人見知りと悪役令嬢がフェードアウトしたら

渡里あずま

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第三章

年が明けたからこそ

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 年が明け、新年の宴当日。
 今日、いや、つい先ほどまでやれることは全部やった。そして私はラウルさんと、馬車で宴の会場である王宮へと向かっている。
 ラウルさんにエスコートされるのは、初めてではない。何なら、十五歳になった時の宴の時は会場の中まで連れていって貰った。
 けれど、今日のラウルさんは神兵の格好ではない。格好だけではなく、今日は神兵の証である剣も腰に差していない。今のラウルさんは護衛ではないので、剣や武器の持ち込みは出来ないのだ。もっとも、ラウルさんはあっさりとして言った。

「まぁ、魔法を使えば素手でも戦えるからな」

 それを聞いて『筋肉は全てを解決する』という言葉が浮かんだ私は、悪くないと思う。
 とは言え、ラウルさんのエスコートが決まったのが宴まで一か月もなかったので、衣装をどうするかと思ったのだが──何とビアンカ様の夫であり、平民だけではなく貴族も相手をする商人であるダレンさんが、自分の礼服の一着をラウルさんに譲ってくれた。

「一から作るのは無理でも、直しなら何とかなるだろう? 幸い、聖女様とも似合いの色だしな」

 そんな訳で今日のラウルさんは私のドレスと同じ、深緑の礼服だった。彼の瞳の色に合わせたとも言えるがお揃いのような格好も、更にそもそもラウルさんは神兵の、モノトーンの格好ばかりだったので、いつもとは違う格好というだけでついドキドキしてしまう。
 そんな私に、ふ、と目を細めてラウルさんは言った。

「あの格好が、長かったからな」
「ええ……でも、これからは……」

 そこまで言って、私は言葉を切った。まだ『これから』は決定していないので、その先が続けられなかった。
 そんな私に、ラウルさんは頷いて言ってくれた。

「その続きは今日、全て終わった後に」



 宴の会場に到着すると、領地に引きこもりながらも、私とラジャブとの婚姻を画策した現世父が来ていた。私をラジャブのところに連れていく気だっただろうが、ラウルさんを連れ立って現れたので忌々しげに睨んでいる。いや、睨んでいるだけではなくツカツカと歩いてきて言った。

「どういうつもりだ。お前は、ラジャブ殿下と婚約が決まって……っ!」

 そんな現世父に、私はエスコートしてくれるラウルさんの手を握って言った。

「私は成人おとなですから、婚姻に対して親の指図は請けません」
「なっ!?」
「あと私は、デステ男爵位を受爵いたしますし……何より本日、この方と……ラウルさんと、結婚いたしました。だから、ラジャブ殿下に嫁ぐことは出来かねます」
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