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第11章 省吾、目覚める
1 目覚める
しおりを挟む「う……ん」
「省吾!? 省吾!!」
目を開けると、見馴れた天井と心配そうな顔して、覗き込む女性の姿。
「み……美桜……!?」
「よかったぁ……!」
「僕は、どうしたんだ……?」
「急に倒れたのよ! おぼえてないの?」
美桜の話では、ICUで、急に倒れたらしい(そうか……)。
「もう! 大貫先生に聞いたよ! 2日間も寝てないんでしょ!?」
「そっ、そうだったかなぁ……」
省吾の勤務する救命センターでは、24時間体制で、治療にあたる。
『働き方改革』なんて叫ばれる昨今でも省吾にとって、24時間以上の勤務なんても、珍しくはない。
「働き過ぎだよ!!」
「そうかなぁ……」
「そうだよ!!」
「今何時?」
「夜の9時よ!」
「3時間位は寝たのか?」
「違うよ! 今日は5月16日よ!」
「えっ!?」
「丸1日、眠ってたのよ!」
壁に掛けられたカレンダーの月『2024年5月』(戻ってる……)。
「どうしよう……と思ったんだから」
美桜は、目を潤ませながら、省吾の胸を軽く何度も叩く(心配させた……な)。
「ごめん……」
「ううん……」
美桜はニカッと笑い首を横に振る。
蒼空だった時、初めて起こしてくれた、おさげがみの少女と美桜が重なる。
「美桜……ペンダント……!?」
美桜のスクラブの襟元から、こぼれ落ちる桜を模したペンダント。
省吾には、見覚えが、あった。
「これ? これね……」
「桜さん……!?」
「そうよ! 桜姉ちゃんに、もらったの」
美桜が、高校に入学する時に、プレゼントされた物。
『美桜、頑張ったね』
『うん!』
『約束よ! 』
美桜が幼い頃、桜と美桜が交わした約束。
桜が、身につけていたペンダントを欲しがり駄々をこねていた。はっきりと憶えている。
「『大切な人にもらった』て、言ってたの……!」
「大切な人……」
桜の25年越しの想いが、聞かされた事に、切なくなる。
「そう言えば、桜さんは??」
ベッドの上。掛布団をめくり、裸足で、ICUへ走って行く。
ICUに桜の姿が見えない。確かに、連れてきたのに……省吾は愕然とする。
ICUの奥に、ガラス張りの特別室がある。
そこに、西野院長の姿が見えた。
ガラガラ……
「院長……」
「藍場先生か……」
「……桜さん」
ベッドの名前。『小川 桜』と書かれている。
省吾が倒れた時、『花子』と書かれていたはずなのに……
「院長……」
「……うん……桜だよ」
「……」
うなだれて立ち尽くす西野院長のネクタイは、皮肉にも桜色。
「……ネクタイ?」
「あぁ……今日はこの色のネクタイをしたくてね……」
「桜色?」
「昔に……」
「桜さんと付き合ってた……ですか!?」
「……」
西野院長は、省吾を見るとフッと力が抜けたように話し始める。
「そうだよ……」
省吾は、あさっりと認める西野院長に苛立ち覚えた。
「桜さん、あなたの事……好きだったのに!!」
「誰から、聞いたんだい?」
「……」
省吾は、蒼空として2人の恋が終わった時、桜の側にいたことを……言えなかった。
「そうだったね藍場先生……いや、省吾……知っていても、不思議じゃないか……」
「桜姉ちゃん、悲しんでましたよ!」
「あの時は、仕方なかったんだよ……」
「そんなの、あなたの都合でしょ!!」
省吾(蒼空)は、拳を握り締めていた。
『あなたが、側にいたら』と……
何が変わったんだろう。どんなに腹立たしく、怒りが、込み上げてきても、桜の側に居れなかったのは、自分も同じ(この人を僕は責められない)。
「すみません」
「いや……」
西野院長は、うなだれたまま、個室を出ていった。
省吾(蒼空)は、悔いた。
自分は、この人に何をして上げたのだろう。
側に居ても、いつも励まされるのは、いつも自分。
幼い自分が『医者になる』と、この仕事への原点を思い出した事に、勝手に満足して、手術の時に側にいない。
省吾(蒼空)は、握り締めた拳は、自分に向けるべきだと、恥じる。
「省吾……」
「えっ!?」
「省吾、大きな声出したら眠れないよ……」
「桜さ……桜姉ちゃん!!??」
ベッドに横たわる桜が、静かに話す。
「ぼっ、僕がわかるの?」
「あたり前じゃない……!あなたも、私の子供よ……」
「……桜姉ちゃん」
「あの人の事……怒らないで上げて……」
「でも!!」
「私から、ふったんだから……!」
「そうだけど……」
「あの人……逆らえなかったのよ……」
「でも……!?」
「あの人が、頑張ったから……あなた……ここに、いるのよ……」
省吾(蒼空)は、2人の事情はしっている。
こんな時まで、西野院長の事を気にかける桜に、何も言えなかった。
「僕……医者になったんだよ」
「……頑張ったね……」
「……うん」
省吾(蒼空)の目から、止めどなく流れる涙。桜は、優しく微笑む。
「桜姉ちゃん……!?」
「美桜だね……!」
「よかったぁ……目が覚めたんだね……」
美桜が、涙を流しながらニカッと笑う。
皆からは、蒼空の事は消えている。
きっと、桜にも等しくその現象は、起きている。
皮肉にも、省吾には蒼空だった記憶は、鮮明に残っている。
60歳になっている桜の姿は、白髪の髪に病気で痩せ細った身体。ほんの数時間前の姿と違い、時代が過ぎた事を残酷にも突きつける。
視力を失った桜に、自分はどんな姿で見えるんだろう。
もし、見えたなら……
『蒼空……』
憶えていて、くれただろうか……?
「あなたが、私の主治医?」
「……うん」
「よかった……最後が、あなたで……」
「……そんな……最後だなんて……!?」
「嘘が、下手だね……」
そう言って、桜は、また、眠った。
「……省吾!?」
美桜は、省吾の袖をグッと掴んで、すがるような、視線を向ける。
「大丈夫だよ……眠っただけ……」
省吾は、美桜の頭を撫でながら、微笑む。
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