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しおりを挟む「アネラ、アネラ。私を赦してくれ……。ずっとアネラのことだけを想っていたんだ。五年前から今日までは、理由があって……会いにこれなかった。すまない。本当に悪かった」
アネラが籠城している自室の扉の向こうで、リノエルが悲痛な声で赦しを請うている。王族なのだから当然というべきか、あの後すぐにリノエルは屋敷に迎え入れられていた。ナールの裏切り者め。
「聖女と婚約してたんじゃなかったんですか」
赤く腫らした目で扉を見つめ、ぶすっと不貞腐れながらもアネラは問いかける。あまりにも悲愴感漂うリノエルの声を無視し続けるなんて、結局できなかった。
「あれは周囲を欺くための嘘だったんだ。一度もあの女とは婚約していないし、もう聖女とも呼ばれていない。何年も会ってないんだ」
「じゃあ、どうして五年も……。手紙くらい、くれたって……!」
やはりこの安寧は、リノエルに与えられた鳥籠だったのだ。アネラだって理解していた。保護されてからの生活が出来すぎていることに。
いくらアネラのことを信奉しているといえど、王族の決めたことに逆らうなんて大ごとだ。まさかリノエルとは思わなかったが、アネラのことを利用しようとする貴族が自分を飼っているのだと考えていた。
誰もアネラがここにいるとは知らないのだから、何をされたって助けは求められない。緩やかに毎日を生きながら、薄氷の上を歩いているような心地だった。
アネラの声が滲んだことに気づいたのか、リノエルは許可も得ずに扉を開けて部屋に入ってくる。そのままアネラが膝を抱えて座っているソファの足元までやってきて、跪いた。
王族が臣下に跪くなんて、あり得ないことなのに。
「事情があったんだ。寂しい思いをさせてすまなかった……。アネラ、愛してる。もう、私の妃になってはくれないだろうか?」
「……っ!」
改めてリノエルをちゃんと見れば、彼が窶れた顔をしているのがわかった。成長した骨格はしっかりしているが、痩せすぎている気もする。王子としてあり得ないその姿に、自分より遥かに苦労した形跡が見えた。
リノエルが「事情」と濁すのなら、言えないことなのだろう。見上げてくる青い瞳は水を湛え、本気でアネラを希っていることが伝わってくる。
アネラはすんと鼻を啜り、リノエルに向かって手を伸ばした。彼はかつてしてくれたみたいに、アネラの薬指に恭しく口づけを落とす。唇の触れた指先から甘い痺れが生まれた。
「私が忠誠を誓ったのは、あの日からアネラだけだよ」
ソファから落ちるように飛び込んだ先の胸に顔を擦りつけ、アネラはぽかぽかとリノエルを叩く。この国の王子様が、ようやく迎えに来てくれた。ずっと忘れられなくて、ずっと好きだった。
「リノエルさまのばか! 遅いんだから!」
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