人見知りと悪役令嬢がフェードアウトしたら

渡里あずま

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第一章

何故何故、どうして?

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 エドガーは貴族であり、男の子だ。それ故、お菓子作りなど初めてだろう。
 けれど、エドガーは頑張ってキッチリ材料を量ってくれたし、心配していたおしゃべりもしなかった。最初は、きつめに脅したからかと思ったが――少なくとも、真面目にやってくれていることは確かだ。

(どうなるかと思ったけど、結果的に手伝い要員が増えて良かった)

 約束しているから、お礼になるかどうか不明だが、手伝いが終わった後に話そうと思う。
 とは言え、私は自分から話題を振って盛り上げるのは苦手だ。そういう意味では、この焼き菓子作りは確かに正解だろう。それだけ気を配れるなら、そもそも貴族の若君が労働すると言い出すなとも思うが。

(護衛らしい人達、私を怒ったりエドガーを止めたりしなかったものね。困ってはいたけど……同じく困ってる私が、考えることじゃないし)

 そう、先程は空気のように存在感がなかったが、エドガーは一人ではなかった。幼児なので当然だが、軍服を着た青年が二人、護衛としてついてきていた。
 ちなみに、今も厨房の隅っこにいる。流石に騎士様(だと思う)に手伝わせる訳にはいかないので、私達はスルーしている。
 しかし身分の問題もあるだろうが、成人男性(この世界では十八歳以上)と思われる二人がいてもエドガーを止められないとは。

(甘やかされてるから、こんなにわがまま……だと、言葉が悪いかな。やりたい放題? いや、これも酷いか)

 そんなことを考えつつ、私も黙々と材料を量っていった。初参加のエドガーが、あれだけ頑張っているのだ。私も、負ける訳にはいかない。
 そんな私達幼児の手を借りつつ、修道士や修道女の面々は焼き菓子を作っていき――おかげで、たくさんのクッキーが完成した。



「何と言うか……素朴だな?」
「家などで食べるものに比べれば、そうでしょうね」

 そして私達は、場所を変えて話をすることになった。
 二人きりになることは止められたので、院長室でクロエ様とエドガーの護衛がいる中、並んで話すことになった。来客用の椅子に座り、皿に分けて貰った焼き立てクッキーをそれぞれ口に運ぶ。

(うん、素朴だけど……優しい味)
(カナさん、美味しいね)

 私と現世の私イザベルが甘味に和んでいると、同じようにクッキーを口にしたエドガーがピタリと止まった。
 貴族以上が食べるお菓子は今回、使われていない卵や砂糖、あとクリームが使われている。だから、口に合わなかったかと思ったが――その顔を見ると、怒っていると言うより呆然としていた。

「……本当だ。心が、軽くなった」
「えっ?」
「だが辛いことも、心が弱っていることもないのに……何故だ?」

 随分と、漠然としたことを聞いてきた。相変わらず、無茶振りにも程がある。
 とは言え、幼児が途方に暮れているのを放ってもおけず――少し考えて、私は少しズルい手を使うことにした。

「何故だと思います?」

 秘儀・質問返し。
 ただ自分のことなのに、解らないからとすぐ人に聞くのはどうかと思うので、ここはまず考えて貰うとしよう。
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