ノンフィクション

犀川稔

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39話 疑念

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 おれから始めたことではあるけれど、好きな人からの連絡が途絶える事は非常に心抉られる。
 普段、君からきていた会いたい時や電話をしたい時に来る「今何してるの?」と言うメッセージが恋しい。
 距離を置きたいと言った後に返ってきた君に返信に対して、年上の余裕だとか強がって既読で終わらせた事への後悔が募った。せめて距離を置くにしても連絡は取り合いたいと素直に言えばよかったと思った。
 今日も俺は来るはずもない君とのトーク画面を開きいつか何か連絡が来るかもしれないと何度も何度も開いては閉じてを繰り返す、そんな日常を過ごしていた。
 早いもので夏休みも終盤にさしかかり、自然と自分の身体も憂鬱な雰囲気に飲み込まれていった。
 友達追加をしたと言った後、相馬からは「よろしく。」とだけ連絡が来ていてその以降のやり取りはしていなかった。
 数日間連勤で入っていたバイトも乗り越え、久々に自分の家でダラダラと過ごしていた時にふと俺はあることを思い出した。
 確かあの時先輩から見せられた写真の端にクラスのヤツが言っていた新しくできたらしいゲーセンが写っていた気がした。
 背景にあった本屋は知らないけれど、そのゲーセンの場所なら俺もわかる。行ったところでどうこうなる問題ではないのはわかっているけど、こうやって家で何もせず過ごしていても君のことを考えてしまいモヤモヤとするだけだ。
「...だったら気分転換も兼ねて行ってみるのも悪くはないかもしれないな。」
 新山はそう一人事を呟くと服を着替えて家を出た。
 熱い日差しがジリジリと肌を焼き付けるようにふりかかり、外を歩いているだけで汗が止まらない。
 やっとの思いで電車を乗り継ぎゲーセンの前まで辿り着いた。
 辺りをキョロキョロと見渡すと、数軒隣に千隼の後ろに写っていた本屋があった。
 特に買いたいものはなかったけれど、俺はその本屋に入ることにした。

 中は広めで二階建ての造りになっていた。
 本なんて全然興味もなかったし触れてこなかった分野だから新鮮に感じていると、トントンと肩を叩かれて俺は後ろを振り返った。
「え?あ、相馬。なんで居んの?」
 ニコッと笑ってこっちを見ている相馬にそう声をかけると相馬は「ここ俺の職場だよ~。」と返した。
「あ、そうだったんだ。本屋で働いているの知らなかったわ。」
「たまたま知り合いがここで働いてて。辞めるタイミングで誰かバイト紹介してくれないかって言われたらしくて~。それで紹介してもらって働き出したんだ。でも俺からしたら新山くんがここにいる方がびっくり。本とか無縁そうじゃん~。」
 小馬鹿にしたように相馬がそう言うと新山は「馬鹿でも本くらい読むわ。」と薄く笑みを浮かべたのを見て相馬のつられて笑った。
 まだバイト中だったことを思い出し、仕事に戻ろうとした相馬に上がる時間を聞くと後一時間くらいで終わるようだったので新山は「待ってるから終わったらちょい付き合ってよ。」と相馬に声をかけ、適当に雑誌を一冊買うと一階の端にあったフリースペースで時間を潰していた。
 ダラダラとSNSを見ていると「あの...。」と声をかけられ携帯から目を離し声のする方に目を向けると新山は驚嘆して言葉を失った。
 そこに立っていたのは写真に写っていた...千隼の元カノだった。
 何も言い返すことなく黙って顔を見上げていると綾瀬はなんの疑いもせずにニコニコと明るい笑みを振り撒きながらテーブルを指差した。
「今ここのスペースの掃除をしていて。そこも...拭いてもいいですか?」
 そう言って手に持っていた布巾を見せると新山はスッとその場から立ち上がった。
「あー...すみません。待ち合わせで時間潰してただけなんでもう出ますよ。掃除の邪魔しちゃったみたいでさーせんした。」
 軽く頭を下げながらそう言って立ち去ろうとするとそんな新山の腕を綾瀬は掴んだ。
「あっ、違くて...!すみません...本当は話したくてわざと掃除だなんて言いました。ごめんなさい。さっき遠くから相馬くんとお話しているのが見えて、その時にかっこいい人だなって一目惚れしちゃって...。」
 モジモジしながらそう語る綾瀬に若干引き気味になりながら新山が「そうっすか。」と素っ気なく返すと綾瀬は「今彼女とかいますか?」と聞いた。
「あー、いや。彼女は居ないですけど...。あんまり初対面でそう言うの聞いてくる人は得意じゃないと言うか...苦手っすね、はい。」
 少しキツめのトーンでそう返した新山に悲しそうな表情を見せると綾瀬は「ごめんなさい。」と小さな声で謝った。そしてその後で少し間が空いてからまた口を開いた。
「......私、学校で女子から嫌がらせとか受けてて...それで人間不審な部分があって。距離感とかあまり考えずについこうやって好きだって思うと後先考えずに話しかけちゃう時あって...ってそんなことあなたには関係ないですよね、本当ごめんなさい。」
 目に涙を浮かべながら立ち去ろうとする綾瀬に新山は「あ、あの。」と声をかけるとその声を聞いて綾瀬は足を止めた。
「あーえっと...嫌がらせに関してはあんま無責任なことは言っちゃダメな気するからなんも言えないけど、後半に関してはなんとなく気持ち分かるよ。俺の近くにもそう言う子がいてさ。その子は過去のトラウマのせいで人が信用できなくなった子なんだけど最初は何言ってもしても全然心開いてくれなくて心折れかけたけど、今ではそのトラウマ乗り越えるために必死で変わろうとしてて俺の周りに人にも頑張って馴染もうと頑張ってくれてるんだよね。まぁ訳あって今は距離置いてるんだけどさ。だから人っていくらでも気持ち次第で変われるものだから。君も頑張りすぎないでゆっくり今の環境から抜け出せるように応援してるよ。」
 新山がそう言うと綾瀬は嫌そうな顔をして「もしかしてその人のことが好きなんですか?」と聞いた。
「うん、そうだよ。」
 即答する新山に綾瀬は大きなため息を吐いた。「じゃあほぼ脈なしみたいな感じだしもういいです~!あ、さっきの話も全部嘘なんで忘れてください!私全っ然友達多いし、むしろ選び放題なくらいなんで心配無用です~!」
 悪びれることなくヘラヘラと笑いながらその場から去っていく綾瀬を首を傾げながら新山が見ていると、途中から二人の会話を聞いていた相馬が新山の肩を叩いた。
「友達待ってるって言ったら暇だからもう上がっていいって言われたから着替えて来たよ。それとあの人の話はあんまり本気にしない方がいいよ~。7、8割型作り話かオーバーに言ってるだけだから。」
 嵐のように去っていった綾瀬のことをぼーっと見ていた新山は何かを悟ったようにハッとすると、相馬を連れて近くにあったファミレスに入った。
 そして席に着くなりメニューを手に取った相馬に口を開いた。
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