令嬢の復讐代行者

渡里あずま

文字の大きさ
27 / 27

怒気

しおりを挟む
 ユージンの好みに合えば、流石に一線こそ越えないがクロエは己を利用することもやぶさかではなかった。そうやって、ジャンヌの復讐の為に何としてもラウラとの『真実の愛』をぶち壊すつもりだった。
 おそらくだがこれから、ハリドはソフィアと婚約解消になるだろう。彼女のおかげで、フリーになったハリドは今までのように、ラウラに近づけなくなる。いや、もしかしたら『友人』を理由にするかもしれないが、少なくとも今までのように当然にはならない。周りからの評価が、明らかに下がる。
 そしてクロエは元々、ハリドからの脅しを利用して勉強会を断り、ユージンの気を引こうと思っていた。この必死な調子なら断らず、頷いていいと思う。
 ……思うのだが、何と言うかクロエは気に食わないと思った。

(ハリドみたいな、恋愛感情からの行動じゃない……母親に、何か言われたか?)

 復讐の為に事前に調べていたのでユージンと親との関係性も、あと王妃・レミーアの気性も知ってはいる。セルシウス公爵家からの婚約解消の申し出でハリドの愚行と、証拠はないかもしれないがおそらくラウラが関係していると気づいたのだろう。

(王妃の性格なら、俺との勉強会がラウラの罰になるとか、俺への詫びになるとでも言ったか?)

 そこまで考えて、クロエは自分が怒っていることに気づいた。
 断っておくが中身は男なので女として、あるいは性的な対象として見られるのは喜色悪い。ただ、同じ男なので同性が喜ぶツボのようなものは解るし、復讐に利用することに躊躇いはない。もっとも、人の好みはそれぞれなので好かれない場合もあると思うし、だからこそ自分以外のレーヴという『駒』も用意していた。
 だが今、こうしてユージンと対峙してクロエが怒っているのは。

(俺を……いや。こいつらが、知らないにしてもまた『ジャンヌ』を馬鹿にしているからだ)

 自分達で躾けられなかったラウラへの罰に、クロエを利用する? 美形の王太子と勉強することが、詫び?
 かつて、ジャンヌに汚名を着せて追いやったお前達が──この可哀想なに、また?

(いや、落ち着け……今、こいつらが馬鹿にしてるのは、ジャンヌじゃなくて俺だ。今後のことを考えたら、このチャンスに乗っかった方がいい)

 クロエがそう考えを切り替えたところで、縋るようにユージンが尋ねてくる。

「急かして、申し訳ないが……私との勉強会は、どうしても駄目だろうか?」

 そんなユージンに肩を掴まれたまま、クロエは答えた──唇に、綺麗に見える笑みを形造って。

「『友達』とは、恐れ多いですが……私で、よろしければ。ノートを用意したいので来週、休み明けの日の放課後に、図書室で……いかがでしょう?」
「っ、ああ! そうしようっ……それでは、失礼する!」
「ユージンっ」
「はい」

 クロエの返事に気を良くしたユージンは、ハリドの抗議に構わず彼を引っ張って踵を返した。
 そんな彼らを、笑みを浮かべたまま見送って──完全に見えなくなったところで笑みを消すと、クロエは呼び出された生徒会室を後にした。
しおりを挟む

この作品は感想を受け付けておりません。

あなたにおすすめの小説

いまさら謝罪など

あかね
ファンタジー
殿下。謝罪したところでもう遅いのです。

死に物狂いで支えた公爵家から捨てられたので、回帰後は全財産を盗んで消えてあげます 〜今さら「戻れ」と言われても、私は隣国の皇太子妃ですので〜

しょくぱん
恋愛
「お前のような無能、我が公爵家の恥だ!」 公爵家の長女エルゼは、放蕩者の父や無能な弟に代わり、寝る間も惜しんで領地経営と外交を支えてきた。しかし家族は彼女の功績を奪った挙句、政治犯の濡れ衣を着せて彼女を処刑した。 死の間際、エルゼは誓う。 「もし次があるのなら――二度と、あいつらのために働かない」 目覚めると、そこは処刑の二年前。 再び「仕事」を押し付けようとする厚顔無恥な家族に対し、エルゼは優雅に微笑んだ。 「ええ、承知いたしました。ただし、これからは**『代金』**をいただきますわ」 隠し金庫の鍵、領地の権利書、優秀な人材、そして莫大な隠し資産――。 エルゼは公爵家のすべてを自分名義に書き換え、着々と「もぬけの殻」にしていく。 そんな彼女の前に、隣国の冷徹な皇太子シオンが現れ、驚くべき提案を持ちかけてきて……? 「君のような恐ろしい女性を、独り占めしたくなった」 資産を奪い尽くして亡命した令嬢と、彼女を溺愛する皇太子。 一方、すべてを失った公爵家が泣きついてくるが、もう遅い。 あなたの家の金庫も、土地も、働く人間も――すべて私のものですから。

悪役令嬢を陥れようとして失敗したヒロインのその後

柚木崎 史乃
ファンタジー
女伯グリゼルダはもう不惑の歳だが、過去に起こしたスキャンダルが原因で異性から敬遠され未だに独身だった。 二十二年前、グリゼルダは恋仲になった王太子と結託して彼の婚約者である公爵令嬢を陥れようとした。 けれど、返り討ちに遭ってしまい、結局恋人である王太子とも破局してしまったのだ。 ある時、グリゼルダは王都で開かれた仮面舞踏会に参加する。そこで、トラヴィスという年下の青年と知り合ったグリゼルダは彼と恋仲になった。そして、どんどん彼に夢中になっていく。 だが、ある日。トラヴィスは、突然グリゼルダの前から姿を消してしまう。グリゼルダはショックのあまり倒れてしまい、気づいた時には病院のベッドの上にいた。 グリゼルダは、心配そうに自分の顔を覗き込む執事にトラヴィスと連絡が取れなくなってしまったことを伝える。すると、執事は首を傾げた。 そして、困惑した様子でグリゼルダに尋ねたのだ。「トラヴィスって、一体誰ですか? そんな方、この世に存在しませんよね?」と──。

愛に代えて鮮やかな花を

ono
恋愛
公爵令嬢エリシア・グローヴナーは、舞踏会の場で王太子アリステアより婚約破棄を言い渡される。 彼の隣には無垢な平民の娘、エヴァンジェリンがいた。 王太子の真実の愛を前にしてエリシアの苦い復讐が叶うまで。 ※ハッピーエンドですが、スカッとはしません。

夫が運命の番と出会いました

重田いの
恋愛
幼馴染のいいなづけとして育ってきた銀狼族の族長エーリヒと、妻ローゼマリー。 だがエーリヒに運命の番が現れたことにより、二人は離別する。 しかし二年後、修道院に暮らすローゼマリーの元へエーリヒが現れ――!?

【完結】婚約破棄される未来見えてるので最初から婚約しないルートを選びます

22時完結
恋愛
レイリーナ・フォン・アーデルバルトは、美しく品格高い公爵令嬢。しかし、彼女はこの世界が乙女ゲームの世界であり、自分がその悪役令嬢であることを知っている。ある日、夢で見た記憶が現実となり、レイリーナとしての人生が始まる。彼女の使命は、悲惨な結末を避けて幸せを掴むこと。 エドウィン王子との婚約を避けるため、レイリーナは彼との接触を避けようとするが、彼の深い愛情に次第に心を開いていく。エドウィン王子から婚約を申し込まれるも、レイリーナは即答を避け、未来を築くために時間を求める。 悪役令嬢としての運命を変えるため、レイリーナはエドウィンとの関係を慎重に築きながら、新しい道を模索する。運命を超えて真実の愛を掴むため、彼女は一人の女性として成長し、幸せな未来を目指して歩み続ける。

遊び人の令嬢が目を付けたのは、私の真面目な婚約者でした

おいどん
恋愛
子爵家の令嬢エリーネと伯爵家の次男のノルトが婚約を結んだのは、半年前だった。 真面目で優秀なノルトに相応しい婚約者であろうとするものの、エリーネには自信がなかった。 ある日、遊び人と噂の令嬢べルティーナとノルトが共にいるところを見てしまう。 「真面目クンは壁さえ破っちゃえばこっちのもんだからね〜」 「きっと、彼女の美しさに嫉妬しているのだわ…」 「…今度は、ちゃんと言葉にするから」

実家を没落させられ恋人も奪われたので呪っていたのですが、記憶喪失になって呪わなくなった途端、相手が自滅していきました

麻宮デコ@SS短編
恋愛
「どうぞ、あの人たちに罰を与えてください。この身はどうなっても構いません」 ラルド侯爵家のドリィに自分の婚約者フィンセントを奪われ、実家すらも没落においやられてしまった伯爵家令嬢のシャナ。 毎日のように呪っていたところ、ラルド家の馬車が起こした事故に巻き込まれて記憶を失ってしまった。 しかし恨んでいる事実を忘れてしまったため、抵抗なく相手の懐に入りこむことができてしまい、そして別に恨みを晴らそうと思っているわけでもないのに、なぜか呪っていた相手たちは勝手に自滅していってしまうことになっていった。 全6話

処理中です...