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30話 桜庭こはる4
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「これは私が勝手に思ったことで、間違ってるかもしれないけど……聞いてもらえる?」
桜庭さんは小さく頷いた。
「さっき『達也は自分のヒーローだ』って言ってたでしょ?それを聞いててね、ふと思ったの。桜庭さんが達也に求めてたのは、『愛情』っていうより『安心』だったんじゃないかなって」
彼女の目が少し揺れた。
「『ヒーローに守ってもらう』って、すごく安心するじゃない?きっとその感覚が心地よかったんだと思うの。でも……達也って、優しいからさ。誰にでも手を差し伸べちゃうところ、あるでしょ?」
桜庭さんがうつむいた。
「……そう、かも」
「だから苦しかったんだと思う。自分だけを見てほしかったのに、誰かのことも助けてる。『どうして私じゃないの』って、心がざわつくんだよね」
小さく頷いた彼女に、私は静かに続けた。
「自分だけのヒーローでいてほしかった──その気持ちは、私もわかるよ。でもね、相手にとってはそれが『束縛』や『支配』に感じることもあるの。……私も経験があるけど、すごく息苦しいんだよ。相手の気持ちが重くて逃げたくなる」
達也の方を見ると、バツの悪そうな顔をしていた。
「達也も、あなたの気持ちに応えようとしてたんだと思うよ。『義理』とか『恩』とか言ってたけど……本当は大切に思ってたんじゃない?」
軽く笑って、わざと意地悪っぽく言ってみる。
「まあ、中途半端な優しさで逃げ回って、桜庭さんを暴走させたヤツだけどね」
達也が小さく息を吐いて、苦笑した。
「……桜庭さん、達也」
私は少し真剣な声で名前を呼んだ。
胸の奥が、ほんの少しだけチクッとする。
──昔の自分を見ているみたいだった。
「人を好きになるって、『守ってもらうこと』でも、『縛りつけること』でもないと思うの。足りないところを相手に埋めてもらおうとすると、どこかで無理がきちゃうんだ」
桜庭さんが小さく息を吸った。
「……そう、なのかな」
「うん。私もそうだった。だから、わかるよ」
蓮のことを引きずって、歴代の彼氏を傷つけてきた私が偉そうにと、胸がチクチクした。
彼らに言っているようで、私は私に言っていると思った。
「相手が自分の思いどおりに動かないと不安になって、疑って、責めて……そうやって気づいたら、“愛”とは違う形に変わっちゃうんだよね」
桜庭さんは、ゆっくり顔を上げた。
その瞳はまだ潤んでいたけれど、さっきよりも穏やかに見えた。
「『この人がいないとダメ』って思う気持ちは、悪いことじゃないと思う。でもね、いつかは『この人のために何かしてあげたい』って思えるようになれたら……きっと、それが“本当の愛”なんじゃないかな」
達也が目を伏せて、小さく呟いた。
「……耳が痛ぇな」
私は笑って、肩をすくめた。
本当、ブーメランみたいに自分に返ってくる。
突然音信不通になったから、裏切られたって勝手に蓮を責めて、ラインをブロックして、ずっと引きずって、拗ねて、歴代の彼氏たちを『蓮の代り』として向き合ってこなかった私。
全部、誰かに『満たしてもらおう』としていた自分。本当、恥ずかしいよ。
何やってたんだかな……。
達也が、ふっと息をついて、桜庭さんの方へ体を向ける。
「……こはる」
深々と頭を下げた。
「すまなかった」
この話し合いで初めて、達也が桜庭さんに頭を下げた。桜庭さんは驚いたように、涙を止めていた。
「どんな理由があっても、浮気なんて最低で不誠実だった。傷つけてごめん」
あまりにストレートな謝罪に、桜庭さんも私も、今まで口を挟まなかった拓真さんや天音さんも驚いた。
「正直に言わせてもらうと、俺、こはるのことを『女』として見れない。婚約しても、こはるは『妹』にしか見れなかった。だけどお前が俺を『好きだ』って気持ちが暴走して、手がつけられなくなって、今さら婚約を解消するって言ったら何をしでかすかわからなかった。すごい面倒だと思ったよ。だから──」
達也は一瞬息を詰め、苦しそうに吐き出した。
「浮気を繰り返した。お前が俺を嫌うように。だけど、作戦は失敗。嫌われようとして、余計にお前を傷つけた。最低だった。……本当に、バカだったよ」
達也の告白に、桜庭さんは顔色を青くしていった。
「傷つけてごめん。小細工しないで、ちゃんと話し合えばよかったのに、俺……カッコ悪く逃げてたな」
優しいけれど苦しそうに、達也は笑った。
桜庭さんは首を横に振って「やだ……」と泣いていた。達也が次に何を言うのか、悟っているようだ。
「……こはる、すまない。もっと早く話し合っておくべきだった。俺が逃げ回ったから、こんなにも傷つけてしまった。ごめん。……婚約を解消してくれ」
「やだ!」
「どうしても好きになれなかったんだ。ごめん」
「やだよ……」
桜庭さんは達也の胸に飛び込んで、声を出して泣いた。
「ごめん……」
達也は彼女を突き放すことはせず、優しく背中を撫でていた。
中途半端に優しい達也。
こんな未練が残る慰めをするなんて最低だと思う反面、彼らしいと思った。
「達也のバカ!最低男!浮気者!酷い!酷いよ!」
桜庭さんは泣きながら、ずっと達也を罵倒する言葉を発するが、それが全部『達也が好きだ!』と言っているように聞こえた。
そして達也はずっと「ごめん」と繰り返した。
桜庭さんは小さく頷いた。
「さっき『達也は自分のヒーローだ』って言ってたでしょ?それを聞いててね、ふと思ったの。桜庭さんが達也に求めてたのは、『愛情』っていうより『安心』だったんじゃないかなって」
彼女の目が少し揺れた。
「『ヒーローに守ってもらう』って、すごく安心するじゃない?きっとその感覚が心地よかったんだと思うの。でも……達也って、優しいからさ。誰にでも手を差し伸べちゃうところ、あるでしょ?」
桜庭さんがうつむいた。
「……そう、かも」
「だから苦しかったんだと思う。自分だけを見てほしかったのに、誰かのことも助けてる。『どうして私じゃないの』って、心がざわつくんだよね」
小さく頷いた彼女に、私は静かに続けた。
「自分だけのヒーローでいてほしかった──その気持ちは、私もわかるよ。でもね、相手にとってはそれが『束縛』や『支配』に感じることもあるの。……私も経験があるけど、すごく息苦しいんだよ。相手の気持ちが重くて逃げたくなる」
達也の方を見ると、バツの悪そうな顔をしていた。
「達也も、あなたの気持ちに応えようとしてたんだと思うよ。『義理』とか『恩』とか言ってたけど……本当は大切に思ってたんじゃない?」
軽く笑って、わざと意地悪っぽく言ってみる。
「まあ、中途半端な優しさで逃げ回って、桜庭さんを暴走させたヤツだけどね」
達也が小さく息を吐いて、苦笑した。
「……桜庭さん、達也」
私は少し真剣な声で名前を呼んだ。
胸の奥が、ほんの少しだけチクッとする。
──昔の自分を見ているみたいだった。
「人を好きになるって、『守ってもらうこと』でも、『縛りつけること』でもないと思うの。足りないところを相手に埋めてもらおうとすると、どこかで無理がきちゃうんだ」
桜庭さんが小さく息を吸った。
「……そう、なのかな」
「うん。私もそうだった。だから、わかるよ」
蓮のことを引きずって、歴代の彼氏を傷つけてきた私が偉そうにと、胸がチクチクした。
彼らに言っているようで、私は私に言っていると思った。
「相手が自分の思いどおりに動かないと不安になって、疑って、責めて……そうやって気づいたら、“愛”とは違う形に変わっちゃうんだよね」
桜庭さんは、ゆっくり顔を上げた。
その瞳はまだ潤んでいたけれど、さっきよりも穏やかに見えた。
「『この人がいないとダメ』って思う気持ちは、悪いことじゃないと思う。でもね、いつかは『この人のために何かしてあげたい』って思えるようになれたら……きっと、それが“本当の愛”なんじゃないかな」
達也が目を伏せて、小さく呟いた。
「……耳が痛ぇな」
私は笑って、肩をすくめた。
本当、ブーメランみたいに自分に返ってくる。
突然音信不通になったから、裏切られたって勝手に蓮を責めて、ラインをブロックして、ずっと引きずって、拗ねて、歴代の彼氏たちを『蓮の代り』として向き合ってこなかった私。
全部、誰かに『満たしてもらおう』としていた自分。本当、恥ずかしいよ。
何やってたんだかな……。
達也が、ふっと息をついて、桜庭さんの方へ体を向ける。
「……こはる」
深々と頭を下げた。
「すまなかった」
この話し合いで初めて、達也が桜庭さんに頭を下げた。桜庭さんは驚いたように、涙を止めていた。
「どんな理由があっても、浮気なんて最低で不誠実だった。傷つけてごめん」
あまりにストレートな謝罪に、桜庭さんも私も、今まで口を挟まなかった拓真さんや天音さんも驚いた。
「正直に言わせてもらうと、俺、こはるのことを『女』として見れない。婚約しても、こはるは『妹』にしか見れなかった。だけどお前が俺を『好きだ』って気持ちが暴走して、手がつけられなくなって、今さら婚約を解消するって言ったら何をしでかすかわからなかった。すごい面倒だと思ったよ。だから──」
達也は一瞬息を詰め、苦しそうに吐き出した。
「浮気を繰り返した。お前が俺を嫌うように。だけど、作戦は失敗。嫌われようとして、余計にお前を傷つけた。最低だった。……本当に、バカだったよ」
達也の告白に、桜庭さんは顔色を青くしていった。
「傷つけてごめん。小細工しないで、ちゃんと話し合えばよかったのに、俺……カッコ悪く逃げてたな」
優しいけれど苦しそうに、達也は笑った。
桜庭さんは首を横に振って「やだ……」と泣いていた。達也が次に何を言うのか、悟っているようだ。
「……こはる、すまない。もっと早く話し合っておくべきだった。俺が逃げ回ったから、こんなにも傷つけてしまった。ごめん。……婚約を解消してくれ」
「やだ!」
「どうしても好きになれなかったんだ。ごめん」
「やだよ……」
桜庭さんは達也の胸に飛び込んで、声を出して泣いた。
「ごめん……」
達也は彼女を突き放すことはせず、優しく背中を撫でていた。
中途半端に優しい達也。
こんな未練が残る慰めをするなんて最低だと思う反面、彼らしいと思った。
「達也のバカ!最低男!浮気者!酷い!酷いよ!」
桜庭さんは泣きながら、ずっと達也を罵倒する言葉を発するが、それが全部『達也が好きだ!』と言っているように聞こえた。
そして達也はずっと「ごめん」と繰り返した。
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