ノンフィクション

犀川稔

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58.5話 忘れられないヒト

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※本編は、今まであまり明かされていなかった佐々木くんの過去について触れている回となっております。
いつも陽気に過ごしている佐々木くんの暗い過去の話となっておりますので苦手な方はお控えください。
(お読み頂かなくても今度のストーリーに支障はありません。)
またこの話は“フィクション”の「47話 明るい友達の隠された過去」をお読み頂くとより理解が深まる回となっております。重ねてよろしくお願いします。



 最近の弟を見ていると自分はもう恋愛はいい、と思えてしまうほどお腹がいっぱいになる。
 今まで何人かと付き合ってきた事は本人が言わずもがな知っている。
 本人には言った事はなかったけど、俺はあいつの容姿も性格も決して悪くないと思う。家の近くで弟のことを待ち伏せをする女子や学校帰りに、おそらくその時の彼女であろう子と痴話喧嘩をしているのをちょこちょこ見かけていたし人並みに経験もして来ているのだと認識していた。
 しかしそんな記憶も今や懐かしい。
 今までの奴らとは違い、気を遣うことなくありのままで俺の友達と付き合っている弟を見ていると自然と安心してしまう。...まぁ、強いて言うなら自分のことのように思えつい干渉しすぎてしまうのは俺のよくないところでもあるのかもしれない。

 いつものように放課後、俺の家で友人たち数人と遊んだ後に駅前のゲーセンに行きそのままそこで解散になった。
 その帰り道にふと家でいちゃついているであろう弟と新山のことを思い出し俺はコンビニに立ち寄った。
 学校もブレザーの中にセーターを着るような季節になっていたこともあり、レジ横に売っている肉まんが輝いて見えた。
 自分はそれを買うことに決め、後は適当に菓子とジュースを自分とあいつらのために買おうと手に取りレジに向かった。その道中、商品棚の中で目に入ってきたのはキャラクターものの”合格祈願“の御守りだった。
 それを見た佐々木はすぐに目を逸らすとサッと会計を済ませて店を出た。

 過去の思い出が頭をよぎった。
 懐かしい笑顔に懐かしい声、そして不器用な君が馬鹿みたいに時間をかけて作ったであろう御守り。それを俺に渡す時に見せた今でも忘れられない辛そうな笑みとやっとの思いで絞り出した謝罪の言葉。
 最後まで素直になれなかった自分を何度恨んでも恨みきれないこの催眠から俺は今でも抜け出せずにいる。いや、正しく言えばここから抜け出して楽になる資格は俺にはない。
 それもそうだ。
 君が生きたいと思っていたこの時間を当たり前のように生きていられている俺は、君にとってはこの上ないほどの贅沢で狡い人間なのだから。
 葬式の後に彼女の妹から言われた。
「例えお姉ちゃんがあなたを許しても私は絶対にあなたを許さない。許したくない。」
 その言葉が全てだ。彼女は間違っていない。俺が止めてしまった彼女の命の時計じかんを動かすまでは俺には新たに本気の恋愛をする資格はないから。
 だから俺は今までもこれからも、きっともう君よりも誰かを好きになることも自分の全てを捧げることもこの先ない。
 そんな風に今日この日まで生きていた俺だったけど、ある人にかけられた言葉で身が軽くなった気がする。
 そいつは俺の友達の恋人であって、心なしかどこか俺の弟に似た雰囲気を持つ子だった。
 だからこそなんとなくその子の言葉は今までも俺の中に響くことが多かったし、今日も彼の言の葉のおかげで俺は少し前に進むことができた。
 確かに家族からの言葉は大切だ。でも俺が付き合っていたのは紛れもなく彼女であって、彼女の妹でもなんでもない。だからこそ周りの意見や言葉よりも彼女自身の話に耳を貸すのが正しい選択なのだと思い知らされた。それと同時に俺はあの時の記憶が蘇った。
 あの時...彼女が俺に御守りを渡した時。
「ごめんね。」と言う言葉と一緒に彼女は必死で御守りを指差して何かを俺に伝えていた。あれはなんだったのだろうか。
 少し考えたあとで俺はハッとしてポケットに入っていたその御守りを手に取った。
 固く結ばれている紐を丁寧に慎重に解くと、中には小さく折り畳まれた一枚の紙が入っていた。ゆっくりとその紙を拡げた俺はそこに書かれたメッセージを見て思わず息を飲んだ。

「楓へ 私はあなたが嫌いです。だっていつも周りばかり気にかけて自分の事は後回しにする。もっと自分を大事にしろ!っていつもいつも思っちゃうから。だからそんなところが大嫌いです。でもそれでも最後はちゃんと自分のことも自分でできちゃうからそんな器用なところは卑怯だし狡いし...正直羨ましいです。私は楓みたいに友達付き合いも勉強も何もかも全部上手くできないけど、それでも好きな人には全力で向き合えるようになったし下手なくせにこうやってお守りまで作っちゃうくらいには強い女になれたよ。それも全部楓のおかげだね。ありがとう。これから先、どんなことがあっても私は楓のことを応援してるし誰がなんと言おうと楓の決めた道を全力でサポートするよ。あー!やっぱり。こんなに好きだって私に思わせる楓なんて本当に本当に大嫌いだよ...嘘、大好き。楓にとってずっとずっと素敵な日常が続きますように。 美憂」

 メッセージを読み進める佐々木の目には涙が溢れていた。
「あーあ、なんで今になってこんな大事なモノ見つけ出しちゃうかなー。」
 涙で目の前が滲む中バイブの鳴ったのに気付き携帯を取り出した。
 そこに表示してあった日付を見て佐々木は思わず声を出した。
 ......そうか、今日は君の誕生日...か。きっとこれは君が自分のことを思い出してほしいと言うサインだったのかもしれないな。
 そう自分の中で解釈をすると、佐々木は大きく深呼吸をした。
 そして服の袖で涙を拭うともう届くはずもないかつての君のアドレスに「ありがとう。」とメッセージを送った。そのメールは数秒後に送信エラーとして送信ボックスに戻って来ていたけれど、それを見た佐々木は薄く笑みを浮かべた。

 ...大丈夫。今日も君は俺の中で生き続けている。忘れない。忘れるはずない。でもきっとこのまま立ち止まっている俺を見たら君なら何してんだって言ってきっと背中を押すだろうから。だから俺はそんなことを言わせないようにこれからも馬鹿みたいに笑って笑って、笑い続けるよ。少しずつ前に進むために頑張るから...君も俺に負けないくらいあの太陽みたいに眩しい笑顔でいてほしいな。

 コンビニの中で浮かべていたような曇った表情が消え去り、透き通った空のような顔色をした佐々木は大きく伸びをするとコンビニの袋を持って家に向かって歩き始めた。
 そして思い出したように「あっ!」と声を上げ立ち止まると、手に持っていた袋を広げた。
「...自分の分の肉まん買ってねぇじゃん...んだよ。あいつらのためだけに寄ったみたいじゃん。」
 うっかりど忘れした自分に対して呆れたように笑うと「ま、いっか。」と開き直ってまた歩き出した。

 家に帰るとリビングで話をしていた千隼と新山にコンビニで買ったものを手渡すと上機嫌で二階に上がっていった。千隼と新山は顔を見合わせると、不気味なほどに機嫌のいい佐々木に動揺しながらも買ってきた菓子を開封した。
 一方佐々木は、自分の部屋の戻った後で大事なことに気づかせてくれた彼に明日何かお礼にジュースでも奢ろうかと考えながらベットで横になった。
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