灰かぶり君

渡里あずま

文字の大きさ
39 / 96

好きな人に自分の好きなものを1

しおりを挟む
 高価たかそうなカップで、高価そうな紅茶を飲み、高価そうなケーキやチョコレートを食べる。
 ……ここまでなら「あぁ、金持ちのティータイムって感じ」って思えるんだけど。

「いい? セフレなんて、求めちゃ駄目。それってつまり、何度も求めてるってことでしょ?」
「そうそう、あの方を縛るなんて出来ないんだから。むしろ、一度でもあの方に近づけることが奇跡なの」
「…………」

 確かに俺、会長に失礼のないように色々、教えて欲しいって言ったけど――えっと、これ、何の心得だ?
(いや、逃避したけど。つまりは『会長のお手つき』になった時の心得だよな)
 無言で紅茶を飲む俺の前で、チワワ達の力説は続く。
 朝、生意気な感じで俺に「教えてあげる!」と宣言したのは、親衛隊長の美山詩桜みやましおだった。
 くるくる波打った黒髪と、大きな目。まさにチワワって感じ(年上らしいけど)だ。今もやれ、声をかけられた時はありがたく承るだの、やれ、遠慮も無粋だけど積極的だと萎えさせるだの――そして、両手で拳を握って。

「ゴムは駄目だけど、ローションは必須だからね!」
「…………」

 キッパリととんでもないことを言い切られたのに、俺は残りの紅茶をゴクンと飲み込んだ。
 新歓の日、緑野に迫ったのは親衛隊だった。
 あの時も面倒だと思ったけど、度合いからするとこの会長の親衛隊の方が上かもしれない。内心、ため息をつきながら俺は口を開いた。

「皆さんは、本当に会長が好きなんですね」
「「「……えっ?」」」
「そもそも、俺みたいな平凡なんて相手にされないと思いますけど。万が一、いや、億が一の可能性の為に一生懸命なのって……会長を、困らせないようにですよね」

 緑野の親衛隊は、自分の気持ちを緑野に押しつけてた。
 だけど、同じ『好き』でもこのチワワ達は会長のことを考えてる。
(やめろって言えないのが、面倒だよな)
 まあ、思い込みの激しさは良い勝負だし。そもそも、振り向いてくれない相手に抱かれるのってどうかと思うけど――それって、チワワ達の気持ちだから。だから、俺は「辛いだろう」とも「酷い話」だとも言わなかった。
(会長の株は、大暴落だけど)
 ここまで説明されるのって、つまり(主に)下半身に節操がないのが事実だからだろう。
 男同士でも、いや、男同士だからこそ気遣うのって男のエチケットって言うか、甲斐性だろ。チワワ達の好意に、胡座かいてんじゃないって話。

「……よ」
「えっ?」
「そうだよ! 僕達は、紅河様のことが好き……大好きなんだからっ」

 ……そんなことを考えてたら、目の前の隊長がいきなり叫んで泣き出した。
 いや、隊長だけじゃない。チワワ達が、目の前でポロポロ涙を流している。

「皆、ぼ、ぼく達のこと淫乱って」
「ただ、紅河様のこと、す、好きなだけなのにっ」
「だ、抱いてやるなら誰でもいいんだろ、って」
「本当に、見る目がないですね……皆さん、こんなに可愛いのに」

 あ、可愛いからこそ妬みとか相手にされないことへの僻みもあるかもな。
 そう思ってたら、目の前のチワワ達がピタリと固まった。何か気に障ったか、と思ったけど。

「べっ、別に嬉しくなんかないんだからねっ」
「紅河様の為に、自分を磨くのなんて当然だし!」
「そうですよね。好きな人には、自分の好きなものをあげたいですよね……だから、俺はお勧めしなくて良いですよ?」

 照れてるだけみたいなんで、そう言って俺はケーキを食べた。だけど、そんな俺の前でチワワ達がまた固まる。

「えっと、プレゼントって自分の好きなものを送るじゃないですか? 皆さんは、可愛くて頑張ってるあなた達を会長にプレゼントしてますよね? でも俺は、皆さんみたいに努力してませんから」

 解り難かったかな、と思って俺は言葉をつけ加えた。
 だから、俺には億どころじゃなく兆に一もお手付きになる可能性はない。そもそも努力する気なんてないけど、心得を覚える必要もない。そんな『俺はライバルじゃないです』アピールに、チワワ達がおずおずと尋ねてくる。

「「「……プレゼント?」」」
「ええ」
「「「そんな風に言われたの、初めて……」」」

 ……本当、親衛隊って苦労してんだな。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

君が僕を好きなことを知ってる

大天使ミコエル
BL
【完結】 ある日、亮太が友人から聞かされたのは、話したこともないクラスメイトの礼央が亮太を嫌っているという話だった。 けど、話してみると違和感がある。 これは、嫌っているっていうより……。 どうやら、れおくんは、俺のことが好きらしい。 ほのぼの青春BLです。 ◇◇◇◇◇ 全100話+あとがき ◇◇◇◇◇

夜が明けなければいいのに(洋風)

万里
BL
大国の第三皇子・ルシアンは、幼い頃から「王位には縁のない皇子」として育てられてきた。輝く金髪と碧眼を持つその美貌は、まるで人形のように完璧だが、どこか冷ややかで近寄りがたい。 しかしその裏には、誰よりも繊細で、愛されたいと願う幼い心が隠されている。 そんなルシアンに、ある日突然、国の命運を背負う役目が降りかかる。 長年対立してきた隣国との和平の証として、敵国の大公令嬢への婿入り――実質的な“人質”としての政略結婚が正式に決まったのだ。 「名誉ある生贄」。 それが自分に与えられた役割だと、ルシアンは理解していた。 部屋に戻ると、いつものように従者のカイルが静かに迎える。 黒髪の護衛騎士――幼い頃からずっと傍にいてくれた唯一の存在。 本当は、別れが怖くてたまらない。 けれど、その弱さを見せることができない。 「やっとこの退屈な城から出られる。せいせいする」 心にもない言葉を吐き捨てる。 カイルが引き止めてくれることを、どこかで期待しながら。 だがカイルは、いつもと変わらぬ落ち着いた声で告げる。 「……おめでとうございます、殿下」 恭しく頭を下げるその姿は、あまりにも遠い。 その淡々とした態度が、ルシアンの胸に鋭く突き刺さる。 ――おめでとうなんて、言わないでほしかった。 ――本当は、行きたくなんてないのに。 和風と洋風はどちらも大筋は同じようにしようかと。ところどころ違うかもしれませんが。 お楽しみいただければ幸いです。

誰かの望んだ世界

日燈
BL
 【完結】魔界の学園で二年目の学園生活を送るイオは、人知れず鶯色の本をめくる。そうすれば、必要な情報を得ることができた。  学園には、世界を構成するエネルギーが結晶化したといわれる四つの結晶石≪クォーツ≫を浄める、重要な家系の生徒が集っている。――遥か昔、世界を破滅に導いたとされる家系も。  彼らと過ごす学園生活は賑やかで、当たり前のようにあったのに、じわじわと雲行が怪しくなっていく。  過去との邂逅。胸に秘めた想い――。  二度目の今日はひっそりと始まり、やがて三度目の今日が訪れる。  五千年ほど前、世界が滅びそうになった、その時に。彼らの魂に刻まれた遺志。――たった一つの願い。  終末を迎えた、この時に。あなたの望みは叶うだろうか…? ――――  登場人物が多い、ストーリー重視の物語。学校行事から魔物狩り、わちゃわちゃした日常から終末まで。笑いあり涙あり。世界は終末に向かうけど、安定の主人公です。  2024/11/29完結。お読みいただき、ありがとうございました!執筆中に浮かんだ小話を番外編として収めました。

【完結】君を上手に振る方法

社菘
BL
「んー、じゃあ俺と付き合う?」 「………はいっ?」 ひょんなことから、入学して早々距離感バグな見知らぬ先輩にそう言われた。 スクールカーストの上位というより、もはや王座にいるような学園のアイドルは『告白を断る理由が面倒だから、付き合っている人がほしい』のだそう。 お互いに利害が一致していたので、付き合ってみたのだが―― 「……だめだ。僕、先輩のことを本気で……」 偽物の恋人から始まった不思議な関係。 デートはしたことないのに、キスだけが上手くなる。 この関係って、一体なに? 「……宇佐美くん。俺のこと、上手に振ってね」 年下うさぎ顔純粋男子(高1)×精神的優位美人男子(高3)の甘酸っぱくじれったい、少しだけ切ない恋の話。 ✧毎日2回更新中!ボーナスタイムに更新予定✧ ✧お気に入り登録・各話♡・エール📣作者大歓喜します✧

【完結】ここで会ったが、十年目。

N2O
BL
帝国の第二皇子×不思議な力を持つ一族の長の息子(治癒術特化) 我が道を突き進む攻めに、ぶん回される受けのはなし。 (追記5/14 : お互いぶん回してますね。) Special thanks illustration by おのつく 様 X(旧Twitter) @__oc_t ※ご都合主義です。あしからず。 ※素人作品です。ゆっくりと、温かな目でご覧ください。 ※◎は視点が変わります。

【完結済】俺のモノだと言わない彼氏

竹柏凪紗
BL
「俺と付き合ってみねぇ?…まぁ、俺、彼氏いるけど」彼女に罵倒されフラれるのを寮部屋が隣のイケメン&遊び人・水島大和に目撃されてしまう。それだけでもショックなのに壁ドン状態で付き合ってみないかと迫られてしまった東山和馬。「ははは。いいねぇ。お前と付き合ったら、教室中の女子に刺されそう」と軽く受け流した。…つもりだったのに、翌日からグイグイと迫られるうえ束縛まではじまってしまい──?! ■青春BLに限定した「第1回青春×BL小説カップ」最終21位まで残ることができ感謝しかありません。応援してくださった皆様、本当にありがとうございました。

【完結】俺とあの人の青い春

月城雪華
BL
 高校一年の夏、龍冴(りょうが)は二つ上の先輩である椰一(やいち)と付き合った。  けれど、告白してくれたにしては制限があまりに多過ぎると思っていた。  ぼんやりとした不信感を抱いていたある日、見知らぬ相手と椰一がキスをしている場面を目撃してしまう。  けれど友人らと話しているうちに、心のどこかで『椰一はずっと前から裏切っていた』と理解していた。  それでも悲しさで熱い雫が溢れてきて、ひと気のない物陰に座り込んで泣いていると、ふと目の前に影が差す。 「大丈夫か?」  涙に濡れた瞳で見上げると、月曜日の朝──その数日前にも件の二人を見掛け、書籍を落としたのだがわざわざ教室まで届けてくれたのだ──にも会った、一学年上の大和(やまと)という男だった。

目立たないでと言われても

みつば
BL
「お願いだから、目立たないで。」 ****** 山奥にある私立琴森学園。この学園に季節外れの転入生がやってきた。担任に頼まれて転入生の世話をすることになってしまった俺、藤崎湊人。引き受けたはいいけど、この転入生はこの学園の人気者に気に入られてしまって…… 25話で本編完結+番外編4話

処理中です...