【本編完結】再び巡り合う時 ~転生オメガバース~

一ノ瀬麻紀

文字の大きさ
85 / 86
番外編

胸の痛み

しおりを挟む
「フィルと婚約した。だからミッチはこの家から出ていってくれないか」

 お父様に塔へ閉じ込められて数日過ぎた頃だった。突然フレッドとフィルが訪ねてきて、開口一番そう言った。

「……え?」

 突然のフレッドの言葉に、僕は驚きの声を上げることしか出来なかった。たしかに、フィルはアルファだしフレッドもおそらくアルファだろう。家の存続のために、有能なアルファ同士が結婚することなどよくある話だ。子どもは妾を迎え入れるか、優秀なアルファを養子として迎え入れ、跡継ぎにする。オメガのことを人間以下の扱いをするアルファ至上主義の家では当たり前にあることなのかもしれない。

「検査の結果、俺はアルファだった。旦那様はたいそうお喜びになって、フィルの婚約者としてこの家に迎え入れてくださることになったんだ。使用人なんかじゃなく、正式なハイネル家の一員としてだ」
「僕、初めて会ったときからフレッドのことが好きだったから、とても嬉しいんだ」
「ああ、俺もずっとフィルのことが好きだった。だからこのお話をいただいた時、天にも登るような気持ちだった」

 フィルとフレッドはそう言って、顔を合わせると幸せそうに微笑んだ。

「え、あ……あの、おめでとう……」

 どうやって返事をしていいのかわからなくて、僕はやっとの思いで言葉を伝えた。戸惑う僕が見たのは、僕の疲れ切った心とは反対の、希望に満ちた表情だった。
 僕がオメガと判明し、両親は手のひらを返したように冷たくなった。有無を言わさずここに閉じ込められ、ふさぎ込む日々が続いた。それでも、僕を庇おうと悲痛な叫びをあげてくれたフィルのことを思い、僕はひとりじゃないと耐えていた。フレッドも、言葉をかわすことは出来なかったけど、心配してくれているとずっと信じていた。
 なのに、今目の前にいるこの人たちは誰だろう。双子の僕たちは、離れていてもお互いのことを思い、共鳴し合っていた。でも今は何も感じることが出来ない。僕に向ける二人の視線が冷たくて、思わず顔をそらした。

「ほら、この家に役立たずのオメガがいるなんてバレたら、ハイネル家の品位に関わるでしょ?」
「これからのハイネル家に、オメガは必要ない」
「僕たちみたいな、優秀なアルファがいるのに、オメガなんかに足を引っ張られたら困っちゃうもん」

 オメガと判明したあの日、声を震わせてお父様に反論してくれたフィルは、もういないの? 目の前で、オメガを虐げるような言葉を平気で言っているのは、だれ? フィルはそんな子じゃない。家族思いで、とても優しい子なんだ……。

「双子だから全く同じ顔じゃない? オメガと同じ顔だなんて、僕なんか複雑だよ」
「そうだな。フィルと同じ顔したオメガがいるなんて、視界に入るだけで不愉快だ。だから、さっさと荷物をまとめて出ていってくれ」
「あ、そうそう。お父様が、ミッチを迎え入れたい人がいると言っていたよ。多分その人のところに行くんじゃないかな。とてもオメガのことが好きみたいだから、よかったね。きっと大切にしてくれるよ」

 フィルは、意味深な笑みをニヤニヤと浮かべながら僕に向かって言うと、フレッドと再び向かい合い、今度は距離がどんどん近づいて――。

「やめて!!」

 目の前の光景を見たくなくて、目をつむり耳をふさいだ。嫌だ、見たくない。想像したくないのに、あの二人の関係を想像してしまう。あの距離はきっと……。

「お食事をお持ちしました」

 コンコンというノックとともにかけられた声に、僕はびっくりして目を開けた。でも目の前には誰もいなくて、僕は何度か瞬きをした。

「ミッチ様? どうかされましたか?」

 再び聞こえるノックの音と、使用人の声。――ああ、これは夢だ。瞬時に悟った僕は、ほっと胸をなでおろした。そうだ、あの二人があんな事言うわけないんだ。
 まだドキドキと早いままの鼓動を落ち着かせるように何度か深呼吸をして、ドアを静かに開けた。そして使用人から食事を受け取り扉を閉めると、再び鍵がカチャリと閉まる音がした。

「婚約……か」

 夢だとわかっているけど、可能性として否定しきれない。フレッドは孤児出身だからバース検査はしていないけど、きっとアルファだと思っている。それにお父様はフレッドのことを気に入っているから、将来的にフィルの婚約者の候補になってもおかしくない。
 あの二人ならお似合いだ。なのに、なぜこんなに心がチクチクと痛むのだろうか……。

 僕がこの心の痛みの正体をはっきりと知るのは、もう少し後のこと――。
しおりを挟む
感想 42

あなたにおすすめの小説

【本編完結済】神子は二度、姿を現す

江多之折(エタノール)
BL
1/7外伝含め完結 ファンタジー世界で成人し、就職しに王城を訪れたところ異世界に転移した少年が転移先の世界で神子となり、壮絶な日々の末、自ら命を絶った前世を思い出した主人公。 死んでも戻りたかった元の世界には戻ることなく異世界で生まれ変わっていた事に絶望したが 神子が亡くなった後に取り残された王子の苦しみを知り、向き合う事を決めた。 戻れなかった事を恨み、死んだことを後悔し、傷付いた王子を助けたいと願う少年の葛藤。 王子様×元神子が転生した侍従の過去の苦しみに向き合い、悩みながら乗り越えるための物語。 ※小説家になろうに掲載していた作品を改修して投稿しています。 描写はキスまでの全年齢BL

私は〈元〉小石でございます! ~癒し系ゴーレムと魔物使い~

Ss侍
ファンタジー
 "私"はある時目覚めたら身体が小石になっていた。  動けない、何もできない、そもそも身体がない。  自分の運命に嘆きつつ小石として過ごしていたある日、小さな人形のような可愛らしいゴーレムがやってきた。 ひょんなことからそのゴーレムの身体をのっとってしまった"私"。  それが、全ての出会いと冒険の始まりだとは知らずに_____!!

きっと、君は知らない

mahiro
BL
前世、というのだろうか。 俺は前、日本という国で暮らしていて、あの日は中学時代にお世話になった先輩の結婚式に参列していた。 大人になった先輩と綺麗な女性の幸せそうな姿に胸を痛めながら見つめていると二人の間に産まれたという女の子がひとりで車道に向かい歩いている姿が目に入った。 皆が主役の二人に夢中で子供の存在に気付いておらず、俺は慌ててその子供のもとへと向かった。 あと少しで追い付くというタイミングで大型の車がこちらに向かってくるのが見え、慌ててその子供の手を掴み、彼らのいる方へと突き飛ばした。 次の瞬間、俺は驚く先輩の目と合ったような気がするが、俺の意識はそこで途絶えてしまった。 次に目が覚めたのは見知らぬ世界で、聞いたことのない言葉が行き交っていた。 それから暫く様子を見ていたが、どうやら俺は異世界に転生したらしく………?

聖女の兄で、すみません!

たっぷりチョコ
BL
聖女として呼ばれた妹の代わりに異世界に召喚されてしまった、古河大矢(こがだいや)。 三ヶ月経たないと元の場所に還れないと言われ、素直に待つことに。 そんな暇してる大矢に興味を持った次期国王となる第一王子が話しかけてきて・・・。 BL。ラブコメ異世界ファンタジー。

嘘つき王と影の騎士

篠雨
BL
「俺の役割は、貴方を守ることだ。……例え、貴方自身からも」 国の平穏を一身に背負い、十二年間「聖王」という偶像を演じ続けてきたセシル。 酷使し続けた心身はすでに限界を迎え、その命の灯火は今にも消えようとしていた。 そんな折、現れたのは異世界からの「転移者」。 代わりを見つけた国は、用済みとなったセシルからすべてを剥奪し、最果ての地へと追放する。 死を待つためだけに辿り着いた冬の山。 絶望に沈むセシルの前に現れたのは、かつて冷徹に王を監視し続けていた近衛騎士団長、アルヴィスだった。 守るべき王も、守るべき国も失ったはずの二人が過ごす、狭い小屋での夜。 無価値になり、壊れかけた自分を、なぜこの男は、そんな瞳で見つめるのか。 なぜ、そんなにも強く、抱きしめるのか。 これは、すべてを失った「聖王」が、一人の男の熱に暴かれ、再生していくまでの物語。

不遇聖女様(男)は、国を捨てて闇落ちする覚悟を決めました!

ミクリ21
BL
聖女様(男)は、理不尽な不遇を受けていました。 その不遇は、聖女になった7歳から始まり、現在の15歳まで続きました。 しかし、聖女ラウロはとうとう国を捨てるようです。 何故なら、この世界の成人年齢は15歳だから。 聖女ラウロは、これからは闇落ちをして自由に生きるのだ!!(闇落ちは自称)

秘匿された第十王子は悪態をつく

なこ
BL
ユーリアス帝国には十人の王子が存在する。 第一、第二、第三と王子が産まれるたびに国は湧いたが、第五、六と続くにつれ存在感は薄れ、第十までくるとその興味関心を得られることはほとんどなくなっていた。 第十王子の姿を知る者はほとんどいない。 後宮の奥深く、ひっそりと囲われていることを知る者はほんの一握り。 秘匿された第十王子のノア。黒髪、薄紫色の瞳、いわゆる綺麗可愛(きれかわ)。 ノアの護衛ユリウス。黒みかがった茶色の短髪、寡黙で堅物。塩顔。 少しずつユリウスへ想いを募らせるノアと、頑なにそれを否定するユリウス。 ノアが秘匿される理由。 十人の妃。 ユリウスを知る渡り人のマホ。 二人が想いを通じ合わせるまでの、長い話しです。

あと一度だけでもいいから君に会いたい

藤雪たすく
BL
異世界に転生し、冒険者ギルドの雑用係として働き始めてかれこれ10年ほど経つけれど……この世界のご飯は素材を生かしすぎている。 いまだ食事に馴染めず米が恋しすぎてしまった為、とある冒険者さんの事が気になって仕方がなくなってしまった。 もう一度あの人に会いたい。あと一度でもあの人と会いたい。 ※他サイト投稿済み作品を改題、修正したものになります

処理中です...