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10話 君を待つ【蓮視点】
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もう、彼女の姿は……どこにもなかった。
練習試合が終わり、反省会や着替えを済ませて外に出たのは、もう40分ほど経っていた。
美咲に、試合はどうだったとか、楽しめたかとか……その……格好良かったかとか、とにかく話したくてドキドキしながら、応援してくれていた人たちの集団に向かった。
きっと美咲が駆け寄ってきてくれる……そう……思ってた。だが、集団の中に美咲はいなかった。
公園のどこかを歩いているのだろうか?
探しに行こうと思ったとき、スマホで連絡すればいいと気がついた。鞄からスマホを取り出そうとするが──
ない……。
その場で鞄を置いてくまなく探すが、ない。
血の気が引く。
今朝、家を出るときはちゃんと持っていた。
チームの控え室に持って入ったのは覚えている。
ん?チームの控え室に落としたのか?
急いで控え室に向かったが、俺の荷物を置いていた場所には何もなかった。チームメイトに電話してもらったが、電源が切れていて見つけるのは絶望的だった。
スマホには画面ロックがかかってるから、個人情報の流出は大丈夫だと思う。万が一の場合は遠隔での端末初期化サービスに入っていたはずだ。
問題はタッチ決済だな……。
これはケータイショップに行って対応を──
控え室のベンチで考え事をしていると、菜月に肩を叩かれた。
『どうしたの?』
手話で話しかけてきた。
心配した顔だ。
『スマホが見つからない』
「えっ!?」
彼女は驚いた声を発したようだ。
『どこに落としたの?心当たりは?』
『ここだったんだけど、見つからない。なあ。美咲がどこに行ったか知らないか?さっき2人で話してただろ?』
グラウンドから2人が話している姿が見えたから、もしかしたら何か聞いているかもしれないと考えた。
『え?具合が悪くなったから、彼氏さんと帰ったよ。蓮、聞いてないの?』
『彼氏?美咲の?』
『うん。仲が良さそうだったよ』
美咲に彼氏……。
「ハハ……」
失笑が溢れた。
そうだよな。あんなに綺麗になった美咲なら、男がほっとくわけない。
彼氏がいて……当然じゃないか。
その可能性をまったく考えていなかった俺は実に愚かだ。
7年。
離れていた時間の長さが、俺たちの間に横たわっていたのに、馬鹿みたいだ……美咲が待っててくれたって勘違いしてた。
ファミレスで話していた美咲があの頃のままで、変わらずに笑うから、笑いかけるから……。彼女と向き合うのが怖くて逃げた臆病者に、チャンスなんて、最初からなかったのに……。
『蓮。大丈夫?』
菜月が心配して話しかけてくる。
『スマホがないんでしょ?早く探さなくちゃ。私、カスタマーセンターに電話しようか?』
『いや、いいよ。このままケータイショップに行って機種変する。タッチ決済のこともあるから、相談してどうにかするよ』
『なら付き合うよ。通訳がいた方が楽でしょ?』
『いや、いいよ』
『遠慮しないの。友だちなんだから』
『いや、大丈夫だ。それぐらい一人でできる。気遣ってくれてありがとう』
『でも、店員さんが筆談で対応するのが大変じゃない。やっぱり一緒に行くよ』
『いや、いいって』
何度断っても親切を押し付けてくるのが、ストレスになる。良かれと思っての行動だとわかっているが、耳の聞こえない俺は何にもできないと、侮られているように思えて気分は良くない。
『機種変って説明も多いから、絶対通訳がいた方が便利だよ。それに、店員さんも筆談だと疲れるだろうし、それだけ時間もかかって店にも迷惑になっちゃうよ。ね。私が一緒の方がいいでしょう?』
俺の存在が迷惑だと言われている気分だ。
『行きつけのケータイショップは、手話通訳サービスがあるから問題ない』
しつこい菜月にイラっとして思わず『それに、前にも言ったが、俺たちはそういう関係じゃない。気を遣わないでくれ』と伝えた。
「っ!」
菜月は一瞬傷ついた顔をしたが、すぐに笑って『ごめん、お節介だったね』と返してきた。
一度だけ、彼女に告白されたことがあった。
俺と筆談以外で話がしたくて、一生懸命手話を覚えてくれた。覚えたての手話で『ずっと好きだった。これからは私が支えるから、私と付き合ってください』と、たどたどしく伝えてくれた。
だけど俺はその告白を断った。
菜月のことは嫌いじゃない。だけど俺は……美咲が好きなんだ。他の誰かじゃ……駄目なんだ。
美咲に別れを告げられて、怖くて、美咲の実家に突撃もできなかったヘタレだけど、気持ちはずっと変わらなかった。
そのことは、菜月の告白を断るときに話した。
だが、菜月は『今すぐ好きな気持ちを捨てることはできないけど、蓮とのことは諦めるよ。だから、チームの通訳として普通に接して!』と答えた。彼女は現在もこのサッカーチームの専属手話通訳として活動している。
俺も鈍感じゃない。
菜月がまだ俺に好意を持っているのは感じる。だからこそ、誤解がないよう菜月とは適切な距離をとっている。
菜月を傷つけたくはないのだが、線引きは必要だ。
◇◇◇
その後、機種変をしてクラウドに保存していた電話帳や写真など、ほとんどのデータは復元できた。だが、ラインのトーク内容は復元できず、最近登録した美咲の友だち登録だけが消えていた。
また……繋がりが途絶えてしまった。
いや、彼氏のいる美咲に連絡してどうするんだ。もう……元に戻ることなんて……。
いや……、友だちとして、また美咲と……。
女々しい自分が嫌になる。
美咲が他人を装って送ってきたアドレスに──
『試合に来てくれてありがとう。
実はスマホを失くして、ラインのデータが全部消えてしまった。
美咲と連絡が取れなくて困ってる。
具合が悪くなったって聞いたけど、大丈夫?』
──と送ったが、返信がない。
彼氏が嫌がっているとか……。
ダメだ。怖くて追撃のメッセージを送れない。
だけど……諦められない。
もう一度。
もう一度だけでいいから……美咲に会いたい。
練習試合が終わり、反省会や着替えを済ませて外に出たのは、もう40分ほど経っていた。
美咲に、試合はどうだったとか、楽しめたかとか……その……格好良かったかとか、とにかく話したくてドキドキしながら、応援してくれていた人たちの集団に向かった。
きっと美咲が駆け寄ってきてくれる……そう……思ってた。だが、集団の中に美咲はいなかった。
公園のどこかを歩いているのだろうか?
探しに行こうと思ったとき、スマホで連絡すればいいと気がついた。鞄からスマホを取り出そうとするが──
ない……。
その場で鞄を置いてくまなく探すが、ない。
血の気が引く。
今朝、家を出るときはちゃんと持っていた。
チームの控え室に持って入ったのは覚えている。
ん?チームの控え室に落としたのか?
急いで控え室に向かったが、俺の荷物を置いていた場所には何もなかった。チームメイトに電話してもらったが、電源が切れていて見つけるのは絶望的だった。
スマホには画面ロックがかかってるから、個人情報の流出は大丈夫だと思う。万が一の場合は遠隔での端末初期化サービスに入っていたはずだ。
問題はタッチ決済だな……。
これはケータイショップに行って対応を──
控え室のベンチで考え事をしていると、菜月に肩を叩かれた。
『どうしたの?』
手話で話しかけてきた。
心配した顔だ。
『スマホが見つからない』
「えっ!?」
彼女は驚いた声を発したようだ。
『どこに落としたの?心当たりは?』
『ここだったんだけど、見つからない。なあ。美咲がどこに行ったか知らないか?さっき2人で話してただろ?』
グラウンドから2人が話している姿が見えたから、もしかしたら何か聞いているかもしれないと考えた。
『え?具合が悪くなったから、彼氏さんと帰ったよ。蓮、聞いてないの?』
『彼氏?美咲の?』
『うん。仲が良さそうだったよ』
美咲に彼氏……。
「ハハ……」
失笑が溢れた。
そうだよな。あんなに綺麗になった美咲なら、男がほっとくわけない。
彼氏がいて……当然じゃないか。
その可能性をまったく考えていなかった俺は実に愚かだ。
7年。
離れていた時間の長さが、俺たちの間に横たわっていたのに、馬鹿みたいだ……美咲が待っててくれたって勘違いしてた。
ファミレスで話していた美咲があの頃のままで、変わらずに笑うから、笑いかけるから……。彼女と向き合うのが怖くて逃げた臆病者に、チャンスなんて、最初からなかったのに……。
『蓮。大丈夫?』
菜月が心配して話しかけてくる。
『スマホがないんでしょ?早く探さなくちゃ。私、カスタマーセンターに電話しようか?』
『いや、いいよ。このままケータイショップに行って機種変する。タッチ決済のこともあるから、相談してどうにかするよ』
『なら付き合うよ。通訳がいた方が楽でしょ?』
『いや、いいよ』
『遠慮しないの。友だちなんだから』
『いや、大丈夫だ。それぐらい一人でできる。気遣ってくれてありがとう』
『でも、店員さんが筆談で対応するのが大変じゃない。やっぱり一緒に行くよ』
『いや、いいって』
何度断っても親切を押し付けてくるのが、ストレスになる。良かれと思っての行動だとわかっているが、耳の聞こえない俺は何にもできないと、侮られているように思えて気分は良くない。
『機種変って説明も多いから、絶対通訳がいた方が便利だよ。それに、店員さんも筆談だと疲れるだろうし、それだけ時間もかかって店にも迷惑になっちゃうよ。ね。私が一緒の方がいいでしょう?』
俺の存在が迷惑だと言われている気分だ。
『行きつけのケータイショップは、手話通訳サービスがあるから問題ない』
しつこい菜月にイラっとして思わず『それに、前にも言ったが、俺たちはそういう関係じゃない。気を遣わないでくれ』と伝えた。
「っ!」
菜月は一瞬傷ついた顔をしたが、すぐに笑って『ごめん、お節介だったね』と返してきた。
一度だけ、彼女に告白されたことがあった。
俺と筆談以外で話がしたくて、一生懸命手話を覚えてくれた。覚えたての手話で『ずっと好きだった。これからは私が支えるから、私と付き合ってください』と、たどたどしく伝えてくれた。
だけど俺はその告白を断った。
菜月のことは嫌いじゃない。だけど俺は……美咲が好きなんだ。他の誰かじゃ……駄目なんだ。
美咲に別れを告げられて、怖くて、美咲の実家に突撃もできなかったヘタレだけど、気持ちはずっと変わらなかった。
そのことは、菜月の告白を断るときに話した。
だが、菜月は『今すぐ好きな気持ちを捨てることはできないけど、蓮とのことは諦めるよ。だから、チームの通訳として普通に接して!』と答えた。彼女は現在もこのサッカーチームの専属手話通訳として活動している。
俺も鈍感じゃない。
菜月がまだ俺に好意を持っているのは感じる。だからこそ、誤解がないよう菜月とは適切な距離をとっている。
菜月を傷つけたくはないのだが、線引きは必要だ。
◇◇◇
その後、機種変をしてクラウドに保存していた電話帳や写真など、ほとんどのデータは復元できた。だが、ラインのトーク内容は復元できず、最近登録した美咲の友だち登録だけが消えていた。
また……繋がりが途絶えてしまった。
いや、彼氏のいる美咲に連絡してどうするんだ。もう……元に戻ることなんて……。
いや……、友だちとして、また美咲と……。
女々しい自分が嫌になる。
美咲が他人を装って送ってきたアドレスに──
『試合に来てくれてありがとう。
実はスマホを失くして、ラインのデータが全部消えてしまった。
美咲と連絡が取れなくて困ってる。
具合が悪くなったって聞いたけど、大丈夫?』
──と送ったが、返信がない。
彼氏が嫌がっているとか……。
ダメだ。怖くて追撃のメッセージを送れない。
だけど……諦められない。
もう一度。
もう一度だけでいいから……美咲に会いたい。
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