ノンフィクション

犀川稔

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37話 巷談と潔白

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 クラスの集まりで飯に行った帰り、俺はそのまま仲のいい先輩の家に泊まりに行った。
 見た目はガラが悪いと思われる人だけど、高校を卒業してから足場の仕事に就きそれなりに真面目に働いているのを俺は知っているから変わらず今でも仲良くしていた。
 だから普段は千隼との予定に合わせるのを優先していたけれど夏休みで会う時間を増やせている今、たまには付き合いもあるから会っておこうと決め行くことに決めた。
 食事の途中でした千隼との電話でも、そのことは千隼にも知らせていて「危ない人じゃないなら全然いい。」と了承も得た。
 近くのコンビニで適当な菓子や飲み物を買ってから家のインターホンを鳴らすと嬉しそうに先輩は俺を家に招き入れた。

「っつかほんと久しぶりだな!佐々木とはマメに会ったりしてたけどお前とは随分日が開いた気がするわ。最近は恋人ばっかで全然つれないんだって佐々木が喚いてたぞ。」
 たわいもない会話を挟んだ後で先輩が笑いながらそう言うと、むず痒そうに新山は「まぁそうっすね。」と頭を掻いた。
 そしてダラダラと会話をし時刻は1時を過ぎた時、先輩はちょっと仮眠をすると言ってベットに横になった。そして携帯でアラームをセットした時、思い出したように新山に口を開いた。
「そうそう、そういえばさ。佐々木の弟いたじゃん?あの兄とは性格真逆な大人しめの子。その子を見かけたってダチが言っててさ!送られてきた写真がマジでウケるからちょい見てよ。」
 そう言って見せられた写真を見て俺は度肝を抜いた。
 見覚えのある顔つきが二人...いや。写っていた人物三人とも俺は知っていた。
 一人は先輩の言うように俺の恋人であって佐々木の弟である千隼。そして二人目はさっきまで一緒に飯を食っていたクラスメイトの相馬。そしてもう一人は...微かな記憶ではあるけれど過去に千隼が付き合っていたと思われる女だった。
 そう、俺が初めて千隼に話しかけたあの日。千隼の隣にぴょこん突っ立っていた女だ。多分...いや絶対。
 震える声を必死で隠しながら「これいつの写真すか?」と聞くと先輩は眠そうな目を擦りながら答えた。
「あー...?今日だよ今日。仕事早めに上がって帰ってる時に本屋の前あたりで見かけたって言ってたぞ。やっぱ草食に見せかけて中身は兄と同じで肉食だな。女も女で、佐々木の弟の腕なんか掴んでメスの顔してるしな。」
 そう言い残すと携帯の画面を消してそのまま倒れるようにスヤスヤと眠り出した。
 新山はなんとも言えないこの感情を消す方法が分からず頭を抱えた。
 ...千隼は今日、“友達”と会うと言っていたはずだ。その友達と言うのがこの女のことを表しているのだろうか。いや...仮にそうだとしても過去に恋愛関係になった相手を“友達”と言うのはおかしくないか?そもそもなんで相馬は千隼と居るんだ?遅れたのも千隼と一緒にいたからなのか。
 いつまで経ってもモヤモヤとした感情が消えず、気がつくと俺は赤城に連絡をしていた。切迫した俺の雰囲気を察したのか赤城からは電話がかかってきて表に出て俺は電話を受けた。
「ごめん、何。突然鬼L◯NE来たかと思えば相馬の連絡先知ってるかって。あと俺知らん。」
「あー、うん。色々あってちょい相馬に聞きたいことがあったんだよ。今芦野くんお前の家泊まってるんしょ?芦野くんなら知ってるだろうから彼に聞いてくれね?」
 新山がそう聞くと赤城は「彼もう寝たわ。」とあっさりと返した。
「マジか。めっちゃ健全優良児だわ。」
「うん毎回彼、即寝よ。だからいつも通りだわ。あー、あと至急で知りたいなら多分佐々木が相馬の連絡先知ってるかもよ。前に交換せがんでるの見かけた気する。」
 赤城からその話を聞くと新山はお礼を言ってすぐに電話を切り佐々木にメッセージを送った。すぐに既読が付くと「悪用は禁止よ。」と言うメッセージと共に相馬のL◯NEが共有された。
 友達追加をするとトークを開き今日千隼と一緒にいたのか聞こうと文字を打った。しかしその直後、タイプする指を止めた。
 聞いたところでどうなのだろうか。相馬に千隼たちと何をしていたかと聞くのか?そんな事をしたら相馬だってなんで俺が聞いているのか不審に感じるだろうし、本人に直接聞かないと言う点から、千隼を信じていないと言うことになってしまう。
 悩んだ末に俺は相馬には「友達追加したよろしく。」とだけ送り、千隼のトーク画面を開いた。
「今日って高校の友達と会ってたの?」
 そう送ると既読がつくまで画面を開いて待った。
 普段なら携帯を見ている時間のはずなのになかなかつかない既読の文字に焦りと苛立つを感じていると、しばらくしてやっと既読がついた。
 なんと返事が来るかと思えば届いたメッセージはとても淡白で「違う。」だけだった。
 その瞬間に俺の中で一つ糸がプツンと切れた気がした。
 それからは特に苛立ちを感じなかった。新しく芽生えた気持ちはきっと“諦め“だった。
 俺は自分と同じくらいに千隼も俺に対して気持ちを持っていると勘違いしていた。佐々木から今までの千隼の恋愛事情はなんとなくではあるけれど聞いたりもしていて大まかには把握はしていた。できる限り俺のペースに合わせてくれていたり感情を表に出そうと努力してくれている様子からして今までとは違った面持ちで入れくれているとばかり思っていた。
 でも千隼からしたら俺は単に今までの相手同様、その程度の感覚なのだと悟ることができてしまった。
 昔からそうだ。熱しやすく冷めやすい。それが俺の長所でもあり短所でもある。
 割り切ってしまえば相手に期待をしなくなると言うのは本当らしく、きっと今千隼に好きだとか言われても薄っぺらい言葉だと感じてしまう。

 少し自分の中で色々と整理がしたい。そうしないと俺は近いうちに千隼のことを好きだと思えなくなってしまう気がする。そうならないために今は少し千隼と距離を置こうと思う。
 俺は自分の中で覚悟を決め、千隼にメッセージを送った。
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