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番外編
マリッジブルー
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今日は、僕の恋人リクとのデートの日だ。お互いにずっと忙しかったから、ゆっくり会えるのは久しぶりで、前日からソワソワと落ち着かなかった。遠足前の子どものように夜は眠れず、やっと寝付いたと思ったら、すぐ朝が来た。
僕はなかなか寝付けなかったのに、約束の時間の一時間も前に待ち合わせ場所に着いてしまった。少しでも早く会いたいという気持ちが、僕の背中を押すように、足取り軽く家を飛び出した。
信号が変わるのさえ待ちきれず、無意識に足踏みをしてしまう。そして信号の色が変わると同時に、前方に見える公園に向かって駆け出した。
横断歩道を渡り終え、そのまま南に向かうと公園に到着するけど、まだ時間もあるしと思って、近くを散策することにした。
僕の目の前に飛び込んできたのは、一軒のジュエリーショップだった。僕は吸い込まれるように店の前まで行くけれど、一人で入る勇気はなく、ガラス張りの店内をこっそりと覗き見た。
店内には、男女のカップルだろうか。楽しそうに何かを選んでいる様子だった。
お付き合いの記念のペアリングだろうか。それとも、婚約指輪だろうか? 僕もいつかは……なんて思っていたら、店内の男女が方向を変えて動き出した。道路側に立つ男性の横顔が見えた途端、僕は一瞬息が止まったかのようだった。
「リ……ク?」
きっと見間違えだ。僕は自分にそう言い聞かせて、その場を離れ待ち合わせ場所に向かった。
約束の時間の三十分ほど前に、リクはニコニコ手を振りながらやってきた。
「ミチ、お待たせ。ごめんね、遅れちゃって」
「まだ、約束の時間の……三十分も、前……だよ?」
無理やり笑顔を作ってそう応えたけど、さっきの映像が脳内をちらつく。
でも目の前のリクは、普段と変わった様子はみられない。
「楽しみすぎて、早く家を出てきたんだ」
「……うん、僕も一緒だよ」
ほら、リクだって今日のデートを楽しみにしてくれていたんだ。きっと、さっきのは見間違いだ。
僕は安心して『見間違い』の話を始めた。
「さっき、ここに来る時に、ジュエリーショップの前を通ったんだ。そしたら、リクに似た人が店内にいて、僕びっくりしちゃったよ」
僕の話に、リクは笑って、そうなんだ? って言ってくれると思ったのに、一瞬動きを止めて目見開いた。
「え……? ミチ、あそこにいたの?」
「えっ……?」
想定外のリクの反応に、今度は僕の動きが止まった。
「俺が何をしていたか、見ちゃった?」
僕は鈍器で殴られたような衝撃を受けた。
「リク……だったの?」
男女仲睦まじく指輪を選んでいるシーンを思い出して、僕は恐る恐る問いかけた。
けれど目の前にいる『僕の彼氏』は、謝ることも言い訳することもなく、困った顔で僕を見る。
──ああ。それが答えなんだね。
逃げるように駆け出した僕の身体は、気付いた時は大きな衝撃に跳ね飛ばされていた。
◇
「──チ、ミッチ!」
体を揺さぶられる感覚で目を覚ますと、目の前には心配そうに僕の顔を覗き込む、最愛の人の顔があった。
「……フレッ……ド?」
「大丈夫か?」
「?」
「うなされてたから」
夢で良かった。いや、夢ではなくて、これは僕の前世の記憶。
「あの時のこと、思い出しちゃって」
「そうか……。でも大丈夫だ。もうあのときと同じ過ちは繰り返さない。ミッチは俺が守り抜くから」
フレッドは、何度も大丈夫と言いながら、僕の頭を撫でた。
「数日時間が取れそうだから、フィルのところに顔を出そうか」
「え? ほんと? いいの?」
フィルの名前を聞いて、僕はぱっと顔を明るくした。
双子の弟フィルは、やっぱり僕の中で特別な存在だ。恋人であるフレッドがいちばん大切であることは変わりないけれど、フィルは僕の半身だ。抱擁すると、カチッとピースがハマったように安心する。
それをわかってくれているフレッドは、不安になっている僕のために、生家に遊びに行くことを提案してくれた。
「フレッドとの結婚は幸せなはずなのに、なんで僕は不安になってしまうんだろう?」
僕とフレッドは、もうすぐ正式な夫夫となる。
生家も今はフィルの頑張りで安定しているし、今の僕たちの生活も、不安要素などひとつもなく明るい未来しかない。
ここの家のみなさんも領民たちも、ミチの僕だって隔たりなく迎え入れてくれた。
なのに何故こんなに不安なのだろうか。
「幸せすぎるがゆえの不安。というのがあるのかもしれないな」
「幸せすぎる?」
「ミッチは前世からずっと、大変な道を歩んできた。だから、これからは幸せになっていいんだ」
「幸せになっていい……?」
「不安なんか感じる暇もないくらい、俺がめいいっぱい甘やかして幸せにしてやる」
フレッドはそう言うと、僕をふんわりと優しく抱きしめた。
「もう大丈夫。これからは明るい未来が待っているだけだから。ゆっくり歩んでいこう」
「うん、ありがとう、フレッド」
僕の中に漠然と湧き出ていた不安が、ふんわり甘い綿菓子に変わっていくかのようだった。
(終)
✤
マリッジブルーなお話でした。前世でのあの日の出来事にも少し触れてみました。
ツイノベを整えたものです。
悪夢と言うより実際の自分の前世での記憶なので、よけいに不安になっちゃうミッチだけど、フレッドはいつもミッチの欲しい言葉をかけてくれるので、不安なんて吹き飛んじゃいます!
僕はなかなか寝付けなかったのに、約束の時間の一時間も前に待ち合わせ場所に着いてしまった。少しでも早く会いたいという気持ちが、僕の背中を押すように、足取り軽く家を飛び出した。
信号が変わるのさえ待ちきれず、無意識に足踏みをしてしまう。そして信号の色が変わると同時に、前方に見える公園に向かって駆け出した。
横断歩道を渡り終え、そのまま南に向かうと公園に到着するけど、まだ時間もあるしと思って、近くを散策することにした。
僕の目の前に飛び込んできたのは、一軒のジュエリーショップだった。僕は吸い込まれるように店の前まで行くけれど、一人で入る勇気はなく、ガラス張りの店内をこっそりと覗き見た。
店内には、男女のカップルだろうか。楽しそうに何かを選んでいる様子だった。
お付き合いの記念のペアリングだろうか。それとも、婚約指輪だろうか? 僕もいつかは……なんて思っていたら、店内の男女が方向を変えて動き出した。道路側に立つ男性の横顔が見えた途端、僕は一瞬息が止まったかのようだった。
「リ……ク?」
きっと見間違えだ。僕は自分にそう言い聞かせて、その場を離れ待ち合わせ場所に向かった。
約束の時間の三十分ほど前に、リクはニコニコ手を振りながらやってきた。
「ミチ、お待たせ。ごめんね、遅れちゃって」
「まだ、約束の時間の……三十分も、前……だよ?」
無理やり笑顔を作ってそう応えたけど、さっきの映像が脳内をちらつく。
でも目の前のリクは、普段と変わった様子はみられない。
「楽しみすぎて、早く家を出てきたんだ」
「……うん、僕も一緒だよ」
ほら、リクだって今日のデートを楽しみにしてくれていたんだ。きっと、さっきのは見間違いだ。
僕は安心して『見間違い』の話を始めた。
「さっき、ここに来る時に、ジュエリーショップの前を通ったんだ。そしたら、リクに似た人が店内にいて、僕びっくりしちゃったよ」
僕の話に、リクは笑って、そうなんだ? って言ってくれると思ったのに、一瞬動きを止めて目見開いた。
「え……? ミチ、あそこにいたの?」
「えっ……?」
想定外のリクの反応に、今度は僕の動きが止まった。
「俺が何をしていたか、見ちゃった?」
僕は鈍器で殴られたような衝撃を受けた。
「リク……だったの?」
男女仲睦まじく指輪を選んでいるシーンを思い出して、僕は恐る恐る問いかけた。
けれど目の前にいる『僕の彼氏』は、謝ることも言い訳することもなく、困った顔で僕を見る。
──ああ。それが答えなんだね。
逃げるように駆け出した僕の身体は、気付いた時は大きな衝撃に跳ね飛ばされていた。
◇
「──チ、ミッチ!」
体を揺さぶられる感覚で目を覚ますと、目の前には心配そうに僕の顔を覗き込む、最愛の人の顔があった。
「……フレッ……ド?」
「大丈夫か?」
「?」
「うなされてたから」
夢で良かった。いや、夢ではなくて、これは僕の前世の記憶。
「あの時のこと、思い出しちゃって」
「そうか……。でも大丈夫だ。もうあのときと同じ過ちは繰り返さない。ミッチは俺が守り抜くから」
フレッドは、何度も大丈夫と言いながら、僕の頭を撫でた。
「数日時間が取れそうだから、フィルのところに顔を出そうか」
「え? ほんと? いいの?」
フィルの名前を聞いて、僕はぱっと顔を明るくした。
双子の弟フィルは、やっぱり僕の中で特別な存在だ。恋人であるフレッドがいちばん大切であることは変わりないけれど、フィルは僕の半身だ。抱擁すると、カチッとピースがハマったように安心する。
それをわかってくれているフレッドは、不安になっている僕のために、生家に遊びに行くことを提案してくれた。
「フレッドとの結婚は幸せなはずなのに、なんで僕は不安になってしまうんだろう?」
僕とフレッドは、もうすぐ正式な夫夫となる。
生家も今はフィルの頑張りで安定しているし、今の僕たちの生活も、不安要素などひとつもなく明るい未来しかない。
ここの家のみなさんも領民たちも、ミチの僕だって隔たりなく迎え入れてくれた。
なのに何故こんなに不安なのだろうか。
「幸せすぎるがゆえの不安。というのがあるのかもしれないな」
「幸せすぎる?」
「ミッチは前世からずっと、大変な道を歩んできた。だから、これからは幸せになっていいんだ」
「幸せになっていい……?」
「不安なんか感じる暇もないくらい、俺がめいいっぱい甘やかして幸せにしてやる」
フレッドはそう言うと、僕をふんわりと優しく抱きしめた。
「もう大丈夫。これからは明るい未来が待っているだけだから。ゆっくり歩んでいこう」
「うん、ありがとう、フレッド」
僕の中に漠然と湧き出ていた不安が、ふんわり甘い綿菓子に変わっていくかのようだった。
(終)
✤
マリッジブルーなお話でした。前世でのあの日の出来事にも少し触れてみました。
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