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47話 蓮と私1
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私は今、蓮の部屋で固まっている。
白石との話合いが終わった後、こはるちゃんが「打ち上げしたい!」と言い出したのが、そもそもの始まりだった。
打ち上げ会場として、香澄が「うちのBar con suonoでやろうよ。開店前なら貸切りで騒げるからね」と提案をした。
そして「じゃあ、天音さんに連絡して差し入れ要請しておくね。それから、うちからも何か持ってこさせる!」とこはるちゃんがハシャギだした。
そして、あれよあれよと話が進み、なぜか蓮の車に押し込まれて「準備ができたら連絡するから、美咲は橘と時間を潰してて」と香澄に見送られた。
香澄とこはるちゃんが蓮に向かって、謎に頷いていたのが解せない。
もしかして、白石との話し合い後に打ち上げするって3人で決めてたのかな?
で、蓮はサッカーの試合終わりなので、自宅に帰ってシャワーを浴びたいことと、Bar con suonoで打ち上げをするなら、お酒を飲むことになるから車を自宅に置いて行きたいということで、蓮の自宅までやってきた。
今さらだけど、なんで来ちゃったんだ私……。
Bar con suonoの場所がわからないだろうから、ちゃんと蓮を連れてくるよう香澄に指示されたが、今はスマホがあるんだから、地図アプリで迷わず行けるのに「うん、わかった」と言わされ、嵌められた感がある。
蓮からは自由にしてていいと言われているけど、座ったソファーから動けないでいた。
1LDKの部屋。
奥に扉があるので、あちらが寝室だろうか。
今いるリビングにはグレーの2人掛けソファーに、ローテーブル。その上には小さな観葉植物。天井に灯りが無く、部屋の角にあるいくつかの間接照明が暖かい光で室内を照らしている。こういった絶妙にシンプルな家具たちがお洒落に見える。
システムエンジニアだからなのか、ソファーの後ろの大きな本棚には難しそうな本が並んでるし、その横の机の上にはPCの画面が2つも並んでる。机の脇にノートPCも置いてある。
よく見ると本棚の上にメダルやトロフィーもある……。
どんな大会のものかわからないけど、蓮のこれまでの軌跡をみているようだ。
「あっ……」
PC画面の置かれた机に、写真立てが見えた。
そこには、高3の文化祭のとき、写真部が開催していた撮影会で一緒に撮った、ツーショット写真が飾ってあった。
2人の指でハートを作っている。
少し照れが見える、初々しい学生の頃の2人。
でも、とても幸せそうだ。
私、こんな嬉しそうに笑ってたんだな。
「みさき」
蓮が頭を拭きながら部屋に入ってきた。
Tシャツにジーンズと、ラフな格好で、髪が濡れていて、身体から爽やかで甘い香りがする。
やだ、私。なに考えてるのよ。変態みたいじゃん!
「みさき?」
蓮がコーヒーの袋と、紅茶の袋を差し出してきた。どっちを飲むか聞いているとわかる。
私はコーヒーを指差した。
蓮は頷くとキッチンでコーヒーを淹れ、2つのマグカップを持ってきた。
その2つのカップは色も形もバラバラだ。しかもどちらもデカイ。
あっ、こっちのカップ。蓮が好きだったサッカーチームのロゴが入ってる。バルセロナ?だったかな?
蓮が自然と隣に座り、スマホを操作し始めた。
──ピロンッ。
私のスマホにメッセージが届いた。蓮からだ。
『コーヒー、多かったら残していいから』
『ありがとう。ちょっと大きいから驚いた笑』
『部屋でリモートもやるからな。何度もコーヒー入れるの面倒だから、いつの間にかデカクなってた』
「ぷっ」
思わず吹いた。
なんだろう、可愛いな。
『クッキー食う?』
『食う!』
「ぶっ」
今度は蓮が笑った。
『可愛すぎ』
その返信に顔が熱くなる。
『その顔、反則』
見ると、蓮も顔を赤くしていた。
ねえ蓮。その表情の意味は……なに?
『ねえ、蓮』
『ん?』
『聞いてほしいことがあるんだけど、いいかな?』
『なに?』
『蓮が好き』
隣で蓮が固まった。
数秒の沈黙なのに、長い時間固まっている気分だ。
そして、告白して気がついた。
蓮は白石から執着的に『好きだ』と言われたばかりなのに、今度は先日フラれた女から告白されるなんて、最悪の気分になっているに違いない。
ヤバい。タイミングを間違えた!
もっと落ち着いてから告げれば良かった。
いやいや、断られるならさっさと断られるべきなんだ。もう逃げないと決めたんだ。
この恋に決着をつける。
フラれるなら、完膚なきまでにフラれろ!
──ピロンッ。
蓮からのメッセージだ。
『嬉しい。俺も美咲が好きだ。だけど、一つ聞きたいことがある』
『なに?』
『俺の耳は一生聞こえない。美咲の声も、美咲の織り成すピアノの音色も、俺は聞けない』
蓮の表情は真剣で、どこか悲しげだ……。
どういう意図があってこのようにメッセージを送ってくるのか、私にはまだわからない。
『俺は普通の恋人になれない。周りから何か言われるかもしれない。美咲に……いらない苦労をかけるかもしれない』
不意に白石が言っていた言葉を思い出した。
『言っておくけどね、障害者と一緒になるって並大抵のことじゃないのよ。周りから向けられる目は違うし、普通に会話もできない。苦労だらけ。普通に生きてきたあんたなんかに、耐えられるはずないわ!』
蓮……もしかして……。
『俺でいいのか?』
不安そうな顔。
私はスマホを音声入力に切り替えた。
蓮の手を握ると、蓮は驚いてこちらを見た。
「蓮。私は蓮が好き。蓮がいいの。蓮じゃなきゃイヤなの」
蓮にメッセージを送ると、彼の目が潤んだ。
「白石が言ったように、もしかしたらコミュニケーションが上手く取れなくて苦労するかもしれない。周りの人から嫌な言葉をかけられるかもしれない。一般の人が考える『普通の恋人同士』ではないかもしれない。でもね」
言葉を切って送った。
蓮の辛そうな顔に、私の胸も苦しくなる。
だから伝えたい。
蓮には私の声が聞こえない。
それでも気持ちは届くはずだ。
まっすぐ彼の目を見て言った。
「それでいい」
「世界中を探しても、同じ人はいない。人はみんな違う。なら、その恋人同士の形もみんな違うものになるわ。違うことが当然なのよ。共通するのは、お互いを認めあって、尊重して、愛して合っている。それだけ」
「『俺でいいのか?』。違うよ。蓮がいいんだよ」
言ってて、涙が溢れた。
悲しいんじゃない。ただ、伝わってほしい。
蓮が、私にとって、かけがえのない人だって。
「ありがとう」
蓮も泣いてる。
その頬を濡らす涙を袖で拭うと、蓮も同じように自分の袖で私の涙を拭った。
それが嬉しくて、おかしくて、笑うとまた涙が溢れてきちゃう。蓮も同じように泣き笑いしてる。
本当、おかしいね。
でも、とても嬉しい。
白石との話合いが終わった後、こはるちゃんが「打ち上げしたい!」と言い出したのが、そもそもの始まりだった。
打ち上げ会場として、香澄が「うちのBar con suonoでやろうよ。開店前なら貸切りで騒げるからね」と提案をした。
そして「じゃあ、天音さんに連絡して差し入れ要請しておくね。それから、うちからも何か持ってこさせる!」とこはるちゃんがハシャギだした。
そして、あれよあれよと話が進み、なぜか蓮の車に押し込まれて「準備ができたら連絡するから、美咲は橘と時間を潰してて」と香澄に見送られた。
香澄とこはるちゃんが蓮に向かって、謎に頷いていたのが解せない。
もしかして、白石との話し合い後に打ち上げするって3人で決めてたのかな?
で、蓮はサッカーの試合終わりなので、自宅に帰ってシャワーを浴びたいことと、Bar con suonoで打ち上げをするなら、お酒を飲むことになるから車を自宅に置いて行きたいということで、蓮の自宅までやってきた。
今さらだけど、なんで来ちゃったんだ私……。
Bar con suonoの場所がわからないだろうから、ちゃんと蓮を連れてくるよう香澄に指示されたが、今はスマホがあるんだから、地図アプリで迷わず行けるのに「うん、わかった」と言わされ、嵌められた感がある。
蓮からは自由にしてていいと言われているけど、座ったソファーから動けないでいた。
1LDKの部屋。
奥に扉があるので、あちらが寝室だろうか。
今いるリビングにはグレーの2人掛けソファーに、ローテーブル。その上には小さな観葉植物。天井に灯りが無く、部屋の角にあるいくつかの間接照明が暖かい光で室内を照らしている。こういった絶妙にシンプルな家具たちがお洒落に見える。
システムエンジニアだからなのか、ソファーの後ろの大きな本棚には難しそうな本が並んでるし、その横の机の上にはPCの画面が2つも並んでる。机の脇にノートPCも置いてある。
よく見ると本棚の上にメダルやトロフィーもある……。
どんな大会のものかわからないけど、蓮のこれまでの軌跡をみているようだ。
「あっ……」
PC画面の置かれた机に、写真立てが見えた。
そこには、高3の文化祭のとき、写真部が開催していた撮影会で一緒に撮った、ツーショット写真が飾ってあった。
2人の指でハートを作っている。
少し照れが見える、初々しい学生の頃の2人。
でも、とても幸せそうだ。
私、こんな嬉しそうに笑ってたんだな。
「みさき」
蓮が頭を拭きながら部屋に入ってきた。
Tシャツにジーンズと、ラフな格好で、髪が濡れていて、身体から爽やかで甘い香りがする。
やだ、私。なに考えてるのよ。変態みたいじゃん!
「みさき?」
蓮がコーヒーの袋と、紅茶の袋を差し出してきた。どっちを飲むか聞いているとわかる。
私はコーヒーを指差した。
蓮は頷くとキッチンでコーヒーを淹れ、2つのマグカップを持ってきた。
その2つのカップは色も形もバラバラだ。しかもどちらもデカイ。
あっ、こっちのカップ。蓮が好きだったサッカーチームのロゴが入ってる。バルセロナ?だったかな?
蓮が自然と隣に座り、スマホを操作し始めた。
──ピロンッ。
私のスマホにメッセージが届いた。蓮からだ。
『コーヒー、多かったら残していいから』
『ありがとう。ちょっと大きいから驚いた笑』
『部屋でリモートもやるからな。何度もコーヒー入れるの面倒だから、いつの間にかデカクなってた』
「ぷっ」
思わず吹いた。
なんだろう、可愛いな。
『クッキー食う?』
『食う!』
「ぶっ」
今度は蓮が笑った。
『可愛すぎ』
その返信に顔が熱くなる。
『その顔、反則』
見ると、蓮も顔を赤くしていた。
ねえ蓮。その表情の意味は……なに?
『ねえ、蓮』
『ん?』
『聞いてほしいことがあるんだけど、いいかな?』
『なに?』
『蓮が好き』
隣で蓮が固まった。
数秒の沈黙なのに、長い時間固まっている気分だ。
そして、告白して気がついた。
蓮は白石から執着的に『好きだ』と言われたばかりなのに、今度は先日フラれた女から告白されるなんて、最悪の気分になっているに違いない。
ヤバい。タイミングを間違えた!
もっと落ち着いてから告げれば良かった。
いやいや、断られるならさっさと断られるべきなんだ。もう逃げないと決めたんだ。
この恋に決着をつける。
フラれるなら、完膚なきまでにフラれろ!
──ピロンッ。
蓮からのメッセージだ。
『嬉しい。俺も美咲が好きだ。だけど、一つ聞きたいことがある』
『なに?』
『俺の耳は一生聞こえない。美咲の声も、美咲の織り成すピアノの音色も、俺は聞けない』
蓮の表情は真剣で、どこか悲しげだ……。
どういう意図があってこのようにメッセージを送ってくるのか、私にはまだわからない。
『俺は普通の恋人になれない。周りから何か言われるかもしれない。美咲に……いらない苦労をかけるかもしれない』
不意に白石が言っていた言葉を思い出した。
『言っておくけどね、障害者と一緒になるって並大抵のことじゃないのよ。周りから向けられる目は違うし、普通に会話もできない。苦労だらけ。普通に生きてきたあんたなんかに、耐えられるはずないわ!』
蓮……もしかして……。
『俺でいいのか?』
不安そうな顔。
私はスマホを音声入力に切り替えた。
蓮の手を握ると、蓮は驚いてこちらを見た。
「蓮。私は蓮が好き。蓮がいいの。蓮じゃなきゃイヤなの」
蓮にメッセージを送ると、彼の目が潤んだ。
「白石が言ったように、もしかしたらコミュニケーションが上手く取れなくて苦労するかもしれない。周りの人から嫌な言葉をかけられるかもしれない。一般の人が考える『普通の恋人同士』ではないかもしれない。でもね」
言葉を切って送った。
蓮の辛そうな顔に、私の胸も苦しくなる。
だから伝えたい。
蓮には私の声が聞こえない。
それでも気持ちは届くはずだ。
まっすぐ彼の目を見て言った。
「それでいい」
「世界中を探しても、同じ人はいない。人はみんな違う。なら、その恋人同士の形もみんな違うものになるわ。違うことが当然なのよ。共通するのは、お互いを認めあって、尊重して、愛して合っている。それだけ」
「『俺でいいのか?』。違うよ。蓮がいいんだよ」
言ってて、涙が溢れた。
悲しいんじゃない。ただ、伝わってほしい。
蓮が、私にとって、かけがえのない人だって。
「ありがとう」
蓮も泣いてる。
その頬を濡らす涙を袖で拭うと、蓮も同じように自分の袖で私の涙を拭った。
それが嬉しくて、おかしくて、笑うとまた涙が溢れてきちゃう。蓮も同じように泣き笑いしてる。
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でも、とても嬉しい。
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