【完結】フィクション

犀川稔

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59話 不和と劣等感

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 中学に上がった俺は特にやりたいことも、入りたい部活動もなかった。しかし幼い頃から母に色々と習わされた甲斐もあり、運動神経が悪いわけでもなかったからか色んな部活動から勧誘された。全てに断りを入れていた時、中田なかたから話をかけられた。
「なぁ~赤城くん、バスケ経験者って聞いたんだけどほんと?」
 突然声をかけられた俺は無言で頷くと中田は距離を詰めて話をして来た。
「マジ!?え、じゃあさ!予定ある時は全然無理強いしないからちょいバスケ部入ってくんね!?俺小学校からクラブ入っててさ!俺もバスケ部入るんだけど顧問に聞いたら経験者半分しか居なくて結構萎えてんだよね...。聞いたらたまにしか来れなくてもいいから教えられる人入ってほしいって顧問も言っててさ!」
 そう話しをする中田の誘いをその時は断ったが、入部届提出最終日まで毎日俺のところに来ては頼み込んでくる中田の押しに負け、提出期限ギリギリで俺はバスケ部に入部した。

 部内の雰囲気はとても良くて中田を始めとして経験者が未経験者に教えていたり、先輩も下級生に指導を入れたりして和気藹々としている体育館を見て、半ば強引ではあったけど入部して良かったとその時は感じていた。そして俺も部内で偶然弟同士が友達だった八代やしろとよく話すようになり、彼は未経験だったけど周りについていこうと必死で俺に教わりに来たり、準備から片付けまで真面目に取り組んでいる姿を見て俺はとてもいい奴だと思った。
 変わってしまったのはあの時。身内の不幸に続き、足を怪我して二週間ちょっと部活を休んだ二年の夏過ぎの頃だった。
 先輩たちが引退して俺たち二年生が主となり部活をやっているであろう時期、久々に出ることのできる部活に対し密かに心躍らせながら体育館に向かっていると渡り廊下で一年生に声をかけられた。
「赤城先輩...。今日から部活参加ですか?」
「おー、そうだよ。一緒に行く?」
「あ...いや、その......。」
 戸惑いを見せる後輩の姿を見て俺は嫌な気配を感じて顧問に遅れる連絡をして空いていた自分の教室にその後輩を連れて行った。最初は話し出すのを躊躇っていた後輩が小さく息を吐くと俺に全てを打ち明けてくれた。

 その話の内容は酷く卑劣なものだった。
 俺が飛行機で身内の不幸参列している間に三年が引退し部長である中田にバトンが渡された途端、中田は部をやりたい放題に荒らし始めた。
 実力がないヤツが準備も片付けもするべきだ、と言い出しそれに対して反発した多くの人たちが部活を辞めていったと言っていた。後輩は元々俺に憧れを持って部活に入ったためそこまでバスケに執着があったわけでもなかったが俺が不在だった間、何があったか伝えるために今日この日まで部活を続けてくれていたそうだ。暴言や八つ当たりが酷い中田の影響を受けてか他のメンバーも似たような態度を取るようになり一番にその標的にされたのが八代だった。
 八代は穏やかでまっすぐで努力家で、そんな対応をする中田にも何も文句を言わずに準備から片付けをしていたそうだ。それを面白く思わなかった中田たちは暴言で八代を追い込み終いには八代だけに全てのことを丸投げし出したと言っていた。一年生も中田に何も言うことができず、みんなが帰る中一人で片付けをする八代にその後輩だけが声をかけて一緒に手伝っていたという。

 俺はそれを聞いて怒りが収まらなかった。
 勢いよく教室を出ると体育館に向かった。準備室で笑いながら話しをする中田の声が聞こえて俺が部屋のドアを開けようとした時衝撃の言葉が聞こえてきた。
「八代が何日耐えれるかゲーム俺が勝ちってことでいい!?」
「中田の一人勝ちだろ!つか八代もロッカーに仕舞ってあった練習着全部捨ててんのめげずに続けてたのすげぇよな。メンタル鋼かよ!」
「あいつ赤城くんと仲良くしてたから手出しづらいと思ってたけど赤城くんが二週間も席外してくれて助かったわ。イジるの楽しかったし退部した時はやり切った感あってすっきりしたわ~...これで帰ってきた途端部員減ってんの知ったら赤城くんもさぞビビるだろうな~。まぁもうあいつの役目終わったから全然部活辞めてもらっていいんだけどな!うちの学校のバスケ部全然パッとしないって言われてたからキラキラで陽キャな赤城くんが入ってくれりゃ映えるだろうなって思って誘ったんだけど頑張った甲斐あったわ~!女子たち練習試合観にくるようになったし俺も彼女できたしマジ赤城くんサンキューって感じだわ!!」
 部屋から聞こえてくる中田たちの話に俺は何も言えなくなってしまった。怒りで手が震え、その場で立ち尽くしていると横から人影が近づいてくるのが見えて目を向けると八代が立っていた。
 俺が八代のそばに近づくと八代は笑って「ありがとう。」と俺に言い、それだけ言うと体育館から去って行った。俺はその日にうちに退部届受け取りその場で書くともう二度と部活には参加しなかった。
 周りからはなぜ部活を辞めたのかと耳にタコができるほど聞かれたが「やる気がなくなった。」と答えた。嘘はついていない。実際やる気がなくなったのは確かだし今のバスケ部は俺が好きだったバスケ部じゃなかった。
 退部後何度か中田とはすれ違ったけどその度にヤツは俺を見ては気まずそうに目をそらしていた。そしてさっきも俺と会った恋がいなくなった時、あいつからどんな言葉が出るのかと思ったらあいつから言われた言葉は
「今度元バスケ部で知り合いの女子も誘って飯に行くんだけど赤城も来たら絶対盛り上がるから来てよ。」
 と言う内容だった。
 何を言っているのか理解ができず無反応でいると場を和ますように中田は、あの時俺を部活に誘って来た時のように明るく笑って話を続けた。
「中学の時、顧問から赤城が部活辞めたって聞かされた時はめっちゃびっくりしたよ!他の奴らも赤城が休んでるからそれを辞めたと勘違いして揃いも揃って退部して行っちゃうし帰ってくると思ってた赤城も退部しちゃうし...あれから全然話せなくなったから悲しかったわ。」
 その話を聞いて忘れかけていたあの時の思いが蘇ってきた。
「......じゃあ八代は?あいつはなんで辞めたの?ならよく分かってんじゃねぇの?」
 俺の言葉を聞いて顔を曇らせると焦ったように中田「どこまで知ってるの?」と聞いた。
 それに対して無視を決め込んでいるとそこに恋がやってきて俺の手を引いてくれた。

 正直恋の行動に救われた。俺は人に対して怒りと言う感情がないわけではなくてそれを表に出すことが面倒であり、そして自分の感情を伝えることが苦手だった。八代と最後体育館で会った時も本当は自分の気持ちを伝えたかった。ただ俺が言ったその言葉で今傷ついているあいつの気持ち更にを削ぐようなことになってしまったらとかもう俺とは話をしたくなかったらとかそんなことばかり頭に浮かび、交わることのないまま卒業をした。
 そんなことがあってから、男友達をあまり信用することができなくなった俺は他の一連もあり女子に対しても嫌悪感を抱くようになり、最終的には人との関わりの中で一歩距離を置くことで自分の感情のコントロールをするようになっていった。
 しかし高校に入るとその全てを佐々木に壊され好き勝手にされているけどきっとあいつは他にヤツらとは違うと心の底から感じるから、だからきっと俺の中で許せてしまうんだろうな。
 あの時の俺も、佐々木みたく誰とでも打ち解けられるような声がけができていればもっと八代の気持ち受け止めてやれたのかもしれない。過去はやり直すことはできない。けど、もう二度と同じようなミスはしたくないと思う。それに今はあの時とは違って誰にも譲れない素敵な恋人が俺のそばにはいるから...せめてこの人にだけは絶対に誤りを犯したくない。

 あぁ、佐々木。俺はお前の性格が心底羨ましいよ。
 全然上手に生きられないし中学から何一つ変われてない俺だけどせめて今、目の前にいる命より大切なこのたからものだけは死んでも守り抜きたいと心から思ってるよ。
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