ノンフィクション

犀川稔

文字の大きさ
49 / 87

40話 思いもよらない告白

しおりを挟む
 朝起きたら目が腫れていた。
 調べたら温めると少しはマシになるってかいてあったから、ポットで熱々のお湯を作ってタオルを浸して少しパタパタしていい感じの温度になったタオルで目元を休ませた。
 それを何回か試してみたけど心なしか少しはよくなったかも、くらいで効果はいまいちな気がする。
 本当に無力だとは思うけど現状何一つ行動を起こすことができない今、布団に包まって涙を流す以外にできることがなかった。
 一人になりたいと思ったおれに気を遣ってか兄貴は昨日あのあと出かけたきり帰ってきていないし両親も泊まり込みで仕事なのか、姿を見ていない。静まり返った家の中におれの足音とか啜り泣く声だけが響いて余計に悲しい気持ちになった。
 今日は有馬と約束をしたから12時過ぎには家を出ないといけない。けれど何も食べていないからか全然力も出ないし気力も湧かない。
 とりあえず身だしなみだけでも整えないと、と千隼はゆっくりと身体を起こすとダラダラと脱衣所に向かった。

 待ち合わせのカフェに集合時間5分前に着くと、もう先に来ていた有馬が千隼に気付き手を振った。小さく手を上げると有馬の座っている席まで行き向かいの椅子に荷物を置いた。
「早いね、もう飲み物も買ってるし。そんな早く着いてたの?」
「ちーちゃんおはよう~!うん、なんかソワソワしちゃって準備早くできちゃったから先きてコーヒー飲んでた!ちーちゃん何飲む?俺買ってきてあげるよ。」
 席に座りながら話をする千隼に明るく笑みを浮かべながら有馬はそう言った。
「あー...じゃあカフェモカのはちみつ追加でお願い。」
 そう言いながら千隼が千円札を差し出すと「今日は俺の奢りでいいよ。」と有馬は言ってレジに向かった。
 数分して席に帰ってきた有馬は千隼にカフェモカとケーキを渡した。千隼が驚きながら顔を上げ「これもいいの?」の聞いた。
「うん!昨日の今日で誘ったんだしお礼的な?あとはまぁ...なーんかあったみたいだから慰めも兼ねて、みたいな。にしては安すぎた?」
 千隼に気遣い明るく振る舞った有馬を見た千隼は、その優しさに心を痛め俯いた。そしてあえて自分から話を聞いてこない有馬に口を開いた。
「......おれ気づかないうちに新山さんになんかしちゃったみたいでさ。距離置きたいって言われた。...多少のことはいつも多めに見てくれるし何かあったら直接言ってくれる人だから多分おれが相当なことしたんだと思う。理由聞きたいけど正直怖い。それでまた余計なことしてさらに壁ができたりなんかしたら、次はフラれる気がしてそれで消極になるし何もできない自分が情けなくて嫌になる。」
 真面目な顔でそう語った千隼のことを真っ直ぐに見ていた有馬はそれを聞いた後で「それで?」と千隼に聞いた。
「え...?」
「ちーちゃんはどうしたいの?修復したいのはそりゃ分かりきってるけど、それ以前にまずは自分ができることをするべきじゃん?きっと相手はちーちゃんから動いてくれるのを待ってると思うよ。距離置きたいって言われて相手に従うのもそれは大事なことだけど、言葉通りに何もせず過ごすんじゃなくて今できることをすればいいじゃん。」
 有馬の言葉を聞き、自分の中でその言葉の意味をなんとか汲み取ろうとする千隼を見て有馬は少し考えたあとまた話を続けた。
「例えばの話ね。もし俺が彼氏にそれ言われたらとりあえず言われたその日周辺の自分の言動を見直すかも、かな。彼氏に対してしたこと言ったことを含めそれ以外も全部ね。どこで誰が見てるか聞いてるかなんてわからない世の中だし世間って割と狭いからね。根も葉もない噂で一喜一憂するほど他人の陰口を面白がる奴は多いからこそ色々考えるかも。後は、うーん...まぁ価値観と考え方の違いとかも大事かもね。」
 話をしながらドリンクを飲んだ有馬がグラスを置いて顔をあげると千隼が真剣な顔でじっと自分を見てるのに気付き、一呼吸置いてから苦い笑みを浮かべた。
「俺さ、ちーちゃんのことを好きだよ。」
 その言葉を聞いた千隼は突然の発言に驚きつつも首を傾げながら「おれも有馬のこと別に好きだけど...。」と言った。
「んーん、俺の好きはちーちゃんの好きとは違う好きだよ。恋愛の好き、ラブの方。」
「......え?」
 友達のからの不意打ちすぎる告白に目を丸くすると、それを見た有馬はクスッと笑った。
「大丈夫だよ。別に困らせないわけじゃないしこんなタイミングで付き合ってほしいなんて言わないから安心してよ。ただ伝えておきたかったから言っただけ。本当はずっと隠しておくつもりだったんだけど内田からちーちゃんが俺の好きな人の話されたって聞いてさ。隠してたところで時間の問題な気するしヘタに変なところでバレるより自分からカミングアウトした方が潔いでしょ?」
 痛いほど無理に取り繕う有馬を見て千隼は「無理に笑わなくていいよ。」と声をかけた。それを聞いた有馬は一瞬驚いた顔をした後全てを悟り柔らかく笑った。
「......手、貸してほしい。」
「手?」
「うん。もう金輪際こんなキモいことお願いもしないから最初で最後だと思って俺の願い聞いてほしい。もう次会う時からそう言う恋愛感情は完全に...とまではいかないかもだけど、ちょっとずつ消していくから一回だけ手握ってほしい。ごめん、こんなこと頼んで。」
 申し訳なさそうにそう言うと有馬は千隼の方に手のひらを向けた。その手に自分の手のひらを合わせるように手を添えると千隼は指を絡め、力強く握った。
「...ありがとう言ってくれて。有馬の気持ちには答えれないしめっちゃ自分勝手なの百も承知だけど...おれはこれからも変わらずに有馬と一緒にいたい。...親友として。」
 はっきりと言葉を返した千隼に有馬は吹っ切れたように明るい顔をして頷いた。
「うん、もちろん。せっかくこんな相性いい友達を俺が手放すわけないじゃん。当たり前にこれからも一緒にいるよ。そもそも内田にもそう誓って、ちーちゃんに片想いしてるって宣言したしね。それはそうと...。」
 またしても有馬の爆弾発言に千隼は驚き口をぽかんと開けた。
「え...えっ!?待って、内田知ってたの?」
「え?うん。俺めっちゃちーちゃんのこと内田に相談してたしね。毎回ちーちゃんのこと話すたびに内田、胃が痛いって言ってたよ。」
 ヘラヘラと笑いながら内情を漏らす有馬に千隼も思わず笑うとそんな千隼を見て有馬は安心した表情を浮かべた。
「ちゃんと言えるじゃん、自分の気持ち。そんだけはっきり言えるんなら大丈夫だよ。怖いかもだけど落ち着いて自分のこと見つめ返した後で彼氏にちゃんと言ってみな。絶対に伝わるから。ずっとちーちゃんを見てきた俺が言うんだから説得力大でしょ。」
 そう言いながら繋いでいた手を離すと有馬はその手を拳に返え千隼の方に向けた。
 そんな有馬の顔を見た千隼は先程までの不安そうな表情が嘘のように、自信で満ちた顔をして有馬の拳に自分の拳を合わせた。

「ありがとう。本当に本当に助かった。...絶対に仲直りしてみせるから温かく見守ってて。」
 晴々とした明るい笑みを浮かべながら千隼がそう言うと有馬は「失敗した時は遠慮なく俺が貰ったげるからまぁ安心してよ。」と冗談混じりに言いそれからはまた普段の学校となんの変わりない、普通の会話をしながらゆっくりと話をしていった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

今日もBL営業カフェで働いています!?

卵丸
BL
ブラック企業の会社に嫌気がさして、退職した沢良宜 篤は給料が高い、男だけのカフェに面接を受けるが「腐男子ですか?」と聞かれて「腐男子ではない」と答えてしまい。改めて、説明文の「BLカフェ」と見てなかったので不採用と思っていたが次の日に採用通知が届き疑心暗鬼で初日バイトに向かうと、店長とBL営業をして腐女子のお客様を喜ばせて!?ノンケBL初心者のバイトと同性愛者の店長のノンケから始まるBLコメディ ※ 不定期更新です。

【完結】男の後輩に告白されたオレと、様子のおかしくなった幼なじみの話

須宮りんこ
BL
【あらすじ】 高校三年生の椿叶太には女子からモテまくりの幼なじみ・五十嵐青がいる。 二人は顔を合わせば絡む仲ではあるものの、叶太にとって青は生意気な幼なじみでしかない。 そんなある日、叶太は北村という一つ下の後輩・北村から告白される。 青いわく友達目線で見ても北村はいい奴らしい。しかも青とは違い、素直で礼儀正しい北村に叶太は好感を持つ。北村の希望もあって、まずは普通の先輩後輩として付き合いをはじめることに。 けれど叶太が北村に告白されたことを知った青の様子が、その日からおかしくなって――? ※本編完結済み。後日談連載中。

入社1ヶ月のワンコ系男子が、知らずのうちに射止めたのはイケメン社長!?

monteri
BL
CM制作会社の新入社員、藤白純太は入社1ヶ月で教育係の先輩が過労で倒れたため、特別なクライアントの担当を引き継ぐことになる。 そのクライアントは、女子禁制ミーハー厳禁の芸能事務所だった。 主人公の無知で純なところに、翻弄されたり、骨抜きにされるイケメン社長と、何も知らない純太がドキドキするお話です。 ※今回の表紙はAI生成です

バツイチ上司が、地味な僕を特別扱いしてくる

衣草 薫
BL
理性的でクールなバツイチ上司・桐原恒一は、過去の失敗から、もう誰も必要としないと決めて生きてきた。 男が好きだという事実を隠し、「期待しなければ傷つかない」と思い込んできた部下・葉山直。 すれ違いと誤解の果てに、直が職場を去ろうとしたとき、恒一は初めて“追いかける”ことを選ぶ。 選ばれないと信じてきた直と、逃げないと決めた恒一。 二人の距離が近づくことで、直は「ここにいていい」と思える場所を見つけていく。 元ノンケ上司×自己肯定感低め部下の社会人BL。※ハッピーエンド保証。

【完結】毎日きみに恋してる

藤吉めぐみ
BL
青春BLカップ1次選考通過しておりました! 応援ありがとうございました! ******************* その日、澤下壱月は王子様に恋をした―― 高校の頃、王子と異名をとっていた楽(がく)に恋した壱月(いづき)。 見ているだけでいいと思っていたのに、ちょっとしたきっかけから友人になり、大学進学と同時にルームメイトになる。 けれど、恋愛模様が派手な楽の傍で暮らすのは、あまりにも辛い。 けれど離れられない。傍にいたい。特別でありたい。たくさんの行きずりの一人にはなりたくない。けれど―― このまま親友でいるか、勇気を持つかで揺れる壱月の切ない同居ライフ。

鬼上司と秘密の同居

なの
BL
恋人に裏切られ弱っていた会社員の小沢 海斗(おざわ かいと)25歳 幼馴染の悠人に助けられ馴染みのBARへ… そのまま酔い潰れて目が覚めたら鬼上司と呼ばれている浅井 透(あさい とおる)32歳の部屋にいた… いったい?…どうして?…こうなった? 「お前は俺のそばに居ろ。黙って愛されてればいい」 スパダリ、イケメン鬼上司×裏切られた傷心海斗は幸せを掴むことができるのか… 性描写には※を付けております。

【完結】※セーブポイントに入って一汁三菜の夕飯を頂いた勇者くんは体力が全回復します。

きのこいもむし
BL
ある日突然セーブポイントになってしまった自宅のクローゼットからダンジョン攻略中の勇者くんが出てきたので、一汁三菜の夕飯を作って一緒に食べようねみたいなお料理BLです。 自炊に目覚めた独身フリーターのアラサー男子(27)が、セーブポイントの中に入ると体力が全回復するタイプの勇者くん(19)を餌付けしてそれを肴に旨い酒を飲むだけの逆異世界転移もの。 食いしん坊わんこのローグライク系勇者×料理好きのセーブポイント系平凡受けの超ほんわかした感じの話です。

天の求婚

紅林
BL
太平天帝国では5年ほど前から第一天子と第二天子によって帝位継承争いが勃発していた。 主人公、新田大貴子爵は第二天子派として広く活動していた亡き父の跡を継いで一年前に子爵家を継いだ。しかし、フィラデルフィア合衆国との講和条約を取り付けた第一天子の功績が認められ次期帝位継承者は第一天子となり、派閥争いに負けた第二天子派は継承順位を下げられ、それに付き従った者の中には爵位剥奪のうえ、帝都江流波から追放された華族もいた そして大貴もその例に漏れず、邸宅にて謹慎を申し付けられ現在は華族用の豪華な護送車で大天族の居城へと向かっていた 即位したての政権が安定していない君主と没落寸前の血筋だけは立派な純血華族の複雑な結婚事情を描いた物語

処理中です...