灰かぶり君

渡里あずま

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買い出しとナンパと予想外と

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 背の半ばまでのストレートヘアは、金髪だった。最初、染めてるのかって思ったけど目の色が薄茶だったり、顔の彫りが深いんでもしかしたらハーフとか、クォーターだろうか?
 年の頃は、三十歳前後くらいだと思う。白いトップスに春らしい蛍光イエローのボトムス。俺より背が高くて、それこそ百七十センチ以上ありそうなんだけど、更にヒールを履いている。俺が知らないだけで、モデルさんとかなのかもしれない。

「お姉さん、どこ行くのー?」
「俺らとお茶しない?」
「それとも、ドライブとかー?」
「…………」

 そんな美女を、三人のチャラそうな連中が取り囲んでいる。女性は無言で、嫌そうに眉を寄せてるけど囲まれているせいで、立ち去ることも出来ないみたいだ。
 ……残念ながら、俺は白月しづき学園の皆みたいにイケメン力で撃退することは出来ないし、チワワパワーで男達の気を逸らすことも出来ないけど。

「姉さん」

 だけど、女性が困っているのを見過ごせなくて、身内のフリをして見知らぬ女性に声をかけてみた。



 高校卒業後、俺はアパートに戻って、そこから専門学校に通うことにした。
 今日は、俺の誕生日。指輪をプレゼントしてくれた後、運転席の刃金さんから一緒に住もうと言われたが、卒業するまではと丁重にお断りをした。

「刃金さんと一緒だと、脳内お花畑になって学業に身が入らなくなるから駄目です」
「……チッ。真顔で、可愛いこと言いやがって」

 悔しそうに舌打ちされたが、とりあえず『却下』されずに済んだのでホッとした。しかし代わりに、ある提案をされた。

「引っ越しの日、出灰の家に行っていいか?」
「え、はい。ただ家具とかある訳じゃないから食器とか本は事前に送りますし、当日は服とか最低限の荷物を持って帰るくらいですよ?」
「ずっと家を空けてたから食い物とか飲み物とかないんじゃないか? 自炊しないおれでも、退寮後に実家に戻ったらそうだったから……お前だったら、米とか肉とか買う必要だろ? 買い出し、手伝うぞ」
「ありがとうございます。俺、刃金さんと付き合って、本当に良かったです」

 イケメンで不良のリーダーで、今は社長を目指す大学生という、色々と盛り沢山な刃金さんだが、こういうちょっとした価値観が同じなのは嬉しい。
 そう思ってお礼を言うと、何故か真顔になった刃金さんに抱き締められ、しばしワシャワシャと頭や背中を撫でられた。



 思えば、刃金さんの家には行ったことがあったが、俺の家に刃金さんが来るのは初めてだ。
 卒業して寮を出た俺を、車で迎えに来てくれた刃金さんは、アパートの住所を伝えると一瞬、だけど確かに眉を寄せた。どうしたのかと思って尋ねると「知り合いが近くに住んでるから」と言われた。踏み込んでいいかどうか解らなかったので、あいづちだけ打つと刃金さんは笑って、でも知り合いについてはそれ以上口にせずに車を走らせた。
 今日はこのまま買い物に向かい、買い物の後にアパートに寄ることになっている。幸い、俺のアパートは亡き父さんも(車自体は処分したが)乗っていたので、駐車場込みの契約だ。

「先に昼食ってから、買い物するか」
「そうですね」

 そんなことを話しながら、昼も食べるならとスーパーではなく、ショッピングモールに向かうことにした。駐車場に車を停め、まずはレストランフロアに向かうことにする。
 ……そこで俺は、ナンパらしい男三人に絡まれている女性に気づいた。
 長い髪と、完璧なプロポーション。女性の方は無視して立ち去ろうとしているが、囲まれてしまって逃げられないみたいだ。

「出灰?」
「ちょっと、行ってきます」

 隣の刃金さんに断ると、俺は小走りに駆けていって「姉さん」と女性に声をかけた。そんな俺に、女性もだがナンパ男達も一斉に俺を見る。

「ごめん、はぐれて。お腹空いたから、昼食べに行こう?」
「……ええ、そうね」
「何々、弟君?」
「悪いけど、おこづかいあげるから先帰ってくれるかなー? お姉さんは、これから俺らとデートだからー」

 俺の助け船は、残念ながら不発に終わった。と言うか、確かに俺よりは年上だと思うが、何が楽しいのか、ゲラゲラ笑ってる。こいつらには、俺がいくつに見えてるんだろう?

「おれのツレを、勝手に帰すんじゃねぇよ。何様だ? お前ら……失せろ」
「ヒッ!?」
「お、おい。行こうぜ」
「ああっ」

 そんな俺に近づき、肩を抱いた刃金さんがナンパ男達に言う。
 隣にいるので顔は見えないが、睨みでもしたのか途端に男達は真っ青になり、アタフタと逃げ去った。流石、と感心しているとナンパされていた美女が、笑顔で俺に話しかけてきた。

「ごめんね? ありがとう」
「いや、俺は何も……連れが、助けてくれたんで」
「そんなことないわ。声をかけて、助けようとしてくれたのは君だもの。あと、刃金も君が動いてなかったら、そもそも助けてくれなかったでしょうし」
「えっ?」
「うるせぇぞ、おふくろ。誤解されたら、どうしてくれる」
「…………えっ?」

 美女が刃金さんの名前を呼んだので、元カノだろうか? 流石刃金さん、お目が高いと思っていたら──続けられた刃金さんの言葉に驚き、数秒固まった後、まず美女を、次いで刃金さんを見た。年上だとは思うが、とても刃金さんみたいな大きな息子がいるようには見えない。

「初めまして、安芸亜金あきあかねよ。よろしくね、出灰君」
「彼氏はどうしたんだよ」
「平日だからお仕事よ。ランチでもって思ったら、まさかこんなオバちゃんがナンパされるなんてねぇ……あ、お礼にお昼おごるわね、本当に、嬉しいわー」
「却下」
「させないわよ。偶然とは言え、こうして会えたんだから」
「……逃げねぇから、出灰にくっつくんじゃねぇ」
「い・や♡」

 刃金さんのお母さんである亜金さんは、笑って俺の左腕に手を絡めたまま歩き出し──刃金さんがチッ、と舌打ちして俺の右腕を掴み。
 結果として店に着くまで、俺は美男美女な安芸母子に挟まれ、囚われた宇宙人状態になった。
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