人見知りと悪役令嬢がフェードアウトしたら

渡里あずま

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第一章

色々と予想外

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 前世で、私が自分のことを『人見知り』だと言うと、大抵は驚かれた。
 私の場合、知らない人と会うとどういう人か解るまで、ずっと緊張しながら探り続ける。大人になってからは、これに適度な会話や聞き取りが加わったが――おかげで一人になると、反動ですごく疲れて無言になってしまう。
 ……もっとも、今は身体的にすごく疲れて、言葉も出ないのだが。
 
「は、はっ……はっ……」
 
 何となく、馬車にでも乗って修道院に向かうのだと思っていたが――何と父親は義母達と馬車に乗り、買い物に出かけてしまった。
 そんな訳で、私は今日まで良くしてくれたローラにのみ見送られ、修道院から迎えに来た男性と共に徒歩で屋敷を後にしたのである。
 
(した、んだけど……この人、どういう人なんだろう?)
 
 タリタ修道院から来た、と言っていたし修道服らしい白黒の服(白い服の上に黒い布がかけられている)も着ている。
 だけどとにかく背が高いし、厳つい。逆光で顔はよく見えなかったが、シルエットが厳つい。
 更に、腰には剣がある――それを見て、ローラが頭を下げたところを見ると身分を示すものらしい。
 とは言え身長差もだが、歩幅が違いすぎて現在、見上げるどころではなく。転ばないように歩くので精一杯だ。かろうじて手をつながれているのではぐれはしないし、荷物は持ってくれているのだが。
 
(幼女、とか令嬢、ってだけじゃ、ないよね? き、競歩、かな? い、息、上がるっ)
 
 思考まで息切れ状態に陥っていると、不意にお迎えさんの足が止まった。急なことにたまらずよろけると、逞しい腕が私を支えてくれる。
 
「あ、りがと……」
「……すまないが、抱き上げていいだろうか?」
「えっ……」
 
 更にありがたい申し出をしてくれたが、解らないのは謝罪されたことだ。
 問いかける為、顔を上げると短い金髪に縁取られた顔が、何故だか逸らされてしまった。
 
「……怖いと、思うんだが。すまない」

 その言葉で、相手なりの気配りの結果なのだと思い至った。確かに普通の子供なら、この大きさだけで怖がったり涙目になるかもしれないが。

「逆に、申し訳ありません……人見知りなのであなただからじゃなく、初対面の方には皆、緊張します」

 だから、あなたが謝ることはない。
 私がそう言うと、男性が弾かれたようにこちらを見た。精悍な面差しと、鋭い緑の瞳。ただその表情で、思ったより若いのかなと印象を改める。

「お願いします。鞄は、私が抱えますから……一緒に、運んで頂けますか?」

 そう言って両手を差し出すと、男性はしゃがんで出来るだけ目線を合わせてくれた。

「俺は、ラウル。タリタ修道院を守る神兵だ。その、少しは安心して貰えるだろうか?」

 突然の名乗りに戸惑ったが、続けられた言葉で人見知りと告げた私を、少しでも安心させる為だと解った。

「はい。私は、イザベル・ラ・セルダ……これからは、ただのイザベルですね。よろしくお願いします」

 だから嬉しくて笑顔になると、男性――ラウルさんは再び目を見張り、すぐに無表情に戻りはしたが、荷物を抱えた私をすごく優しく抱き上げてくれた。

 その後、ラウルさんが十六歳だと知り、私は必死に平静を保った。
 ……ごめん、ラウルさん。現世父と同じ、二十代後半くらいかと思ったよ!
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