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40 その後の話2
しおりを挟むニコがウィリアムズさんに台本を渡した。
「これは、新しい仕事ですか?」
ウィリアムズは自分が預かり知らぬ仕事の台本をニコが出してきたことに少なからず気分を害した。
「あなたの台本ですよ」
「は?」
「舞台まで2ヶ月しかありませんからね。
しっかり台詞覚えてくださいね。
来週から稽古始まりますから」
訳がわからない、とウィリアムズは思った。
台本を書いたのは人気作家ルイス・バーグ。
以前からニコの才能に惚れ込んで自分の作品をニコ主演で上演することを打診してきていた。
タイミングが合わなくて今まで実現することのなかった競演だったのだが、ニコは独自に接触を図っていたらしい。
そしてニコが仕事を受ける条件として提示したのが、ウィリアムズを舞台に立たせること、だったのだ。
「馬鹿言っちゃいけない」
バーグの反応は最も至極なものだったろう。
いきなり素人を舞台に上げろなど一体何を言い出すのか、と。
しかしニコは食い下がった。
ボクに演劇のイロハを教えてくれたのは他ならぬウィリアムズであり、彼なしにボクのキャリアは築けなかったと。
バーグは稽古の状況を見て、使い物にならなければすぐに中止することを条件に台本を書くことを渋々了承した。
そうしてまでニコと仕事がしたかったのだ。
出来上がった台本は上演時間30分程の短編で、出演者はウィリアムズとニコの二人だけ。
初日に本公演の前座として一度きりの上演となった。
物語は戦争の後、復興していく社会の中で新しい価値観で進んでいく息子ニコと、変わり行く時代に取り残されていく父ウィリアムズとの悲哀を描いていた。
ウィリアムズは台本を握りしめた。
とおの昔に諦めた夢と演劇への熱情がふつふつと沸き上がった。
ウィリアムズは片時も台本を放さず、ニコの空き時間には読み合わせを頼んできた。
稽古初日、バーグはウィリアムズの演技を見て上演を決断した。
裏では別の人間に代役を打診していたのだが。
そしてウィリアムズは人生のご褒美として与えられた一度きりの舞台に全身全霊をかけた。
幕が上がり、無名の男が現れる。
ほどなくして観客は彼にくぎ付けになる。
彼とニコの才能が舞台の上で火花を散らす。
ウィリアムズは変わりゆく時代を受け入れられず息子と反目しながらも、変われない初老の男の哀しみを見事に演じきった。
拍手が渦になって押し寄せてきた。
あまりの評判に1日限りの上演が、終演まで毎日続いた。
その後ウィリアムズには出演依頼が度々舞い込むようになった。
「ボクのマネージャー辞めて本格的に俳優になっちゃえば?」
ニコに勧められてもウィリアムズは首を横に振る。
「私の仕事はニコを世界一の俳優にすることですから」
ウィリアムズのお陰でニコは今や海外でも人気である。
そしてウィリアムズは本業に支障の出ない範囲で、たまに脇役で映画に出演したりして楽しんでいる。
(終わり)
読んでくださって、ありがとうございました。
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