置き去りにされた恋をもう一度

ともどーも

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39話 Bar con suonoにて

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「香澄さん。考えてくれた?」
 金曜日の夜。
 久しぶりに香澄と連弾を披露し、店内は盛り上がっていた。
 一息つくため、香澄とカウンターでブルームーンを飲んでいると、天音さんが話しかけてきた。

 天音さんもこはるちゃんと同様、Bar con suonoの常連になっていた。
 そして、彼女から「国際音楽コンクールに香澄、美咲ペアで参加しないか」と誘いを受けている。

 詳しくは知らないけど、香澄が以前所属していた『ノーブル管弦楽団』に対して、四葉不動産ホールディングスが支援を打ち切ったらしい。
 もともと、楽団の意識の低さに不満があり、あのパーティーの出来栄え次第で、契約更新を取りやめる方針だったと、後から聞かされた。
 私たちの連弾と、楽団の演奏の対比が明らかだったこともあり、上層部の判断も早かったと天音さんから聞いた。
 今後、ノーブル管弦楽団がどうなるのかは、とくに聞いていない。
 
 でも余談として聞いたのは、玲奈と風間団長の不倫が発覚して、団長は離婚になったそう。あと、玲奈が奥さんに殴られたとか。それから、司が香澄に復縁を迫るメールを送ってきたけど、木下弁護士に「ストーカーとして警察に通報する」って言われたら連絡してこなくなったとも。
 まあ、どうでもよい話ね。

「天音さん……。私の返答は変わりませんよ。私にはこのバーがありますから、コンクールへの参加はお断りします」
「そんなこと言わずに。コンクールに出たら、香澄さんと美咲ちゃんの音楽を、世界が知るのよ。そうなれば、お店の売り上げも大幅アップよ」
「あのパーティー以降、お陰さまで大盛況です。3ヶ月先まで予約枠は一杯になりました。これ以上お客様が増えると、常連の方が来にくくなりますから」
「それなら新しいお店を出しましょう!私、出資するわ」
「いやいや、有難いお話ですが、私はこの店が好きなんです。手放す気はないですよ」

「あー!また天音さんが来てる!」
 こはるちゃんもカウンターに座った。
「しつこくすると、嫌われますよ」
 こはるちゃんに言われて、天音さんは微妙な顔をした。それもそうだろう、達也に執着しまくっていた彼女からの言葉は、なんとも言えない気分になる。

 そういえば、こはるちゃんと達也の婚約も、両家の話し合いが終わり、無事解消したと聞いた。
 あんなに達也に執着していたこはるちゃんだったが、終るときはずいぶんあっさりしていたから、みんなが驚いていたらしい。
 こはるちゃん曰く『達也のことは好きだけど、いっぱい泣いたら、もういいかなって思えたの』とのこと。
 こはるちゃんらしいと思った。

 一方の私は……。
 蓮からの告白を自ら断ったのに、蓮への気持ちが断ち切れないでいた。
 女々しくも、蓮からラインやメールが来てないかと、気がつくとチェックしてしまう。
 自分勝手な行動と思考に、辟易する。

「はぁ……」
「なに?また蓮と連絡がつかないの?」
 私のため息に香澄が反応した。
「え?いや……」

「あのあと、どうでした?キスくらいしました?」
 こはるちゃんがニヤニヤしながら聞いてきた。
 子供がませちゃって!

「蓮って?」
 天音さんも興味津々に聞いてきた。
「美咲の忘れられない元カレですよ」
「香澄!」
 天音さんに蓮のことを話すから、ギロリと睨む。
 だけど私の睨みなんて怖くないようで、「先日再会して、それはそれは良い雰囲気で」と意味深な視線を送ってきた。

「美咲ちゃん。結婚式はうちの関連会社に来てね。私がプロデュースするから!」
 うわ。ウインクされた。
 茶目っ気のある天音さんは、ギャップが強くて可愛い。

「もう、やめてくださいよ。蓮とはそんな関係じゃありませんよ。ただの友だちです」
 自分で『ただの友だち』と言って、胸がズキッと傷んだ。

「またまた~。橘さん、美咲お姉ちゃんのことが『好き』って言ってたじゃないですか。作戦会議が終わったら『美咲を送っていく』って私たちを牽制してましたよね?二人っきりになりたいのバレバレでしたから、私と香澄さんは遠慮して帰ったんですよ。ね~」
「ね~」
 香澄は似合わない『ね~』を、こはるちゃんと一緒に披露した。
 もう。変に悪ノリしてるわね。

「7年前に白石の手で引き裂かれた恋人同士が再会。忘れられなかった恋心を再燃させて、二人はゴールイン!運命的じゃないですか~」
「なにそれ!ドラマチックね~」
 天音さんもニマニマしている。

「はぁ~。本当に蓮とはそんなんじゃない。ただの友だちよ、友だち」
「「「え~……」」」
 三人のがっかりした声が重なる。
「ねえ、本当に何もなかったの?」
 香澄が聞いてくる。
 その顔は少し真剣だった。
 はぐらかすのは気が引けた。
 私は持っていたブルームーンのグラスを、無駄に回し気持ちを落ち着かせながら、重い口を開いた。

「告白は……された」
「やっぱり~」
 こはるちゃんがなぜか得意気にする。
 でも、香澄の反応はこはるちゃんとは反対で、私が蓮の『告白』をどうしたのか予想がついたのだろう。
 眉をひそめている。

「香澄さん?」
 こはるちゃんが不思議な顔をする。

「美咲。もしかして、断ったの?」
 グラスを回す手を止めた。
「え~?!どうして?!」
 こはるちゃんの声が店内に響いた。
 視線が集まる。
 こはるちゃんは「お騒がせしました~……」と、周りに軽く頭を下げて「なんでですか?」と聞いてきた。

 私が答える前に、香澄が自分のブルームーンを飲み干して席を立った。
「付き合ってらんない」
「え?香澄さん?」
 こはるちゃんが困惑した声を出した。
「あのさ。そんなんじゃ、また大切なものを失くすわよ。いい加減、自分の気持ちに正直になりなさいよ」
「……できないよ」
「なんで」
「だって!……だって、蓮は7年……私を一途に思ってくれてた」
「よかったじゃん」
「よくないよ。だって私……彼氏がいたんだよ。蓮のことを引きずって、被害者ぶって、その場しのぎで誰かと付き合って、体も心も適当に扱ってきた。 蓮のように……綺麗な時間を過ごして来たわけじゃない。だから……」

 突然、香澄に頭を小突かれた。
「バッカじゃないの」
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