7 / 8
7.
しおりを挟むすうすう静かな寝息を立てるアネラを見つめ、リノエルは目を細めた。
長いローズブロンドを指先で梳くと、朝靄の隙間から差し込んだ柔らかな光に透け、金糸のように煌めく。
屋敷の外はかなり冷え込んでいるだろう。ほとんど山の中で人も少なく、静かで落ち着く場所だ。
寂しい思いをさせてしまったと思うが、この地にアネラを隔離することができて本当に良かった。
――初代国王と同じ黒髪を持つ子に、神話は引き継がれる。
王族の中でただひとり黒髪を持って生まれたリノエルは、十六歳になったとき父王にも秘密で神官長によって神殿の奥へと連れて行かれた。
小さく神聖な空気に包まれた祭壇で祈りを捧げるよう言われ従うと、頭の中に怒涛の記憶が流れ込んできたのだ。
日本という国で高校生だった「俺」のこと。日々の学校生活や、マイナーな性的指向を持ち悩んでいたこと。
それだけなら「こんな世界があるのか」と驚いただけで済ませるところだったが、特に衝撃を受けたのは「俺」が好きだったノベルゲームの内容だった。
そこはリノエルの生まれた国を舞台としていた。主人公は男爵家の少女で、第二王子のリノエルは彼女と恋に落ち、彼女の協力を得て第一王子を倒し、国の頂点に立つ。
信じられないストーリーだったものの、悪巧みをして国を混沌へ導こうとする第一王子の行動はいかにもあり得そうだったし、なによりそこには愛するアネラがいた。
妖精と呼ばれる美貌と清らかな心を持つアネラは第二王子の婚約者だったが、ストーリー上は悪役令息として断罪され死刑となる。
さらっと語られていた内容に怒りが湧いたけれど、荒唐無稽だと無視することはできない。
異世界の記憶を得てから、リノエルは実際にこの国がストーリーに沿って動こうとするのをはっきりと感じた。
リノエルは考えた。断じて、このゲームのストーリーどおりになってはいけない。
第一王子はいずれ倒すべきだが、少女が聖女であろうと興味はないし、アネラを死なせるなんてあってはならない。
アネラを守ることを最優先とし、リノエルは密かに準備を進めた。数年間国が荒れるのはわかりきっていたことだったため、アネラは密かに逃がすことにした。
嘘をつき、彼を傷つけるのは胸が引き裂かれるような思いだった。
だが物語の強制力というものなのか、国外追放としたところで第一王子派からの襲撃があったのも事実だ。万が一の準備をしていたおかげで暗部のナールに救わせることができたが、報告を聞いたときは肝が冷えた。
201
あなたにおすすめの小説
妹を救うためにヒロインを口説いたら、王子に求愛されました。
藤原遊
BL
乙女ゲームの悪役令息に転生したアラン。
妹リリィが「悪役令嬢として断罪される」未来を変えるため、
彼は決意する――ヒロインを先に口説けば、妹は破滅しない、と。
だがその“奇行”を見ていた王太子シリウスが、
なぜかアラン本人に興味を持ち始める。
「君は、なぜそこまで必死なんだ?」
「妹のためです!」
……噛み合わないはずの会話が、少しずつ心を動かしていく。
妹は完璧令嬢、でも内心は隠れ腐女子。
ヒロインは巻き込まれて腐女子覚醒。
そして王子と悪役令息は、誰も知らない“仮面の恋”へ――。
断罪回避から始まる勘違い転生BL×宮廷ラブストーリー。
誰も不幸にならない、偽りと真実のハッピーエンド。
結婚間近だったのに、殿下の皇太子妃に選ばれたのは僕だった
釦
BL
皇太子妃を輩出する家系に産まれた主人公は半ば政略的な結婚を控えていた。
にも関わらず、皇太子が皇妃に選んだのは皇太子妃争いに参加していない見目のよくない五男の主人公だった、というお話。
初夜の翌朝失踪する受けの話
春野ひより
BL
家の事情で8歳年上の男と結婚することになった直巳。婚約者の恵はカッコいいうえに優しくて直巳は彼に恋をしている。けれど彼には別に好きな人がいて…?
タイトル通り初夜の翌朝攻めの前から姿を消して、案の定攻めに連れ戻される話。
歳上穏やか執着攻め×頑固な健気受け
愛してやまなかった婚約者は俺に興味がない
了承
BL
卒業パーティー。
皇子は婚約者に破棄を告げ、左腕には新しい恋人を抱いていた。
青年はただ微笑み、一枚の紙を手渡す。
皇子が目を向けた、その瞬間——。
「この瞬間だと思った。」
すべてを愛で終わらせた、沈黙の恋の物語。
IFストーリーあり
誤字あれば報告お願いします!
シナリオ回避失敗して投獄された悪役令息は隊長様に抱かれました
無味無臭(不定期更新)
BL
悪役令嬢の道連れで従兄弟だった僕まで投獄されることになった。
前世持ちだが結局役に立たなかった。
そもそもシナリオに抗うなど無理なことだったのだ。
そんなことを思いながら収監された牢屋で眠りについた。
目を覚ますと僕は見知らぬ人に抱かれていた。
…あれ?
僕に風俗墜ちシナリオありましたっけ?
悪役令嬢の兄、閨の講義をする。
猫宮乾
BL
ある日前世の記憶がよみがえり、自分が悪役令嬢の兄だと気づいた僕(フェルナ)。断罪してくる王太子にはなるべく近づかないで過ごすと決め、万が一に備えて語学の勉強に励んでいたら、ある日閨の講義を頼まれる。
側近候補を外されて覚醒したら旦那ができた話をしよう。
とうや
BL
【6/10最終話です】
「お前を側近候補から外す。良くない噂がたっているし、正直鬱陶しいんだ」
王太子殿下のために10年捧げてきた生活だった。側近候補から外され、公爵家を除籍された。死のうと思った時に思い出したのは、ふわっとした前世の記憶。
あれ?俺ってあいつに尽くして尽くして、自分のための努力ってした事あったっけ?!
自分のために努力して、自分のために生きていく。そう決めたら友達がいっぱいできた。親友もできた。すぐ旦那になったけど。
***********************
ATTENTION
***********************
※オリジンシリーズ、魔王シリーズとは世界線が違います。単発の短い話です。『新居に旦那の幼馴染〜』と多分同じ世界線です。
※朝6時くらいに更新です。
殿下に婚約終了と言われたので城を出ようとしたら、何かおかしいんですが!?
krm
BL
「俺達の婚約は今日で終わりにする」
突然の婚約終了宣言。心がぐしゃぐしゃになった僕は、荷物を抱えて城を出る決意をした。
なのに、何故か殿下が追いかけてきて――いやいやいや、どういうこと!?
全力すれ違いラブコメファンタジーBL!
支部の企画投稿用に書いたショートショートです。前後編二話完結です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる