75 / 86
74. 歓迎
しおりを挟む
「俺は、屋敷にいるよりも、街に出て領民たちと触れ合ってる時間のほうが長かったんだ。今までアーホルン公爵家にいなかった人間が突然やってきて、『この人が次期当主だ』なんて言われても、領民たちは納得するわけないだろう? だから、まずは領民たちの生活を知ることから始めようと思ったんだ」
「でも、アーホルン公爵は、家の仕事を覚えてほしかったんじゃないの?」
「もちろんその思いもあったと思う。けど、領民あってこそのアーホルン領という考えは、アーホルン公爵家代々の考えなんだそうだ」
「すごい。オメガに偏見がないだけじゃなくて、民に寄り添う統治をしてきたんだね」
僕がフレッドの話を感心しながら聞いていると、領民たちはとても誇らしげにうなずいていた。
「もともと俺は身寄りがなく孤児院育ちだろう? だからお屋敷内での業務や貴族相手の外交なんかよりも、領民たちと一緒に、汗水たらして街の発展に貢献したほうが、よっぽど性に合うんだ」
「フレッド様が来てくれたから、かなり助かったんですよ。労働力というのもありますけど、公爵様に皆の要望などしっかりと伝えて、迅速に対応していただけるようになって、さらに住み良い街になりました」
うんうんと皆でうなずき合う。
ハイネル家も、僕がオメガだと分かる前のお父様は、領民たちにも家族にもとても寄り添ってくれていた。だからこそ、嘆願書の協力を依頼したときは、みな喜んで協力してくれたのだと思う。
学院入学準備をしているあたりから、お父様のもとにはおじい様から頻繁に連絡が入っていたらしい。アルファ至上主義の考えを持つ家系だから、もしかしたら、おじい様やおばあ様からの重圧があったのかもしれない。だから、あんな行動を取ってしまったのだと思う。
あの日々は辛かったけど、これからのハイネル家も、アーホルン家と同様に開かれた統治をしていくだろう。
「孤児だった俺を受け入れてくれるのだろうかという心配をよそに、ここの人たちはとても良くしてくれた。だから俺もそれに応えなくてはと思ったんだ。俺を受け入れてくれた大切な人たちに、早くミッチを会わせたかった。きっとすぐ気に入ってくれると少しも疑わなかったよ」
フレッドは、「ほらな?」と言いながら、何度目かの拍手喝采をする領民たちに、笑顔で手を振り返した。
その日は日が暮れるまで、街を散策した。
挨拶をしたあと、領民たちが僕の手を引き、あちらこちらへと連れて行ってくれた。
美味しい食べ物のあるお店、可愛い雑貨のあるお店、ちょっとした遊びのできる店など、様々だった。
さんざん紹介してくれたのに、まだまだ足りないらしく「ミッチ様、お泊りしないの?」って、子どもたちに懇願されてしまった。
子どもたちの言葉を聞いて、大人たちまで「そうですよ、フレッド様とお二人でゆっくりされるのはどうですか? 夜景が綺麗ですよ」そう言って、宿泊を勧めてきた。
泊まりたいのは山々だけど、明日にはハイネル家に戻らないとならない。夜の食事はアーホルン公爵家で頂く予定になっている。
「また日を改めて訪ねてくるので、そのときはもっとたくさんの場所を案内してくださいね」
申し訳無さそうに謝る僕に、皆は「もちろんですー」「任せてください」「楽しみだわー」と、口々に嬉しそうに言った。
「今日はありがとうございました。とても楽しかったです。オメガの僕を受け入れていただけるか不安だったけど、こんなに歓迎していただけるなんて思ってもみなくて……。本当に来てよかったです。これからもよろしくお願いします」
僕が帰り際に挨拶をすると、領民の一人が近くに来て言った。
「オメガもアルファもベータも、みんな同じ人間です。分けて考えるのがおかしいんですよ。私は他の領土からやってきたのですが、本当に来てよかった」
「そう……ですね。皆同じなんですよね」
僕は、込み上げてくる涙をぐっと抑え、笑顔で手を振りながら、広場をあとにした。
「でも、アーホルン公爵は、家の仕事を覚えてほしかったんじゃないの?」
「もちろんその思いもあったと思う。けど、領民あってこそのアーホルン領という考えは、アーホルン公爵家代々の考えなんだそうだ」
「すごい。オメガに偏見がないだけじゃなくて、民に寄り添う統治をしてきたんだね」
僕がフレッドの話を感心しながら聞いていると、領民たちはとても誇らしげにうなずいていた。
「もともと俺は身寄りがなく孤児院育ちだろう? だからお屋敷内での業務や貴族相手の外交なんかよりも、領民たちと一緒に、汗水たらして街の発展に貢献したほうが、よっぽど性に合うんだ」
「フレッド様が来てくれたから、かなり助かったんですよ。労働力というのもありますけど、公爵様に皆の要望などしっかりと伝えて、迅速に対応していただけるようになって、さらに住み良い街になりました」
うんうんと皆でうなずき合う。
ハイネル家も、僕がオメガだと分かる前のお父様は、領民たちにも家族にもとても寄り添ってくれていた。だからこそ、嘆願書の協力を依頼したときは、みな喜んで協力してくれたのだと思う。
学院入学準備をしているあたりから、お父様のもとにはおじい様から頻繁に連絡が入っていたらしい。アルファ至上主義の考えを持つ家系だから、もしかしたら、おじい様やおばあ様からの重圧があったのかもしれない。だから、あんな行動を取ってしまったのだと思う。
あの日々は辛かったけど、これからのハイネル家も、アーホルン家と同様に開かれた統治をしていくだろう。
「孤児だった俺を受け入れてくれるのだろうかという心配をよそに、ここの人たちはとても良くしてくれた。だから俺もそれに応えなくてはと思ったんだ。俺を受け入れてくれた大切な人たちに、早くミッチを会わせたかった。きっとすぐ気に入ってくれると少しも疑わなかったよ」
フレッドは、「ほらな?」と言いながら、何度目かの拍手喝采をする領民たちに、笑顔で手を振り返した。
その日は日が暮れるまで、街を散策した。
挨拶をしたあと、領民たちが僕の手を引き、あちらこちらへと連れて行ってくれた。
美味しい食べ物のあるお店、可愛い雑貨のあるお店、ちょっとした遊びのできる店など、様々だった。
さんざん紹介してくれたのに、まだまだ足りないらしく「ミッチ様、お泊りしないの?」って、子どもたちに懇願されてしまった。
子どもたちの言葉を聞いて、大人たちまで「そうですよ、フレッド様とお二人でゆっくりされるのはどうですか? 夜景が綺麗ですよ」そう言って、宿泊を勧めてきた。
泊まりたいのは山々だけど、明日にはハイネル家に戻らないとならない。夜の食事はアーホルン公爵家で頂く予定になっている。
「また日を改めて訪ねてくるので、そのときはもっとたくさんの場所を案内してくださいね」
申し訳無さそうに謝る僕に、皆は「もちろんですー」「任せてください」「楽しみだわー」と、口々に嬉しそうに言った。
「今日はありがとうございました。とても楽しかったです。オメガの僕を受け入れていただけるか不安だったけど、こんなに歓迎していただけるなんて思ってもみなくて……。本当に来てよかったです。これからもよろしくお願いします」
僕が帰り際に挨拶をすると、領民の一人が近くに来て言った。
「オメガもアルファもベータも、みんな同じ人間です。分けて考えるのがおかしいんですよ。私は他の領土からやってきたのですが、本当に来てよかった」
「そう……ですね。皆同じなんですよね」
僕は、込み上げてくる涙をぐっと抑え、笑顔で手を振りながら、広場をあとにした。
103
あなたにおすすめの小説
婚約破棄されて追放された僕、実は森羅万象に愛される【寵愛者】でした。冷酷なはずの公爵様から、身も心も蕩けるほど溺愛されています
水凪しおん
BL
貧乏男爵家の三男アレンは、「魔力なし」を理由に婚約者である第二王子から婚約破棄を言い渡され、社交界の笑い者となる。家族からも見放され、全てを失った彼の元に舞い込んだのは、王国最強と謳われる『氷の貴公子』ルシウス公爵からの縁談だった。
「政略結婚」――そう割り切っていたアレンを待っていたのは、噂とはかけ離れたルシウスの異常なまでの甘やかしと、執着に満ちた熱い眼差しだった。
「君は私の至宝だ。誰にも傷つけさせはしない」
戸惑いながらも、その不器用で真っ直ぐな愛情に、アレンの凍てついた心は少しずつ溶かされていく。
そんな中、領地を襲った魔物の大群を前に、アレンは己に秘められた本当の力を解放する。それは、森羅万象の精霊に愛される【全属性の寵愛者】という、規格外のチート能力。
なぜ彼は、自分にこれほど執着するのか?
その答えは、二人の魂を繋ぐ、遥か古代からの約束にあった――。
これは、どん底に突き落とされた心優しき少年が、魂の番である最強の騎士に見出され、世界一の愛と最強の力を手に入れる、甘く劇的なシンデレラストーリー。
転生令息は冒険者を目指す!?
葛城 惶
BL
ある時、日本に大規模災害が発生した。
救助活動中に取り残された少女を助けた自衛官、天海隆司は直後に土砂の崩落に巻き込まれ、意識を失う。
再び目を開けた時、彼は全く知らない世界に転生していた。
異世界で美貌の貴族令息に転生した脳筋の元自衛官は憧れの冒険者になれるのか?!
とってもお馬鹿なコメディです(;^_^A
異世界で8歳児になった僕は半獣さん達と仲良くスローライフを目ざします
み馬下諒
BL
志望校に合格した春、桜の樹の下で意識を失った主人公・斗馬 亮介(とうま りょうすけ)は、気がついたとき、異世界で8歳児の姿にもどっていた。
わけもわからず放心していると、いきなり巨大な黒蛇に襲われるが、水の精霊〈ミュオン・リヒテル・リノアース〉と、半獣属の大熊〈ハイロ〉があらわれて……!?
これは、異世界へ転移した8歳児が、しゃべる動物たちとスローライフ?を目ざす、ファンタジーBLです。
おとなサイド(半獣×精霊)のカプありにつき、R15にしておきました。
※ 造語、出産描写あり。前置き長め。第21話に登場人物紹介を載せました。
★お試し読みは第1部(第22〜27話あたり)がオススメです。物語の傾向がわかりやすいかと思います★
★第11回BL小説大賞エントリー作品★最終結果2773作品中/414位★応援ありがとうございました★
マリオネットが、糸を断つ時。
せんぷう
BL
異世界に転生したが、かなり不遇な第二の人生待ったなし。
オレの前世は地球は日本国、先進国の裕福な場所に産まれたおかげで何不自由なく育った。確かその終わりは何かの事故だった気がするが、よく覚えていない。若くして死んだはずが……気付けばそこはビックリ、異世界だった。
第二生は前世とは正反対。魔法というとんでもない歴史によって構築され、貧富の差がアホみたいに激しい世界。オレを産んだせいで母は体調を崩して亡くなったらしくその後は孤児院にいたが、あまりに酷い暮らしに嫌気がさして逃亡。スラムで前世では絶対やらなかったような悪さもしながら、なんとか生きていた。
そんな暮らしの終わりは、とある富裕層らしき連中の騒ぎに関わってしまったこと。不敬罪でとっ捕まらないために背を向けて逃げ出したオレに、彼はこう叫んだ。
『待て、そこの下民っ!! そうだ、そこの少し小綺麗な黒い容姿の、お前だお前!』
金髪縦ロールにド派手な紫色の服。装飾品をジャラジャラと身に付け、靴なんて全然汚れてないし擦り減ってもいない。まさにお貴族様……そう、貴族やら王族がこの世界にも存在した。
『貴様のような虫ケラ、本来なら僕に背を向けるなどと斬首ものだ。しかし、僕は寛大だ!!
許す。喜べ、貴様を今日から王族である僕の傍に置いてやろう!』
そいつはバカだった。しかし、なんと王族でもあった。
王族という権力を振り翳し、盾にするヤバい奴。嫌味ったらしい口調に人をすぐにバカにする。気に入らない奴は全員斬首。
『ぼ、僕に向かってなんたる失礼な態度っ……!! 今すぐ首をっ』
『殿下ったら大変です、向こうで殿下のお好きな竜種が飛んでいた気がします。すぐに外に出て見に行きませんとー』
『なにっ!? 本当か、タタラ! こうしては居られぬ、すぐに連れて行け!』
しかし、オレは彼に拾われた。
どんなに嫌な奴でも、どんなに周りに嫌われていっても、彼はどうしようもない恩人だった。だからせめて多少の恩を返してから逃げ出そうと思っていたのに、事態はどんどん最悪な展開を迎えて行く。
気に入らなければ即断罪。意中の騎士に全く好かれずよく暴走するバカ王子。果ては王都にまで及ぶ危険。命の危機など日常的に!
しかし、一緒にいればいるほど惹かれてしまう気持ちは……ただの忠誠心なのか?
スラム出身、第十一王子の守護魔導師。
これは運命によってもたらされた出会い。唯一の魔法を駆使しながら、タタラは今日も今日とてワガママ王子の手綱を引きながら平凡な生活に焦がれている。
※BL作品
恋愛要素は前半皆無。戦闘描写等多数。健全すぎる、健全すぎて怪しいけどこれはBLです。
.
a life of mine ~この道を歩む~
野々乃ぞみ
BL
≪腹黒い他国の第二王子×負けず嫌いの転生者≫
第二王子:ブライトル・モルダー・ヴァルマ
主人公の転生者:エドマンド・フィッツパトリック
【第一部】この道を歩む~転生先で真剣に生きていたら、第二王子に真剣に愛された~
エドマンドは13歳の誕生日に日本人だったことを静かに思い出した。
転生先は【エドマンド・フィッツパトリック】で、二年後に死亡フラグが立っていた。
エドマンドに不満を持った隣国の第二王子である【ブライトル・ モルダー・ヴァルマ】と険悪な関係になるものの、いつの間にか友人や悪友のような関係に落ち着く二人。
死亡フラグを折ることで国が負けるのが怖いエドマンドと、必死に生かそうとするブライトル。
「僕は、生きなきゃ、いけないのか……?」
「当たり前だ。俺を残して逝く気だったのか? 恨むぞ」
【第二部】この道を歩む~異文化と感情と、逃げられない運命のようなものと~
必死に手繰り寄せた運命の糸によって、愛や友愛を知り、友人たちなどとの共闘により、見事死亡フラグを折ったエドマンドは、原作とは違いブライトルの母国であるトーカシア国へ行く。
異文化に触れ、余り歓迎されない中、ブライトルの婚約者として過ごす毎日。そして、また新たな敵の陰が現れる。
二部は戦争描写なし。戦闘描写少な目(当社比)です。
全体的にかなりシリアスです。二部以降は、死亡表現やキャラの退場が予想されます。グロではないですが、お気を付け下さい。
闘ったり、負傷したり、国同士の戦争描写があったりします。
本編ド健全です。すみません。
※ 恋愛までが長いです。バトル小説にBLを添えて。
※ 閑話休題以外は主人公視点です。
※ ムーンライトノベルズにも投稿しております。
不遇聖女様(男)は、国を捨てて闇落ちする覚悟を決めました!
ミクリ21
BL
聖女様(男)は、理不尽な不遇を受けていました。
その不遇は、聖女になった7歳から始まり、現在の15歳まで続きました。
しかし、聖女ラウロはとうとう国を捨てるようです。
何故なら、この世界の成人年齢は15歳だから。
聖女ラウロは、これからは闇落ちをして自由に生きるのだ!!(闇落ちは自称)
今世はメシウマ召喚獣
片里 狛
BL
オーバーワークが原因でうっかり命を落としたはずの最上春伊25歳。召喚獣として呼び出された世界で、娼館の料理人として働くことになって!?的なBL小説です。
最終的に溺愛系娼館主人様×全般的にふつーの日本人青年。
※女の子もゴリゴリ出てきます。
※設定ふんわりとしか考えてないので穴があってもスルーしてください。お約束等には疎いので優しい気持ちで読んでくださると幸い。
※誤字脱字の報告は不要です。いつか直したい。
※なるべくさくさく更新したい。
あと一度だけでもいいから君に会いたい
藤雪たすく
BL
異世界に転生し、冒険者ギルドの雑用係として働き始めてかれこれ10年ほど経つけれど……この世界のご飯は素材を生かしすぎている。
いまだ食事に馴染めず米が恋しすぎてしまった為、とある冒険者さんの事が気になって仕方がなくなってしまった。
もう一度あの人に会いたい。あと一度でもあの人と会いたい。
※他サイト投稿済み作品を改題、修正したものになります
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる