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ジルベール・タレーラン
しおりを挟むジルベールはうんざりしていた。
父は名家タレーラン公爵家の当主、母は王妹、まさにサラブレッド オブ サラブレッズ。
家柄の良さに加えて幼少期には既に自覚していたが、自分は超絶顔が良い。
物心ついた頃から女がベタベタ寄ってきた。
みんな家柄と権力と財産、そして自分の見た目が目当てなのだと思った。
本当の自分の本質を見て欲しいなどという感傷的な気持ちは更々なかったが、身近にいる女のサンプルがヒステリックな母親と馬鹿で高慢ちきな姉だったこと、そしてその二人が世間では麗人だと持て囃されていたことが、ジルベールの中で女という生き物をくだらない存在として見下す充分な材料になった。
ジルベールは母親を嫌っていたが、同様に父のことも嫌いだった。
あのプライドばかり高くてくだらない母を愛せないのは仕方がないと思う反面、滅多に家にも寄り付かず好き勝手に生きているくせに、ジルベールには公爵家の跡継ぎとしての責任を当然のように押し付けてくる。
叩き出しても叩き出しても次々に令嬢を送り込んでくる。
最初の頃はともかく、段々令嬢の質も落ちてきて、まるで
「誰でもいいからさっさと子供を作れ。
結婚生活がうまく行くとか行かないとか、そんなのどうだっていい」
とでも言われているようで、ただの種馬になった気分がして不快だ。
とにかく来る女来る女叩き出していたから顔も名前もろくに覚えていないが、今回のは特に酷い。
貴族の娘とは到底思えない貧相な女だった。
面倒なので無視していたら、女はメイドの真似事を始めた。
いじらしく振る舞って同情を買う作戦とは姑息なヤツだと苦々しく思ったが、シノが気に入っているようなので暫く放っておくことにした。
その日ジルベールはたまたま早く帰宅した。
門をくぐった時に微かに聴こえてきた歌声に誘われてそのまま庭に回った。
草だらけだった庭がいつの間にかキレイに刈り取られ、一部が耕してある。
そこで粗末な服装の女が西の方角を向いてとても美しい声で歌っていた。
物陰に隠れながらジルベールは女の歌に聞き惚れていた。
夕陽に照らされた女の地味な顔を美しいと思った。
歌い終わると女は、
「お母様・・・」
と呟いて涙を流した。
その顔にジルベールは心を打たれた。
夕食の時にジルベールは女の事をシノにたずねた。
女はジルベールの機嫌を損ねないように極力彼の目につかないように行動している。
もちろん食事は別だし、掃除や洗濯はしてもジルベールの給仕をするようなことはない。
「ほら、あの、今うちにいる女」
「クラリス様が何か?」
「・・・何というわけではないが、あまり姿を見かけないと思ってな」
「クラリス様は坊っちゃんの目につかないように気をつけてらっしゃるようですよ」
「そうか」
ジルベールは今朝 窓拭きをするクラリスに嫌味を言ったことを思い出していた。
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