが生まれ変わりなら良いのにって、何度も思った。でもミッチは、時々指輪を眺めていただろう? とても大切そうだったから、誰かにもらったものなのだろうって。俺は、その誰かに嫉妬していた」
「ふふふ。それが自分だったんだね」
「俺の持っている指輪は、俺を産んだ人が置いていったものだと思っていたから、ペアリングだなんて気付かなかったし」

 フレッドはそう言うと、指にはめている指輪を、愛おしそうな目で見つめた。

「だから、ミッチは責任を感じているかもしれないけど、あのことがきっかけで記憶が戻って、再び思いを通わせることが出来た。そう考えると、あの事故も必然だったんじゃないかとさえ思うよ」
「そう……なの、かな……」

 フレッドはそう言ってくれるけど、フレッドが僕をかばって怪我をしてしまったことは事実。
 僕は自分を無理やり納得させるようにそう言ったけど、どうも煮えきらない思いを抱えたまま、フレッドの話の続きを待った。
しおりを挟む
感想 42

あなたにおすすめの小説

不遇聖女様(男)は、国を捨てて闇落ちする覚悟を決めました!

ミクリ21
BL
聖女様(男)は、理不尽な不遇を受けていました。 その不遇は、聖女になった7歳から始まり、現在の15歳まで続きました。 しかし、聖女ラウロはとうとう国を捨てるようです。 何故なら、この世界の成人年齢は15歳だから。 聖女ラウロは、これからは闇落ちをして自由に生きるのだ!!(闇落ちは自称)

転生令息は冒険者を目指す!?

葛城 惶
BL
ある時、日本に大規模災害が発生した。  救助活動中に取り残された少女を助けた自衛官、天海隆司は直後に土砂の崩落に巻き込まれ、意識を失う。  再び目を開けた時、彼は全く知らない世界に転生していた。  異世界で美貌の貴族令息に転生した脳筋の元自衛官は憧れの冒険者になれるのか?!  とってもお馬鹿なコメディです(;^_^A

今世はメシウマ召喚獣

片里 狛
BL
オーバーワークが原因でうっかり命を落としたはずの最上春伊25歳。召喚獣として呼び出された世界で、娼館の料理人として働くことになって!?的なBL小説です。 最終的に溺愛系娼館主人様×全般的にふつーの日本人青年。 ※女の子もゴリゴリ出てきます。 ※設定ふんわりとしか考えてないので穴があってもスルーしてください。お約束等には疎いので優しい気持ちで読んでくださると幸い。 ※誤字脱字の報告は不要です。いつか直したい。 ※なるべくさくさく更新したい。

あと一度だけでもいいから君に会いたい

藤雪たすく
BL
異世界に転生し、冒険者ギルドの雑用係として働き始めてかれこれ10年ほど経つけれど……この世界のご飯は素材を生かしすぎている。 いまだ食事に馴染めず米が恋しすぎてしまった為、とある冒険者さんの事が気になって仕方がなくなってしまった。 もう一度あの人に会いたい。あと一度でもあの人と会いたい。 ※他サイト投稿済み作品を改題、修正したものになります

異世界で8歳児になった僕は半獣さん達と仲良くスローライフを目ざします

み馬下諒
BL
志望校に合格した春、桜の樹の下で意識を失った主人公・斗馬 亮介(とうま りょうすけ)は、気がついたとき、異世界で8歳児の姿にもどっていた。 わけもわからず放心していると、いきなり巨大な黒蛇に襲われるが、水の精霊〈ミュオン・リヒテル・リノアース〉と、半獣属の大熊〈ハイロ〉があらわれて……!? これは、異世界へ転移した8歳児が、しゃべる動物たちとスローライフ?を目ざす、ファンタジーBLです。 おとなサイド(半獣×精霊)のカプありにつき、R15にしておきました。 ※ 造語、出産描写あり。前置き長め。第21話に登場人物紹介を載せました。 ★お試し読みは第1部(第22〜27話あたり)がオススメです。物語の傾向がわかりやすいかと思います★ ★第11回BL小説大賞エントリー作品★最終結果2773作品中/414位★応援ありがとうございました★

【完】三度目の死に戻りで、アーネスト・ストレリッツは生き残りを図る

112
BL
ダジュール王国の第一王子アーネストは既に二度、処刑されては、その三日前に戻るというのを繰り返している。三度目の今回こそ、処刑を免れたいと、見張りの兵士に声をかけると、その兵士も同じように三度目の人生を歩んでいた。 ★本編で出てこない世界観  男同士でも結婚でき、子供を産めます。その為、血統が重視されています。

婚約破棄されて追放された僕、実は森羅万象に愛される【寵愛者】でした。冷酷なはずの公爵様から、身も心も蕩けるほど溺愛されています

水凪しおん
BL
貧乏男爵家の三男アレンは、「魔力なし」を理由に婚約者である第二王子から婚約破棄を言い渡され、社交界の笑い者となる。家族からも見放され、全てを失った彼の元に舞い込んだのは、王国最強と謳われる『氷の貴公子』ルシウス公爵からの縁談だった。 「政略結婚」――そう割り切っていたアレンを待っていたのは、噂とはかけ離れたルシウスの異常なまでの甘やかしと、執着に満ちた熱い眼差しだった。 「君は私の至宝だ。誰にも傷つけさせはしない」 戸惑いながらも、その不器用で真っ直ぐな愛情に、アレンの凍てついた心は少しずつ溶かされていく。 そんな中、領地を襲った魔物の大群を前に、アレンは己に秘められた本当の力を解放する。それは、森羅万象の精霊に愛される【全属性の寵愛者】という、規格外のチート能力。 なぜ彼は、自分にこれほど執着するのか? その答えは、二人の魂を繋ぐ、遥か古代からの約束にあった――。 これは、どん底に突き落とされた心優しき少年が、魂の番である最強の騎士に見出され、世界一の愛と最強の力を手に入れる、甘く劇的なシンデレラストーリー。

秘匿された第十王子は悪態をつく

なこ
BL
ユーリアス帝国には十人の王子が存在する。 第一、第二、第三と王子が産まれるたびに国は湧いたが、第五、六と続くにつれ存在感は薄れ、第十までくるとその興味関心を得られることはほとんどなくなっていた。 第十王子の姿を知る者はほとんどいない。 後宮の奥深く、ひっそりと囲われていることを知る者はほんの一握り。 秘匿された第十王子のノア。黒髪、薄紫色の瞳、いわゆる綺麗可愛(きれかわ)。 ノアの護衛ユリウス。黒みかがった茶色の短髪、寡黙で堅物。塩顔。 少しずつユリウスへ想いを募らせるノアと、頑なにそれを否定するユリウス。 ノアが秘匿される理由。 十人の妃。 ユリウスを知る渡り人のマホ。 二人が想いを通じ合わせるまでの、長い話しです。

処理中です...