置き去りにされた恋をもう一度

ともどーも

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42話 白石との対決2

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「白石さん。蓮さんといつの間に付き合ってたんですか?全然気がつきませんでしたよ~。長年の思いが叶って良かったですね」
「鈴木さん、ちょっと声が大きいよ」
 白石に鈴木さんと呼ばれた彼女は、少し興奮気味だし、声が大きいからか、チームハウスから蓮のサッカーチームの人たちが集まってきた。

 手話がわからなくても、盛り上がっているのはわかる。みんなが祝福しながら白石に詰め寄っている。
「みんな、落ち着いて!」
 白石が周りを静止するが、鈴木さんは止まらず「いつ結婚するんですか?場所は?」と、キラキラした顔で質問している。

 (おそらく、こはるちゃんの暴走により)私としても予想外の展開だが、ここで白石が『蓮と結婚する』と肯定すれば、多くの人が彼女の嘘の証人になる。私は成り行きを見守った。
 そして──

「こんなのデタラメよ。悪い冗談だわ」

 ──白石は蓮との結婚を否定した。
 まあ、彼女なら否定するだろうと思った。
 ここで私に『蓮との結婚は嘘だった』とバレても、冗談だったとか、最悪『そんなことは言ってない』とシラを切るだろう。
 だけど、そうはさせない。

「白石さん、恥ずかしがらなくても良いじゃない。その婚約指輪、蓮からもらったって自慢してたのに」
 私は白石の左手薬指に、これ見よがしに着けていた指輪を指摘した。
「あっ!本当だ!」
 白石が手を隠す前に、鈴木さんが騒ぎだした。
 良い仕事をしてくれるわ。
 ありがたい。

「うわ~、素敵ですね!」
 白石が手を隠した。
「これは……」
「プロポーズのときに、蓮から贈られたと自慢していたじゃない。恥ずかしがってないで、本当のことを言いなよ、白石さん」
 祝福する友達を装って明るく話すのに、白石は困惑しているからか、何も言えずにいる。
 鈴木さんも黄色い声を上げながら、せわしなく手話で私の話をチームメンバーに伝えていて、異様に盛り上がっている。

 さあ、どうする?白石。

 白石が突然しゃがみこんで、顔を手で隠した。そして「ひどいよ……」と肩を震わせた。
 彼女の様子がおかしいと、みんなが気がつくと、盛り上がりが一瞬で静まり返った。

「確かに蓮のことは好きだけど、私、ずっと前にフラれてるわ。それなのに、こんなイタズラをしかけてくるなんて……ひどいよ」

 本当、うまいわね。

 チームメンバーに動揺が走る。
 数人が私に不審な目を向ける。
「あの、あなたは?」
 今さら鈴木さんが私に訪ねてきた。
「私は立花美咲と言います。蓮の友だちよ。白石さんとも同じ中学の同級生だし、蓮繋がりで何度も話したことがあったわ。最近再会して、彼女が蓮と結婚するって報告をしてきたから、お祝いの言葉を──」
 
「ウソよ!」
 白石が泣き声で私の言葉を遮った。
「そんなこと言ってない。みんな、騙されないで。この女は昔から、蓮のストーカーをしていたのよ」
「「ええ?!」」
 数人が白石の言葉に驚いて、私を凝視してくる。
「私と蓮の間を誤解して、私を陥れようとしているの。この女は危険よ。早く追い出さないと蓮に何をするかわからないわ」

 なんだそれ……。
 
「早く追い出して!」
 泣き叫ぶ白石に、周りは困惑を隠せない。
 ここまでくると、私一人では終息できないわ。
 早く来てもら──

「美咲お姉ちゃ~ん!」
 突然、こはるちゃんが人をかきわけて、私の胸に飛び込んできた。
「こっ、こはるちゃん?!」
 私同様に、周りの人たちも驚いている。
 言葉にしなくてもみんなの考えてることがわかるわ。

 誰?!

 だよね?
「あっ、私、桜庭こはるっていいます。美咲お姉ちゃんの友だちだよ。よろしくね」
 
 謎にウインクしてる……。
 
「美咲お姉ちゃん。白石さんって、そこの人であってます?」
 こはるちゃんは白石を指差した。
「こらっ。人を指差さない」
「は~い」
 彼女を腕をおろす。
 
「白石さん。花、気に入ってくれたかしら?」
「え?」
 泣き真似も忘れて、白石はポカンとした顔だ。
「蓮さんと結婚するって聞いたから、私が用意したの。結婚、おめでとうございます」
 知らない女の子から無邪気に祝福されて、白石も戸惑っていたが、突然私を睨み付けてきた。

「ウソを吹聴しないで!この騒ぎは、全部立花のせいよ。さっさと出ていきなさいよ!」
 怒り出す白石とは逆に、こはるちゃんは「あれれ~」と穏やかに話し出した。
「今さっき、白石さんが『蓮さんと結婚する』って言ってましたよね?」
「はあ?!何を言って──」

『前も言ったでしょ。蓮と私は結婚するのよ。目障りだから二度と来ないでちょうだい』

 こはるちゃんのスマホから、先程の白石のセリフが流れてきた。
「私、じつはあの時すぐ近くにいたの。二人が話してたから声がかけられなかったんだ~。でもほら。ちゃんと白石さんが『蓮と結婚する』って言ってますよね」
 可愛いのだけど、少し怖い笑顔でこはるちゃんが白石に話しかける。

 近くにいたって……。
 あの時、周りには誰も居なかったわ。
 それに、こはるちゃんは現場に来ないはずなのに、なんでいるの?
 そもそも、この音声はどうやって手に入れたの?
 ……ダメだ。わからない。

「違う……。違う、違う!私はそんなことは言ってない。私を陥れようと。そう、そうよ!それはAIで作った偽物よ。生成AIを使ってまで、私を陥れようとするなんて、本当に最低ね!」
 白石は活路を見出だしたと、声を大にして言った。
 
 今まで私の体にくっついていたこはるちゃんが、私と白石の間に立った。
 年下の女の子なのに、その背中がとても大きく思えた。

「私がウソをついていると言いたいのかしら?」

 怒っている声ではない。むしろ、ひどく冷静な声なのに、背筋に悪寒が走る。
 白石も同じなのか、口を閉ざしていた。
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