優しく恋心奪われて

静羽(しずは)

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第37話|胸の奥の小さな嫉妬

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朝霧と湊は会社の前で少し雑談をしていた。



「あ。こんな時間。もう行かないと。」



湊が慌てて切り出す。



「ああ、悪い悪い。朝から会えてよかったよ。」



そう言う朝霧の手の中に誰かの名刺が握られているのが見えた。



「名刺?」



湊が気づき目を向ける。



「ああ、これ。」



朝霧がカサッと名刺を見せた。



「えっ? 綾瀬さんの名刺?どうしたんですか?」



驚く湊に朝霧は先ほどの出来事を話した。



「そーなんですね!なんか、綾瀬さんらしいな。」



湊は思わずふふっと柔らかく笑った。
まるでその人のことを考えて自然と顔がほころび幸せな気持ちになってしまうかのように。
朝霧は綾瀬と湊の関係が少し気になった。



「さっきまで彼と話していたはずなのに、あれ、、、いなくなっている。」



朝霧はキョロキョロと周りを見回し綾瀬を探した。
その一方で綾瀬は、朝霧と話すことに夢中で自分の存在に気づかれていないことに気付き、居た堪れなくなりそっとその場を去っていた。



「もう出社したのかも、、、。」



湊は少し焦りながらも口を開く。


「先輩、俺ももう行きます!今日は朝からありがとうございました!また店に行きますね!」



「うん、いつでも。」



ぺこりとお辞儀をして湊はビルの中へ入っていく。



「湊!」



先輩の声に振り返ると扉の途中で立ち止まる。



「またいつでも、気軽にLINEしてよ。また。いつでも。」



その言葉に、湊は元気よく答えた。



「はい!」



そして再びビルの中へ足を進めた。
その後ろ姿を見送ると朝霧はゆっくり自分の店へ歩き始めた。
今日は風は冷たいけれどいつもより爽やかに感じる。
歩きながら綾瀬の名刺を手に取った。


「綾瀬、春翔、、、。なんか、名前までイケメンな感じだな。」


自分の知らない仕事場の湊を知っている男。
なんだろう、、、少し気になる。
少し歩くと朝霧のハーブカフェが見えてくる。
オープンまではまだ時間がある。
店に入りカウンターに腰を下ろす。



あの顔は、、、多分、嫉妬の表情だった。
なぜ?俺に嫉妬した?
何のために、、、?



頭をクシャっと掻き分ける。
朝霧はゆっくり立ち上がり追いかけるようにカモミールのハーブティを淹れた。
カモミールの香りが店内にふんわりと広がる。



「んー、、、。今日もいい香り。」



カモミールはやっぱり特別だ。
そう思いながら香りを楽しむ朝霧。
湊に対する気持ちもやっぱり特別で。
俺が大学時代可愛がっていた後輩は、湊、ただ一人だけだ。
他の人には少し警戒していたけど俺にだけは心を開いてくれていた、、、そんな気がしている。
だからこそ綾瀬という名前を聞いたときの、、、綾瀬のことを思い出しながら愛おしそうに笑う湊を見たとき。
俺は少し、、、嫉妬した。



嫉妬、、、?



綾瀬も同じ気持ちだったのだろうか。
自分の後輩、大事な部下を、奪われたような?
そんな感情で俺のことを見ていたのか?



「はあ、、、。」



深いため息をつく。



「分からないな、、、。」



朝霧はスイーツ作りの雑誌を開いた。
ハーブティーに添えるスイーツは朝霧がオリジナルで自分の手で作っている。



「今日は何にしようかな。クランベリー系のクッキーとマフィンかなぁ。」


色々考えながらもカモミールを口に運ぶ。
店の外に見えるサラリーマンや学生たちの慌ただしさを横目に自分でもうまく言葉にできない感情をただただ考え続けていた。
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