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◇
「あの、嶋田先輩いますか?」
放課後。教室は騒がしかった。俺はほぼ何も入っていないリュックを背負い、さて帰ろうかと席から体を起こす。
途端、教室の外から女子生徒が俺の名前を呼んだ。
「嶋田、女子が呼んでるぞ」。窓の近くにいた男子が、周りに聞こえるように声を張り上げる。
ニヤついた顔を貼り付けたそいつを睨みつけ、俺は彼女のもとへ走った。
女子生徒は、今朝すれちがった心矢の同級生であった。
確か、名前は笹部だった気がする。
ぽかんとした俺を、黒い瞳でじっと見つめる。
「ちょっと、お時間ありますか」
そう問われ、俺は詳細を聞くことなく静かに頷いた。
踵を返し人気のない場所へ向かう彼女の背中を追う。
やがて、校舎裏の日陰になる場所へ招かれた。
高い位置で髪の毛を結った彼女は、その馬のしっぽを揺らし、俺を見上げる。
──もしかして。
俺はある考察をしていた。それは、彼女が俺から心矢の情報をえようとしているのではないかということだ。
登校時に俺といる所を目撃した彼女は、まずは外堀から埋めようと、俺を呼び出したに違いない。
これはいいチャンスでは……? と思う反面、心の隅がチクリと傷んだ。
──チクリ?
なぜ、心が痛むのだろう。俺は上手く言い表せない感情を孕んでいた。
心矢の視野を広くしようとしていたはずなのに、いざそうなるとモヤモヤする。
「嶋田先輩、あの……」
「は、はい」
心臓がバクバクと脈を打つ。彼女の目は、射るかのごとく俺を見つめている。
心の奥底まで見透かすような瞳は、俺の喉をカラカラに乾かした。
彼女は、唇を舐めたり噛んだりしている。やがて、口を開けた。
「好きです、付き合っていただけませんか?」
一瞬、何を言われたのか分からず、俺は固まってしまった。
頭の中で、彼女の発した言葉が反芻する。
理解ができた瞬間に、喉の奥から声にならない声が絞り出された。
「お、俺!?」
「はい」
彼女は顔を真っ赤にして、目を伏せている。
──まさか、俺の方かよ。
目の前にいる女子生徒を見つめる。彼女は確かに、愛らしい。
けれど、告白されても胸は少しも高鳴らなかった。
何故だろうと考えた瞬間に、心矢の顔が浮かんだ。まさかと思いつつ、かぶりを振る。
「ご、ごめん。俺、好きな人……いるから、無理」
咄嗟に飛び出た言葉に、俺は背筋が張った。
──今、なんて?
目の前がチカチカとして、身体中が熱くなった。汗が額を伝い、頬へ流れる。
「そ、そうなんですね……」
彼女は、今にも泣きそうな声を振り絞った。
俺は泣かせたくなくて、声を荒げた。
「悲しませて、本当にごめん。でも、君はすごく魅力的だし、素敵な女性だから、俺なんかよりもいい男がすぐに見つかるよ! 俺が保証する!」
グッと親指を立てると、彼女は泣きそうな顔をくしゃりと歪めて肩を竦めた。
「ありがとうございます」と頭を下げ、小走りでその場を去った。
失礼なことをしてしまったな、と後悔が押し寄せる。
彼女の悲しい顔を思い出し、ため息を漏らした。
──けれど。
俺は自分の中で芽吹き始めている感情に、気づき始めていた。
「あの、嶋田先輩いますか?」
放課後。教室は騒がしかった。俺はほぼ何も入っていないリュックを背負い、さて帰ろうかと席から体を起こす。
途端、教室の外から女子生徒が俺の名前を呼んだ。
「嶋田、女子が呼んでるぞ」。窓の近くにいた男子が、周りに聞こえるように声を張り上げる。
ニヤついた顔を貼り付けたそいつを睨みつけ、俺は彼女のもとへ走った。
女子生徒は、今朝すれちがった心矢の同級生であった。
確か、名前は笹部だった気がする。
ぽかんとした俺を、黒い瞳でじっと見つめる。
「ちょっと、お時間ありますか」
そう問われ、俺は詳細を聞くことなく静かに頷いた。
踵を返し人気のない場所へ向かう彼女の背中を追う。
やがて、校舎裏の日陰になる場所へ招かれた。
高い位置で髪の毛を結った彼女は、その馬のしっぽを揺らし、俺を見上げる。
──もしかして。
俺はある考察をしていた。それは、彼女が俺から心矢の情報をえようとしているのではないかということだ。
登校時に俺といる所を目撃した彼女は、まずは外堀から埋めようと、俺を呼び出したに違いない。
これはいいチャンスでは……? と思う反面、心の隅がチクリと傷んだ。
──チクリ?
なぜ、心が痛むのだろう。俺は上手く言い表せない感情を孕んでいた。
心矢の視野を広くしようとしていたはずなのに、いざそうなるとモヤモヤする。
「嶋田先輩、あの……」
「は、はい」
心臓がバクバクと脈を打つ。彼女の目は、射るかのごとく俺を見つめている。
心の奥底まで見透かすような瞳は、俺の喉をカラカラに乾かした。
彼女は、唇を舐めたり噛んだりしている。やがて、口を開けた。
「好きです、付き合っていただけませんか?」
一瞬、何を言われたのか分からず、俺は固まってしまった。
頭の中で、彼女の発した言葉が反芻する。
理解ができた瞬間に、喉の奥から声にならない声が絞り出された。
「お、俺!?」
「はい」
彼女は顔を真っ赤にして、目を伏せている。
──まさか、俺の方かよ。
目の前にいる女子生徒を見つめる。彼女は確かに、愛らしい。
けれど、告白されても胸は少しも高鳴らなかった。
何故だろうと考えた瞬間に、心矢の顔が浮かんだ。まさかと思いつつ、かぶりを振る。
「ご、ごめん。俺、好きな人……いるから、無理」
咄嗟に飛び出た言葉に、俺は背筋が張った。
──今、なんて?
目の前がチカチカとして、身体中が熱くなった。汗が額を伝い、頬へ流れる。
「そ、そうなんですね……」
彼女は、今にも泣きそうな声を振り絞った。
俺は泣かせたくなくて、声を荒げた。
「悲しませて、本当にごめん。でも、君はすごく魅力的だし、素敵な女性だから、俺なんかよりもいい男がすぐに見つかるよ! 俺が保証する!」
グッと親指を立てると、彼女は泣きそうな顔をくしゃりと歪めて肩を竦めた。
「ありがとうございます」と頭を下げ、小走りでその場を去った。
失礼なことをしてしまったな、と後悔が押し寄せる。
彼女の悲しい顔を思い出し、ため息を漏らした。
──けれど。
俺は自分の中で芽吹き始めている感情に、気づき始めていた。
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