彼の想いはちょっと重い

なかあたま

文字の大きさ
5 / 7

5

しおりを挟む


「あの、嶋田先輩いますか?」

 放課後。教室は騒がしかった。俺はほぼ何も入っていないリュックを背負い、さて帰ろうかと席から体を起こす。
 途端、教室の外から女子生徒が俺の名前を呼んだ。
 「嶋田、女子が呼んでるぞ」。窓の近くにいた男子が、周りに聞こえるように声を張り上げる。
 ニヤついた顔を貼り付けたそいつを睨みつけ、俺は彼女のもとへ走った。
 女子生徒は、今朝すれちがった心矢の同級生であった。
 確か、名前は笹部だった気がする。
 ぽかんとした俺を、黒い瞳でじっと見つめる。

「ちょっと、お時間ありますか」

 そう問われ、俺は詳細を聞くことなく静かに頷いた。
 踵を返し人気のない場所へ向かう彼女の背中を追う。
 やがて、校舎裏の日陰になる場所へ招かれた。
 高い位置で髪の毛を結った彼女は、その馬のしっぽを揺らし、俺を見上げる。
 ──もしかして。
 俺はある考察をしていた。それは、彼女が俺から心矢の情報をえようとしているのではないかということだ。
 登校時に俺といる所を目撃した彼女は、まずは外堀から埋めようと、俺を呼び出したに違いない。
 これはいいチャンスでは……? と思う反面、心の隅がチクリと傷んだ。
 ──チクリ?
 なぜ、心が痛むのだろう。俺は上手く言い表せない感情を孕んでいた。
 心矢の視野を広くしようとしていたはずなのに、いざそうなるとモヤモヤする。

「嶋田先輩、あの……」
「は、はい」

 心臓がバクバクと脈を打つ。彼女の目は、射るかのごとく俺を見つめている。
 心の奥底まで見透かすような瞳は、俺の喉をカラカラに乾かした。
 彼女は、唇を舐めたり噛んだりしている。やがて、口を開けた。

「好きです、付き合っていただけませんか?」

 一瞬、何を言われたのか分からず、俺は固まってしまった。
 頭の中で、彼女の発した言葉が反芻する。
 理解ができた瞬間に、喉の奥から声にならない声が絞り出された。

「お、俺!?」
「はい」

 彼女は顔を真っ赤にして、目を伏せている。
 ──まさか、俺の方かよ。
 目の前にいる女子生徒を見つめる。彼女は確かに、愛らしい。
 けれど、告白されても胸は少しも高鳴らなかった。
 何故だろうと考えた瞬間に、心矢の顔が浮かんだ。まさかと思いつつ、かぶりを振る。

「ご、ごめん。俺、好きな人……いるから、無理」

 咄嗟に飛び出た言葉に、俺は背筋が張った。
 ──今、なんて?
 目の前がチカチカとして、身体中が熱くなった。汗が額を伝い、頬へ流れる。

「そ、そうなんですね……」

 彼女は、今にも泣きそうな声を振り絞った。
 俺は泣かせたくなくて、声を荒げた。

「悲しませて、本当にごめん。でも、君はすごく魅力的だし、素敵な女性だから、俺なんかよりもいい男がすぐに見つかるよ! 俺が保証する!」

 グッと親指を立てると、彼女は泣きそうな顔をくしゃりと歪めて肩を竦めた。
 「ありがとうございます」と頭を下げ、小走りでその場を去った。
 失礼なことをしてしまったな、と後悔が押し寄せる。
 彼女の悲しい顔を思い出し、ため息を漏らした。
 ──けれど。
 俺は自分の中で芽吹き始めている感情に、気づき始めていた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

黄色い水仙を君に贈る

えんがわ
BL
────────── 「ねぇ、別れよっか……俺たち……。」 「ああ、そうだな」 「っ……ばいばい……」 俺は……ただっ…… 「うわああああああああ!」 君に愛して欲しかっただけなのに……

運命の番は僕に振り向かない

ゆうに
BL
大好きだったアルファの恋人が旅先で運命の番と出会ってしまい、泣く泣く別れた経験があるオメガの千遥。 それ以来、ずっと自分の前にも運命の番があらわれることを切に願っていた。 オメガひとりの生活は苦しく、千遥は仕方なく身体を売って稼ぐことを決心する。 ネットで知り合った相手と待ち合わせ、雑踏の中を歩いている時、千遥は自分の運命の番を見つけた。 ところが視線が確かに合ったのに運命の番は千遥を避けるように去っていく。彼の隣には美しいオメガがいた。 ベータのような平凡な見た目のオメガが主人公です。 ふんわり現代、ふんわりオメガバース、設定がふんわりしてます。

キミと2回目の恋をしよう

なの
BL
ある日、誤解から恋人とすれ違ってしまった。 彼は俺がいない間に荷物をまとめて出てってしまっていたが、俺はそれに気づかずにいつも通り家に帰ると彼はもうすでにいなかった。どこに行ったのか連絡をしたが連絡が取れなかった。 彼のお母さんから彼が病院に運ばれたと連絡があった。 「どこかに旅行だったの?」 傷だらけのスーツケースが彼の寝ている病室の隅に置いてあって俺はお母さんにその場しのぎの嘘をついた。 彼との誤解を解こうと思っていたのに目が覚めたら彼は今までの全ての記憶を失っていた。これは神さまがくれたチャンスだと思った。 彼の荷物を元通りにして共同生活を再開させたが… 彼の記憶は戻るのか?2人の共同生活の行方は?

契約満了につき

makase
BL
仮初めの恋人として契約を結んだ二人の、最後の夜。

【完結】恋人になりたかった

ivy
BL
初めてのキスは、 すべてが始まった合図だと思っていた。 優しい大地と過ごす時間は、 律にとって特別で、 手放したくないものになっていく。 けれど……

ラベンダーに想いを乗せて

光海 流星
BL
付き合っていた彼氏から突然の別れを告げられ ショックなうえにいじめられて精神的に追い詰められる 数年後まさかの再会をし、そしていじめられた真相を知った時

そんなの真実じゃない

イヌノカニ
BL
引きこもって四年、生きていてもしょうがないと感じた主人公は身の周りの整理し始める。自分の部屋に溢れる幼馴染との思い出を見て、どんなパソコンやスマホよりも自分の事を知っているのは幼馴染だと気付く。どうにかして彼から自分に関する記憶を消したいと思った主人公は偶然見た広告の人を意のままに操れるというお香を手に幼馴染に会いに行くが———? 彼は本当に俺の知っている彼なのだろうか。 ============== 人の証言と記憶の曖昧さをテーマに書いたので、ハッキリとせずに終わります。

届かない「ただいま」

AzureHaru
BL
いつも通りの変わらない日常のはずだった。 「行ってきます。」と言って出て行った貴方。1日が終わる頃に「ただいま。」と「おかえり。」を笑顔で交わすはずだった。でも、その言葉はもう貴方には届かない。 これは「優しさが奪った日常」の物語。

処理中です...