23 / 27
悶着
しおりを挟む
オーベルは銃が得意だが他の武器も使えるし、それなりに体術も嗜んでいる。実際はカルバの甥だが、表向きは使用人兼護衛という名目でローラン家にいるからだ。
しかし、そんなオーベルでもクロエには勝てない。
惚れた弱みから、ではない。女性ということで、男性であるオーベルに力や体力で劣るが──代わりに身軽さや俊敏さは上だし、何よりクロエは急所を狙うことに躊躇がない。異世界は人殺しが大罪になる、平和な世界らしいのにだ。
「父親に殴られて、死にかけたし……喧嘩も、馬鹿相手だと下手すると死ぬからな。それに前世も体格には恵まれなかったから、相手をすぐに倒そうと思ったらこうなった」
淡々と語られた内容は、なかなかとんでもない。とは言え、生まれ変わっても死にかけた世界なので、これくらい精神面が逞しい方が良いだろう。と言うか「何か問題あるか?」と小首を傾げるのと中身の物騒さが不似合いで、なのに妙に可愛らしくて困る。
話を戻すが、そんな訳でルールがある試合は別だろうが、実戦では大の男もあっさり倒す。それこそ宴で大の男に連れ込まれそうになった時に、元男のくせに容赦なく相手の股間を蹴り上げたくらいだ。
(今回、顎を狙ったのはレーヴがいるから、少しでも早く相手を無効化する為か?)
顎に衝撃を与えると、脳が揺れて立っていられなくなる。身長が許す限りは殴り、長身の相手には今回のように蹴りを放ったのだろう。
(ドロワーズを履いてるからって、スカートが捲れることを気にしなさすぎる)
あれもまた下着なのだが、クロエにとっては単なるズボンらしい。やれやれと思いながらも、オーベルはクロエに声をかけた。
「クロエ様、レーヴ様。ご無事ですか?」
「レーヴ様!」
「オーベル……大丈夫よ、ありがとう」
「ミューズに守って貰ったから大丈夫よ、エトワ」
淑女言葉で返されたのに、ああ、と思う。この男子生徒達は、ハリドが指示を出してクロエ達を襲った。そんな相手に、今の段階で全て明かすつもりはないのだろう。
オーベルの視線の先でクロエが今、蹴りを入れて動けなくなっているが、意識はあるらしい男子生徒を見下ろして言う。
「ちゃんと『あなた達に脅されて』、ユージン殿下との勉強会は断るから……あなた達も、余計なことは言わないでね?」
もっとも、と相手に見えているかは解らないが、意地悪く笑ってクロエは続ける。
「貴族の養女になった、平民の女にやられたなんで……恥ずかしくて、言えないでしょうけど」
「「「……っ!」」」
図星だったらしく言葉に詰まった男子生徒達はそのままに、クロエは踵を返した。一応、彼らに聞かれないようにオーベルは日本語でクロエに尋ねた。
『クロエ様、王太子との勉強会を断るって?』
『ああ。俺がハリド達に連れ出されたのは、奴の耳に入るだろうから……断ったら、邪魔が入ったと思うだろう? ハリドに対してか、アイツを操ってるラウラに対してかは知らんが。おかげでますます、俺が気になるんじゃないかな?』
『流石です、ミューズ!』
クロエの返事にレーヴが感心し、オーペルは成程なと思った。
今の段階では、クロエに対しては興味がある程度だろうが、せっかくの好機を邪魔されたら腹が立つし、逆に何とかクロエの気を引こうと『次』を考えるだろう。横槍を入れなければ、勉強会一回で済んだかもしれないのに、だ。
『男心がよく解ってますね』
『男って言うより、ガキの気持ちだな。気に入ったおもちゃを取られそうになったら、ムキになる』
「ハッ」
オーベルの言葉に、クロエはあっさりと答え──仮にも大国の王太子を、ガキ扱いするのがクロエが面白くてオーベルは笑った。
しかし、そんなオーベルでもクロエには勝てない。
惚れた弱みから、ではない。女性ということで、男性であるオーベルに力や体力で劣るが──代わりに身軽さや俊敏さは上だし、何よりクロエは急所を狙うことに躊躇がない。異世界は人殺しが大罪になる、平和な世界らしいのにだ。
「父親に殴られて、死にかけたし……喧嘩も、馬鹿相手だと下手すると死ぬからな。それに前世も体格には恵まれなかったから、相手をすぐに倒そうと思ったらこうなった」
淡々と語られた内容は、なかなかとんでもない。とは言え、生まれ変わっても死にかけた世界なので、これくらい精神面が逞しい方が良いだろう。と言うか「何か問題あるか?」と小首を傾げるのと中身の物騒さが不似合いで、なのに妙に可愛らしくて困る。
話を戻すが、そんな訳でルールがある試合は別だろうが、実戦では大の男もあっさり倒す。それこそ宴で大の男に連れ込まれそうになった時に、元男のくせに容赦なく相手の股間を蹴り上げたくらいだ。
(今回、顎を狙ったのはレーヴがいるから、少しでも早く相手を無効化する為か?)
顎に衝撃を与えると、脳が揺れて立っていられなくなる。身長が許す限りは殴り、長身の相手には今回のように蹴りを放ったのだろう。
(ドロワーズを履いてるからって、スカートが捲れることを気にしなさすぎる)
あれもまた下着なのだが、クロエにとっては単なるズボンらしい。やれやれと思いながらも、オーベルはクロエに声をかけた。
「クロエ様、レーヴ様。ご無事ですか?」
「レーヴ様!」
「オーベル……大丈夫よ、ありがとう」
「ミューズに守って貰ったから大丈夫よ、エトワ」
淑女言葉で返されたのに、ああ、と思う。この男子生徒達は、ハリドが指示を出してクロエ達を襲った。そんな相手に、今の段階で全て明かすつもりはないのだろう。
オーベルの視線の先でクロエが今、蹴りを入れて動けなくなっているが、意識はあるらしい男子生徒を見下ろして言う。
「ちゃんと『あなた達に脅されて』、ユージン殿下との勉強会は断るから……あなた達も、余計なことは言わないでね?」
もっとも、と相手に見えているかは解らないが、意地悪く笑ってクロエは続ける。
「貴族の養女になった、平民の女にやられたなんで……恥ずかしくて、言えないでしょうけど」
「「「……っ!」」」
図星だったらしく言葉に詰まった男子生徒達はそのままに、クロエは踵を返した。一応、彼らに聞かれないようにオーベルは日本語でクロエに尋ねた。
『クロエ様、王太子との勉強会を断るって?』
『ああ。俺がハリド達に連れ出されたのは、奴の耳に入るだろうから……断ったら、邪魔が入ったと思うだろう? ハリドに対してか、アイツを操ってるラウラに対してかは知らんが。おかげでますます、俺が気になるんじゃないかな?』
『流石です、ミューズ!』
クロエの返事にレーヴが感心し、オーペルは成程なと思った。
今の段階では、クロエに対しては興味がある程度だろうが、せっかくの好機を邪魔されたら腹が立つし、逆に何とかクロエの気を引こうと『次』を考えるだろう。横槍を入れなければ、勉強会一回で済んだかもしれないのに、だ。
『男心がよく解ってますね』
『男って言うより、ガキの気持ちだな。気に入ったおもちゃを取られそうになったら、ムキになる』
「ハッ」
オーベルの言葉に、クロエはあっさりと答え──仮にも大国の王太子を、ガキ扱いするのがクロエが面白くてオーベルは笑った。
13
あなたにおすすめの小説
砕けた愛
篠月珪霞
恋愛
新婚初夜に男に襲われた公爵令嬢エヴリーヌは、不義密通の罪を被せられた。反逆罪に問われた彼女の一族は処刑されるが、気付くと時間が巻き戻っていた。
あなたへの愛? そんなものとうに、砕け散ってしまいました。
夫が運命の番と出会いました
重田いの
恋愛
幼馴染のいいなづけとして育ってきた銀狼族の族長エーリヒと、妻ローゼマリー。
だがエーリヒに運命の番が現れたことにより、二人は離別する。
しかし二年後、修道院に暮らすローゼマリーの元へエーリヒが現れ――!?
あなたに何されたって驚かない
こもろう
恋愛
相手の方が爵位が下で、幼馴染で、気心が知れている。
そりゃあ、愛のない結婚相手には申し分ないわよね。
そんな訳で、私ことサラ・リーンシー男爵令嬢はブレンダン・カモローノ伯爵子息の婚約者になった。
皇后マルティナの復讐が幕を開ける時[完]
風龍佳乃
恋愛
マルティナには初恋の人がいたが
王命により皇太子の元に嫁ぎ
無能と言われた夫を支えていた
ある日突然
皇帝になった夫が自分の元婚約者令嬢を
第2夫人迎えたのだった
マルティナは初恋の人である
第2皇子であった彼を新皇帝にするべく
動き出したのだった
マルティナは時間をかけながら
じっくりと王家を牛耳り
自分を蔑ろにした夫に三行半を突き付け
理想の人生を作り上げていく
本当に現実を生きていないのは?
朝樹 四季
恋愛
ある日、ヒロインと悪役令嬢が言い争っている場面を見た。ヒロインによる攻略はもう随分と進んでいるらしい。
だけど、その言い争いを見ている攻略対象者である王子の顔を見て、俺はヒロインの攻略をぶち壊す暗躍をすることを決意した。
だって、ここは現実だ。
※番外編はリクエスト頂いたものです。もしかしたらまたひょっこり増えるかもしれません。
死に戻りの悪役令嬢は、今世は復讐を完遂する。
乞食
恋愛
メディチ家の公爵令嬢プリシラは、かつて誰からも愛される少女だった。しかし、数年前のある事件をきっかけに周囲の人間に虐げられるようになってしまった。
唯一の心の支えは、プリシラを慕う義妹であるロザリーだけ。
だがある日、プリシラは異母妹を苛めていた罪で断罪されてしまう。
プリシラは処刑の日の前日、牢屋を訪れたロザリーに無実の証言を願い出るが、彼女は高らかに笑いながらこう言った。
「ぜーんぶ私が仕組んだことよ!!」
唯一信頼していた義妹に裏切られていたことを知り、プリシラは深い悲しみのまま処刑された。
──はずだった。
目が覚めるとプリシラは、三年前のロザリーがメディチ家に引き取られる前日に、なぜか時間が巻き戻っていて──。
逆行した世界で、プリシラは義妹と、自分を虐げていた人々に復讐することを誓う。
わたくしが悪役令嬢だった理由
詩森さよ(さよ吉)
恋愛
わたくし、マリアンナ=ラ・トゥール公爵令嬢。悪役令嬢に転生しました。
どうやら前世で遊んでいた乙女ゲームの世界に転生したようだけど、知識を使っても死亡フラグは折れたり、折れなかったり……。
だから令嬢として真面目に真摯に生きていきますわ。
シリアスです。コメディーではありません。
愛に代えて鮮やかな花を
ono
恋愛
公爵令嬢エリシア・グローヴナーは、舞踏会の場で王太子アリステアより婚約破棄を言い渡される。
彼の隣には無垢な平民の娘、エヴァンジェリンがいた。
王太子の真実の愛を前にしてエリシアの苦い復讐が叶うまで。
※ハッピーエンドですが、スカッとはしません。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる