ノンフィクション

犀川稔

文字の大きさ
33 / 87

26話 能動態と受動態

しおりを挟む
「花火...?」
 鬼の連勤を終えたその日の夜に新山さんがその足で家に顔を出しに来てくれた。
「うん。学校で佐々木たちと休み中にしようって話でてさ。今週末みんなのバイト休み被ったからやろうってなって、千隼も一緒にやろうよ。」
 コンビニで買って来たチョコレート菓子を千隼の口元に近づけながら新山がそう話すと千隼は怪訝そうな顔をした。
「花火自体はいいけど...兄貴たちの友達も来るなら嫌。絶対おれ浮く気しかしないし。」
「そう言うと思って佐々木と赤城だけしか誘ってないよ。赤城も恋人いるからかあんま人増やしたくないっぽかったし少人数の方が千隼くん参加してくれるべ?」
「...おれの彼氏めっちゃ気が利くしできる男すぎない?」
 詳細を聞いた千隼は分かりやすく上機嫌な顔つきをしてるんるんで新山の買って来たお菓子に手を付けた。
「それなら参加しようかな。ってか赤城先輩の彼女って同じ学校の人なの?」
「さぁ。俺も佐々木も知らないよ。あいつ意地でも口割らないしめっちゃガート硬いっぽい。何...気になるの?」
「うーん、気になるっちゃ気になる。あの人その手の話聞くの上手いしさ。そんな人が選ぶ相手ってどんななんだろってね。」
 千隼と話をしていた新山は徐々に顔を引き攣らせたけれどそれに気づかなかった千隼は更に話を進めた。
「赤城先輩って毎回その時に欲しい言葉を言ってくれるからまじで神なのかなって思うよ。あれはモテるよなぁって感じ。...まぁおれ自身はあぁいう見た目からしてTHE陽キャって人は絶対無理ではあるから、兄貴の友達って言う括りから外せないけどでも...」
「......いや、それ以上言わなくていい。普通に聞きたくないわ。」
「......は?」
 痺れを切らした新山は大きなため息を漏らして立ち上がるとそのままカバンを持って帰り支度を始めた。
「...え、何帰んの?」
「うん。今の千隼の感じちょい苦手だし今日はこのまま帰るわ。次会う時までには頭冷やすんでー、見送りいいよ。じゃ。」
 そう言い残し振り返ることもなく部屋から出て行った新山をぽかんと眺めていた千隼はその後一人部屋に取り残された。
 なんで新山がキレていたのかが理解できなかった千隼は頭を抱えた。
「...言いたいことがあるなら言ってくれればいいのにそれ言わずに嫌味だけ言って帰るとかめっちゃ卑怯じゃね...。」
 振り返ってじわじわと怒りを露わにした千隼は新山が置いて行ったチョコレートを冷蔵庫に仕舞いに行った。

 千隼がリビングのソファで横になっているとそこに佐々木がやって来て不機嫌なオーラを醸し出す千隼にニヤニヤしながら話しかけた。
「お?どうしたどうした。僕ちゃんご立腹モードか?」
 茶化すように話す佐々木に千隼が呆れた顔をし無視をしているとそのタイミングで携帯が鳴った。画面を見ると新山からだった。

 “さっきは勝手にイラついてごめん。普通に幼稚だったよな。でも赤城に気があるみたいな感じの言い方してたのが嫌だったからこれからはそう言うのやめて欲しい。”

 内容を読んだ千隼は更に首を傾げた。そして顔を上げると佐々木の方に顔を向け口を開いた。
「赤城先輩の彼女ってどんな人なん?同じ学校の人?あの人話聞くの上手いしモテるから相手どんな人か気になるわ。」
「は?知らんわ。」
「...どう?今のおれの言い方、赤城先輩に気あるみたいな言い方だった?」
 千隼の質問を聞いてなんとなく何があったのかを理解した佐々木は笑ってソファの端に腰掛けた。
「あー何、あいつ拗ねちゃんなの?まじウケるな。嫉妬とか重すぎておもろいしデリカシーないお前もさすが童貞って感じだわ。」
 一人で盛り上がっている佐々木に千隼がイライラしていると佐々木は何かを企んだように笑みを浮かべた。
「新山って割と学校でモテるんよな。あの何にも興味示さないようなやつが恋人には夢中になるって言うのが特別感あって羨ましいんだとよ。んで結構女子からもあいつの好きな性格とか色んな好み聞かれるんさ。まぁ聞いてくるやつ全員があいつのことが恋愛的な意味で好きかは俺は知らんけどな。」
「......そうなんだ。」
 唐突な佐々木の話題に千隼が過敏に反応するとそれを見た佐々木は千隼の方を見て「今どう思った?」と聞いた。
 千隼が黙って目線を逸らし携帯に目を向けると佐々木はチラッと見えた新山とトーク画面を見て確信を持ち話を続けた。
「赤城がモテるかモテないかなんてどうでもいいだよ。要はそれを誰が言ってるかが問題っしょ。お前だって俺が新山はモテるって聞いても然程驚きはしないけど、女子から聞かれたってのに引っかかったべ?あいつが誰に対しても千隼を接触させたがらないのなんてお前もわかってることじゃん。のに、赤城のことを根掘り葉掘り聞いたらそりゃ嫉妬心丸出し男からしたら発狂もんなんじゃん?」
 冷静且つ的確な佐々木の問いに何も言い返すこちができなかった千隼が無言で携帯を見つめていると「今日の今日ならまだ間に合うかもねー。」と言って佐々木はシャワーを浴びに去って行った。
 リビングでしばらくの間一人で考え込んだ後、千隼は部屋に戻り着替えて玄関から出て行った。
「さっきの事でちょっと話したい。家の近くまで行くから出て来れそうなら来て欲しい。」
 歩きながらそう連絡を入れるとすぐに既読の文字が付く間も無くして電話がかかって来た。
 焦った口調で新山は「逆に行くから、危ないし家に居て。」と千隼のことを止めたけれど「いいから。」と言って千隼は聞く耳を持たずに新山の家に向かって歩いた。
 電話を繋いだまま支度を済ませるとすぐに家を飛び出た新山は、走って千隼の家の方に向かっていると前から千隼が歩いてくるの気付き手を振った。
 そして息を切らせながら突然どうしたのかと聞く新山に抱きつくと千隼は小さな声で「ごめん。」と口を開いた。
 千隼の言葉を聞いた新山は驚嘆して目を見開いた後、優しく微笑んで「俺もごめん。」と漏らした。

 そんな暗い道中で抱き合う二人のことを遠くで見ていた人影は、しばらく二人の事を見た後でスッと角を曲がって姿を消した。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

今日もBL営業カフェで働いています!?

卵丸
BL
ブラック企業の会社に嫌気がさして、退職した沢良宜 篤は給料が高い、男だけのカフェに面接を受けるが「腐男子ですか?」と聞かれて「腐男子ではない」と答えてしまい。改めて、説明文の「BLカフェ」と見てなかったので不採用と思っていたが次の日に採用通知が届き疑心暗鬼で初日バイトに向かうと、店長とBL営業をして腐女子のお客様を喜ばせて!?ノンケBL初心者のバイトと同性愛者の店長のノンケから始まるBLコメディ ※ 不定期更新です。

【完結】男の後輩に告白されたオレと、様子のおかしくなった幼なじみの話

須宮りんこ
BL
【あらすじ】 高校三年生の椿叶太には女子からモテまくりの幼なじみ・五十嵐青がいる。 二人は顔を合わせば絡む仲ではあるものの、叶太にとって青は生意気な幼なじみでしかない。 そんなある日、叶太は北村という一つ下の後輩・北村から告白される。 青いわく友達目線で見ても北村はいい奴らしい。しかも青とは違い、素直で礼儀正しい北村に叶太は好感を持つ。北村の希望もあって、まずは普通の先輩後輩として付き合いをはじめることに。 けれど叶太が北村に告白されたことを知った青の様子が、その日からおかしくなって――? ※本編完結済み。後日談連載中。

入社1ヶ月のワンコ系男子が、知らずのうちに射止めたのはイケメン社長!?

monteri
BL
CM制作会社の新入社員、藤白純太は入社1ヶ月で教育係の先輩が過労で倒れたため、特別なクライアントの担当を引き継ぐことになる。 そのクライアントは、女子禁制ミーハー厳禁の芸能事務所だった。 主人公の無知で純なところに、翻弄されたり、骨抜きにされるイケメン社長と、何も知らない純太がドキドキするお話です。 ※今回の表紙はAI生成です

バツイチ上司が、地味な僕を特別扱いしてくる

衣草 薫
BL
理性的でクールなバツイチ上司・桐原恒一は、過去の失敗から、もう誰も必要としないと決めて生きてきた。 男が好きだという事実を隠し、「期待しなければ傷つかない」と思い込んできた部下・葉山直。 すれ違いと誤解の果てに、直が職場を去ろうとしたとき、恒一は初めて“追いかける”ことを選ぶ。 選ばれないと信じてきた直と、逃げないと決めた恒一。 二人の距離が近づくことで、直は「ここにいていい」と思える場所を見つけていく。 元ノンケ上司×自己肯定感低め部下の社会人BL。※ハッピーエンド保証。

【完結】毎日きみに恋してる

藤吉めぐみ
BL
青春BLカップ1次選考通過しておりました! 応援ありがとうございました! ******************* その日、澤下壱月は王子様に恋をした―― 高校の頃、王子と異名をとっていた楽(がく)に恋した壱月(いづき)。 見ているだけでいいと思っていたのに、ちょっとしたきっかけから友人になり、大学進学と同時にルームメイトになる。 けれど、恋愛模様が派手な楽の傍で暮らすのは、あまりにも辛い。 けれど離れられない。傍にいたい。特別でありたい。たくさんの行きずりの一人にはなりたくない。けれど―― このまま親友でいるか、勇気を持つかで揺れる壱月の切ない同居ライフ。

鬼上司と秘密の同居

なの
BL
恋人に裏切られ弱っていた会社員の小沢 海斗(おざわ かいと)25歳 幼馴染の悠人に助けられ馴染みのBARへ… そのまま酔い潰れて目が覚めたら鬼上司と呼ばれている浅井 透(あさい とおる)32歳の部屋にいた… いったい?…どうして?…こうなった? 「お前は俺のそばに居ろ。黙って愛されてればいい」 スパダリ、イケメン鬼上司×裏切られた傷心海斗は幸せを掴むことができるのか… 性描写には※を付けております。

【完結】※セーブポイントに入って一汁三菜の夕飯を頂いた勇者くんは体力が全回復します。

きのこいもむし
BL
ある日突然セーブポイントになってしまった自宅のクローゼットからダンジョン攻略中の勇者くんが出てきたので、一汁三菜の夕飯を作って一緒に食べようねみたいなお料理BLです。 自炊に目覚めた独身フリーターのアラサー男子(27)が、セーブポイントの中に入ると体力が全回復するタイプの勇者くん(19)を餌付けしてそれを肴に旨い酒を飲むだけの逆異世界転移もの。 食いしん坊わんこのローグライク系勇者×料理好きのセーブポイント系平凡受けの超ほんわかした感じの話です。

天の求婚

紅林
BL
太平天帝国では5年ほど前から第一天子と第二天子によって帝位継承争いが勃発していた。 主人公、新田大貴子爵は第二天子派として広く活動していた亡き父の跡を継いで一年前に子爵家を継いだ。しかし、フィラデルフィア合衆国との講和条約を取り付けた第一天子の功績が認められ次期帝位継承者は第一天子となり、派閥争いに負けた第二天子派は継承順位を下げられ、それに付き従った者の中には爵位剥奪のうえ、帝都江流波から追放された華族もいた そして大貴もその例に漏れず、邸宅にて謹慎を申し付けられ現在は華族用の豪華な護送車で大天族の居城へと向かっていた 即位したての政権が安定していない君主と没落寸前の血筋だけは立派な純血華族の複雑な結婚事情を描いた物語

処理中です...