ノンフィクション

犀川稔

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36話 元カノとそのバイト先の人

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 あれからなんとかL◯NEでのやり取りで済ませようと思ったけれど、元カノからの連絡は想像以上に粘着質で絶対に会わないと気が済まないのだろうと理解した。
 今でも覚えている。彼女はあの時...まだこんなにも親しい間柄になると思ってもいなかった新山さんと、初めて会話をするきっかけとなったあの日に一緒にいた相手だった。
 相手には本当に申し訳ないとは思うけれど、彼女と付き合っていた半年間はとにかく毎日が憂鬱だった。最初はそんな思いをするとは思ってもいなかった。ただ一時だけ、そんな軽い気持ちで始まったおれたちの関係。そんな恋人と言う肩書きは半年で幕を閉じた。
 最悪な別れ方をしたからきっともう連絡は来ないと思っていたのに、またこうして送ってきたと言うことは是が非でも何かおれに対して言いたいことがあるのかもしれない。
 そう思ったおれは二、三日考えた後に会って話すことを受け入れた。日付は新山さんが予定あると言っていた日。彼女と話をするだけのためにもしかしたら会えるかもしれないその時間を彼女に費やすのは勿体無いと思ったからだ。
 時間は元カノがバイトを上がる15時。そのバイト先の近くにある喫茶店で落ち合おうと提案した。
 しかし彼女から帰ってきた言葉は
「バイト先の前で待っててほしい。」
 だった。なぜそんなことを言い出したのか不思議に思いつつもおれは承諾し約束の時刻に合わせて家を出た。
 正直新山さんには言おうか言わまいか最後の最後まで悩んだ。でも特に未練があるわけでもないけれど「元カノに会う。」などと聞いて嫌に思わない人の方が珍しい。最近せっかく喧嘩もなくやれているのに、こんなことで揉めるのも嫌だったからおれは「友達と会う。」と新山さんには話していた。

 バイト先である本屋の前に着いて五、六分待った時カランカランと音がして入り口のドアが開いた。中からは元カノを含めた三人のバイトさんたちはみんなで出てきておれを見た元カノが嬉しそうに笑って手を振った。
「ごめんおまたせ!待っててくれてありがとぉ~!」
 甘ったるい声でそう言うとそれを聞いたバイト仲間の同じくらいに女子が元カノにニヤニヤしながら話しかけた。
「えっ、なになに。もしかして彼氏!?めちゃイケメンじゃん~!」
 煽てるようにそう言われると、元カノは「ま、まぁそんな感じ?」と笑みを浮かべながら返した。それを聞いたおれが「いや...っ」と言葉を出そうとすると焦った元カノはおれの手を掴んで首を横に振った。
「ちっ千隼!...じゃあデート行こっ!!」
「あら、いいね~!じゃあ私は家に帰るよ、二人ともお疲れ~!彼氏くんもまたっ!」
 そう言ってバイトの仲間が一人帰っていくと元カノはおれの手を無理やり引いて早く喫茶店に向かおうとした。
 この時点で嫌な予感を感じたおれは咄嗟にその場にいたもう一人のバイトの子であろう男子に声をかけた。
「あっ、君...!君も一緒に行きません、か!?」
 突然おれが話しかけた事に驚いてしどろもどろしている彼に「いや、相馬そうまくん...無理しなくて大丈夫だよ!」と元カノは圧を送った。しかしなんとなくおれの気持ちを悟ったのか将又ただの気分だったのか彼は「いいですよ~。」と柔らかい言葉を返しおれたちと一緒に喫茶店に着いてきてくれた。

「それで...話って?」
 席に案内されて早々おれが元カノにそう言うと、苦笑いを浮かべながらバツが悪そうに彼女は「まぁまぁ。」とおれを宥めメニューを見て適当にドリンクを三つ注文した。
「申し訳ないけど特にこれとって内容がないならおれは帰るよ。何回ももう一回だけ会えないかって言われたから今日来ただけであってそれ以外の理由はないから。」
 冷たい声でそう突き離されると彼女はしおらしい顔をしておれを見た。
「うん...まず来てくれたのはすごく嬉しかった、ありがとう。」
「うん。」
「でね。あれから色々考えたんだけど、やっぱり私には千隼しかいないって思って...。あの時は浮気してる千隼につい腹が立っちゃって別れたいって言ったけど、本心じゃなかったし......それにほら!みんなからも私たちお似合いだって言われてたし千隼と付き合ってるとなんか友達も自然とできてね!だから...っ」
「今恋人いるから無理。」
「...え?」
 険悪な雰囲気を醸し出す千隼が溜息混じりに低いトーンでそう話すと彼女は焦ったような表情を浮かべてあたふたとし出した。
「あ...彼女、いたん...だ。で、でもさ!千隼いつも終わるの早いし今回だってきっとそのうち別れることになるよ!?なら今もう別れて私と取り戻してもいいんじゃない?」
 身勝手な発言を繰り返す彼女に呆れ果てた千隼が「帰る。」と席を立ち上がると、運悪くそのタイミングでドリンクが席に到着した。
 千隼は自分の目の前に置かれたカフェラテを見て諦めがつきもう一度腰を下ろしてガムシロップを入れるとそれをストローで混ぜ、カフェラテを半分まで一気に飲んだ。
 そんな現場をずっと黙って聞いていた相馬はここまできてやっと口を開いた。
「そういえば綾瀬あやせさん。前に別のバイトの子に言ってた“いるだけで映える元カレ”って言うのはもしかして彼のことですか?確かに格好いいし優しそうな人だし...あれでもなんか俺の知ってる誰かに似てる気が...。」
 ペラペラと話を進める相馬に元カノが慌てて口を挟むのを見て千隼は「その話もっと詳しく聞かせてください。」と相馬に言った。
 すると相馬は元カノの妨害を無視してバイト先で耳にした千隼の話をどんどん話し始めた。
 街で自分がイジメを受けていたのを助けてくれた千隼がその場を収めるために元カノを自分の彼女だと周りに言ってくれ、その嘘を上手く利用しそろそろ大丈夫だろうからと別れを切り出そうとした千隼にもう少しだけと言い“彼女”で居続けようとした事。そして学校の近くまで迎えに行った際、ただのクラスメイトと二人で話してるところを目撃するたびに不安になって浮気だと喚き散らかし挙句に果てには別れるならお前も私をいじめてた奴らと同類だと脅せばなんでも望みを叶えてくれたと笑ってバイトの時に話していたそうだ。
 その話を聞いてもおれはあまり動揺しなかった。まぁきっとそんな事だろうとは思っていたし、昔からよく人数合わせだの顔は悪い方じゃないだの散々いいように使われてきたから今更どうこう思うこともなかった。
 そんなことよりも初対面でどこの誰かかも知らないおれのためにここまで話を打ち明けてくれたこの「相馬くん」が一体何者なのかおれは気になってしかたなかった。
 全てを赤裸々に暴かれると、彼女は取り乱し「違う!変なこと言わないで。」と相馬に怒りをぶつけた。しかし相馬は呑気にカフェラテを飲み終えると「...で、この後どうします?二次会的なのも行きます?」とまたもや珍発言をした事がおれはあまりにも可笑しくて声を出して笑った。
 そんなおれを見てもう無理だと悟った彼女は、飲み物もほとんど手を付けずに立ち去ろうとした。
「ごめん、私もう帰る...千隼、また会ってくれる?今度は二人きりで。」
 最後の望みを信じて元カノがそう千隼に聞くと温かい表情を浮かべて
「今までありがとう。元気でね。」
 と千隼が返したのに対し諦めたように小さく頷いて店から出て行った。
 残された千隼と相馬の間にはなんとも言えない空気が流れその雰囲気を断ち切るように千隼が声をかけた。
「あの...すみません。無理に誘いこんだ挙句、こんな最悪な現場にまで立ち合わせてしまってほんと...なんと謝ればいいか。本当、すみません。」
 恐縮した態度で千隼が何度も謝ると、相馬はさっきとは打って変わったように笑みを浮かべた。
「名前。」
「...え?」
「名前、なんて言います?ちはやくんって言うのは綾瀬さんの呼び方で分かったけど一応まだ聞いてなかったので。」
「あっ、確かに言ってなかったですね。」
 慌てたようにそう言った千隼のことを和かな顔で見ていた相馬に千隼は改まって自己紹介をした。

「千隼...佐々木千隼って言います。」



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 ※補足

 こちらの話は“フィクション”の「24話 B組集結」と同じ日を描いています。
今回と次回は遅れてきた相馬くんの遅れた真相が分かる話となっておりますので合わせて読んでいただけると嬉しいです。
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