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番外編
フィルのお相手は……?
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「ミッチェル様……折り入ってご相談があるのですが……」
いつものように、午後のティータイムをのんびりと中庭で過ごしていたミッチェルに、専属使用人のペーターが話しかけてきた。
「ん? どうかしたの?」
ミッチェルはグラスを口に運ぶ手を止め、ペーターに返事をした。
「あの……ちょっとここでは話しづらいことなので、場所を変えたいのですが……」
いつもは謎に堂々としているペーターが、やけに今日はキョロキョロとまわりの様子をうかがう素振りを見せ、声を潜めている。
「あ……じゃあ、僕の部屋でいい?」
以前はミッチェルの母親専用の離れだった部屋は、今ではミッチェル専用の離れとして使わせてもらっている。
ヒート時も対応できるようにリフォームされ、オメガにとって快適な空間に生まれ変わっていた。
ミッチェルが部屋に案内し中へ入ると、ペーターは大きくため息をついた。
「お休み中のところ、大変申し訳ありません」
「ううん、別に構わないよ。フレッドも仕事だし、お母様も出かけてらして、ちょうど暇してたんだ」
「お気遣い、感謝いたします」
ミッチェルは身重であるためひとりでの外出は禁止、自分の夫も母親も不在で、今日はどこに出かけることも出来ずにいた。だから社交辞令でもなんでもなく、ミッチェルは本当に暇を持て余していて、話し相手が欲しかったのだ。
「僕の方こそ、話し相手ができてよかったよ。……で、話って?」
「……大変話しづらいことなのですが……。ミッチェル様はフィル様のお兄様ですし……オメガの先輩ということで……ご相談がありまして……」
普段はハキハキとしゃべるペーターが、どうも煮えきらずモゴモゴと言葉をつなげた。
「相談?」
「……ハイ。……えっとですね。……最近、フィル様が、……どうにかして私を落とそうと、躍起になってるんですが……」
「っ……! ……あっ! ごめん!」
予想外の相談に、ミッチェルは飲みかけのハーブティーを吹き出してしまった。
「……ああ、ごめんなさい」
ペーターはあわててハンカチを差し出した。ミッチェルはそれを受け取って口元を拭きながら、ペーターの話の続きを促した。
「まぁ、僕も何度か見てるから……。で、どうしたの?」
「はじめは、フィル様のお戯れ。私のことをからかっているのだと思っていたのですが、日に日にアプローチが増していきまして。挙句の果てに、私と二人きりになると、あの……アルファの……フェロモンが濃く香りまして……」
ペーターは耳まで真っ赤にしてそこまで言うと、再びはぁ…とため息をついた。冷静沈着なペーターの、こんな顔は初めて見た。
「そっか。じゃあさ、ペーターはフィルのことをどう思っているの?」
「えっ……? 私がですか? ……当主様として、大変頑張っておられると……」
「当主ではなく、ひとりの人間として、フィルのことをどう思っているのか、教えてほしいな」
ミッチェルは、身分とかそんなの関係なく、ペーターの本当の気持ちを聞きたくてそう尋ねた。
「……私は使用人ですし……。フィル様にはもっと釣り合った方が……」
「じゃあ、フィルが他の人と結婚してもいいんだ?」
ペーターには申し訳なく思いながらも、ミッチェルはわざと意地悪な言い方をした。あれだけストレートに思いを伝えている弟のフィラットのことを知ってるから、ペーターには自分の気持ちにちゃんと向き合ってほしいよ願う。
「……それはっ!」
「ペーターは、フィルと婚約者の、身の回りのお世話をすることになるかもしれないんだよ?」
「私が……?」
「そうなった時のこと、よーく想像してみて。……あ、そろそろお母様が戻られる頃かな。僕、お出迎えに行ってくるよ」
ミッチェルの言葉を聞いて、フリーズしたようにその場で固まってしまったペーターを見て、ちょっと意地悪しすぎたかなと思いながらも、ミッチェルは部屋を出ていった。
言葉通り母親を出迎えようと玄関に向かっていると、後ろからどんどん近付く足音が聞こえ、ミッチェルのことをあっという間に追い抜いていった。
「あれ? ペーター? どこに行くの?」
ペーターにわざとらしい言葉をかけて呼び止めると、ミッチェルの声を聞き、ペーターはハッとして立ち止まって振り返った。
「すみません、所用で少し出かけてまいります。夜までには戻りますので」
そう言うとそのまま慌てた様子で屋敷を出ていった。
急ぎ足のペーターとすれ違いで帰って来た母親は、不思議そうに首を傾げてミッチェルに尋ねた。
「あれ? ペーターはどこに行くのかしら? 今日は出かける用事はないと言っていたはずなのに」
「急用が出来たみたいですよ。今日は戻らないかもしれませんね。あ! お母様、それはなんですか?」
ミッチェルは母親の手にしていた袋から、ちらりと見えた物を指差す。
「ああこれね、新作焼き菓子の試作品なんですって。ぜひ食べて感想がほしいと言うからいただいてきたわ。さ、お茶にしましょう。ペーターも一緒にと思ったけど、用事ができたなら仕方がないわねぇ」
「二人で全部いただいちゃいましょう」
「ふふふ、そうね」
ミッチェルとミッチェルの母はそう言うと、午後のお茶会の準備をし、二人で夕飯時までのんびり雑談をしていた。
「お母様、良い報告が近いうちに聞けるかもしれませんよ」
「え? 何の話?」
「内緒です」
ミッチェルはそう遠くない未来に、フィラットとペーターが、二人並んで報告をする姿を想像して、ふふふっと心のなかで微笑んだ。
(終)
✤
本編では、「フィル→→→→♥️←ペーター」という感じでしたが、実はペーターも熱い思いを内に秘めているのです。
ちょっとしたきっかけを与えてあげれば、素直になれるのかな?💕……と思って書いてみました。
これもツイノベ用に書いたものを、整えたものになります。
いつものように、午後のティータイムをのんびりと中庭で過ごしていたミッチェルに、専属使用人のペーターが話しかけてきた。
「ん? どうかしたの?」
ミッチェルはグラスを口に運ぶ手を止め、ペーターに返事をした。
「あの……ちょっとここでは話しづらいことなので、場所を変えたいのですが……」
いつもは謎に堂々としているペーターが、やけに今日はキョロキョロとまわりの様子をうかがう素振りを見せ、声を潜めている。
「あ……じゃあ、僕の部屋でいい?」
以前はミッチェルの母親専用の離れだった部屋は、今ではミッチェル専用の離れとして使わせてもらっている。
ヒート時も対応できるようにリフォームされ、オメガにとって快適な空間に生まれ変わっていた。
ミッチェルが部屋に案内し中へ入ると、ペーターは大きくため息をついた。
「お休み中のところ、大変申し訳ありません」
「ううん、別に構わないよ。フレッドも仕事だし、お母様も出かけてらして、ちょうど暇してたんだ」
「お気遣い、感謝いたします」
ミッチェルは身重であるためひとりでの外出は禁止、自分の夫も母親も不在で、今日はどこに出かけることも出来ずにいた。だから社交辞令でもなんでもなく、ミッチェルは本当に暇を持て余していて、話し相手が欲しかったのだ。
「僕の方こそ、話し相手ができてよかったよ。……で、話って?」
「……大変話しづらいことなのですが……。ミッチェル様はフィル様のお兄様ですし……オメガの先輩ということで……ご相談がありまして……」
普段はハキハキとしゃべるペーターが、どうも煮えきらずモゴモゴと言葉をつなげた。
「相談?」
「……ハイ。……えっとですね。……最近、フィル様が、……どうにかして私を落とそうと、躍起になってるんですが……」
「っ……! ……あっ! ごめん!」
予想外の相談に、ミッチェルは飲みかけのハーブティーを吹き出してしまった。
「……ああ、ごめんなさい」
ペーターはあわててハンカチを差し出した。ミッチェルはそれを受け取って口元を拭きながら、ペーターの話の続きを促した。
「まぁ、僕も何度か見てるから……。で、どうしたの?」
「はじめは、フィル様のお戯れ。私のことをからかっているのだと思っていたのですが、日に日にアプローチが増していきまして。挙句の果てに、私と二人きりになると、あの……アルファの……フェロモンが濃く香りまして……」
ペーターは耳まで真っ赤にしてそこまで言うと、再びはぁ…とため息をついた。冷静沈着なペーターの、こんな顔は初めて見た。
「そっか。じゃあさ、ペーターはフィルのことをどう思っているの?」
「えっ……? 私がですか? ……当主様として、大変頑張っておられると……」
「当主ではなく、ひとりの人間として、フィルのことをどう思っているのか、教えてほしいな」
ミッチェルは、身分とかそんなの関係なく、ペーターの本当の気持ちを聞きたくてそう尋ねた。
「……私は使用人ですし……。フィル様にはもっと釣り合った方が……」
「じゃあ、フィルが他の人と結婚してもいいんだ?」
ペーターには申し訳なく思いながらも、ミッチェルはわざと意地悪な言い方をした。あれだけストレートに思いを伝えている弟のフィラットのことを知ってるから、ペーターには自分の気持ちにちゃんと向き合ってほしいよ願う。
「……それはっ!」
「ペーターは、フィルと婚約者の、身の回りのお世話をすることになるかもしれないんだよ?」
「私が……?」
「そうなった時のこと、よーく想像してみて。……あ、そろそろお母様が戻られる頃かな。僕、お出迎えに行ってくるよ」
ミッチェルの言葉を聞いて、フリーズしたようにその場で固まってしまったペーターを見て、ちょっと意地悪しすぎたかなと思いながらも、ミッチェルは部屋を出ていった。
言葉通り母親を出迎えようと玄関に向かっていると、後ろからどんどん近付く足音が聞こえ、ミッチェルのことをあっという間に追い抜いていった。
「あれ? ペーター? どこに行くの?」
ペーターにわざとらしい言葉をかけて呼び止めると、ミッチェルの声を聞き、ペーターはハッとして立ち止まって振り返った。
「すみません、所用で少し出かけてまいります。夜までには戻りますので」
そう言うとそのまま慌てた様子で屋敷を出ていった。
急ぎ足のペーターとすれ違いで帰って来た母親は、不思議そうに首を傾げてミッチェルに尋ねた。
「あれ? ペーターはどこに行くのかしら? 今日は出かける用事はないと言っていたはずなのに」
「急用が出来たみたいですよ。今日は戻らないかもしれませんね。あ! お母様、それはなんですか?」
ミッチェルは母親の手にしていた袋から、ちらりと見えた物を指差す。
「ああこれね、新作焼き菓子の試作品なんですって。ぜひ食べて感想がほしいと言うからいただいてきたわ。さ、お茶にしましょう。ペーターも一緒にと思ったけど、用事ができたなら仕方がないわねぇ」
「二人で全部いただいちゃいましょう」
「ふふふ、そうね」
ミッチェルとミッチェルの母はそう言うと、午後のお茶会の準備をし、二人で夕飯時までのんびり雑談をしていた。
「お母様、良い報告が近いうちに聞けるかもしれませんよ」
「え? 何の話?」
「内緒です」
ミッチェルはそう遠くない未来に、フィラットとペーターが、二人並んで報告をする姿を想像して、ふふふっと心のなかで微笑んだ。
(終)
✤
本編では、「フィル→→→→♥️←ペーター」という感じでしたが、実はペーターも熱い思いを内に秘めているのです。
ちょっとしたきっかけを与えてあげれば、素直になれるのかな?💕……と思って書いてみました。
これもツイノベ用に書いたものを、整えたものになります。
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